俺は幼馴染を信用しない
それから何が起きたかはわからない。気がつくと俺は新たに長谷川リクという名が与えられて、違う家族の元で新たな生活を過ごしていた。物心がつくまで何が何だか分からなかったが、小学校に上がる頃自分が死に、そして生まれ変わったことを確信した。
親に聞いても前世なんてあるわけがないというが、俺の頭にはありありと記憶が残っていた。そして、試しに家に置いてあったパソコンを通して様々なことをインターネットで調べてみると、記憶通りに過去の世界は成り立っていた。生まれる10年も前に起きた地震のことや、殺人事件のことを本来なら幼い俺が知るはずもない。俺はやっぱり生まれ変わったのだ。
つまり以前住んでた世界と、新たに住む世界は地続きでつながっていることになる。俺は死んだ直後に今の母親のお腹に宿ったらしく、同時代の日本で俺はまた生きることとなったわけだ。
そして何の因果か分からないが、生まれ変わったというのに俺の横にはやはり幼馴染がいた。名前は桃園凛。白石結衣と同じように、優しくて、笑顔の可愛い女の子だ。近所にすむ凛とは、まるで兄妹のように一緒に遊び、一緒に成長した。
ただ俺の心には未だ生々しく幼馴染が寝取られた記憶が残っている。桃園凛が優しくしてくれるたびに俺はこの少女を信用してはならないと心に誓った。こんな屈託のない天使のような少女もいつかは幼馴染のことなんて忘れ、どこかの誰かと恋をし始める。考えてみればそれは当然のことだし、幼馴染とそのまま結ばれるなんて考えていた過去の俺が馬鹿だったのだ。
凛は少し奇妙なところがあった。凛は誰もが認めるほどの美少女。自ずと男子にも人気があるのだが、他の男子から話しかけられても返事すらしない。唯一心を許すのは俺だけなのだ。一度、その理由について聞いてみたことがある。帰ってきたのは「私はリクちゃんだけのものだから」という答えだった。
もちろんそんなこと俺が信用するわけもない。結衣だって俺と「付き合いたい」だの「お嫁さんになりたい」だの言っていたのに、結局は違う男にやすやすと股を開いてしまった。幼馴染の言葉なんて信用するに足りないことを俺は痛いほど知っていた。
俺が生まれ変わった世界は前世の世界となんら変わっていない。どんな大事に思っている人さえ、あっという間に奪われる汚い世界だ。唯一幼馴染を寝取られない方法は幼馴染に心を許さないこと。そうすれば同じことが起きた時、寝取られたことにはならない。俺は二度と幼馴染を信用しないし、心も許さない、そう決めていた。
 




