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第八話


「……いや、一緒に服を選んでくれって……」


「頼む! 正直、どんな服を着て行って良いのか……私には分からないんだ」


「分からないって言われても……そもそも俺、女の服とか選んだことねーぞ? そもそも、俺じゃなくても誰かに聞けば良いじゃねーか。サラとか教えてくれるんじゃね? あいつ、お洒落だしさ」


「……サラは駄目だ。というか、勇者庁の人間は駄目だ」


「なんで……ああ、アレか? 『伝説の勇者』のアンジェリーナ様は『センスが無いんで教えてください』みたいなみっともない真似は出来ないって事か?」


 そう言って腕を組むオラトリオ。言い方は少しばかり辛辣ではあるが……別に煽ったりしている訳ではない。『伝説の勇者』としてアンジェリーナに求められる役割は多岐に渡り――まあ、『完璧である』事も彼女に求められることの一つなのである。少なくとも、『勇者アンジェリーナはセンスを母親のお腹の中に置き忘れて産まれて来た』なんて醜聞が立って貰うと不味いのは不味いのである、色んな意味で。そんな、弱みを見せられないというアンジェの境遇に若干、不憫なものを感じているオラトリオの目の前で、アンジェは小さく首を振った。



「――違う」



 横に。


「……え?」


「……勇者庁が発足した当初、平服でのパーティーがあってな? 流石に制服ではまずいと思ってドレスを仕立てて参加したんだ」


「……嫌な予感しかしないんだが」


「……おかしいと思ったんだ。仕立て屋に注文した時から変な顔をされていたし、パーティー会場ではパーティー会場で、微妙な表情をされた後、『ま、まあ長官は制服が一番お似合いですね。こう……で、伝説の勇者! って感じで』と言われてな。それ以来……ドレスは二度と着るものか、と思った」


「……わお」


「……あの仕立て屋も変だと思ったんだったら言ってくれれば良いのに……」


「……そりゃ無理だろう?」


 なんせ、世界を救った『伝説の勇者』の注文である。そんな注文、言われた通りに作るしかないし、例え頭の中で『うわ、伝説の勇者のセンス……なさすぎぃ!』と思ったとしても物理的にも社会的にも首が飛びかねない状況で口には出せない。むしろ、一番の被害者は仕立て屋まである。


「……パーティーに参加者も可哀想に」


『世界を救った伝説の勇者』に言えない。そりゃ、言えない。『勇者様、センス、バグってますね?』なんて言える訳がないのである。もしかしたら、勇者庁の一番のファインプレイは『制服』を制定した事かも知れないのだ。


「……一応、聞いておくけど……私服の方は?」


「……さっきも言ったが、冒険者服とビキニアーマーしかない」


「不評だったドレスは?」


「ふひょ――!! こ、コホン。そのドレスはアレだ。こう……あまり私に似合って無かったのでな? こう……パーティー後に即刻、荼毘に付した。ファイアの魔法で」


「……魔法の無駄遣い甚だしいな、おい」


「だ、だから! 私には本当に服が無いんだ!! 勇者庁の制服、冒険者の服、ビキニアーマー……ど、どれもダメだろう?」


「まあ、最適解じゃないのは確かだな。一部のアレには受けるかもしれないけど、流石に――」



「もうこうなったら下着姿で行くしかないじゃないかっ!?」



「――待て。なんでその発想に至る」


「サラに言われた! 『長官、下着のセンスも良いですね。いつもより色っぽく見えます』と!!」


「……どこで見たんだよ、サラのヤツ」


「仕事帰りに一緒に銭湯に行った時だ! もう……こうなったら、それしか方法が無いんだ! それが私に一番、似合う服装だ!!」


 ……まあ、あながち間違ってはない。顔は美人だし、出るところは出て引っ込んでいる所は引っ込んでいるアンジェリーナ、下着姿は……まあ、余程ミスをしない限りでは、確かに『私服』の中では一番オシャレに見えたりするのである。


「……いや、だからって……下着は無いだろうが、普通に。良いのかよ、お前は?」


「そもそも、合コンはそういう場だろう!! 女性の服をひん剥く為に行くんじゃないのか!! なら、ひと手間省いて最初からそうしただけだ!! ある意味感謝されるだろう!!」


「んなわけあるか!! 一気に痴女だと思われるに決まってるだろうが!!」


 オラトリオの咆哮が室内に響く。そんなオラトリオの言葉に、アンジェは暗い目でニヤリと嗤った。


「……そうだ。もし、そんな事をしたら私は痴女と呼ばれる事請け合いだ。さあ? どうだ? お前も嫌だろう、オラトリオ!! 語り継ぐべき伝説の勇者の逸話に『下着姿で合コンに行った』という逸話が残るのは!!」


「こいつ……自らの伝説をカタに脅して来やがっただと……!」


 戦慄を覚えるオラトリオ。よくよく考えればとんでも無い話ではあるが……まあ、伝説の勇者様である。肝は据わってるのだ、肝は。正直、座り方がおかしいのだが。


「……んじゃサラに聞けば良いじゃねーか。サラなら、懇切丁寧に教えてくれるんじゃないか? あいつなら……まあ、お前の事を尊敬しているだろうけど、言い難い事も言ってくれるんじゃね?」


「……」


「……どうした?」


「……聞いていなかったのか、オラトリオ。サラは言ったんだぞ? 『下着のセンス『も』良いですね』と。下着のセンス『も』だ。じゃあ、他になんのセンスが良いと思う?」


「……まさか」


「……ドレスは荼毘に付したと言っただろう? 他の皆は一様にほっとした顔を浮かべていたが……サラだけだよ。『勿体ない』と悲しんでいたのは」


「……いい眼医者紹介した方が良いか? それとも脳の方か?」


「……どちらも必要はないのはサラのいつもの服装を見れば分かるだろう? そうではなく……自分で言うのは照れ臭いが、こう、サラは私の事を……その、盲目的に尊敬というか……」


「……ああ」


 サラのアンジェに対する崇拝はもはや『偶像崇拝』のレベルである。そんな彼女は、アンジェが着たものなら何でも素敵なのだ。


「……他の勇者庁の人間は私に遠慮して本音を言ってくれない。サラはサラで本音だが、それではあてにならない。だから、オラトリオ……」


 頼みはお前だけだ、と。


「……おねがい、おらとりおぉ……」


 涙目上目遣いでそういうアンジェに、オラトリオは深々とため息を吐いて。



「――昼から行くか、服買いに」



 ……泣く子とアンジェには勝てないのである、オラトリオ。



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