NTR
俺には近所に住んでいて小さい頃からずっと仲が良かった白石結衣という幼馴染がいた。小学校から今通う高校に至るまで登校するのは毎日一緒。
放課後もしょっちゅう遊んで、試験の前は二人で夜遅くまで勉強した。事あるごとに結衣は「ヒロちゃんと付き合いたい」とか「ヒロちゃんと結婚できたらいいな」なんて言って俺を赤面させた。でも内心俺は嬉しかったし、高校に上がったら自分から告白して結衣と付き合おう、そう思っていたのに。
ラブホテルから出てくる二人をみて、思わず目を疑った。男は二個上、高校のサッカー部の高槻先輩。部内ではエースと称されるが、何かと俺に辛辣な態度をとってくる嫌いな先輩の代表格だ。そしてその高槻が手を握るのは、俺の幼馴染、白石結衣だった。
仲睦まじく手をにぎりあう二人を見て、俺はしばらく呼吸がうまくできなかった。この二人の組み合わせだけは見たくなかった。何かの間違いであってくれそう願った。でも現実は俺が見たままのものだった。
二人がラブホテルへ行った次の日、部活に行くと高槻先輩から呼び止められた。「おい、こっち来いよ」そういう高槻先輩はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「白石結衣ってお前の幼馴染だよな」
俺は何も返事がすることができなかった。
「お前ら二人いつも一緒にいるのに、やってなかったんだな。悪いな、俺がもらっちまった。結衣の初体験。ほんと、いい身体してたよ」
それから高槻先輩はベッドの上で白石結衣と何をしたのか、どんな表情でどんな声をあげたのか、事細かく俺に説明してみせた。
もう限界だった。気づくとサッカーグラウンドから離れ、俺は走り出していた。自分の幼馴染が高槻みたいな人間に汚される世界など我慢できない。そんな世界に生きるに足りる価値があるとは思えない。自然と足は校舎の屋上へ向かっていた。
その途中、廊下で「ヒロちゃん!」俺の名前を呼ぶ女子に会った。この呼び名で俺を呼ぶのはただ一人、白石結衣しかいない。
「ヒロちゃん、どうしたの?そんな血相を変えて」
俺は荒ぶる呼吸を落ち着かせながら言った。
「俺は二度と幼馴染を信じない」
「え?」
「高槻とのセックスは楽しかったか?」
白石結衣は顔を紅潮させ、目を見開いたまま俺をじっと見つめた。
俺はそんな白石結衣を置いて、屋上につながる階段に向かってまた走り出した。背中で「ヒロちゃん!待って!」という声が聞こえたが、俺は振り返りもしなかった。そして、屋上へたどり着くと、なんのためらいもなく校舎から飛び降りた。
最後に聞こえたのはヒロちゃん!ヒロちゃん!死なないで!という幼馴染の叫び声。そしてごめんなさい!ごめんなさい!許してください!という果てしなく悲壮な声だった。