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第七話


「……オラトリオ」


「おはよ――なんだよ、その顔? どうしたんだ?」


 合コンのレクチャー……と言っていいのかどうか分からんレベルの『技』を伝授したオラトリオは、授ける神的に一仕事やり切った! という感じで翌朝元気に勇者庁の長官室に顔を出した。出したのだが……そこには眉が八の字になった、なんとも情けないアンジェの姿があった。


「……どうした? 何かあったのか?」


 明らかにどんよりした顔をするアンジェに、心配になってそう口にするオラトリオ。そんなオラトリオに、アンジェは拳を握って。



「――合コンに着ていく服が、ない」



「あ、これ、心配して損したヤツ」


 とてもしょうもない事を言ってのけた。拳を握って立ち尽くすアンジェに肩を竦めると、そのままソファに座り込み、長官室に置かれた新聞に目を通す。


「お、裏通りでの通り魔事件、解決したのか。良かったな~」


「話を聞け!! 裏通りの通り魔事件の話なんて今はどうでもいい!!」


「おま、世界の平和を守る勇者庁の長官がいっちゃん言ったらダメな奴だろ、それ」


「だから、世界の平和の前に私の平和を守ってくれっ!!」


「……合コンに行くのがお前の平和かよ」


 まあ、心の平穏という意味ではあながち間違いでも無いのかも知れないが。そう思い、もう一度ため息を吐いてオラトリオは新聞を畳んで半眼でアンジェを見やる。


「んで? なんだっけ? 服? 着ていく服が無いってか?」


「そうだ。昨日、家に帰って気付いたのだが……私の持っている服は魔王討伐の冒険の際に着てた冒険者の服と、勇者庁の制服、それにビキニアーマーしかないんだ……」


「……なんでビキニアーマーとかあんだよ?」


「一番動きやすいんだ、あれが」


「……そうかい。にしても……服、ねぇ~。冒険者の服ってアレか? 毎回、ヘビーローテーションで着ていたヤツか?」


「ヘビーローテーション?」


「毎日着ていなかったか、あれ?」


 そんなオラトリオの言葉に、イヤそうにアンジェが顔を顰めて見せる。


「……失礼な事を言うな。魔物を倒せば汗も掻くし、返り血も浴びる。流石にそんなもの、毎日着れる訳無いだろう?」


「……へ? でも、毎日着ていたイメージが……」


「同じ型の服を五着ほど持っていたんだ。それを交換で着ていた感じだな」


「……通りでお前の荷物、嵩張ると思ったら……」


「古くなったら捨てて、新しい物を買っていたし……金はあったからな」


「言い方がやらしすぎる」


 まあ、世界を救う旅に出てた勇者様である。国家どころか全世界を挙げて応援されていたし、どこぞのRPGみたいにひのきの棒と布の服と、子供のお小遣いの方がもっと貰ってんじゃない? レベルの金を渡して無理やり旅に出させる様な無体な真似は無かったのである。そういう意味でアンジェは、随分と厚遇もされていた。


「まあ……流石にあの服じゃ合コンには行けねーかな?」


 アンジェの冒険者スタイルはアレだ。膝の上ぐらいまでのベージュのワンピースの下に黒のズボンを履くという、よくある女性冒険者スタイルである。スタイルの良いアンジェが着ると似合うのは似合うのであるが……まあ、合コン向きではない。


「だろう? だからと言って勇者庁の制服で行くのも……」


 勇者庁の制服は文官は紺色のジッパータイプの詰襟に男性はズボン、女性はスカートを合わせるスタイル、武官はまんま軍服っぽい服だったりする。


「……だから言ったじゃねーか。折角『働き方改革』が叫ばれてるんだから、お前も取り入れればいいじゃねーかって」


「だ、だって……ま、毎日服を選ぶのは面倒くさいじゃないか……み、皆、『長官は制服が似合いますね』と言ってくれていたし……」


「……お前というヤツは……」


 女子力皆無のアンジェの言葉に、さしものオラトリオもため息である。魔物の脅威はあるも、ある程度落ち着いた昨今。最近は勇者庁でも『ビジネスカジュアル』が取り入れられつつあり、武官は少しばかり難しいも、文官の方は徐々に私服通勤がオッケーになりつつある。勿論、『節度を持った』という制約はあるも、概ね勇者庁に勤める職員には好評である。


 ちなみに勇者庁、庁内に詰める文官組は圧倒的に女性が多く、実働部隊である武官組は圧倒的に男性が多い。勇者庁結成当初、この比率に対してポリコレ勢力が『勇者アンジェリーナは魔王を倒した! 女性だって戦える!! この比率は男女差別だ!!!』と叫んでいたのだが、アンジェの『別に差別はしていない。私が認めるぐらいの力があれば、女性でも実働部隊に配属するさ。単純に、男性の方が向いているからこの形になっているだけだ』の言葉で沈黙させられた。アンジェが規格外なだけであり、一般的に女性より男性の方が戦闘特性は高いという、要は適材適所である。ちなみにアンジェの公設第一秘書であり、文官の幹部の一人であるサラは詰め寄るポリコレ勢力に対して、『そこまで女性を戦場に送りたいならまず、御自分が行かれれば宜しいのでは? 少なくとも文官組では戦場に行きたいなんて、そんな声は上がっておりませんが?』と黒い笑顔で言い放った。何時だって、文句を言うのは内情を知らない外野なのである。


「……はぁ。じゃあ、仕方ねーじゃねーか。合コンだってまだ日取りは決まって無いんだろう? 次の休み……は二十日後か。んじゃ、昼休みにでもちゃっちゃと見繕って来い。金はあんだろ?」


 オラトリオの言葉に、アンジェの眉がますます八の字に下がる。


「……なんだよ」


「……ないんだ」


「無い? 金はあるんだろ?」


「……」


「……アンジェ?」


「金はある。金はあるが……」


 少しだけ言い淀み。



「――センスが、無いんだ」



 そう言ってアンジェは懇願するような視線をオラトリオに向けて。




「――頼む、オラトリオ!! 一緒に……服を選んでくれっ!!」




 

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― 新着の感想 ―
[一言] >「金はある。金はあるが……」 > 少しだけ言い淀み。 >「――センスが、無いんだ」 残念勇者に朝から笑わせていただきました。
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