それぞれの視点
結衣の日記を読む俺の手は震えていた。まだいくつか結衣の日記は残されていたが、この日記だけで限界だった。これ以上読むと頭がどうにかなりそうだ。
正直、混乱していた。結衣の日記は幼馴染を二度と信用しないと決めた俺には言い訳にも聞こえたのだ。そんな理由で高槻と二人で会うなら事前に俺に話すはずだ。俺が知る結衣は男と二人で会うようなことはまずしたことがない。そして、俺にはホテルから出る二人が仲睦まじくしているようにも見えた。次の日、実は俺は結衣と一緒に高校に登校している。結衣はいたって普通で、高槻に結衣との話をされるまで、もしかしたらあの光景は夢だったんじゃないかと考えてしまうくらいだった。
そう考える一方で、結衣を信用したい自分もいた。もし結衣の日記が本当なら、結衣もまた高槻の被害者だったってことになる。その二つの可能性に戸惑うしかなかった。
俺はとにかく結衣が生きているのか知りたくて、すぐにかつての知人らのSNSに質問を投げかけた。自分は十六年前の高校生連続自殺死の真相を迫っている記者だと騙り、二人の名前、二人はいつ自殺したのか、そして知っている情報があったら何でも教えて欲しいと尋ねた。
回答してくれれば3000円のギフト券を送りますとも付け加えたのがきいたのか、しばらくして返答があった。やはりそうだった。結衣は俺が校舎から飛び降りた二ヶ月後、俺が飛び降りた同じ時間、同じ校舎から飛び降りた。手にはかつての俺の写真が握られていたと教えてくれた者もいた。皆、あれは幼馴染の後追い自殺だと認識していた。高槻の名前も出てこなかった。
しばらく何も考えることができなかった。そして、変に過去のことを調べるんじゃなかったと後悔していた。前世で起きたことは俺の中で過去のことになりつつあったのだ。でも現在の高槻の人生を知り、結衣の日記を読み、その後の結衣の自殺を知って気が触れそうになった。一体、あの日何が起きたにせよ、俺が結衣を自殺に追い込んでしまったことは間違いない。
せめて、すべてのきっかけを作った高槻に復讐したい。華やかな人生を送る高槻がどうしても許せなかった。でも結局のところ俺は無力な高校生だ。一体、何ができると言うのだろう。これ以上、過去のことを追うべきじゃない。そう思い、俺は秘密の日記帳をブラウザーから消した。もう、この日記帳は二度と見てはダメだ。
こうして再び十六年前に自殺した二人の高校生の秘密の日記帳は眠りにつくこととなる。その時の俺は気づいていなかったのだ。ネット社会、ゴシップに飢えた現在の日本社会において、この日記帳はどんなものよりも高槻のような男を破滅に追い込める、強力な武器であることに。
そしてこの日記帳の存在を知っているのは俺だけじゃなかった。