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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第五十七話 欲望の闇に囚われた者達

 




「元春……! 今までどこに行ってたのさ!? 心配したんだ……ぞ?」


 爆発と共に教室の外から現れた元春に、地べたを這いつくばる和人が涙を浮かべる。だが直ぐに、和人はその顔を歪める事となる。


「…………和人か。久しぶりだな」

「お、お、お前っ、何だよ()()……?」


 和人が重たい腕を持ち上げ、元春の身体が纏っているオーラを指差す。


「ああ……これか。これは俺が手に入れた力だよ。お前達が見下していた、俺だけのなッ」


 以前の亮を思い出しているのか、ギリッと握りこぶしを作る元春。


 その憎悪に満ちた形相は、かつての元春とは似ても似つかない程である。彼の最も親しい友人の和人は元春を怪訝そうに見ては、まるで別人のように感じていた。


「……はあ。佐々木先輩、助けに来たんですか? それともお喋りしに来たんですか?」


 雛璃が呆れた様子で元春に尋ねる。


「……俺を見下していた奴らの顔を拝みに来ただけだ」


 元春は殺意を宿した眼で、この教室に集まった全員――特に亮と宗士郎を鋭く睨みつける。


「お前らは、そのついでだ」

「そうですか。来てくれてありがとうございます。宮内君、行きますよ」


 その答えに肩をすくめ、雛璃は再度教室を出ようとした。


「待……てっ、二人ともっ……!」


 その寸前で、宗士郎は気力を振り絞って立ち上がり、雛璃達を引き留める。


「えぇ……お兄さんってば、体力を削ってるのにまだ立ち上がれるんですか?」

「当たり、前だっ……まだ、何も聞けて、ないっ」

「今更何を……って、もしかして()()の事ですか?」


 雛璃が制服のポケットから何かを取り出し、手を開いてみせた。彼女の手の平にある物を見て、宗士郎は眼を疑った。


「それは……!?」


 取り出されたのは、指の先程のイヤリング。それも、水晶のような丸い鉱石が付いたものだった。


 そのアクセサリが一体なんなのか、宗士郎は誰よりも早くに察しがついた。


「――感覚結晶(クオリアクリスタル)のイヤリング……!! 榎本が持っていた物と同じ……!」

「おい、嘘だろぉ! 俺と同じ目に遭った奴が、他にもいたってのかぁ!?」


 それを所持していた。となれば、つまり――


「あれ、先輩も以前付けていたんですか? 暴走した人がいる事は聞いてたけど、それかなぁ」

「聞いた、だって? そいつは誰だ!?」

「ええっとですね……」


 雛璃はイヤリングを耳に付けながら、素直に答えようとして――


「――その問いには、私が答えましょう」


 何処からともなく、機械音混じりの声が聞こえてきた。


 直接聞こえてくる感じではない。もっと普段から聞くような遠隔で音が聞こえる感覚。


「放送室か……! 誰だ!?」


 教室にある備え付けのスピーカーから音声が流れたと気付き、宗士郎は思わず怒鳴った。


「誰、とは随分酷い。私達はほぼ毎日、顔を合わせていたというのに……」

「っ……!?」


 すぐに返答が聞こえたものの、今度は教室内から声が返ってきた。


 教室のどこかに嫌な気配を感じ、宗士郎は冷や汗をかきつつ辺りを見渡す。


「気配が移動した……!? くっ、今この場にいるな!」

「誰よ卑怯者! 姿を見せなさい!」


 楓も気付いたのか珍しく声を荒げて、見えない誰かに怒声を浴びせる。


「何を言っていますか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ブォンッ!


「……な!?」


 宗士郎が瞬きをした瞬間、漂う空気の中を素早い何かで横切ったかのような移動音が響き渡った。


 直後、宗士郎や他の者達の視線が交差した先に、声の主は出現した。


「嘘っ……」

「そ、そんな……」


 蘭子と幸子が姿を現した人物を見て、唖然とする。その反応は至極当然と言えた。


 その人物は確かにほぼ毎日顔を合わせ、同じ空間で同じ時を過ごせる職に就いており、「自分に出来ることが少ない」と生徒の前で涙ながらに嘆いていた――


牧原(まきはら)……静流(しずる)先生……」

「正解です。私が彼らに……迷える子羊達に救いの手を差し伸べた、救世主(メシア)とでも言いましょうか」


 生徒想いの先生は、教室で授業をしていた時と同じ優しい表情をしていた。


 だが同時に、どこか狂気じみた眼差しを浮かべている。その瞳には、思考をまるで感じさせない仄暗さがあった。


「雛璃ちゃん達を変えたのは、あんたなのかっ……あんたが洗脳したのかッ!!」

「何か勘違いをしているようですね。減点ですよ、鳴神君」


 宗士郎の怒鳴り声を上げると、静流はまるで教鞭を取っていた時のように窘める。


「彼等は皆、自ら力を求めたんですよ――ある者は誰かを見返す為……また、ある者は目標の人物を超えたいという衝動から、ある者は誰かを振り向かせる為……とね」

「なんだって……本当なのか!?」


 宗士郎の問い掛けに対する答えは上がらなかった。


 元春は無表情で、宮内は居た堪れない様子で顔を逸らし、雛璃はただ妖しく微笑むだけ。


 それだけで、答えには十分過ぎる程であった。


「もっとも……ここまで仕上げられたのも、彼の協力あっての物種でしたが」

「彼……? まさか、カイザルか!? そうか、あいつならこの状況をも作れる……!」


 今までの静流の話から要点を拾い上げた事で、宗士郎は徐々に事態の背景が見えてきていた。


 目的は不明だが、カイザルと静流は利害の一致した協力関係にあったのだろう。


 静流には特別な能力もなければ目立った功績もない。あるとすれば、異能に関する研究だけだ。しかし、どのような方法を用いて、元春達(三人)に力を渡したかまでは不明である。


 加えて、三人が力を求めた理由。言葉通りに受け取れば、それは所謂欲望の表れだろう。


 しかし、それがどうして、()()()()――反天(ブラウマ)に繋がるのか……そこだけが、今の宗士郎には分からなかった。


「牧原先生っ、この子達に何をしたんですか!」


 宗士郎が思案していた最中、静流と同じ教師である凛が内に秘めた正義感を爆発させた。


「だから、力を渡した……って、あぁ成程。その過程を知りたい訳ですか……」

「そうです! 早く教えなさいっ!」

「簡単な事です。この子達が欲していた力、それを無理やり引き出してあげたまでのこと。そう、人為的な方法を使った〝反天(ブラウマ)〟でね……」

「なっ……!?」


 やはりそうだった、と最悪の予想が的中し、宗士郎は悲痛なまでに顔を歪めた。


 以前、亮が人為的に反天した時と同様に、普段起こりえない現象である『反天』を引き起こした、という事だろう。


 反天の条件は未だ解明されておらず、また元の状態に戻せたという前例はない。


 亮の場合は誰かに唆された結果だった。洗脳に近い状態であった為、その元を宗士郎が『断ち斬る』事で事態は収束した。


 対して、雛璃達三人は自らの意思によってだ。洗脳も何もない。『反天』状態の異能力者を元に戻す手立ては、全くと言って良いほどない。


「何という事を!! 反天した子の末路は、貴方が一番よく知っている筈でしょう!!!」


 凛が怒りのあまり強引に立ち上がった。


 以前、宗士郎は彼女から聞いた覚えがある。


 凛と静流は仲の良い同級生だったらしい。過去に何があったかまでは聞けず終いであったが、今の発言は過去に反天した者の末路を見届けた事がある口ぶりであった。


「何を怒ってるんですか、神代先生。そもそも反天とは何かご存知ないんですか?」

「…………反天とは異能の特殊な形態の事です。授かった異能本来の力が引き出される代わりに、理性を失い〝異能〟という暴力を無差別に撒き散らす」


 込み上げてきた怒りを必死に押さえつけ、凛がお手本のような解答を口にした。


「流石ですね。異能力を持つ教師なだけあります――ですが、それでもまだ及第点……」

「なんですって……?」


 静流はその説明に賞賛の拍手を送り、満足げに笑う。


「研究成果の発表といきましょう――『反天』という現象は、異能力者の負の感情に起因して発生するのですよ。負の感情が極限にまで膨れ上がる事で、異能本来の力を強制的に引き出せるという訳です!!」

「た、確かに。過去に反天した者は皆、激しい感情を抱いていました……!」


 静流の研究は凛の納得のいく成果を上げたようであった。


「(どういう事だ……?)」


 その反面、宗士郎は今の説明で酷く頭を悩ませていた。


「(今の話が確かなら、異能を授かる前に反天しかけていた俺は一体……あの研究は、まだ異能の全てを解き明かせていない……?)」


 静流の考えでは、反天は異能力者の負の感情が引き起こす現象だ。ならば、神族アリスティアから異能を授かる前から反天しかけていた宗士郎はどうなるというのか。


 静流の推論が誤りなのか、はたまたアリスティアが嘘を吐いたのか。


 真実は、まさに(アリスティア)のみぞ知る事柄だ。


「私がしたのは、ほんの些細な事です。感覚結晶(クオリアクリスタル)は、魔法付与がし易いと判明しましてね。このイヤリングを装備した者が抱く負の感情――〝欲〟を高める魔法をカイザルに付与してもらい、この子達に施したのです」


 イヤリングを取り出し、見せびらかすように指の間で挟む静流。亮が付けていた際に宗士郎が感じた嫌な気配は、カイザルの魔力だったのだ。


「目的は……雛璃ちゃんにこんな事をした目的は何なんですか!?」


 涙目で怒る柚子葉が全身から雷を迸らせる。


 親友が自ら反天した事が未だに信じられないのだろう。


「……だからさっきも言ったろう? 彼等が自らの望んだ結果だと。まぁ、私の目的に協力してもらってはいるがね」


 何度も行われる問答に飽き飽きし、静流は呆れたように溜息を吐いた。


「私の研究目標は『異能性質の解明』。過去の反天の犠牲者、彼等を蘇生させる異能を創造する事こそが私の悲願なんです。神がもたらした力――その神秘を私は解き明かしたい! そうすれば、彼等を元に戻す薬や非異能力者に自由な異能を与える事だって出来るかもしれない……!」


 欲望(がんぼう)に囚われ、自らの研究を熱弁する静流の姿は、誰の目から見ても酷く痛々しかった。


 特に、旧知の仲である凛なら尚更だ。


「その為なら、鬼にもなりましょう! たとえ、子供達の命を摘み取ってでもね……!!」

「(狂っている……)」


 その思想は宗士郎の心に拒絶反応を引き起こしていた。


 確かに立派な目的だ。方法はどうであれ、研究は死した生徒や未来を考えての事なのだから。なんと生徒想いの教師なのか。


 現代医療でも人ではない()()()()()や被験者の同意の下に創薬を行っている。


 それは何故か……?


 ――その行為が、非人道的であるからだ。だからこそ、過去に行われてきた人体実験は現在では行われていない。


「(医療が発展したのは、先人が誰かを救おうとしたからだ。同様に、研究が完成すれば大勢の異能力者を救えるだろう……だが――)」


 死者蘇生の異能を完成させる為とはいえ、現在(いま)を生きる者達を犠牲にして未来に活かす。


 小を切り捨て大を取る手法。太古から行われてきた道理だ。なんと論理的で現実的な手段なのか。


「(だがそれで、雛璃ちゃん達が犠牲になるというのなら――)」


 だとしても、宗士郎の魂は――


「(そんな理不尽、許容できよう筈がないッ!!)」


 人知れず、宗士郎の瞳に怒りの炎が灯った。


「――けんなぁ………………」


 そんな時だった。


 唸るような声で、亮が拳を何度も床に打ち付け始めた。


「おや、どうかしましたか? もしや……私の研究材料(モルモット)だった事を思い出しましたか……榎本君?」

「あぁそうだよッ! そんな下らねえ目的の為に、佐々木や後輩達を巻き込んでんじゃねえ!!」


 そのまま立ち上がり、両腕を憤怒の炎で滾らせる。


 静流の研究材料だった事を、今までの話からようやく思い出せたらしい。


「死んだ奴は生き返らねぇ! どんな凄腕の医者にだって不可能だぁ! そんな異能を作る為にコイツらを利用してるんなら、そんな計画っ……この俺が燃やし尽くしてやる!!」

「……ほう」


 静流の研究の最初の犠牲者であり、くだらない目的の為に利用されていた事への怒りから、亮は力の限り吠えた。


 至極当然の反論に静流達は勿論のこと、この場で倒れ伏していた全員が度肝を抜かれていた。


「いや待て、熱くなり過ぎだ」

「鳴神ぃテメェ! 臆しやがったかっ!」

「俺が臆しただって……? 冗談じゃない!!」


 胸倉を掴んできた亮の手を、宗士郎は強く払った。


「自らの悲願の為に、平気で雛璃ちゃん達を捨て石しようとする輩を黙って見てられる程、俺の心は腐っちゃいない!」


 敵意を強く瞳に宿すと、静流に相対し宣言した。


「――断ち斬らせてもらうぞ、牧原 静流!!」

「うぅん、良い眼だね。計画に障害は付き物……何もかも上手くいく事なんて稀だ。よって、降りかかる火の粉は払わせてもらうよ。佐々木君」

「はい――消えろ」


 ドギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


 元春が身に纏うオーラが右手に集束し放った。


 オーラ砲が宗士郎達に炸裂。轟音と共に、眩い閃光が静流達の視界を埋め尽くした。


「他愛もない…………――なにっ!?」


 立ち上がる黒煙の向こうに見えた光景に、元春が大きく目を見開いた。


「ふふん、残念だったね!」


 黒煙が晴れた先には、光り輝く障壁が多重に展開されていた。その担い手は、当然ながらみなも。多少亀裂が出来てはいたが、皆無傷である。


 そんな中、宗士郎は懐からある物を取り出し指に挟んでいた。


「なんだそれはっ!?」

「悪いな。この状況で馬鹿正直に戦う程、俺も馬鹿じゃない――和心、俺を中心に周りの仲間も頼む」


 最悪の事態も織り込み済みだった宗士郎はもしもの為に、和心お手製の転移を可能とする札を受け取っていた。


 指示の数瞬後、宗士郎達はこの場から忽然と姿を消した。


「まさか、あんな隠し玉があるとは。まぁ良いでしょう。邪魔者を処分するのが少し遅くなっただけです。私達も一度戻りましょうか」

「はい……行くぞ、お前達」

「わかっていますよ。そんなに刺々しくしないでください、佐々木先輩。ほら、宮内君も」

「ああ――認めてもらう……宗士郎さんに今の僕の力を認めてもらうんだっ……」


 静流も宗士郎達と同様に、雛璃達生徒を連れて、現れた時のように姿を消すのだった。






「……あっ、少し失敗したでございます」


 学園長室の空きスペースで、目を開けた和心が呟いたのとほぼ同時であった。


「ぅおぁ!? なんだってん――だぐえっ!?」

「ふきゃん!?」

「きゃあ~~~~!?」

「あぅっ!?」


 天井に近い場所より無数の人間が出現し、床に仰向けに積み上がっていく。


 お札を起点とした和心の転移による避難は成功したようだが、急な発動で転移先の座標が僅かにズレていたらしい。


「っと、危ないな……」


 宗士郎、柚子葉、楓、凛の四人だけは見事に受け身を取る事が出来ていた。その反面、先に落ちた響の背中に残りの女性三人が降り注ぐ形となった。


 そして何故か、亮と和人だけはそこから少し離れた位置に落下していた。


「お、重いぃ」

「「はぁ!?」」


 響のデリカシーのない呟きに、みなもと蘭子がカチンと怒る。


 女子とはいえ、三人分の体重は流石にキツいようだ。


「早くどいてくれぇ……いや? 多少キチィけど、これはこれで役得なのでは? 背中の感触が……ムフフッ」

「沢渡君、そんなに動いちゃ……ひゃっ!?」


 鼻を伸ばした響が身体をくねらせると、幸子はむず痒い感触を覚え頬を紅潮させる。


 そんな響のエロ猿根性に、みなもと蘭子の怒りは頂点に達した。


「ひ、響君のエロ魔人っ! バカバカッ……!」

「このっこの!! なに鼻の下伸ばしてんのよ!」

「ぐぇっ!? はぐっ!? 理不尽だっ……」


 動けない響は二人からタコ殴りにされてしまった。


「楓! 皆も無事だったんだねえ!」

「鳴神様、皆様! ご無事でしたか……!?」


 遅れて、学園長の宗吉と和心が駆けよってくる。


「パパ、私は無事よ。だけど……」

「だけど、なんだい? 和心君が緊急でこの場を借りたいと言ってきたものだから、何かあったんだろう?」


 楓が気まずげに顔を逸らした先には柚子葉の姿。意気消沈とした様子の柚子葉を見て、宗吉はますます怪訝に感じた。


「事情は俺から説明します。実は――」


 この場を代表し、宗士郎は事の顛末を語っていった。


 無事にカタラと魔物の軍勢を殲滅できた吉報。彼女の主カイザルが去り際に残した言葉から探りを入れた結果、雛璃と宮内が敵と内通していた凶報。そして、失踪していた元春や雛璃、宮内までもが牧原 静流の手により、人為的な『反天』を施されていた悲劇。


 最後に、静流の目的についても余さず伝えた。


「――そうかい。やっぱり、牧原君が……どうしてこんな事になってしまったんだろうねえ」


 状況を憂いた宗吉が一息つく。


 独自の調査で、宗吉も静流が怪しかった事は分かっていたようだ。しかし証拠は何も得られず、追及する自体叶わなかったとのこと。


「奴はここで止めます。死者蘇生の異能……それが完成するまでに、どれほどの犠牲者が出るか分からないっ……」


 雛璃達の姿を思い浮かべながら、宗士郎は強く拳を握り締めた。


「彼の研究が確かなら、反天した子達は異能本来の力を所持しているんだよね……どうだい鳴神君、勝てそうかな?」

「……正直に言えば、かなり厳しいかと」


 真面目な顔付きで尋ねた宗吉はその返答に眉をひそめた。


「雛璃ちゃん達は相当な強さになっていた。特に元春が持つ破壊力はかなりヤバい。一人で異能力者三人分の力を有していると考えた方がいい」


 実際に反天した亮との戦闘経験を持つ宗士郎の意見に、皆が一様に生唾を飲み込んだ。


「今、下手に戦えば間違いなく誰かが死ぬ。体力とクオリアが回復するまでは、身を隠す他ないと思います」

「意外だね……大切なものに手を出された君が、ここまで冷静だなんて」

「……むしろ怒り狂ってますよ。だけど、身体は正直ですからね。俺の心が『刀を取れ、仲間を助けろ』と叫んでいても……()()、少しでも疲労回復しないと……」


 制服の上から胸元を強く握りしめる宗士郎。


 疲弊した身体は実に正直だ。無理に動かそうと思えば、身体は無茶を聞いてくれるだろう。


 だが、その結果は火を見るよりも明らかだ。宗士郎の本能は、必ず命は落とすと警鐘を鳴らしている。囚われた三人の救出、静流の計画の阻止は確定事項だ。


 しかし、今は無理をする時ではないのだ。


「なら、うちの別荘で一日羽を休めよう。和心君、場所さえわかれば、さっきの転移は可能かい?」

「可能でございます! 大きく距離が離れていなければ、ですが!」

「うん。じゃあ、後でメイドに教えさせるよ」

「――ちょっと待ってください!」


 とんとん拍子で話がまとまりかけていた時に、みなもが横から口を挟んだ。


「その間に、学園の皆や避難してきた人達が標的にされたらどうするんですか! 狙われない保証はないんですよ!」

「あぁ、その場合は……」


 宗吉が別のプランを提示しようとした時だった。


『――その心配は無用ですよ。降りかかる火の粉が余りにも弱いと、こちらとしても払い甲斐がありません』

「牧原先生!?」


 先程突然話しかけてきた時と同様に、学園長室内でまたもや静流の声が聞えてきた。


『元春君も「弱い相手を叩きのめすのは復讐にならない」と申してますからねえ』

「佐々木ぃ……!」

「元春……」


 不意に元春の名前が出てくるや否や、亮は歯噛みし、和人は目を伏せた。


『では、今から二十四時間後――明日の夕方まで猶予を与えましょう。場所は修練場の地下施設。時間に一分遅れる毎に、生徒の皆さんには〝反天〟をプレゼント、避難者の方々は一人ずつ殺していきます』

「なんだとっ……!?」

『では鳴神君、そしてその勇敢なる仲間達よ……地下施設でお待ちしています――』

「待て! 牧原 静流!!」


 一方的に情報を伝えて、静流の声は電話が途切れるように薄れていった。


 静流の声音や研究者として性格からして、嘘を言っている可能性は薄い。先の挑発的な物言いは、まるで「計画を邪魔する気ならお好きにどうぞ。到底無理でしょうが」と言外の意味が込められているかのようであった。


「あの野郎ぅ余裕かましやがってぇ! 待ってやがれッ!」

「全くだぜ! あのクソッタレな計画をぶっ潰して、さっさとゲームしてやるぜ!」


 亮と響が溢れる怒りを壁に叩きつける。


「桜庭、そういう事だ。今は身体を少しでも休めるぞ」

「…………うん」

「和心、転移を頼む。今度はミスしないでくれよ?」

「はいでございます!」


 明日の夕方には、かつてない激闘が繰り広げられる事だろう。気の落ち着かない戦士達はそれでも明日に備え、無理矢理にでも休息を取るのだった。





仲間から出た内通者の二人……そして、失踪していた元春は静流の手によって、既に反天させられてた。


今すぐ、計画を阻止しようにも疲労した身体は思った様には動けない。その為、宗士郎達は不本意にも一日の休息を取る事になってしまった…………


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