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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第二章 停滞へのカウントダウン編

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第十八話 魔人族の躍動

 




「――昨日はよく眠れたかな?」


 翌日の朝。


 和心を含む主要メンバーは学園長室に呼び出されていた。


 昨夜は異能力者の中でもトップクラスの実力を持つ宗士郎、柚子葉、響、亮、そして教師である凛を含めた五人交代制で校内を徘徊し、夜中に学園で異常がないかを確認した。


 昨日のような魔物の襲撃はなく、魔人族が現れる事もなかった。成果はおろか、逆に自分達の体力を削る結果となってしまった。


「いや、君達の顔を見れば眠れていない事も明らかか……今朝まで何も起こらなかった事が唯一の救いかもしれないね」


 宗吉は集めたメンバーの顔を窺う。


 宗士郎、楓、柚子葉、響、亮、和心、凛。その内、楓と和心を除く五人の顔は少しやつれている。


「昨夜話した通り、今日と明日の定期試験は中止。二日間の間、学園に留まり、様子見をする事となる。昨日の襲撃が魔人族のものであると断定はできないが、油断はできない。魔人族の狙いが和心君だとわかっている以上、何か揺さぶりを掛けてきているのかもしれないね」

「魔人族が動き出したとして、向こうは和心の居場所が判らない筈。現に直接和心を狙わなかったからな。敵も手探り状態という事だ」

「逆に言えば、和心ちゃんを撒き餌にすれば敵は食いついてくるって事だよな」


 宗吉と宗士郎の話を聞いて、響が名案だとばかりにウンウンと頷く。


 その瞬間、学園長室にいる全員から蔑む冷たい視線が響へと向けられる。


「あ、あくまで一つの手段って事だって!? それに俺達が守ってやれば良い事だろ!」

「響、簡単に言うな。もし和心を人質に取られたら俺達は打つ手がなくなるんだぞ」

「そうだよ! それに和心ちゃんを囮にするなんて許さないからね!」

「わかってるって……そんな剣幕で怒らないでよ、柚子葉ちゃん……!」


 和心を既に家族だと思っている柚子葉が響の意見を真っ向から叩き潰す。


 昨日の一件が魔人族の仕業じゃなかったとしても、未だ生徒全員の気力と体力が回復していない今、魔物が数百単位で襲ってくれば、ひとたまりもない。


 そこで、ふと何かに気付いたように宗士郎が和心に問いかけた。


「そういえば、和心。昨日は狐になってやり過ごしたって言ってたな。それは神力を伴うのか?」

「いえ、変化(へんげ)は狐人族が元々備わっている力。ですので神力は発生しないのでございます!」


 その問いに対する答えを聞くと、顎に手を当ててしばし思案する。


「何か妙案でも思い付きましたか?」

「良い案なら早く言えよぉ」


 考え込むその姿を見て、待ちきれないとばかりに凛と亮が宗士郎の顔を覗き込む。考えが纏まった宗士郎は俯いていた顔を持ち上げた。


「…………思い付いた。魔人族を引っ張り出す、名案がな」

「本当なの士郎……!」

「ああ、今から内容を話す。楓さんも皆も端っこに寄ってくれ」


 そう言って宗士郎は部屋の隅に皆を集め、内容を端的に説明した。だが、その内容は全員の度肝を抜くものだった。


「オイオイ……!」

「それって、さっきの響の案と同じじゃない……!?」


 幼馴染二人が驚きと怒りを露わにする。それも当然の事。楓が口にした通り、初めの響の案と全く同一の物だったからだ。


「話は最後まで聞けって。同じって訳じゃない――」


 そうして宗士郎が残りの概要を全て説明すると、皆の顔付きが良い物へと変化した。


「たしかに……それなら敵をおびき寄せる恰好の餌になりますね……!」

「その上、和心君が狙われるリスクも最小限で済む!」


 教職者達が揃って好感触の意見を。


「これは和心の力がカギとなる。どうだ、いけそうか?」

「はいでございます! やってやる! でございます!」


 この案の(かなめ)となる和心がいつもの元気な返事を返してくれた。


「じゃあさっき話した通り、皆は準備ができ次第、所定の位置へ。学園長は生徒全員にこの作戦の概要をメールで説明しておいてください」

「任せてくれたまえ」

「……これに乗って来るか? 魔人族……!」


 宗士郎の言葉に従い、全員がそれぞれの持ち場に着いたのだった。





「思った通り、消耗してるわねぇん……じわじわと敵の身も心も抉って何をしてでも勝つ――それがこの私、アルバラスの鉄則」

「その通りでございます」


 翠玲学園屋上で茶髪の女性が呟くと、背後に控えていた男が肯定した。


 アルバラスだ。


「そろそろ次の段階に進むわよん。あなた達、準備なさぁい!」

「「仰せのままに! アルバラス様!」」


 号令をひとたび出すと、屈強な男達――褐色肌に尖った耳の魔人族達は一斉に背筋を伸ばして、熱狂なファンのように返事をした。


「……これはっ! ふふ、見つけたわ。和心ちゃん…………!」


 学園全体を観察していると、ふとアルバラスは口角を釣り上げた。続けて、艶かしく舌なめずりを行うと頬を赤らめる。


「この感覚……魔力か!?」

「いいえ~、標的は〝神力〟という力を使うと聞いた事があるわぁん。まあなんにせよ、この学園に和心ちゃんがいる事は確実ねぇん」


 学園内部から発せられた魔力にも似た神力の波動を感知したアルバラスは疑心暗鬼だった和心の大体の居場所を特定した。しかし、最初からわかっていた訳ではない。


 嶽内 健五郎に寄生(ジャック)した際に彼の持ちうる全ての記憶情報を閲覧した時に、ある人物の情報も入っていた。その人物とは、アルバラスが狐人族の和心を連れ去ろうとした時に現れた刀を佩いた男。


 和心とその男が懇意な間柄である事がわかり、男が所属する学び舎へと目を向けたのだ。


 一度何らかの方法で襲えば、警戒した男は身近に狐人族の少女を守ろうとするだろう。それを逆手に取り、一日前に学園を襲撃した。上手く行けば、邪魔者を排除した上で標的を手に入れる事ができると踏んでの策という訳だ。


「ふふ、主様の大願を果たす為の礎が今この場所に……!」


 そして、今。


 策が功を奏したのか、標的である狐人族の少女は今まさに手の届く距離にいる。和心を手に入れる使命を帯びたアルバラスは浮かんだ笑みを隠しもせず、喜び身をよじらせた。


「――アルバラス様! 下に標的の狐人族が!!」

「なんですって?」


 その後、アルバラスの部下の一人が校庭のある一点を見つめて声を上げた。


 部下が指差す場所に目をやる。


 そこには巫女服を身に纏った黄金色の髪の狐少女が佇んでいた。和心の姿を視界に入れるとアルバラスは目をハートにして、生唾を飲み込んだ。


「一人で出歩くなんて……危険を顧みない性格のようねぇん。まぁ、それは悪くないんだけどぉ」

「アルバラス様!? あそこにもう一人、狐人族が!?」

「なん、ですって……」


 部下の驚愕した声を耳にして、アルバラスは目の玉が飛び出さんばかりに驚く。しかしその驚きは一度で終わらず、続けて報告された部下の言葉によってアルバラスは自らの目を疑った。


「和心ちゃんが、三人ですって……!?」

「恐らく、罠かと」

「そんな事はわかってるわぁ!」


 親指の爪をギリギリと齧り、苛立ちを隠そうともしないアルバラスは目の前の事態を考え始めた。


「(現れた三体の標的。……そうか! わかったわ、この狙いが! 神力を用いて複数の幻体を作りだして囮にし、この場を脱する……。ありがちな策ねぇん。この魔傑将アルバラスの目を誤魔化せないわぁ!)」


 その策見破ったり、とばかりに浮かんできた笑みを隠しもしないアルバラス。


 部下達もアルバラスの顔を見て、静かに笑った。


「あなた達、行きなさぁい! あの三体の内、一体は本体! この私から逃げようなんて、百年早い! 罠であっても真っ向から食い破るまでよぉ!」

「「仰せのままに! アルバラス様!」」


 アルバラスを置いて部下達は一斉にその場を離れた。


「少々予定とは違うけど、今ここで手に入れさせてもらうわぁ……!」





 翠玲学園校庭。


 狐人族の少女三人は、それぞれの百メートル以上離れた位置で佇んでいた。


 全く同じ服装、顔、髪、背格好。


 何処から見てもそれは、精巧な人形のように整然としている。


「見つけたぞ、神天狐の娘よ。我等から逃げようなどとは、片腹痛い」

「………………」


 空より男一人が舞い降りて、眼前に立ち尽くす狐少女を(わら)った。


 続けて他の二人の前にも、それぞれ男一人が立ち塞がった。


 男達の容姿は小麦よりも濃い肌に尖った耳。そして、人間とは違う豪前たる肉体。異国の服を纏った男達は狐人族の少女達から見て、魔人族そのものだった。


「どうした? まさか怖くて逃げられないのではないだろうな?」

「我等の正体は既にわかっているだろう」

「同じ場所から来たお前ならばな」


 少女三人を前にして、魔人族の男達が意味深な事を呟く。彼等の言葉は明らかに彼女達が同じ異世界から来た者とわかっていた上でのものだ。


 その言葉を聞き届けた瞬間、一人の少女が笑みを零した。


「なんだ、何が可笑しい?」

「――いやなに、ここまで近付いてもバレないとは……魔人族も大した事ないと思っただけだ」

「男の声……まさか!?」


 狐人族の少女から発せられた声に魔人族の一人が瞠目した。


 次の瞬間、声を出した少女の周囲の空間が歪む。水面に波紋ができるかの如く揺れ動き、やがて霧のように狐人族の姿が掻き消えた先に立っていたのは――。


「貴様……! 神天狐の娘ではないな!?」

「神天狐? 何の事だか分からないな。俺は鳴神 宗士郎、人間だ」


 獲物である刀を携えた宗士郎だった。見つけた狐人族の少女が偽物であるとわかるや否や、宗士郎の目の前に立つ魔人族の男は他の仲間を見た。


「オレの方は空振りだ! ミゲル! ゼーレ! お前達の内、片方が本体だ!」

「「おう!!」」


 ミゲル、ゼーレと呼ばれた魔人族の男達は持っていた杖と短剣で、残りの狐少女に襲い掛かる。


「――ちょっと単純過ぎないか?」

「――全く持ってその通りね」

「なに――ぐぁああああ!?」


 しかし、残りの二人から漏れ出た男女の声に魔人族二人の動きが一瞬止まる。その隙を見逃さなかった狐人族の少女達は()()()()()()襲い掛かってきた男達に反撃した。


「バレないか冷や冷やしたけど、上手くいったみたいだな!」

「まさかここまで見事に騙されるなんて……流石、わこ――あ、いや私!」


 残っていた狐少女の姿も宗士郎と同様に揺らぎ、現れたのは響と柚子葉だった。


「残りも不発、だと……!? 貴様! 神天狐の娘をどこにやった!」

「答える必要はない。あえて言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()って事ぐらいだな」

「嘘を吐くな! 知っているぞ、貴様が狐人族の女と共にいる事を!!」


 騙された魔人族の男は宗士郎を指差し憤る。


「(俺達が和心といる、という事はバレているようだな。とはいえ、これ程この策がハマるとは思っていなかったが……)」


 魔人族の男が言っている人物はやはり和心で間違いない。


 宗士郎が考えた妙案とは、『和心の姿をした複数人が囮になる』というものだった。和心の言う事が本当ならば、神力を使用した場合、敵に感知されるとの事。


 和心に宗士郎と響、柚子葉に幻惑の術を掛けてもらい、敵に和心がいる事を把握してもらうのがこの策の肝だった。神力を用いる事で魔人族が和心の存在を把握させた後に和心の姿をした自分達が現わせば、迷わず姿を現すだろうという事はわかっていた。


 その上、奴等の狙いが複数いれば、なおのこと正体を暴こうとする事も。


 つまり、敵側はまんまとこちらの術中に嵌っていたという訳だ。


「くそ……! 一杯食わされた、という訳か。ここは退かせて貰おう」

「逃がすと思うのか?」

「!?」


 宗士郎が右腕を天高く上げる。


 その刹那、学園の校舎から何百人もの生徒が濁流のように押し寄せ、魔人族達を囲んだ。


「オレ達は既に敵の懐にいたのだな……」

「そういう事だ。昨日の魔物はお前達の仕業か? それともう一つ、お前達の主はどこにいる?」

「フン、質問できる立場にあると思っているのか。人族の子よ?」

「何が言いたい――ッ!?」


 宗士郎の前にいる魔人族の男が素早く呟いた瞬間、周囲にいた仲間や他生徒達は突然出現した闇の鎖に縛られ、身動き一つ取れなくなる。


「し、士郎……!?」

「鳴神君……っ!?」

「桜庭!? 楓さん!?」


 苦しげにうめき声を上げる仲間達の姿を見て、咄嗟に身体が動こうとする。


「おっと、動くなよ。オレを攻撃した瞬間、貴様の仲間達は苦しんで死ぬ事になる」

「魔法か……!」

「ご名答、闇属性魔法――闇鎖(ダークバインド)。仲間達を殺したくなければ、大人しく神天狐の娘の居場所を吐け。そして、オレ達を見逃す事だな」


 情報と逃亡の要求をされて奥歯を噛み締める宗士郎。


 今動けるのは、同じく拘束されていない柚子葉と響だけ。形勢はものの見事に逆転してしまったように見える。


「どうした? 悪い取引ではないと思うぞ。居場所を教えて見逃す事で、仲間達の命が助かるのだからな」

「お前……さては馬鹿だろ」

「なに……?」


 そう言って宗士郎は半円を描くように刀を下から上へと持ち上げる。無視された魔人族の男は宗士郎の動きを訝しげに眺める。


「おい、動くなと言った筈だ」

「まあ待てよ、すぐに終わる」


 正面の離れた位置に立つ魔人族の男に対して、宗士郎は持ち上げた刀を勢いよく一直線に振り下ろした。


「? なにをしたのかは知らんが、無駄な足搔きだったようだな! ハハハハハッ!!!」

「…………」


 宗士郎が行った動作を目の当たりにして、魔人族の男は嘲笑する。対して、宗士郎は男の下卑(げひ)た笑みを無視し、振り下ろした刀を虚空へと消した。


男がぺちゃくちゃと侮蔑の言葉を並べ上げた次の瞬間――。


「所詮は弱い人族。何もできないのなら――ふぐァあああッ!?」


 突如として、魔人族の男の身体が真っ二つに割れた。


 他の魔人族が仲間に起きている現象に、驚きを隠せないでいる。


「――秘剣概閃斬……。拘束せず、先に数十人殺しておけば、まだ対等に交渉できたのにな」

「き、貴様……! 我等の同胞をよくも!!」


 振り下ろした際既に、感覚拡張(クオリス)で構成した不可視の斬撃を放っていたのだ。初見殺しにも程がある技だが、何をしたのか理解できていない魔人族側の様子に満足した。


「そっちから仕掛けて置いてよく言うな、お前。さあどうする? お前達の親玉に元に案内するか、それとも総勢三百人超と戦うか」

「くっ……!」


 宗士郎と仲間達に加え、学園の生徒達が一斉に構えを取る。明らかに分が悪い戦況に魔人族の一人――ミゲルがどう行動するべきか、悩んでいた時…………。


『……ミゲル、アルバラスよ』

『アルバラス様……! 申し訳ございません、こちらが圧倒的不利な状況です』


 不意にミゲルの頭の中に声が流れ込んできた。その相手はミゲル達の主、アルバラスだった。内心驚いたミゲルは表情には出さず、会話を続ける。


『仕方ないわぁ。私もこの結果は予想できなかったもの。それに、折角見つけた獲物を逃すのは、かなりの痛手よぉ。魔物を呼び寄せて応戦するのよ』

『了解致しました』


 そこで会話は途切れる。


 ミゲルは魔法を使って、作戦にも程遠いアルバラスの指示をゼーレの脳内に伝達すると、ゼーレはコクリと頷いた。


「「――魔物召喚(サモンサーヴァント)」」

「ぐっ!?」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


 大地が大きく揺らぐ。


 ミゲルとゼーレが唱えた魔法はかつて、カタラが使用した〝魔物を呼び寄せるもの〟だ。


 空高くに描かれた魔法陣から次々と魔物が降り立っていく。


「そちらが三百人というのならば……!」

「こちらは、魔物五百体で相手してやろう!」

「上等だっ……! かかってこい!!」


 宗士郎達は現れた魔物達にも臆せず、それぞれの獲物を構えた。





宗士郎の策は見事に嵌り、魔人族をおびき寄せる事に成功する。がしかし、罠とわかって姿を現した事だけあって、一筋縄ではいかないようだ。



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