《キスゲーム事件》開始から5年前のできごと
事の発端は、政府首相とゲーム会社社長の間で行われる会話から始まる。
ここで話される【動機】が、物語の運命を大きく左右する。
西暦2025年、ゲーム会社神道社社長室。魔法が世間一般的に広まっていない時代。
ゲーム運営陣側として、将護三ッ矢と明浄みことが同席していた。そしてみことには【この世の神様が憑依している】。ある程度話を聞いた後、要するにと。話の結論を先に持ってくる。
神様・星明幸は、みことと声を重ねながら言う。
『つまり、国が合法化するから。犯罪恋愛ゲームを作れということか』
ある事件により、頭のネジが抜けてしまった人生が狂った首相は「そうだ」と返す。
幸は首相が、どうしてそのような結論へ至ったのかを促す。
『その結論へ至った話を順を追って説明してくれなのじゃ』
首相は社長室の窓ガラスを観ながら、反射した自分を見つめながら言う。
「簡単に言うと、【少子化対策】なのだが。……話が長くなるが良いかい?」
『構わぬ、申せ』
「全ては私の息子が死んだことから始まる。息子は成人として立派に育った、政治家の息子としてな。だからお見合いなどもやったよ、だが息子はゲームに夢中で恋愛などには興味は無かった。いや、出会いも無かったのだろう。あったとしてもそれはネット越し、互いに触れ合うことすらできない。少子高齢化問題は解るな?」
『まあ、世間一般的な教養程度には』
「誰が悪いとかではないが、ここまで国家の指揮をとって来たのは私だ。責任が無いとは言えない。この日本はもうダメだ! 失敗したのだ! 子供達の自由意志だけでは、もう手遅れなんだよ……。おかげで私の跡取りは居ない、新しい子供を授かろうという気にもなれん。私は天涯孤独のまま死ぬだろう、年齢的に残りの寿命も短い恋愛や青春が出来る内が花なのだ。旬が過ぎればこの日本は滅亡する。私の母親の夢は『生きている内に息子の結婚式を観ること』だった、しかしその夢も叶わず両親も息子も先立ってしまった。そして息子の夢は『一度でいいから異性とキスしたかった』だよ、笑ってしまうだろ? 夢が叶わず亡くなったんだ」
幸はいぶかしげに状況を整理する。
『そこは普通、息子の人生を狂わせたゲームが憎い。とかになるんじゃないか?』
「それもある。だが今は【君の魔法】の話に注目したのだよ、世間では神様は実在しない。と決まっているが。幸君は【人を生き返らせることは出来るが禁止してる】のだろう?」
『まあ、そうだな』
「私に野望があるように、私にも野望がある。日本国の子宝の増加……つまりは子供が欲しいのだ」
『同情はするが、それは個人の自由意志じゃろ?』
「それだと本当に日本は滅亡してしまう。だから誰かがやらねばならないのだ」
『……何を?』
日本国首相は堂々と歪んだ野望を告げる。
「【強制的な出会いと結婚と出産だ】それが出来ない日本人は生きる価値なし。直ちに沖縄にでも里帰りでもしてもらう!」
『まるで島流しじゃな』
「そのための法案を私の権力で5年以内で実現する、その間に幸君は《キスゲーム》を完成させてもらう。過去 《デスゲーム》を行い罪に問わなかった君にとっては良心的だろう? 神・幸君」
『まあ、犯罪ゲームが作りにくくなった今の時代じゃ。方向転換して恋愛ゲームを作るのは理にかなってるとは思うがな。流行に乗ってる気がする』
「よって。【真・少子化対策推進法】の案を成立させ、強制恋愛ゲームを合法化する。国がゲーム会社を金銭的にフォローするだけではなく。大人が・社会が・国がそう決めた。だから子供達は従わなければならない。これは教育だ! 義務なんだ!」
『恋愛するのは義務なんです。……てか、まあイチ人間の思想としては中々に歪んでて面白いと思うがな』
「キミの野望はラスボスとして君臨する事だろう? 今は犯罪でも、5年後には合法になる。君は罪に問われること無く、晴れて悪の親玉に成れるんだ」
『やってることは《デスゲーム》よりかは善行だから良いんだけどな。《キスゲーム》なるほどねぇ~……バカゲーかと思ったら、思いのほかシリアスじゃないか』
「君はラスボスをやりたい。私は子供を増やしたい。利害は一致してると思うが?」
『今は犯罪だけど5年後には合法か……面白い、そのギリギリを狙う所に興味が沸いた。【とりあえずやってみよう】』
「私が言うのもなんだが、本気で良いのかい? 社長兼神様」
『私を誰だと思ってる。聖人か?』
「改めて聞こう。我々がやってることは【今は悪だ】野党は猛反発するだろう。その自覚の元、実行するが。それでいいかい?」
『ま、面白いところまでは付き合ってやるよ。つまんなくなったらハイさよなら、だからな』
「了解した」
――――そうして5年間の月日が流れる……。