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第十話


 アンジェの手に持った服に軽く眩暈を覚えるオラトリオ。そんなオラトリオに対して、心持申し訳無さそうにつんつんと両手の人差し指をつついて見せるアンジェ。


「だ、駄目なのか? こう……め、目立つことが大事だと聞いたんで、この服を選んでみたんだが……」


「完全に悪目立ちじゃねーか、それ」


 そんなアンジェに『はぁ』と大きくため息をついて見せるオラトリオ。こう、なんか、色んな意味でアンジェのセンスが酷い。


「……むしろすげーよ、お前。なんだ? お前の中で『センス』って単語は死滅してんのか? それともお母さんのお腹の中に置いて来たのか? どういう感覚してたらそんなレインボーカラーの服を持ってくるんだよ?」


「だ、だって……ま、魔族は皆こんな感じだったぞ! 求愛するときに、目立った方が良いんだなって……な、なんだってそうだろう?」


 アンジェの発言に額に手を当ててやれやれと言わんばかりに首を左右に振って見せるオラトリオ。


「……そ、そんな態度しなくても……」


 持ってきた服をぎゅっと握って涙目でオラトリオを睨むアンジェ。庇護欲をそそるその姿に、オラトリオははっとした様に額から手を離して。



「馬鹿っ! 売り物に皺が出来るっ! そんな持ち方するな! 後、泣くな! 涙がついたら買取だぞ、ボケ!!」



 ――……厳しい言葉を投げかけた。


「え、ええ~……こ、此処は普通、優しい言葉を掛けるんじゃないのか……?」


「掛ける訳ねーだろうが。そもそも、服屋で持ってきた服をぐちゃぐちゃにする様な事をするな。次に買う人――がいるかどうかかなり微妙なデザインだが……ともかく、お前みたいにセンスが死滅した人間が買うかも知れないだろうがっ!」


「酷くないかっ!?」


「お前のセンス程は酷くないわっ!!」


「それは完全に酷いぞ!? だ、大体、この服だって此処に置いている以上、誰かが『良い』と思って作ったんだろう!? オラトリオ、失礼じゃないか!!」


「……」


「……な、なんだ? 急に黙り込んで……ち、違うのか……?」


「あー……いや、確かにお前の云う通りだ。ネタ服として作った、もしくは買う人間も居るだろうが……確かに、その服をお洒落に着こなせる人間もいるだろうな」


「だ、だろう?」


「だが、それはお洒落上級者だけだし……そもそも、初っ端の合コンでそんな服着てくる様な人間は敬遠されるのがオチだ。お前、お洒落初心者だろうが。此処は無難な服にしとけ。な?」


「……その『無難』が分からないんだが?」


「あー……そりゃそっか。んじゃお前、どんな服が良いんだよ?」


「変じゃ無ければ何でもいい」


「変じゃ無ければって……いや、あるだろう? こういう格好が良いって云うのが。ほれ? 例えばサラみたいな恰好が良いか? クール系のお姉さんみたいな。それともボーイッシュ系? お前、そこそこ上背があるから格好いいお兄さん系も出来るぞ? まあ、合コン向きでは――」


「なんでもいいんだ、オラトリオ。お前が選んでくれれば」


 尚も言い募るオラトリオを制すアンジェ。


「……んだよ? 考えるのが面倒くさいってか? 人を付き合わせといてそれはねーんじゃねえか? お前のセンスじゃ、そりゃ不安だが……意見ぐらいは聞くぞ?」


 その言葉に、不満そうな表情を浮かべて見せるオラトリオ。そりゃ、わざわざ一緒について来たのに『あとはよろしく』とばかりに丸投げされれば面白くない。そんなオラトリオに苦笑を浮かべてアンジェは首を左右に振る。


「そうじゃない。まあ……今の話を聞いていれば、私にセンスが無いのは確かなのだろうが……だからと言って丸投げしようと思っている訳じゃない。ああ、結果的には丸投げかも知れんが……そうじゃなくて」


「そうじゃないだ?」


「……ずっと戦ってばっかりだっただろ? お洒落なんかした事も無いし、自分がどんな服装をしたら似合うか、見当がつかないんだ」


「……アンジェ」


「だから……オラトリオに選んでもらいたいんだよ。私の事を小さいころから見ていてくれたオラトリオに、貴方に選んでもらいたいんだ」


「……」


「オラトリオが『可愛い』とか『綺麗』とか……『似合う』と思う服を選んでくれ。私はそれを着て、合コンに行くから」


「……好みに合わなかったら?」


「好みなんて無いし……それに」



 オラトリオなら、私に似合う服を選んでくれるだろう?



「……はー。んな無邪気な笑顔をするなよ」


 天真爛漫、完全に信じ切った笑顔を浮かべるアンジェに小さくため息を吐く。ここまで信頼されたら、そりゃオラトリオも断る訳にも行かない。


「……分かったよ。んじゃ、こっち来い」


 そう言って歩き出すオラトリオの後ろを素直に付いていくアンジェ。その表情はにっこにこの笑顔で、『どんな服かな~』と言わんばかり、まるでクリスマスプレゼントを開ける前みたいな笑顔だ。ちらりと後ろを振り返ったオラトリオに『ん?』とばかりに首を傾げて見せるその姿は、なんだか親ガモの後を付いていく子ガモの様だ。


「……お前に似合いそうな服はこの辺かな? まあ、靴も買わなくちゃいけないが……この辺が良いんじゃないか?」


「……ワンピースか? シンプル過ぎないか? ああ、文句ではなく……」


「マコウテイオオクジャクから離れろよ? そもそも、ファッションの基本は色の使い方なんだよ。あんな原色バリバリの服は余程巧く着こなさないと難しい。ファッション素人はシンプルに白とか黒を選んで置けば問題ねーよ」


「……ふむ。そうなのか」


「そうだ。後、幾ら『黒』と言っても全身黒とか止めて置けよ? 何処の影の者だってなるから。精々三色くらいで上から下まで揃えろ。このワンピースはシンプルな形で、色も白で大人っぽく見えるから……靴は黒に近い色の方が大人っぽくなるかな?」


「……」


「どうした?」


「オラトリオに取って、私は『可愛い』じゃなくて『格好いい』イメージか?」


「なんだ? 可愛い系に憧れてるのか?」


「そういう訳では無いが……」


 少しばかり残念そうなアンジェに、苦笑を浮かべるオラトリオ。


「……心配しなくてもお前は可愛いし、格好いいよ。ただ、お前を一番魅力的に見せるんだったら、大人っぽい方が今回は良いだろうってだけの話だ」


「そ、そうか……う、うん。ありがとう……嬉しい。それじゃ、これにする」


「良いのか? 他に良いのがあるかも知れないぞ?」


「良いんだ。これで良い……ううん、これが良い。オラトリオが選んでくれた、この」



 服『が』良いんだ、と。



「……そっか。それじゃ、試着して――」





「そのままこの服を着て帰る!」





「――って、おい! お前、冒険の癖が抜けきって無い! 『この場で装備しますか?』じゃないんだよ!! 家帰ってから着替えろ!!」



 ……結局、そのままその服を着て帰ったばかりではなく、次の日もその服を着て登庁したアンジェがオラトリオに『ヘビロテのし過ぎだ!!』と怒られてもう何着買いに行く事案が発生したのは余談だろう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。
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