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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第五十九話 決断と突入

 




 目が覚めると知らないようで、よく知っている天井が目に入る。


 昨晩は二条院家が所有している海辺の別荘で一夜過ごしたのだった。波のせせらぎが聞える中、ベッドから身体を起し、宗士郎は部屋に備えて付けられている洗面所で顔を洗い、朝ボケしてそうな顔と意識を引き締めた。


 時刻は午前六時。


 今日が何の日かわかっているだろうに、昨日の夜は男女共にワイワイと騒いでいたので、他の皆はまだ夢の中のはずだ。宗士郎は昨日のカタラと戦闘で枯渇したクオリアを回復させる為、その輪には混ざらなかったが。


「…………三人は助ける。反天(ブラウマ)もどうにかして元の状態に戻さないとな。それに……………」


 愛刀である『雨音』の青白い刀身を鞘から覗かせる。


 以前、亮が反天した時の顛末を聞いた時、亮は無理やりといった感じで洗脳を施されていた。強引に意識を操作した為か、亮の洗脳は宗士郎が『斬る』事で解除できた。だが、自分から進んで洗脳、反天した元春達は亮のものよりさらに強力な洗脳が施されているはずだ。よって、以前のように洗脳を解き、戻す事は容易ではない。


 もし、洗脳が解けず、周囲に害を振りまくのならば、解けるまで叩きのめすか、最終手段として殺す事も考えねばならないだろう。そして、その役目は他の誰でもない、宗士郎自らの手でやるべき事だ。


 いつから洗脳されていたのかはわからないが、合同特訓の際、雛璃とも宮内とも一緒にいた宗士郎はその『変化』に、『心の闇』に気付く事ができなかった。


 だからこそ、もしもの時は…………


「士郎、起きてる?」

「起きてる、どうしたの?」


 宗士郎は考えていた事を『雨音』の刀身を戻す事で消し、ノックして入ってきた楓と顔を合わせる。


「朝の特訓の前に、朝ご飯をと思って。もしかして、今行く所だった?」

「いや、大丈夫。飯食べるよ」

「じゃあ、先に行って待ってるから」


 躊躇なく入ってきた楓もそうだが、宗士郎も寝間着のままだった。楓がいなくなってから気付いた宗士郎は恥じらいも何もないなと学園の制服に身を包み、愛刀を左腰に引っ提げて部屋を出た。







「よし、食いながらでいいから聞いてくれ」


 起床してから少しした後、まばらだった他のメンバーも次第に揃い、揃って食事を始めると宗士郎が口を開いた。


「牧原の指定した日時は今日の夕刻、つまりは六時だ。だが、その約束を守ってやるほど、俺は優しくないし、待ってやる義理もない。昼に全員で突貫するぞ」

「――ッゲホッゲホ!? ええ、そうなの!? てっきり、夕方までゆっくりするものかと思ったよ」


 みなもがすすっていたオニオンスープで(むせ)る。それは宗士郎の話からくる驚きだったが、みなものみならず、妹と幼馴染の二人、そして凛と亮以外の全員が驚愕していた。驚いていないメンバーは当然だろうといった様子で食事を続ける。


 質のいい食事と湯浴み、そして睡眠。それらのおかげで、心身の疲れもかなり癒えただろう。現に、枯渇していた宗士郎のクオリアも全回復している。


「そんでもって、牧原は時間をずらして襲撃する事を読んでいるだろうな」

「それなのに、どうして…………あ、ありがとうございます」


 みなもが傍に音もなく現れたメイドさんにお手拭きをいただき、口元を拭った。


「反天した身体に元春達が耐えられないからだ。だからこそ、その前に俺達は反天と牧原の呪縛から解き放たないといけない。そして、夕刻がおそらく、反天した身体に耐えられる限界なんだろう」


 今度は他のメンバー全員が驚きを隠せないでいた。


 神から授かった異能は人の身の限界に合わせて力が制限される。異能本来の力を強引に引き出す『反天』の状態は神に及ばずとも劣らない、身の丈に合わない力を引き出している為、それに身体が耐えられず、時が来るとその身体は崩壊するのだ。


 過去に反天した生徒を秘密裏に処分する前に、その生徒の処分を担当した宗士郎と凛はその光景を目の当たりにしている。


 そして、神族であるアリスティアに異能を授かった際に聞いた「この力は貴方の本質に合わせて形を変えるわ……」という言葉は人間の本質――心身の強さに比例して力の限界が決まるという事なのだろう。だからこそ、今話した仮説が浮かび上がった。


「この考えの正当性を増す為に、もう一つ。あの時、反天した全員の顔色が悪くなかったか?」

「たしかに、佐々木の顔が青ざめるというかぁ、体調が悪いようにも見えたなぁ」

「あの時、気になった俺は闘氣法を使って、三人の生命力を測ったところ…………既に風前の灯火だった。持って一日半だな」


 同じく闘氣法を使える柚子葉が宗士郎の言っている事が正しいと判断すると、柚子葉が思い当たったように口を開く。


「ちょ、ちょっと待ってよ兄さん! それじゃあ、雛璃ちゃんは…………」

「――今日中に間違いなく、その存在が消滅する」

「っ…………! 何で昨日言ってくれなかったの!? 答えてよ、お兄ちゃん!!!」


 食事の手を止め、涙目で宗士郎を追求する柚子葉。それに宗士郎は淡々と答える。


「言えば、間違いなく柚子葉だけでなく、他の奴も飛び出していくだろうが。…………疲労した回復しきってない身体で」

「…………っ」

「昨日、言ったろ? 間違いなく、今の俺達よりも強い。昨日の状態で行けば、助けるどころか死んでいたぞ」


 宗士郎は周りの顔を見渡しながら、言葉を続ける。


「そんなのは本末転倒だ。だから、今日教えた。すまない…………」


 宗士郎は座ったまま頭を下げた。助けたい気持ちがない訳ではないのだ。助ける前に、自分達が死ねば悔やむに悔やみきれない。


「…………宗士郎」


 頭を下げる宗士郎に向かって、先程まで黙っていた響が立ちあがり、ヌッと近づいた。


 殴られても仕方ない、そう思っていたが、


「色々言いたい事はあるけど、そんな辛い決断させちまってごめんな…………。非難されるのはわかってただろうに」


 響が言った言葉は宗士郎の想像したものとは違っていた。呆けた顔をしていると続々と楓や凛もそれに続く。


「何、呆けた顔してんだよ。俺はお前は責めないよ。楓さんもそうだろ?」

「ええ。士郎が問題を抱え込むのはいつもの事だから。柚子葉もわかっていた事でしょ」

「お兄ちゃんが私達の事を考えて、決断したのはわかるけど…………」

「柚子葉ちゃん。まだ消滅すると決まった訳ではないですよ。今日の夕方までがタイムリミット。今この時まで身体を休めたのですから、今日助けてしまえばいいのですよ」


 凛が柚子葉の側まで近寄り、肩を抱く。


 そう、まだ時間は残っている。


 だからこそ、昼時に助けに行くと決めたのだ。


 いつのまにか、普段の呼称に戻っていた柚子葉は出ていた鼻水をすすりながら、兄に謝る。


「…………ずずっ、わかった。怒鳴ってごめんね、お兄ちゃん」

「いや、黙ってた俺が悪かったんだ。すまない。他の皆もすまない」

「いや、むしろ感謝するぜぇ。宗士郎の決断がなけりゃあ、今頃俺達は犬死してたろうからなぁ」


 亮が宗士郎を見て、笑みを浮かべる。蘭子、幸子、和人も同意見らしい。


「じゃあ、死ぬ可能性をさらに下げる為にお三方にも『戦闘服』をプレゼントっす! 使い方は他の皆からきいてくださいっす~!」


 芹香が開発した『戦闘服』を内包した指輪を未だ所持していなかった三人に手渡す。


「宗士郎!」

「士郎」

「お兄ちゃん!」

「鳴神君!」

「宗士郎君」

「鳴神様!」

「宗士郎っ」

「「鳴神君!」」

「宗士郎」

「なるっち先輩!」


 面々と顔が宗士郎に向けられる。


 これはもう、頭を下げてばかりじゃいられない。


「ああ! 昼に決行だ! それまで各自、それぞれのやり方で休息をとっていてくれ!」


 全員の心が一つになった。後は、静流の計画を阻止し、反天した元春達を呪縛から解放するだけだ。







「やっぱり動き出したようだね。そんなに君達の事が大事なら、もっと構ってあげればよかったのに。そうすれば、君達が今の状態になる事もなかっただろうに」


 修練場の下――広大な地下施設の一角で、静流はギシッと椅子に腰かけながら口にする。そんな現実はありえないといった様子で元春は否定する。


「そんな事はないです。遅かれ早かれ、こうなってました。俺は自分から望んで今を生きてますから」

「そうですか? その割には、慣れない力に踊らされている――ッかは!?」


 元春は並んで立っていた雛璃の首を握り潰すかのように引っ掴み、そのまま壁に叩きつけた。


「いいかっ、俺は力を得たんだ。俺を見下してた奴よりも鳴神よりも圧倒的に勝る力をな! 踊らされているように見えるなら、お前の眼は腐ってるッ!」

「っく、ぅぅ…………っ」

「桃上さん!?」


 宮内が雛璃の心配をし、止めようとするが、元春の圧力に屈する。


「離してあげなさい。事実、君はその力を使いこなせてない。異能を持っていなかった君が異能を手に入れたとしても、持っていた者からすれば、踊らされているように見えるのも無理はないでしょう」

「…………はい。チッ……!」

「…………っげほっげほ!」


 勢いよく、元春が手を離すと、地面に手をつき、雛璃は咳き込む。そんな雛璃を宮内は介抱した。


「桃上さん、大丈夫?」

「…………(佐々木先輩が力を使いこなせてない。それは本当なんだろう。でも、私達と違って感情が怒りだけに縛られているのは何でなんだろう? 私は望んで今の力を得た。でも佐々木先輩は違うような…………)」

「中々、良い推測だな、小娘よ。確かに彼奴は汝らとは()()

「っ!!?」


 雛璃が元春と自分達の違いを考えていると、不意にその声はこの空間に響いた。否、雛璃の心に直接語り掛けるように響いた。


 驚きで周囲を見渡した雛璃を見て、静流がようやくといった様子で、彼の定位置を見た。


「カイザルさん、戻ったんですね。急に現れるのはやめてくださいよ、びっくりします」

「ふん、驚く方が狭量というものだ」


 壁にもたれかかる形で立っていた魔神カイザル=ディザストルは鼻で笑った。


「(私も見るのは初めてだけど、この人がお兄さんの言っていた人…………。さっきのは心を読まれてたんだ)」


 雛璃がカイザルをジッと見ていると、カイザルがその視線に気付く。


「小娘よ。どうかしたのか? ククク」

「っ…………いえ、何でもないです」


 まるで考えていた事も心の内にある雛璃の()()()の気持ちまで見透かされたような気がして、雛璃は先程、カイザルが現れた瞬間から冷や汗が止まらなかった。


「カイザル様! お戻りになったんですね! 今までどこにいらしたんですか?」

「カタラの亡骸を眼に収めに行っただけだ」

「へえ、それでどうしたんですか?」


 元春が尊敬の眼差しをカイザルに向ける。静流は見に行っただけなのか? と聞いた。


「無論、処分した」

「そうなんですねえ。カタラさんは貴方の事をお慕いしていたように見受けられましたが、弔わなくてよかったのですか?」

「その程度の者だったという事だ」


 興味がないといった様子で、カイザルは瞑目する。


「(この人は危険だ。私達よりも()()()()()()()牧原先生よりもはるかに…………!)」


 異能を持たない牧原 静流は元春と同じ方法で力を得ていた。それを知っている雛璃は自分の心が恐怖に支配されていると実感する。この思考も間違いなく読まれているのだろうが、カイザルはこれを無視する。


 先程、声をかけてきたのは気まぐれだったのだろう。


「そろそろ来る頃ですね。皆さん、向かい入れる準備をしましょうか」


 静流の一声で、元春達は指示された場所へと向かったのだった。







「和心、頼む」

「はいでございます! それでは皆様、三秒後にジャンプしてください!」

「「?」」


 和心の言う通り、三秒後に揃ってジャンプをする。すると、刹那の内に別荘から修練場へと戻ってくる事に成功する。


「はい! 私達は空間転移中、地球にいませんでした!」


 居なかった時間! 0.0001秒! と言わんばかりのテンションで和心は笑う。


「いやいや、いつのネタだよ和心ちゃん。古すぎるよ!?」

「それよりなんで知ってるの、そのネタ!?」


 響とみなもが突っ込む!


「軽いジョークでございます! 皆様、緊張していましたので、小粋なジョークをと!」


 何故に二回言ったし!? と全員に笑いが巻き起こる。和心からすると、宗士郎も含めて顔が強張っていたらしい。


「ありがとう、和心。手筈通り、和心と凛さんとりかっちは修練場にいる避難者と生徒を守る。一日過ぎたが、牧原が魔物を仕向ける可能性があるからな」

「わかってる、何があっても守るわ」

「了解っす! 一応、物質可変(バリアブル・マター)で防護壁なり、固定砲台なり開発しておくっすね!」

「ああ、頼んだぞ。……っ!」


 三人が避難者がいる場所へと向かう。その後、すぐに闘氣法・索氣を発動させる。


「さて、俺達だが……地下施設に行く為のエレベーターには専用のカードキーが必要らしい。でも、それがなかった」

「どうするの、士郎?」

「それなら、さっきの〝和心ちゃんジャンプ〟で行けば良かったんじゃ?」


 楓とみなもが尋ねる。至極当然の意見だ。既に、和心の転移に可愛らしい技名がついているが、そこはスルーする。


「俺も聞いたけど、なんらかの魔法で位置を測定できないらしい。だから、飛べないって。だから……」


 宗士郎は刀剣召喚(ソード・オーダー)で一振りの刀を創生し、


「――概閃斬ッ!」


 先程、使えるか試した闘氣法・索氣で生命力を探知し、そこから距離を置いて、四角柱を作るかのように地面を斬り出す。


「桜庭、四角柱の形で地面を斬り出したからそれに合わせて、神敵拒絶(アイギス)で包んでくれ。『五芒聖光』の威力を無に返すイメージでな」

「長さが分からないよ?」

「そこは俺が補助する…………っ」


 闘氣法の応用で、自ら斬った体積の情報を闘氣として、みなもの脳内に流し込む。脳に流すのは少し危険なのだが、そこは言わない事にする。


「わあっ!? 凄い、鳴神君が流れてくる……」

「変な事を言ってないで、さっさとやれ! 残念娘!?」

「イタッ!? わかってるよ〜!」


 みなもが四角柱を神敵拒絶(アイギス)の光壁で包み込む。


「響、この四角柱を爆弾に変えてくれ」

「了解っと。…… 間零爆破(ダイレクト・マイン)


 響が地面に数秒手で触れる。


「よし、桜庭はさっきのイメージで蓋を。響はその後、爆発させてくれ」

「いくよ? えい!」

「はあっ!」


 ドゴォォォォォォンッッッ!!!


 地面を爆発させると同時に地鳴りが起こり、当たりが振動する。


 爆発の衝撃波を光壁で包み込み、消し飛ばすと宗士郎が斬り描いた四角柱は跡形もなくなっていた。


「偵察を兼ねて、俺は先に行く。皆は桜庭の神敵拒絶(アイギス)の光壁に乗って、降下してくれ」

「えっ、ちょっと士郎!?」


 静止の声をかけられたが、それを振り切って、作った四角柱の穴に飛び込んだ。


「っ、長いな。一キロはないだろうが、それなりに深いな」


 既に飛び込んで、数分。目的の場所に着いてもおかしくないものだが、奇妙な感覚に囚われる。今の内に指輪に念じ、『戦闘服』を身に着けておく。


「空間が歪んでるのか? 和心の転移を妨げた魔法が関係している感じだな……っと、光が見えてきた」


 宗士郎は闘氣法で身体を強化してから、刀を壁に突き刺し、ブレーキをかけていく。そして、壁の断面――光が漏れている場所に向かって、壁を蹴って転がり込む。


「っ!? 宗士郎さん!?」

「お兄さん!? もしかして、さっきのを……!」

「雛璃ちゃんの想像している通りだ。昨日ぶりだな、二人とも」


 待ち受けていたのは驚愕していた宮内と雛璃だった。


「元春は……いないな。それならお前達を無力化した後に探す事にするさ。覚悟しろ……今日の俺は――」


 反天した事、静流の計画の事……その他諸々の気持ちを含めて、


「――ブチ切れているぞ」





元春達の反天した身体は断末魔を上げ続ける。

彼らの命を救うと共に計画を阻止しなければならないという現実。

宗士郎達は覚悟を以って、その運命を変える為、立ち向かうのだった。


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