一次選考連続落選世界記録保持者
2020年、ライトノベル業界も衰退してきた日本で、ライトノベル作家を目指す一人の男がいた。
その男は数え切れない程の小説を応募しては落選してきた。しかも一次選考でだ。
そんな男のもとに一通の手紙が届いた。この男の家に届く手紙など限られているが。
「この時期に手紙…もしや評価シートでは?」
この男に限っては毎年届く、出版社からの無慈悲な通知。評価シートである。
男が手紙を確認すると、そこには悪魔の言葉が。
「なになに?一次選考落選のお知らせ?…」
「くそ…今年も記録を更新するのか…」
実はこの男、一次選考連続落選世界記録保持者である。
今年も送られてきた一次選考落選通知。
「もう何回目だよ…いや実力がないだけか」
そんな男に掛けられる言葉が。
「フッ…これだから敗北者は…おい友吾、お前そんなことやってるといつまでたっても童貞のままだぞ?」
「童貞は関係ないだろ!童貞は!というかお前も童貞だろうが!」
「いや俺は童貞でも“小説家”だからな〜」
「今何で小説家の部分を強調した!おい聞いてんのか!」
そう、すっとぼけているこの男、友吾とは違って小説家である。しかも人気の。
「そう怒んなって。今回で一次選考落選8連続だろ?そろそろ諦めることも視野に入れとけば?」
「残念ながら反論の余地もないな。いやでも継続は力なりって言うだろ?だから続けたらいつかその時が来る…と、俺は思っている」
「これでも四年は小説書いてたんだぞ?一次選考くらい通ってもいいじゃないか」
「いいか友吾。俺からアドバイスだ。小説は“書く”んじゃなくて“描く”んだ。そうしたらいい作品が出来る(多分)」
「おいお前多分って言っただろ。まあ一応そう思ってやってみるよ。光輝も頑張れよ」
「んじゃ頑張れ〜」
光輝が帰って小一時間。全くと言っていいほどネタが思い浮かばない友吾は、寝た。
本人曰く、「『小説家になりたかったら寝ろ』って言ってたから」らしい。
「寝ても意味ないなこれ。でもやる気はある」
何故かは分からないがやる気に満ち溢れている友吾は早速執筆に取り掛かった。
「ん?待てよ?確か小説を書くときはプロットとかいうやつを作るって光輝が言ってたな。もしかしなくても話が脱線事故起こしてたのはプロットがなかったからじゃないか説あるぞこれ」
独り言が多いのは一人暮らしの特徴である。実は友吾には妹がいるのだが二人を合わせると大変なことになるので両親が別居させている。
「作るって言っても作り方とか知らないしな。光輝に聞こう」
「いややめよう。ちょっとめんどくさいし」
一次選考連続落選世界記録保持者の小説への熱意は、こんなものである。
その場の勢い適当に。