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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第二章 停滞へのカウントダウン編

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第十九話 VS魔人族・魔物五百体

魔人族二人・魔物五百体との戦闘シーン開始!

 




「――()け! 我が(しもべ)達よ!!」

「我等が敵を蹂躙せよ!」


 迫り来る、魑魅魍魎(ちみもうりょう)波濤(はとう)


 ミゲル、ゼーレの支配下に置かれている魔物共が轟音を上げ、眼前の生徒達に向かって突進を始める。


 外側からは魔物、内側からは魔人族二人。魔人族二人を包囲するように陣取っていた生徒達は挟み撃ちされる形になっている。


 二人合わせても五百体――という事は、先の事件にてカタラが使用した魔軍勢召喚デモニック・サーヴァントを使用できないようだ。圧倒的物量で押し潰す方が敵としても楽なので、使っていなければおかしい。


 二人共使えない事が幸運という他ない。


感覚武装(ディヴァイズ)隊、構えなさい!」

「了解です!」

「わかっ……りましたっ!」


 楓の号令で光線銃(レイ・ガン)を持つ非能力者達が円陣を組み、光線剣(レイ・ソード)を持つ生徒達はその背後に立った。それと同時に異能力者達が彼等よりも前線――魔物共の波の奥深くまで突撃する。


「俺の後に続けぇ!!!」

「私の後に続いて下さい!」


 魔物の大波を抉り込むように力を振るう異能力者二人。


 大勢の異能力者を引き連れた亮が炎上籠手ブレイジング・ガントレットを行使。前方の障害物を焼き尽くしながら形成した炎のトンネルを通り抜けて魔物の背後を取る。


 それと同じく、異能力者を引き連れた教師である凛が優雅たる凍久フリージング・グレイスを行使。前方の障害物を無理矢理こじ開け形成した氷のトンネルを通り抜けて魔物の背後を取った。


「後輩! 俺と共に魔物をぶち殺すぞぉ!」

「お前と一緒なんかお断りだぁああ!? 炎狼の咆哮(バーン・ロア)ァ!!!」

「凍てつき砕け散りなさい……凍花染(とうかせん)ッ」


 筋肉ダルマこと、権田橋先輩と亮、凛が異能を使い、主だって魔物を外側から蹂躙していく。


 宗士郎、響、柚子葉、楓、みなもを除く全ての異能力者が隊列の外に出た瞬間、みなもが叫んだ。


神敵拒絶(アイギス)ッ――聖光城壁(ライト・ランパード)ッ!!」


 感覚武装(ディヴァイズ)隊を守るようにして、円陣の外側に円柱状の光壁を築き上げられる。その際、銃を構える生徒の前に約900㎠程の鉄砲狭間(てっぽうざま)を構築。


「撃てぇえええ!!!」


 二度目の号令で、隙間から光線銃(レイ・ガン)で突撃してくる魔物を狙い撃ちにする。撃ち漏らした魔物は光線剣(レイ・ソード)で突き刺し仕留める。挟み撃ちという不利を覆し、逆に異能力者と非異能力者とで魔物共を挟み撃ちにしてしまう。


 魔人族側が少しでも不利な状況に陥れば、魔物で形勢差を補おうとする事は容易に予想できた。魔人族達を包囲すれば、尚更だ。


 ならば、と逆に包囲する動きを考えたのが楓だった。


 宗士郎が考えた囮作戦の決行が決まった時に、即興でこの布陣を思い付き提案してきた楓は流石の一言だ。その策を凛が校内放送及びメールで、動きを説明。突然の策にも関わらず、堅城を築いたみなもや他の生徒達も賞賛されてもおかしくない対応力である。


「なるほど、考えたな……我等が作った状況をこうもあっさり覆すとは――だが!」

「我等に背を向けるなど、命を差し出すようなものだな!!!」


 自分達から背を背ける非異能力者達(人間)を見て、ミゲルとゼーレが地を蹴り攻撃魔法の詠唱を始める。魔物の対応に追われる生徒達は二人の目には、恰好の獲物でしかない。


 しかし、その行動を予想していない筈がない。


「ぬぐっ! ……貴様!?」

「お前達の相手は――」

「私達だよ!」


 魔法を打ち出す瞬間、ミゲル、ゼーレを宗士郎と響で殴り飛ばして押し戻す事に成功する。


 ミゲルに宗士郎、ゼーレには響と柚子葉の二人が対峙した。


「みなもちゃん! さっきのお願い!」

聖光城壁(ライト・ランパード)ーッ!」


 兼ねてより決めていた柚子葉の合図で、みなもが宗士郎達と魔人族二人を包囲するべく、二つ目の光壁を築き上げた。これで魔人族が非異能力者の生徒に危害を加えられなくなった。


「おい。ミゲル、って言ったか。腰の物は飾りか?」


 心置きなく戦えるようになった宗士郎がミゲルの腰に下げている剣を見て挑発する。その言葉に、ミゲルは薄ら笑いを貼り付かせ、剣の柄をトントンと手で叩いた。


「安い挑発だな。だが、実を言うと、オレは魔法よりもこっちの方が得意でね。奴等に手出しできない以上、剣を使う者同士で()り合うとしよう」

「異世界の剣士と戦えるとは光栄だ。当然やるのは……命のやり取り、だがな」


 ミゲルが腰から、宗士郎は虚空から、それぞれの得物を引き抜いた。


 ミゲルが手に持つ剣は所謂長剣(ロングソード)。磨き上げられた鋼色の刀身が日差しで反射されて、よく手入れされている事がわかる。


「ふむ、貴様の剣は見た事がないな。興味深い」


 対して宗士郎が持つ、刀剣召喚(ソード・オーダー)で創生した刀を見て、ミゲルが興味を示した。この刀は愛刀である『雨音』をイメージして作ったものであり、日本刀は日本固有の鍛冶製法によって作られた物だ。


 異界にはある筈もない。


「言っておくが、渡さないぞ。剣は己の魂だからな」

「全く以てその通りだ。しかし、逆に言えば貴様を殺せば奪い取っても構わんだろう? その剣も主無くしては、輝けまい」

「もう勝ったつもりでいるのか。随分と腕に自信があるように見える」


 そのような道理があってたまるか、という気持ちも込めて宗士郎はミゲルに刀の切っ先を向ける。それに合わせて、ミゲルも腰を少し下ろして脇構えを取った。


「かかってきな?」


 余裕綽々の様子のミゲルが右親指で自らの胸をトントンと叩く。仕返しとばかりに挑発された宗士郎は闘氣法で身体強化を図り、地面を踏み締め突進。


「ぜぇぁあああッ!!!」


 苛烈な踏み込みからの一撃を放つ。


「フン、こんなもの……っ!?」


 剣で受け止めようとしたミゲルが宗士郎の刃から何かを感じ取り、すかさず剣を引いてバックステップ。


 ――本能的に宗士郎の刀を避けていた。


「避けたか……勘の良い奴だな」

「その剣、オレ達の仲間を葬った時もそうだが、かなり危ういものを感じる。避けねば死んでいた」

「アダマンタートルを斬った力だからな、当然だ」

「な、に……!? 『魔界(メルディザイア)』で最も硬い、あのアダマンタートルを斬ったというのか!?」


 先程まで意気揚々と剣を振るっていたミゲルの剣気が嘘みたいに弱くなった。愕然とするミゲルをよそに、更に強化の度合いを上げ、剣撃の速度を引き上げる。


「お前の力はこんなものか……!」

「調子に、乗るなァ!!」


 〝剣が得意〟という自信を言葉一つでへし折られたミゲルは己を鼓舞する意味を込めて、大振りの横撃を放つ。同時に身体強化(フィジカルブースト)の魔法を発動し、宗士郎の動きに対応し始める。


「貴様がアダマンタートルを斬ったからといって、剣技までもが凄まじい訳ではなかろう!?」

「だから負ける筈がない、と?」

「そうだ! オレはアルバラス様の為に貴様を倒すッ!」

「(急に剣筋が鋭くっ!? アルバラスってのが、主の名前か!)」


 期せずして敵の主の名を知る事ができた一方で、ミゲルの剣が数段重く、より速くなった。その主に崇敬の念を抱いているのか、ミゲルから「負けない」という気迫をひしひしと伝わってくる。


『異界』の剣士と戦えるという初の状況に宗士郎は歓喜に打ち震えていた上、更には「この殺し合いを終わらせたくない」とまで思い始める。


 戦闘を楽しむ悪い癖が出た、と反省しつつも、宗士郎はもう暫し斬り合いを楽しみ始める。




 一方その頃……。


「――ミゲルの奴め。我等が主の名を口走りおって……。さて、お前達はどうする?」


 ミゲルと宗士郎との激しい闘いを眺めていたゼーレは吐き捨てるかのように悪態をつき、未だに動き始めない人間二人を横目で見た。


「どうするも何も、もう仕掛けてるぜ!」


 問いに答える形で、響は大声かつ仰々しい動きでスーパーボールをゼーレの真上へと放り投げた。


「クク、そんな丸い球で何をしようというのだ――焼き尽くせ! 闇炎(ヘルフレイム)!!!」


 くつくつと笑ったゼーレが真上の球体に向け、漆黒の炎を掌から発射する。


「爆ぜろ!」

「ぐぅっ!?」


 それとほぼ同時に響は爆弾付与(マインストール)で爆弾にしていたスーパーボールを起爆。


 凄まじい爆風が炎を吹き飛ばし、スーパーボールの中から広がった白い網がゼーレの身体にまとわりつく。


「ぬぅ!? な、なんだこれは! 身動きが、取れん!?」

「魔物用鳥餅ネットだ! 藻掻けば藻掻くほど、絡まって動けなくなるぞー」


 事前に鳥餅のイメージを吹き込んでいたスーパーボールだ。『戦闘服』を纏っている事もあって、粘着性は抜群。


 網から抜け出そうと手足を動かす度、身動きが取れなくなっていく。


 その直後。


「――雷神の裁き!」

「んっぎゃあああアアアア!!?」


 神の裁きとも取れる、途轍もない落雷がゼーレの身を焦がした。


 響が仰々しい動きでゼーレの気を引いていた隙に、柚子葉は瞬時に雷心嵐牙(テンペスター)を発現。陣風迅雷の雷の如き速さにて敵の警戒網から離れ、ゼーレが身動き一つ取れなくなった瞬間に、練り上げていた電気エネルギーを叩き込んだという訳だ。


「ゆ、油断……したっ……まさかここまで追い詰められるとは……!」

「うわ、柚子葉ちゃんの一撃をまともに喰らってまだ立てるのかよ!」

「結構、威力高めだったんだけどね……」


 落雷で鳥餅も焼かれた事により、よろよろとふらつきながらも立ち上がるゼーレ。


 その身は既に満身創痍。


 にも関わらず、眼の奥に宿る意思をハッキリと感じ取れる。


 だが――。


「申し訳、ございません……アルバラス様っ」


 敬愛する主に詫びると、ゼーレは呆気なく力尽きた。


「えっ、死んだの……?」

「どうやら気力だけで立ってたみたいだ。面倒な事をされる前に片付けられて良かった」


 警戒水位を引き下げた響がゼーレの手首の脈を測り呟く。


 恐らく魔人族は『魔法』という超常の力を使えるが、カタラのような幹部クラスでもない限り苦戦する事もないのだろう。とはいえ、地球人よりも強靭な肉体なのは先の雷撃を耐えた事から見て取れる。


「――ゼーレッ!? おのれ貴様等ァッ!!!」


 と、ゼーレの息絶えた姿を目の当たりしたもう一人の魔人族――ミゲルが宗士郎との勝負を投げ出して、柚子葉達の元へ疾走。


「余所見するなよ。今は俺との真剣勝負なんだからなッ」

「くっ!」


 だがしかし、間に割り込んだ宗士郎がミゲルに闘氣で強化した蹴りを見舞って距離を離す事に成功する。蹴りが入る直前で両腕を交差してガードされた為、深くは入らなかったようだが。


「クソッ……! 同胞を二度も手に掛けるとは……貴様達は絶対に許さんぞ!」

「仲間が殺されて怒り、悲しむのも無理はない。でも、お前達も〝死〟を覚悟して戦場に赴いてるんじゃないのか?」

「なに!?」


 まるで自分が被害者のように振る舞っているが、〝他人の命を狙う〟という事は、即ち〝自分も命を狙われる〟覚悟をしなければならない。それが世の常だからだ。


 仲間を殺されて怒るのも悲しむのに種族間の違いもない。


「お前達が言う神天狐の娘――つまり、他人を狙った時に果たして覚悟していたか? 俺の耳には、狩りを楽しんでいるようにしか聞こえなかったが」

「オレ達よりも弱き存在を狩って楽しむ事の何が悪――ッ!!?」


 ザンッ!!!


「ぁあ……?」


 一刀両断言。


 ミゲルが全てを語り切るよりも前に、一瞬で肉薄した宗士郎の一刀が小汚い口諸共、身体を真っ二つに斬り裂く。


「狙われる者の気持ちが解らない奴が仲間が死んだ事ぐらいで、わめくんじゃねえよ……!」

「――――――」


 何をされたのか理解できなかったミゲルはそのまま意識を闇に閉ざした。


 ミゲルの死体に怒りの言葉を吐き捨てた宗士郎は虚空に刀を消して、柚子葉達も元へ歩く。折角、異界剣士と斬り結べたというのに、ミゲルの本性を知った途端にやる気が失せてしまった。


「……ちょっと理不尽な気が……しないでもないな、うん」

「あれは魔人族の人が悪いと思うけど……かなりの屑だったし」

「おい、俺達も魔物討伐に加わるぞ」


 仲間を殺されて怒る気持ちはわかるが、あのクズさ加減に同情の念すら掻き消えた響と柚子葉。


 その後、仲間達と合流し、無事全ての魔物を討伐し終えた宗士郎達は一日前と同じく学園へ残り、明日に備えて休むのだった。







 夕刻――翠玲学園屋上。


「――アンガス、ミゲル、ゼーレ…………」


 回収した部下達の遺体を眺め、アルバラスはそれぞれの名前を呼んだ。


 当然、返事は返ってこない。順に頬を撫でるも、指先から伝わってくるのは〝仲間の死〟という悲しい現実。自らの為ならば、命をも差し出すと過去に言われたアルバラスは涙を零す事は決してしなかったが、心の奥に静かな怒気を抱く。


「皆よくやったわ……全てはカイザル様の為。貴方達の働き、無駄にはしないわぁ」


 全ては自分が敬愛して止まない、主の計画の為。


 愛する部下達が人族に刻み付けた、神天狐の娘――和心奪取への布石は必ず後で生きてくる。


 そう信じて、アルバラスは彼等の亡骸を山奥へと運び火葬した。万が一にも自らの居場所が露見すれば、全てが水泡に帰すからだ。


 満足に弔う事ができない事を悔みながら、アルバラスは身体を蜂の群体と化して、嶽内 健五郎の元へ向かった。


「ぬぉおおおお!? また、君か……!? 今度は何の用――グムゥ!!?」

『まったく、面倒な男ねぇん』


 既に何度か邂逅しているが、何時会っても似たような反応する目の前の人間。


 自分に対する記憶を殆ど消しているとはいえ、流石に手間がかかる。彼の身体を寄生(ジャック)し、新たな記憶(情報)が入っていないか確かめた後、完全に自らに対する記憶を抹消しておく。


 次に乗っ取った身体と記憶を使って、携帯端末に登録されている『自衛隊』という軍事組織の番号に電話を掛けた。


『(ここの文明は便利ねぇん。この男の記憶がなければ、まともに使えないけどぉ)』


 異世界の文明の利器に感心しつつ、声帯を整えて乗っ取った男の声に直す。


『――次の指示だ。君達には――』


 数回のコール音の後、電話に出た自衛隊員の者に概要を伝え、アルバラスは次なる布石を打つ。


 神天狐の娘を奪取する為でもあり…………。


 ――そして、少しでも奴等に愛する部下達の無念を晴らす為に…………。





圧倒的戦力差を仲間達の力と策で乗り切った宗士郎達。彼等に休む暇などなく、アルバラスの次なる一手が襲い掛かろうとしている事は…………まだ誰も知らない。



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