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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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エピローグ 真実

 




「――どうだね? 彼の容態は」


 宗吉が未だ病院の一室で眠り続ける宗士郎を見て、担当した髭を生やした中年の医師に問う。


「一時はかなり危険な状態でしたが、峠は越えました。全身が打撲か、箇所によっては骨折……端的に言えば、ボロボロです。腹部も風穴が開いていて、内蔵がほとんど潰れていました。これで最後まで戦ったというのだから、驚きですよ。死んでいてもおかしくはなかった」

「そうか……また彼に重荷を背負い込ませてしまったようだ」


 少しシワが出てきた顔をさらに歪めて、宗吉は後ろめたそうに溜息を吐いた。


 毎度毎度のように、面倒ごとを押し付け――頼んでは手伝ってもらっていたが、今回は危険度Sの魔物、D.Dディザスター・ドラゴンの時と同様、否……それ以上の心的負担を負わせてしまった。


 聞けば、宗士郎は様々の障害を乗り越え、此度の騒動の元凶である静流を打ち倒したようなのだ。その障害については詳しく教えてもらえなかったが、友人とのイザコザや死別にあったという。


 心に深く傷を負い、身体もボロ雑巾のようにボロボロ。楓達から連絡をもらい、宗士郎を運んできた時には大層驚いたものだ、と宗吉はさらに溜息を吐いた。


「あの……?」

「ああ、すまない。続けてくれ」


 男性医師からは呆けて見えたのか、医師は宗吉の顔を伺うように声をかけた。話の途中だったなと宗吉は笑い、続きを促した。


「後は血が大量に抜け出ていたので、ご家族の方から血を提供してもらい、輸血を行いました。……少し気になったのですが」

「なんだね?」

「失礼を承知でお聞きします。……彼は本当に人間なのですか? 何度か治療をした事がありますから、以前から異能力者という事は知っています。ですが、腹をぶち抜かれたというのに、血が止まっている所から既に再生が始まっています」


 医師は患者のプライベートに踏み込む質問を宗吉にした。本来なら医師として踏み越えてはいけないラインなのだが、何度か宗士郎の治療を行なってきた身なれば、宗士郎のしぶとさや回復力に疑問を持つのも無理はない。


「彼は人間だよ。道場を持つ父親の息子さんで、青春を謳歌し、泣いたり笑ったりできる普通の男の子だよ。あ、納得していない顔だね? わかるわかる、私も彼の強さには毎度度肝を抜かれているからね」

「医師としての立場では納得はしていないですが、一個人としてなら少しはわかります。顔を見せる度、無言であったり、妹の事を嬉しそうに話したりする」


 納得はしていないが、人間としての心で考えれば普通の人間だと思いたい……そんな複雑な心境を表した顔だった。


「まあ少し特別なんだけどねえ。特殊な技能を持つ他に、彼は神様に愛されている」

「? それはどういう……」

「神様に頼りにされる程に良い男という事だよ、君。説明と質問はもう終わりかい? ならお見舞いにきた子達を入れても構わないかい?」


 静流は少しだけ誤魔化し、扉の隙間を覗く人影を見やった後、息をするように話をすり替えた。


「え、ええ……では失礼します」

「ありがとう」


 男性医師が病室を出て行くのとすれ違いで、数人の男女がそれぞれお見舞いの品を持って病室へと入ってきた。


「宗吉さん、こんにちは」

「「「こんにちは、学園長先生」」」

「やあ、顔合わすのはあの日以来だね」


 入ってきたのは柚子葉と楓とみなも、それに蘭子と幸子と和人だった。


 あの日、というのは静流を打倒し計画を阻止した日の事だ。事後処理やら避難者への此度の説明やらで、その日以降は流石に宗吉も中々、宗士郎の病室に顔を出せなかったのだ。


「パパ、士郎の様子はどう?」

「まだ眠ったままだね。脈はあるし意識もあるから、いずれは目を覚ますだろう、という事らしい」

「そう……まだ目を覚さないなんて、よっぽど夢の世界が良いみたいね」

「目を覚ましたら祝勝会を開こうとしてるのに、かれこれ二週間は眠ったままだからね」

「……もう二週間も前になるのね」


 開いた窓から吹き付けてくる風でカーテンがなびく中、楓が士郎の頬を撫で、二週間前のあの日を思い出す。


「(あの事は士郎が起きてからでいいかしらね)」


 あの日、宗士郎が静流を倒した後、気になる事があったのだが、まずは宗士郎に相談したいと考えていた。ある程度は情報の整理がついたとはいえ、これを不用意に漏らすのは不味いと楓は思った。


「ところで、街の復興具合はどうなってるの?」

「順調も順調。芹香君のお陰で、復興に必要な資材は滞りなく揃ってね。今は仮住まいの人も多いだろうが、数日の内に元に戻せるようだ」

「芹香ちゃんも大変だね……」

「本人は嬉々として手伝ってくれているがね」


 魔物の大群討伐における街の被害状況は甚大だった。それはもう、ここまで来ると逆に清々しいレベルの有り様だった。


 二週間前の修練場での暴動を収めた凛の一喝により、街の大人達は不満一つ漏らさなかったのが幸いとも言うべきか、復興作業は自ら進んで行なっている。


「街の被害の三分の一は……魔物じゃないのが痛いところね」

「ああ……! 確か、響君が吹き飛ばしたんだっけ?」


 楓の言葉に反応したみなもがその名を口にすると、同じ病室内のカーテンのかかったベッドがガタリと揺れる。


「ええ!? そうなの!? 沢渡君、元からヤバイ人だったけどヤバイ人だったとは……! 爆弾魔恐るべし!」

「……響君、魔物を吹き飛ばしたんだぜ! とか武勇伝語ってたけど、誇れる内容じゃないね。はは……」

「ええっとその!? 沢渡君にも何か考えがあっただよ! 多分! おそらくっ、きっと……」


 蘭子が前から響はぶっ飛んだ人だ! と言えば、ドッタンバッタンと揺れ、和人が苦笑いを浮かべながら武勇伝を根底から否定すれば、ガタガタガタガタッと揺れる。


 幸子がフォローに回った! かと思えば、珍しく強気だった口調もどんどん下降してゆき、仕舞いには私もダメだと思う、と否定される。その瞬間、ビックンビックン!? と悶絶するような音が病室に響き渡った。


 街を壊滅状態にした多くはカタラが呼んだ危険度Sの魔物、そして低級の魔物共なのだが、残りは響の滅龍砲(アボリションカノン)が原因だった。


 街の人々を救う為とはいえ、あまりに威力のあり過ぎる響のそれは家の瓦礫など残さぬ勢いで一帯を吹き飛ばしていたのだ。


 この事を街の住人が知った日には響は袋叩きにされた後、吊し上げられる事だろう。


「もう少しスマートに倒せなかったのかしら。はあ……これだから彼女の一人もできないのよ」

「――うるへぇえええええ!!? 街を救った英雄になんて事を言いやがる! 泣くぞ!? 泣いちゃうぞ!? 本当に泣くからなっ……!」


 楓が呆れ気味に少し大きめな声で話し、溜息を吐いた瞬間、宗士郎の隣のカーテンから響が泣きながら飛び出してきた。


「ああ……響、いたのね?」

「既に泣いてるよ、響君……!」

「わーってるよ!? くそ、俺だって! 俺だってなぁ!? 彼女の一人や二人くらい余裕でっ……グスン」

「――っるせぇーッ! 病院では静かにしやがれッ!」

「ぐべっぷ!?」


 突如、響のベッドの前方にあるカーテンの向こうから分厚い本が飛来してきた。本は寸分違わぬ狙いで響の顔面にめり込み、ベッドへと倒れ伏した。


「亮君!」

「ん? ああ、和人かぁ。鳴神……とぉ、宗士郎のお見舞いかぁ?」

「うん。それよりも怪我してるんだから、もっと安静にしてないと……!」

「安静にしてたぜえ。もっとも、騒がれてそれどころじゃなかったけどなあ」


 カーテンの向こうから本を投げ付けたのは亮だった。左目に眼帯、右足に包帯が巻かれており、吊り上げる形で固定されている所を見れば骨折している事がわかる。


 和人に会釈しながら、亮は手元にある毛糸をすいすいと編んでいく。


「っつぅ~!? 何すんだ! 俺だって左腕骨折してるし、(あばら)だって折れてる…ん? 何だこれ?」

「どうしたの響」


 響が地面に落ちた分厚い本を拾い上げると横からみなもが題名を読み上げる。


「この本……『上級者向け! 毛糸で編める夏でも暑くないセーターの作り方』って書いてるんだけど……榎本君、誰かにあげるの?」

「あぁ。弟にせがまれてなぁ、暇だから作ってやってるんだぁ」


 夏でも着れるけど、それはそれで周囲から浮くんじゃないか? という全員の疑問は心の中で秘めておくとする。


「なんだつまんねえの。ガールフレンドかと思ったぜ、ぺっ!」

「つまんねぇ事はぁねえだろ。てかツバ吐くな。せっかく、友達とも家族とも向き合えるようになったんだぁ。これくらいはな」

「そっか、そりゃあ良かったな!」

「あぁ、宗士郎のおかげだ。早く起きねえもんかなぁ」


 亮が未だベッドの上で眠る宗士郎へと視線を向ける。改めて、早く礼が言いたいと今の穏やかな表情でわかる程に良い意味で変わったのだ。


「そういえば、宗吉さん。元春はまだ……」

「ああ。今も意識不明だ。医師から聞く所によると、表面には出てないが、内側の身体のダメージが酷過ぎるらしい。いつ目を覚ますのかさえもわからないようだよ」


 今まで静観していた宗吉に、響がこの場にいない元春の事を聞いた。


 元春は宗士郎以上に危険な状態だった為、治療が済んでもすぐに起きる事はなかったそうだ。今は点滴を付けて命を繋いでいる現状になる。


「士郎。先に起きて、その元春君? を励ましてあげて……皆も待ってるわ」


 楓が再び、頬を撫でて宗士郎が起きるのを願った。撫でられた宗士郎の顔は何故か嬉しそう表情をしていた。







「むむむ……! あっ、ああっ! なんでジョーカー取らないのよ!?」

「相変わらずポーカーフェイス下手くそね、アリスティア。あ、私あがり」

「次はお兄さんのを取らせていただきますね〜えい! あっ、揃っちゃいました! 私もあがりです!」


 川のせせらぎと小鳥のさえずりをBGMに、テーブルを囲んだ四人はババ抜きに勤しんでいた。


 神族である祥子先生――もといラヴィアスがアリスティアの手札に手にかけると、「そのカードは取らないで!?」と面白い具合に顔を歪ませるものだから、そのカードをすいっと自分の物にした。


 役が揃い、ラヴィアスは一位抜け。


 続いて、カードを引く番になった()()が宗士郎の手札を物色した後、これだ! と引き抜けば役が揃って、雛璃は二位抜けに。


「さ、アリスティア。俺が引く番だぞー」

「ま、待ちなさいっ! 女神パワーを全開よ! 女神の(メガミック)シャッフルぅぅ!」


 アリスティアと宗士郎だけの二人だけとなった瞬間、アリスティアは残った二枚のカードを巧妙にシャッフルするのだが、するも何もさっきの挙動と今の挙動で二分の一の確率でジョーカーを持っているのは分かり切っている。


「あ、見えた」

「え!? 見えたって何が! 私の谷間かしら! それとも私の勝利かしら!?」

「俺の勝利が、だ。よし、ペアができたから俺もあがり」

「嘘よぉおおおおおお!?」


 宗士郎が手元でシャッフルし続けるアリスティアの手札から狙い澄ましたように一枚のカードを抜き取った。


 結果、ビリとなった駄女神アリスティアの絶叫が当然の如く、空間へと響き渡った。


 実のところ、アリスティアが行った混ぜ方――ショットガンシャッフルでミスもなく二枚のカードを下から上へと物凄いスピードで移動させていたのだが、混ぜる角度が悪かった所為で絵札が見えてしまったのだ。


 宗士郎は見えたカードをシャッフル中に掴み取り、三位抜けとなった訳だ。


「これで四十三回連続ビリよ!? 何かイカサマしてるんでしょう!」

「してない」


 アリスティアは宗士郎がイカサマをしてると思い、手元に出した水晶のような丸い球体をだした。


「くぅぅぅ!? 嘘おっしゃい! 女神嘘探知機! 発動!? ええいっ、どきなさい! イカサマをしてるのはっ、この辺ね!?」

「(いいえ! いいえ! いいえ! いいえ!)」


 丸い球体にNOという事がわかる言葉が羅列される。


「やめなさいよ、アリスティア。貴方の顔芸が悪いわよ」

「ラヴィアスは黙っていて!? 刀剣召喚(ソード・オーダー)をイカサマに使っているわね!?」

「(いいえ! いいえ! いいえ! いいえ!)」


 さらにNOという事がわかる言葉が羅列される。


「ジョーカーがどこにあるのかわかっていたのね!?」

「(はい! はい! はい! はい!)」

「やっぱりイカサマをしてるじゃない!」

「イカサマとか高等テクとかは使ってないが、アリスティアが下手くそ過ぎるんだよ」


 今の聴き方では宗士郎がやった事はYESとして返ってくる。やはり駄女神なのは確実だな、と宗士郎はほくそ笑んだ。


「むっきぃぃぃぃ!!?」

「どうどうっ、アリスティア落ち着きなさい。はいこれ」

「むぐっ!? ごきゅごきゅ! プハー! やっぱりタピオカビールは最高ねー! 宗士郎! さっきの事は水に流してあげるわ! 感謝なさい!」


 暴れ出しそうな雰囲気に見かねて、ラヴィアスがアリスティアの口に黒い球体が幾つも入ったビールジョッキを付けた。


 そのまま呑み切ったアリスティアはさっきまで怒り心頭だったのに、すぐに機嫌を良くした。


「はあ、付き合ってられないな。で、今の今までツッコまなかったんだが、雛璃ちゃんは何でここにいるんだ?」


 宗士郎が溜息を吐いてから横に座る雛璃を見遣った。


「天国はお花とかいっぱいあって綺麗だったんですけど、暇過ぎたのでラヴィアス様に『神域』へと連れてきてもらったんですよ」


『神域』――それは神族等が住まう場所。


 意識を失った宗士郎が行き着いたのは、まさに『神域』だった。なんでも無理に異能を使い過ぎたという理由で身体にあるクオリアが流れる回路が損傷してしてしまったらしいのだ。


 だからこそ、アリスティアがメンテナンスをするべくこの『神域』へと精神だけ招いたという訳だ。


「天国は娯楽が少ないからね。子供の雛璃にはこっちが良いと思って連れてきたのよ」

「ラヴィアス様、それは神族としての立場的に大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ、『神域』の責任者はあそこで呑んだくれてるアリスティアだから」

「いつか崩壊するぞ、この空間」


 呆れ果てた宗士郎はテーブルに置かれた謎の飲み物を一息に全て飲み干して、アリスティアを見た。


「アリスティア、そろそろ帰りたいんだがメンテナンスはまだ終わらないのか?」

「メンテナンス? もう終わってるわよ?」

「は?」

「もう……というよりも、今終わったわ。そのドリンクがメンテナンスそのものだから」

「なんか、栄養ドリンクみたいな味がすると思ったらそういう事か……」


 飲んでいた飲み物はリポ◯タンDだった! のはわかったが、栄養ドリンクの味で十杯も飲まさせられたのはキツい。正直、胸焼けがしそうな勢いで。


「メンテナンスついでに、クオリアの総量と質を少し底上げしといたから。次からは枯渇する事は滅多になくなるわ」

「それは有難いな。ありがとな、アリスティア」

「べ、別に! 貴方の為にやったんじゃないんだからね! 私が貴方の事が好きだとかそういうんじゃないんだからね!?」

「うわキモ」

「なぁ!? 女神に向かってなんて事言うのよ!? 女神ツンデレを見れるのは貴方がラヴィアスに次いで、二番目なのよ!」

「不名誉過ぎるわ。ラヴィアス様もご愁傷様です」


 大人の色香はあるのだが、腐っても駄目要素が満載な神族アリスティア。良い部分を駄目な部分で押しつぶして、マイナスへと向かっているから大してありがたみも感じない宗士郎だった。


「もういいわ! 宗士郎、もう帰っていいわよ! ここからはゲーム機使うから! 三人用だから帰りなさい!」

「どこの悪ガキだよ。というか帰り方わかんないんだが?」

「ああ、それならそこの川を渡ったら現実に戻れるわよ」

「三途の川かよ!? てか三途の川だった訳!? ここ!?」


 ラヴィアスに教えてもらい、川岸へと足を進める。


「もう帰っちゃうんですか? もっと一緒にいたいです」

「雛璃ちゃんが帰ってきたら、もっと甘えられるぞ。だから、我慢してな」

「はい! 約束ですよ!」


 雛璃がパッと花が咲いたように笑顔を浮かべる。雛璃が帰ってくるまで時間はかなり長いが、アリスティア曰く、『神域』での時間は地球とはかなりズレているらしく、大して待つ事はないとの事だ。


「鳴神君、わかっているわね。貴方のすべき事」

「ああ、『異界』に行ってカイザル打倒の仲間を集める事だな」

「私達は直接干渉できないけど、貴方達の事を見守っているわ」

「ありがとう、アリスティア、ラヴィアス様」


 川に架けられた橋に足を乗せる宗士郎。向こう岸に近づけば近づく程、意識が遠のくようだ。


「宗士郎、頼んだわよ」

「ああ。奴も間接的とはいえ、俺の大事な仲間に手を出したんだ。きっちりと落とし前はつけてもらうさ。じゃあな!」

「また遊び来てねー」

「お兄さん! また会いましょう!」


 後ろから聞こえる声を背に受け、宗士郎は現実へと戻っていったのだった。







「――鳴神様ぁ! お見舞いの品をお持ちしましたー!」

「和心ちゃん!?」


 現実世界、病院の一室の宗士郎のベッドの上に突如転移してきた和心に周囲にいた柚子葉達は度肝抜かれる。その刹那、


「……んぁ……? ッゲフゥ!?」

「士郎!?」


 空中でほんの少し滞空した後、落下してきた和心ヒップが現実に早々戻ってきた宗士郎の腹部へと衝撃を加えた。


「あっ」

「……ぅぐ……ガクン」


 風穴が空いている腹部に走った痛みは言わずもがな、和心のしまった!? という後悔と声と狐の尻尾をあとに、宗士郎はそのまま意識を手放した。





「で、どういう事だぁ……和心」

「いやあのお見舞いの品をですね……! あ、あの……えと、申し訳ございません」


 一分にも満たない時間が過ぎた後にすぐに目を覚ました宗士郎は未だ腹の上に馬乗りになっている和心に問いかける。


「よろしい。悪気はあった訳じゃなさそうだからな」


 涙目になっている幼女があまりにも可哀想な上に、情状酌量の余地ありと判断した宗士郎は和心の頭を撫で付けて許した。


 和心を撫でると、柚子葉も我慢ならないといった感じで抱きついてきた。


「お兄ちゃん!」

「柚子葉……! 心配かけてすまなかったな。楓さんも」

「あら、ついでなのかしら」

「俺の為に怒ってくれてありがとう」

「……ふん、別にたいした事じゃないわよ。当たり前の事をしただけだから」


 楓に視線を送れば、腕を組んで戯けた様子で返してくれる。素直にお礼を言うと、楓は照れたように顔を背けた。


 こういうのがツンデレだと感じる宗士郎だった。


「皆もありがとう、そしてお疲れ様。戦いは終わったんだよな」

「あ、その事だけど……士郎、大事な話があるの」


 思い出したように、楓の顔スッと真剣味を帯びた表情へと変わった。


「ここで?」

「ええ、和心。音を遮断する結界を張ってくれるかしら?」

「お任せください!」


 和心が札を取り出して病室内に札を貼り、何やら呪文のようなものを唱えると直ぐに結界が貼られた。


 その後、楓の口から聞かされたのは思いもよらぬ事だった。





「………………」


 聞かされた後、宗士郎はしばらく黙って考えた。


「まさか……まだ生きていたとはな。それにカイザルの目的か」


 まず聞かされたのは静流の一時生存による情報提供だった。宗士郎に真っ二つにされた後、確実に死んだ筈の静流が喋り出したのだという。


 その口から出た情報によると、実は静流自身が操られていたという事実が判明した。


 静流が持つ反天した者達への『後悔』と二度と同じような事を招かないという半ば『執念』ともいえる気持ちをカイザルに利用されたらしい。


 つまり、静流の一連の行動はカイザルの意識が常に絡んでいたという事になる。


 そして、こちらが最も重要だったのが、カイザルの目的だった。


 静流が聞かされたカイザルの目的は、


『物質界の支配』。


 物質界というのはカイザルがつけた二つの世界の名称で、その地に住まう全ての生物を蹂躙し跪かせ、頂点へと君臨するのがカイザルの目的だった。


 今にして思えば、今回カイザルが集めたクオリアの残滓もその目的の足掛かりと考えれば納得がいく。


 ありきたりと言えばありきたりだが、二つの世界――片方は和心の出身である『異界』、そしてもう片方は宗士郎達が生きる『地球』などというのだ。


 宗士郎の性質上、『異界』だけが狙われていて、異種族達がこちらに救いを求めてきたとしても断固として断っただろう。


 そこまで面倒は見切れない上に相手は強大だ。大切なものを守るだけで精一杯と考えるだろう。


 だが、既に(えにし)は結ばれた。


 和心は既に家族のようなもの。片方だけならまだしも、宗士郎達の地球が狙われているのだとしたら、捨て置けない。


 神族であるアリスティアにも頼まれたので、既に断り切れないのだ。だからといって、逃げるつもりもない。


「やるしか、ないようだな」

「ええ、力を……国力を高めなければいけないわ」

「その事なんだけど、神様にお願いされた。〝異界に行って、共に戦ってくれる仲間を見つけなさい〟ってな」


 この言葉がカイザルの目的を聞いてから、ようやく現実味を帯びてきた。つまりは、


「という事は……」

「私の故郷に帰れるのでございますか!」

「そういう事になるな」

「やったでございます! お母さんに会える!」


 和心が故郷に帰れるかもしれないという事で、宗士郎の上で大手を振って喜んでいる。


「連れて行くのには条件がある。和心、お前の世界を案内してくれ」

「わかっていますよ! やたー!」

「やれやれ……先が思いやられるな」


 絶えず喜ぶ和心が適当に返事をするので、本当に話を聞いていたのか宗士郎は心配になった。


 すると響がベッドから乗り出し、みなもと共に宗士郎の名を呼んだ。


「ともかくだ、宗士郎!」

「ともかくだよ、鳴神君!」

「ん?」

「士郎、おかえりなさい!」

「……ただいま!」


 長いようで短かった宗士郎達の戦いは幕を閉じると共に、途方もない道のりを駆け抜ける戦いへの幕開けとなったのだった。





目を覚ました宗士郎は戦いの水面下で進められていたカイザルの目的を知る事になった。

今の平穏を守る為には世界を超えた結束の関係が必要だと再認識した宗士郎は世界を超えて『異界』に渡ろうと考えるのだった。





ちょっと……というか色々と迸った結果がこれでございます笑


いやぁ、『学園編』……ノリと勢いで乗り切った感が凄く、本当に長くなってしまいました。

初めてとはいえ、一括りが長過ぎると反省しております。

これでは読者の皆様も「長過ぎるぜ、バーロー」と文句を垂れたくもなると思いました泣


次からの二章は30〜40話構成でいこうと考えております。また、一章の『学園編』なのですが、少々改稿や添削を行おうと思います。

なので、「この展開消えてる!?」と残念に思う読者の皆様が出てしまった時は誠に申し訳ございません。


詳しくは〝活動報告〟の方で書き連ねるので、そちらをご覧ください!


次の投稿は未定です。世を騒がせているあの影響や先程書いた改稿や添削、二章以降の設定を練ろうと考えていますので、待たせてしまう可能性大ですがよろしくお願いします!


では長い文章、ご清聴ありがとうございました!

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