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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第六十八話 終結の刀舞

 




「(俺は、何を……? なんで、倒れて……)」


 地べたに横たわる鳴神 宗士郎は、限られた視界で霞む世界を見る。


 内臓を潰され、血を大量に流した事が尾を引いているのか。か細い声すら出ず、文字通り血の気が引いていく感覚があった。凍えるように熱を失っていく手足と共に、意識さえも次第に遠のいていく。


 聴覚も鈍ったのか、近場の音すらまともに聞こえない。


 不意に身体が軽くなった。かと思えば、胸に重みが増す。意識が、魂が離れていくのだと錯覚してしまう。


 だが、それは大きな間違いであった。


「っ、士郎ぉ……」


 ()()に優しく抱かれていたのだ。その者が胸板に顔を擦り付けるようにして名前を呼んでいる。


「(誰だ……なんで――)」


 ふと、凍える心身に微かな温もりが生まれた。


「(――なんで、泣いてるんだ……?)」


 それは、ほんの一欠片の涙。


 無音の世界でその者は、嗚咽を漏らし啜り泣いている。


 できる事ならば、「泣かないでくれ」と――涙を拭ってあげたい……そう思ってしまうのは、一体何故か。


「(温かい……この愛おしい温もり――この人には、泣いて欲しくない……)」


 僅かに残る意識の最中、大切なものを感じた。大切なものを忘れているのではないかと。


 次第に遠ざかっていく、愛おしい誰かの姿。床に下ろされたのだろう。最後に滴ったその人の涙が奇跡的に乾き霞んでいた瞳へと舞い落ちた。


「(……っ、かえで、さん……)」


 潤みを微かに取り戻した瞳に映ったのは愛しい人。彼女が自分の為に悲しみ、涙を流した。


「(く、そっ……また俺は、この人をっ……こんな情けない奴の為に……!)」


 その事実に不甲斐なく、情けなく思う。同時に、そんな自分にも並々ならぬ怒りがこみ上げてくる。


 だが、その怒りを振るえるほどの力は残っていない。刀を創生する力も立ち上がる力もない。やり場のない葛藤が己を満たす。


 怒り心頭の楓は何か決意したようにも見えた。


 瞬間、楓を取り巻く空気が一変、否……停止した。直ぐに空気は元通りとなり、楓が何かを呟くと自分を刺した静流がまるで時でも止まったかのように静止した。


「(あれは、楓さんのトラウマ――神にも等しき力の一端っ……)」


 幼き頃の事件以来、楓自らが封印していた絶技。その技を使用した――つまりは倒れている宗士郎(自分)の為に、僅かなりともトラウマを乗り越えたという事なのだろう。


 動けない静流に対して、後からやってきたみなもが逃げ道を塞ぐべく、神敵拒絶(アイギス)の光壁を展開。直後、〝雷槌〟を超える柚子葉の電撃砲が静流を捉えた。


 クオリアを全て消費して放つそれは、被弾すればほぼ確実に死に至る。それ故に仇を取ったと、柚子葉は目尻を濡らし崩れ落ちる。


 しかし、静流は耐え抜いた。それでも全身が焼け爛れ、無数の傷穴が空いている。まだまだ余力を残している雰囲気すらあった。


 現状の戦力は腰が引けていない、みなものみ。


 他の者達は負傷やクオリアの枯渇で動けず、あるいは壮絶な戦いに腰を抜かしている。楓に至っては数年ぶりに行使した時止めの反動で、動けない様子――戦力差は歴然としていた。


「(勝て、ない……このままじゃ、皆、殺される――)」


 失意と絶望を抱き、眼前の世界を閉じようとした――その瞬間であった。


「わ、私がっ……相手にっ、なる! 皆を殺させないっ!」


 勝ち目のない絶望的状況。その中で、一人の少女(みなも)が恐怖で歯をかちかちと鳴らしながら、静流に相対した。


 みなもが何を言っているのか、遠のく意識の中でそれを認識できなかった。


 だが、みなもの瞳を窺うことはできた。


 みなもの眼に渦巻くのは怯えと混乱。しかしその中でも燦々(さんさん)と輝く〝生への渇望〟……。


 他の誰も動けずにいた中で、たった一人だけ闘志を宿し、仲間を守る為に立ち上がっていた。


「貴方が? 一人で? クク、笑わせないでくださいよ。転入して間もない貴方の異能も資料を読んで知っています。〝守護〟の異能でいったい何ができるのですか?」

「――だ、だからっ、なんだって言うのっ!!」


 小馬鹿にした様子で嘲笑う静流に、みなもは鋭い視線と共に言い返す。


「私の力が戦闘に向いてないって、そんなの自分でも解ってるっ! でもだからって、私が立ち上がらない理由にはならないっ!」


 臆せず静流に指を差し、心で沸騰していた感情をぶちまけ続ける。


()()()が教えてくれた! 大切な人を失って後悔しない為にも戦うべきだって!」

「(っ!!!)」


 何故か今の言葉だけは、はっきりと聞き取る事ができた。みなもが羅列した言葉はかつて、宗士郎自身がみなもに教えたものだ。


「異能が戦闘向きじゃない? 力が足りない? ふざけないでっ!!」

「み……みなもっ……くっ」


静流の圧に逆らい、少しずつ近付くみなもの姿に感化され、楓が立ちあがろうとして倒れる。


「そんな言い訳をして、後で悔やむくらいならっ――私は戦う! 皆を護る為に!!」


 凍えかけていた宗士郎の心に、闘志を刺激する言の葉が火を灯す。


「(ははっ、残念娘に教えられるなんてな。……そうだっ、俺はまだ戦える……!)」


 身体は未だ動かず、異能を行使できるだけの力はない。


 否――()()()()()()()()()()


 戦おうと思えば、魂の内側からどんどん力が湧き上がってくる。負けていたのは、力ではなく心だった。


 ならば、こんな所で無様に倒れている暇などない。薄れかけていた意識を意地でも取り戻し、立ち上がろうと奮闘する。


 霞む視界の中に見えた一筋の光は――


「やってやるっ! うわぁああああっ!!」


 早く助けたいと思う程頼りなくて、


「おれ、もだっ! まだやれるっ、宗士郎の仇を取ってやるッ!!!」


 仲間の事で怒る程優しく、


「嫌いじゃないぜぇっ、そういうのはなぁ!」


 共に肩を並べて戦いたいとさえ思えてしまう。


「(()はまだ折れていない――なら立ち上がれる筈だ。大切なものを守る為なら、何度だって……!)」


 身体に僅かに残っている生命力で徐々に闘氣を練り上げていく。闘氣で身体を包み込んで、内から出血を止血を試みる。


 そんな中、勇猛果敢にみなもが疾走し、瓦礫に埋れていた響と亮の二人もみなもの言霊に感化され、再びその身を闘志を宿し、戦列へと加わった。


「……フフッ、どこからでもかかって来なさい」


 三人で静流を取り囲み、響が爆弾を振りかぶる。


「鳥餅爆弾ッ、白濁塗れ喰らえやあああ!」

「そんなもの、当たらなければ、どうという事も――」


 投擲した爆弾は当然の如く避けられてしまうが、


「っ……!? こ、これは!」


 響が投げつけた爆弾からは濃い白煙が噴出していく。その一瞬の隙を突いた亮が右手を天井にかざした。


「――オートカウンターだったかぁ? 煉獄連雨(バーストレイン)ッ!」

「これっ、は!? チィッ!!」


 手のひらより発射される炎弾の嵐が静流の周囲に降り注ぐ。幻影舞踏(ミラージュ・ダンス)によるオートカウンターが静流の意思に関係なく発動し、著しく動きが阻害され続ける。


「炎弾だけを透過……光の壁で一方向に絞って……! 神敵拒絶(アイギス)!」

「なっにぃ……っぐぅ!? 小癪な真似をぉおおおッ!!」


 柚子葉の時と同様。


 感覚拡張(クオリス)を応用して、みなもは一方向のみ開けた結界で静流に囲んだ。そして、結界の入り口から響の元へトンネルを生成する。


 途端、みなもが叫ぶ。


「響君、お願い!」

「応よぉっ! 滅龍砲(アボリション・カノン)ッ!」


 みなものイメージにより、炎弾のみが光壁を透過する中。


 手中で徐々に空気を爆弾へと変えていた響が、トンネルの先にいる静流目掛けて拳を打ち付ける。


 瞬間――爆弾と化した空気の膜が前方に炸裂し、全てを呑み込む破壊のエネルギーが静流を襲った。


「ッグアアアアァウオゥアアアッ!?」


 断末魔の如き絶叫。


 果てしない熱量と衝撃が静流の体を破壊していく。


「ウヌゥゥッ! 何度も同じ手が通じると思うなぁッ!」

「何ぃ!?」


 しかし、静流も相当にしぶとく――


 光壁を一部破壊した静流は、全身に纏った黒紅色のオーラを圧縮して放ち、動きの阻害を担当していた亮を吹き飛ばした。


「ぐぁっ!? しまっ――」


 壁に叩きつけられた亮は鈍痛に顔をしかめ、思わず攻撃の手をを休めてしまった。その隙を逃す静流ではない。


 作り出した一瞬の隙に、静流は包囲網から見事に逃げおおせてしまった。


「ぐうぅッ、ゴバッ!?」


 しかし、流石に無事では済まなかったようで。


 全身から夥しい量の血をばら撒き、静流が片膝を突いた。


「……まさか、ここまでやられるとは……ですが、耐え切りましたよ……フッ、クク」


 すぐさま呼吸を整えるが、既にその表情には余裕がない。


 柚子葉の雷撃と響の爆弾によるダメージがあまりにも大きすぎたのか、オーラを纏った当初のスピードは格段に失われ、表情も苦悶の色に染まっていた。


「――これで終わりだなんて思わないで!」

「くぅっ……!?」


 弱った静流に畳み掛けるようにして、みなもが手を振るった。直後、神々しい光で輝いた空間から光の鎖を飛び出し、たちまちに静流を拘束してしまった。


「(強い、イメージッ!)」


 みなもは自分と静流との間に、幾重にも神敵拒絶(アイギス)の光壁を展開し、光壁に向かって突き進んでいく。


 自ら壁を打ち破っていく度、みなもの速度は加算されていき――


「こんなものでェッ!!!」

「これが響君の分! これが榎本君の分っ! そしてこれが! 鳴神君の分ッ!!!」

「グハッ!? グッ!? グゥアアアッ!?」


 両手に宿した光のバリアで、何度も何度も拳を叩き込んでいく。


 その威力はとても女子に出せるものではなかった。


 当然だ。イメージしたのは『加速』と『膂力上昇』。光壁を打ち破っていく度に、それらがプラスされるようにイメージしていたのだから。


 拘束されたままの静流はなす術なくみなもの連打をその身に浴び続けた。


「はあっ、はあっ……ど、どうだっ!!」


 攻撃の手を止め、みなもが力を誇示するように叫んだ。


 その傲り高ぶりが、静流のプライドを酷く傷付けた。


「ッ……ふざけるな小娘がァ!?」

「えっ――カハッ!!?」


 消耗を露わにした静流がみなものそっ首を鷲掴んだ。そのまま圧倒的な握力でジワジワと力を込めていく。


「うぐっ、ぅあああッ!?」

「桜庭ァっ!」

「動くなァァ!? 少しでも手を出してみなさい! その瞬間、首をへし折り、この華奢(きゃしゃ)な身体を四散させますよッ!」


 絶叫で身を震わせるみなもに駆け寄ろうとした亮が静流の脅しを前に動きを止める。


 追い詰められた者は何をしでかすかわからない。ましてや、力を持った者なら尚更だ。


 静流はかなり追い詰められている。予想外の反攻とみなも達の絆が今の状況を招いているからだ。


 既に最初は大きかった黒紅色のオーラが小さくなってきている。クオリアを多分に消費している上に、元春のように異能を授からなかった側の人間だ。


 慣れない力で余計に消耗しているのだ。


 だがそれでも、みなもを人質に、もしくは殺して此処から逃げ去るだけの体力と力は残しているだろう。逃げる事に成功すれば、カイザルと合流し態勢を立て直す事ができてしまう。


「(そんな事はッ、させない……!)」


 みなも達が戦っている間に、無理矢理練り上げた闘氣で、宗士郎は既に止血は済ませていた。血が大量に抜け落ち、内臓を潰された痛みも未だ残っている。


 しかし、クオリアが()()()枯渇した訳ではない。身体が粉微塵に粉砕された訳でもない。


 ならば、まだ戦える筈だ。


「(俺が力を得たのは――)」


 目の前に大切な人達がいる。


 自分の為に泣き、怒り、戦ってくれる人がいる。


 この異能()は――


「(――もう二度と、大切な人を失わない為だったろ!!!)」


 ――よく言ったわ! 流石は私の見込んだ子よ!


「ッ! ぁぁああああああッ!!!!!」

「な、何事ですか!?」


 不意に誰かの声が聞こえ、冷え込んでいた身体が意志の力で駆動を始める。


 立ち上がる力が、刃を振るう力が、内より舞い戻ってくる。


「お、お兄ちゃん……!?」

「はあっ、はあっ……し、士郎なの……!?」

「ったく、死んだフリしてんじゃねえよ……! てか、その頭なんだよ!?」


 仲間達が口々に宗士郎が立ち上がった事について、疑問やら軽口などを言ってくる。


 それもそのはずだ。心臓の鼓動は止まっていた、楓がそれを確認したからそれは確かだ。


 だが、それでも地獄の底から復活した。


 宗士郎の生存で、仲間達の相好(そうごう)は暗く閉ざされたものから明るく活気を取り戻していた。


 そして宗士郎の髪が白く染め上がっていた。元々、一部は白髪になっていたが、それ以上に白く染まっている。


「心配かけて済まなかったな、皆」


 いずれにせよ――宗士郎は、再び剣を取った。


「なぜだぁ! なぜ、立ち上がれる!? あの血の量ですよぉ!? 腹をぶち抜きもした! なのに何故、立ち上がれるのですか!?」


 取り乱した静流の顔を見て、宗士郎は心底してやったとほくそ笑んだ。


「さあな……俺自身なんで生きているのかさえもわからん。だがな……大事な人が泣いた、仲間が悲しんでくれた。それだけで、立ち上がるには十分過ぎるんだよ」


 倒したはずの宗士郎が立ち上がった事で動揺した静流だったが、いずれにせよ人質であるみなもがいる限りは優位は変わらない。そう考えた静流は亮にしたように脅しに転じた。


「ですがぁ! 私の手には貴方の大切なお仲間さんがいるんですよ! 動けばへし折ります!」

「ぅぐっ!? ぁああっ!?」

「下種が……ふん!」


 忠告を無視して一振りの刀を創生し、居合い抜きで()()()()()()()()()


「莫迦で助かりますよ! ……はぁっ!」


 みなもの首を掴んでいた手に力を入れて潰した後に、斬撃を交わすなり、オーラでガードするなりして危機を回避して仕切り直しと静流は考えていたが、


「はへ…………?」


 力を込めたはずの手が突如動かなくなり、どんどん力が抜け落ちてゆく。


 刃が静流の腕を物理的に斬り裂いた訳でもなく、はたまた別の誰かの妨害を受けた訳でもない。


 掴んでいた首が手からスルリと抜け落ちる。


「……っ、ゲホッゲホッ!?」


 拘束から逃れたみなもは激しく咳き込みながら、楓達の元へと足を引きずって逃げた。


「な、何をしたのです! こんなものはデータにはない!? 一体何をしたら、私の手が動かなくなるのですかっ!?」

「――脳から送る命令を()()した。そうだな、名付けるのなら……『封刃(ふうじん)』だ」


 何故、こんな事ができるのかはわからない。静流の行動をどうにかして止めようと思考していた時、瞬間的にこの技が脳に浮かび上がった。


 〝対象をイメージして斬ると、一連の動きを封じる事ができる〟


 ――と…………。


「そんな馬鹿げた力があって――!?」

「あるんだよ。お前の異能のようにな」

「くっ……! だ、だからといって……そのような強力な力を何度も振るえる筈がないはずです!? そうでしょう!?」

「なら試してみるか……ッ!」


 誰が見ても明らかに焦燥に顔を滲ませて動揺する静流が〝欠陥があるのでは?〟と強気に出てくる。


 それに答えるように、宗士郎は刀を鞘走らせた。


 一呼吸で三連撃。


 先程と同様に空白の空間を三度に渡って斬り裂く。


「ぬぐ!? 動かないっ! 腕が動かない!? ああ!? 顔が固定されて……ひぃぃ!?」


 封印したのは両腕に送る命令と表情筋に送る命令だ。


 喋る事や根本的な息をする事などはできるが、顔が動かせないのはさぞ苦しかろう。


「まだ封印できるぞ、次はどこが良い? 足か? それとも心臓か?」

「く、くそくそっ、くそっくそっ! 調子に乗りやがってーーッ!!? まだ私にはこれがある! 計画の中で偶然作り出せた私の! 私だけの異能ッ――奇跡の奔流(オーヴァー・ドライヴ)が! 計画を邪魔させるものかッ! オォアアアアッ!!!」


 圧倒していた自分がいつの間にか立場が逆転し、追い詰められているという事実に嫌悪感が湧いたのか、最後の力を振り絞るように黒紅色のオーラを自らに集約していく。


「な、何をする気なの!?」

「あの感じ……! 敵キャラが〝貴様ら諸共、地獄へと葬ってやるわ!〟って感じで自爆する時と似てるぞ!?」

「ふざけてんじゃあねえぞぉ!? 響!」

「……いや、響の言う通り、あれは……自爆だ」


 響の直感による言動がふざけた物だと思って亮が襟元を掴むが、それを元春が擁護した。


「何でだぁ!?」

「同じ異能を使っていたからわかる。暴走していた時と似たようなクオリアの波を感じるっ」

「そればヤバそうだなっ、宗士郎!」

「ああ……」


 響の声に応え、宗士郎は静かに歩き出す。同時に残りのクオリアで創生できる程の刀を創生する。


「もう遅いッ! この力は既に私の制御から外れている! 私を殺しても、もう止まらないぞ! ふはははははッ!」

「どちらにせよ、お前をぶっ倒すのは決定事項なんだよ。そのクオリアを斬った後にお前を斬って決着だッ」


 言ってから無数の刀を引き連れ、静流に向かって疾走する。


 再び動けるようになったとはいえ、身体が完全に治った訳じゃない。そろそろ本当の限界が近づいてきていると宗士郎は直感で理解した。


 その刹那、立ち上がった時と同様に何処からか声が聞こえてきた。



 ――貴方なら大丈夫よ。ほら、後ろには貴方の大切な人達がいるのでしょう? ならば守り通さないとね?



 その声に背中を押されるようにして、背後からも仲間達からの声が飛んでくる。


「お兄ちゃん! 頑張ってーーッ!」

「士郎っ!」

「相棒! 頼んだぜぇええ!」

「宗士郎ゥ!」

「「頑張れーっ!」」


 守りたい者達の声を一身に受け、裂帛の気合いと共に引き連れた無数の刀と柄を握り締めた刀を手に――――


「っ! っぁぁああああああッッッ!!!」


 宗士郎は無意識に〝斬り葬る〟イメージを刀身に重ね、灰塵すら残さぬ勢いで、クオリアの暴風へと怒涛の連撃を舞うように放った。


「っ! ば、莫迦な!?」

「未来永劫に渡って悔いろ! 多くの子供をその手にかけたその罪を! ぜぇあああああッッッ!!!」

「――グギエァアアアアアアッ!!??」


 爆弾のようなクオリアを消し飛ばした後、返す刀で静流の動体を下から真上へと真一文字に斬り上げた。


 その反動か、クオリアが霧散する瞬間、激しい衝撃波が周りの人間に牙を剥いた。


「………………」


 静流の命を確実に刈り取った確信してもなお、残心を続ける。


 数秒、数分に満たない時間。


 警戒をし続けた後、刀に付着した静流の血潮を振るって落とし、創生した全ての刀を虚空へと手を振って消した。


「ぁ……――」

「お兄ちゃん!?」

「士郎!?」


 そこで限界を感じ、宗士郎は真っ二つになった静流の動体の側で死に絶えるように崩れ落ちた。







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