第五十二話 翠玲学園防衛戦
ギリギリ投稿が間に合わなくて申し訳ありません!
宗士郎達がカタラとの戦闘を再び始めようとしていた数分前…………
「た、助かった……?」
「どうやら、そのようですね……」
翠玲学園で防衛線を張っていた凛含める先生陣、宮内や蘭子などの学生陣は突如、学園上空に出現した魔物の劫火を避けれられずに死を悟った。
だが、目の前に現れたCOQの障壁にも似た結界が飛来してくる劫火を防いだ為、九死に一生を得ていた。
あのような結界を張れそうなのは、凛の知る限りではみなも以外にはいない。教師陣一同、目を見開き何が起こったかがわからない様子だった。
「(これが宗士郎君の言っていた防護策、という事ですか。しかし、いったい誰が……いえ、そんな場合ではありませんでしたね。今は目の前の敵に集中しなければ……!)」
宗士郎達が戦地に向かう前から、メールで既に聞き及んでいた凛は怪訝に思いつつも、現状は何一つ変わっていない事に気付き、急いで行動を起こす。
「皆さん! まだ危険が去ったという訳ではありません。敵の第二射や先程からこちらに向かってくる魔物も依然、対処し続ける必要もありますし、さっきの結界がもつのか、再び働くのかさえもわかりません。なので……」
「――結界の心配は必要ないでございますよっ!」
凛が周囲に素早く指示を出そうとした瞬間、どこからともなく小気味よい元気な声が響き渡った。声の出処を探ろうと、周囲の生徒達が辺りを見渡すが見つからず、敵の陽動か!? と警戒を強める。
「そ、そんな警戒を露わにしなくても……! というか私はここでございます!」
今度は近場から聞こえてきた声に、一同がそちらに視線を向けると、そこには小学生程の普通の女の子が立っていた。髪の色が黄金色の、という部分だけを除けばだが……
「なんだ、ガキじゃん」
「今は大事な戦いの最中でちゅよ~? いたずらはいただけないなぁ」
「むむむぅ~! 何故信じてくれないのですかぁ! こうなったら仕方ありません。無関係な人には隠すつもりでしたが…………ふみゅ~~~~ッッ!」
と、小学生の女の子が黄金色の髪をしている事はさらっと無視し、ガラの悪い後期課程三年の男子が女の子を冷やかす。すると、その態度が気に入らなかったのか、ぷく~と頬を膨らませて怒りを露わにすると全身に力を入れて踏ん張り始めた。
「ふみゅみゅみゅみゅッ! ふみゅあッ!」
「へ?」
「なんだ、あれ……?」
だぁあああ! と両手を大の字の勢いよくバッ! と開いて猛り叫んだ!
女の子を冷やかした男子やその他の教師、生徒達が一斉に呆気にとられた。目の前で叫んだ女の子はポンッという音と共に姿が変化したからだ。年頃の女の子が着るような服装から巫女服へ、頭部には動物のような耳、しまいには臀部辺りから尻尾まで出る始末。
女の子がどうです!? と胸を張り、ふんっすと決め顔を浮かべる。
「その姿……まさか異種族。何故こんなところに」
「見たところ、ここの指揮を執っている人は貴方でございますね? 私は縁あって、鳴神 宗士郎様の家に身を寄せている狐人族の和心でございます!」
「……! とすると、本当にあの結界は貴方が?」
「はいでございます!」
凛の脳内で点と点が繋がった。防護策とは眼前にいる和心という異種族の女の子で、宗士郎にわけあって協力しているという事がわかった。詳しい事情はわからないが、今まで異種族である事を隠していたのをこうしてわざわざ公開し、加えて、宗士郎の名前を知っている。その二点に関しては信用たりえる人物であると凛は判断した。
「この結界はどれくらい持ちそうですか?」
「私の全力を注いだ結界ですので、あの程度の攻撃なら……あと三回程防ぐ事が可能でございます」
先程の敵の攻撃をあの程度と認識している女の子に凛は戦慄した。先の攻撃から危険度S程の圧力を感じていた凛は助力を感謝すると共に、畏怖する。
「……っ、感謝します。宗士郎君は他に何か言っていましたか?」
「ええと、そうでございますね…………防衛を手伝うようにと…………」
「――神代先生、その子は信用できるんですか?」
すると、警戒心を露わにした教師の一人が前に進み出て、和心を訝しげに舐めるように見る。
今日という一日を学内戦が無事に終了する事だけを考えていた上、数日前と今日のカタラの襲撃に加えて、目の前に突然現れた異種族の子供。何か関係しているのではないかと疑うのも無理はない。
「それは…………」
「信用できなければ拘束するべきですよ! 奴らの仲間かもしれないんですよ!?」
「………………」
「神代先生!」
この教師が言っている事は最もだ。凛自身、和心の事は自分が持ち合わせている情報と照らし合わせて、味方だと判断したが、他人に信用できると言える程の付き合いもない訳だ。
今行っている問答は実に無駄な事だ。特に戦場と化しているこの場では。だがしかし、味方だと証明する方法がない今、味方である目の前の教師には気絶してもらうしかない…………そう考えた凛は異能を行使しようと、
「――和心ちゃんは我々の味方ですよ」
突如、避難場所となっている修練場の方向から一人の男性こちらに歩いてきて、和心を擁護した。その男性に見覚えというよりは、良く知っていたので、凛は行使しようとしていた手を止めてその名前を呼んだ。
「牛雄さん!」
「おう、久しぶりだな凛。……とりあえず、挨拶はこれくらいにしてっと。和心ちゃんは鳴神家で預かっている大事なお客様で家族だ。それを難癖つけようとする輩はたとえ坊ちゃんが通う先生だろうと…………」
「ひょえっ!?」
宗士郎と同じ道場で鍛錬を積んでいた凛は牛雄の事を良く知っていた事もあり、説得を任せる事にした。身体の大きな牛雄が両手をゴキゴキと鳴らして、凄んだことで、抗議してきた教師が震えがり、「その女の子は味方です」と周りの教師達に説明しにいった。
「これでやりやすくなったろ」
「流石でございます! 牛雄おじちゃん!」
「そうだろ? ……さて、お前が指示を出してくれ凛。今いる面子の中じゃあ、上の化け物はお前しか倒せる奴がいないんだろ。だったら、周りの雑魚共は俺達に任せておけ」
「…………はい! 全員聞きなさいッ! 上空にいる魔物は私が処理します。異能を持つ生徒は防衛線に近づいてくる魔物を掃討! 持たない生徒や先生方は修練場内で感覚武装を作成している菅野さんから各種武器を調達し、戦線に! 決して、後ろに抜かせるなッ!」
「「はいッ!」」
牛雄の気遣いで心の余裕ができた凛は戦場にいる全ての人間に大号令をかけた。気迫の籠った大号令に否が応でも闘争の士気が上昇し、冷めた戦場の熱を再び再燃させる。
「牛雄さん、他の門下生の人達も連れて武器を取りに行ってください。剣型の武器も揃ってますので」
「了解」
「和心さん、攻撃に加われますか?」
「はいでございます! と言いたいですが、結界の維持にかなり力を使ってますので上空の魔物討伐の手伝いをしますね!」
「十分です」
牛雄は修練場に向かった生徒達の後を追いかける。さらなる助っ人が加わった今、学園を攻めてくる低級の魔物の相手はどうにかなりそうである。
正直な所、凛は危険度Sとの戦闘経験がないに等しい。危険度Sの魔物は出現する機会が非常に少ない。数年前にD.Dと戦った時は多対一の形で戦闘をしたので、経験という経験が今一つなのだ。
だが、上空の魔物が危険度Sだとしても、ここで敵を挫いておかなければ、今後の防衛に差し支える。和心の言った通り、結界がいつまでも持つ保証がないのなら、必殺の一撃で決めるほかないだろう。
「――っはあっはあ、神代先生ぇ~! 菅野さんからの預かりものです~!」
「夢見さん!?」
敵を倒す算段を考えていた凛の元に後方で避難者の世話をしていた幸子があるもの片手にこちらに走ってくる。すると、走ってきた幸子の元へ…………
「すみません! ゴブリン二体、仕留めそこないました!?」
と、生徒の注意通りゴブリンが防衛線を抜け、幸子の方に向かって棍棒片手に殴りかかってくる。
だが、
「っはあっはあ……きゃ! 痛っ……!」
「グギャギャ!? グギャアッ!?」
走っていた幸子が急に何もないところで転び、装備していた光線剣をうっかり手放していしまい、ゴブリンの方向へと転がる。そして、何らかの拍子にスイッチが入り、クオリアで構成された刀身が運よくゴブリン達を薙ぎ払った。
「いてて、なんでこんな所にボールが。あ、そうだ! 神代先生!」
「え、はい」
相変わらずの幸子の幸運に、初めての和心も普段から見ている凛も思わず呆けてしまい、幸子に名前を呼ばれて、凛は意識を引き戻した。
「ええと、『戦闘服』の収納された新装備、だそうです」
「指輪? ……ええ、わかりました。ありがとうございます。菅野さんにお礼を言っておいてください。夢見さんも早く中に戻った方がいいですよ」
「はい! ……ああっ、神代先生!」
『戦闘服』の収納された指輪を受け取り、右手の人差し指にはめると、戻ろうとした幸子に名前を呼ばれると、
「ここにいる全ての人に幸運を…………! 神代先生には最大限の祝福を! 絶対に死なないでくださいね!」
「……ふふ、ありがとうございます夢見さん。貴方にも幸運を」
幸子に幸運を祈られ、凛は素直に感謝する。不思議と心の内から勇気が湧いてくるような、そんな感じがしないでもなかった。
そのまま幸子が修練場へと戻り、和心にどういう作戦にするかを聞こうとすると、和心は驚いた表情を浮かべていた。
「どうかしましたか?」
「周囲の力が…………いえ、なんでもございません!」
「そうですか、では……」
以前の教訓を思い出し、指輪に念じる。すると、指輪が蒼く光を放ち、次の瞬間には純白の中に凍えさせるイメージを彷彿とさせる水色の法衣を身に纏っていた。
「! 以前よりも力が……! これならいけますね」
法衣を身に纏った凛が異能の根源たるクオリアをさらに身近に感じて、ぎゅっと拳を握る。法衣からは全てを包み込むような冷気の本流がドライアイスのようにあふれ出ていく。
「それを作った方は凄いでございますね」
「……ええ、自慢の生徒ですから。その生徒達を守るためにも、ここ死守し、敵を倒します!」
「はいでございます!」
元気のいい声をあげる和心にも力をもらいつつ、凛は必殺の一撃を考え、提案する。
「上空の魔物を一撃で葬る為に、力を溜めます。和心さんにはその間、露払いをお願いします。溜まった後、魔物を拘束をお願いしたいのですが、いけますか?」
「モチのロンでございます!」
凛が右手に添える様に左手を重ね、天へと掲げる。意識を集中させ、内に眠る自らの全クオリアを右手の一点に集約させていく。
その姿は言うなれば、氷結界に佇む女王のよう。凛の周りにとてつもない密度の冷気が漂い始める。
「お、おい。神代先生がアレの構えをとったぞ!?」
「ええ~!?」
「溜めの時間が必要らしい! それまでミジンコ一匹ここを通すな!」
「「わかった!」」
生徒達が凛が行おうとしている技を知っているらしく、声を掛け合って一致団結。先程よりも「誰かを守りたい」という気持ちが高まり、凛の準備の邪魔はさせないと、気合いが高まる。
「神代先生があそこまで頑張ってるんだ…………僕も宗士郎さんとの特訓で得た力で魔物を倒す!」
前線に立っていた宮内が凛に感化され、意気込み、迫りくる魔物の群れに突撃していった。
「下級生に負けるな~~~~! 私達もいくよ!」
「うん!」
「言われなくても!」
されに宮内の勇猛果敢に戦う姿を見て、蘭子が光線銃を手に同学年の生徒達に呼びかけ、それぞれの持ちうる異能と武器で魔物を殲滅していく。
「(この学園は私一人の手で守るのではありません。生徒、教師……その他の誰かを守りたいと思い戦う全ての人で学園を守るのです。皆さん、頼みましたよ……っ!)」
凛の眼に勇敢に戦い続ける生徒達が映る。怪我をする者、敵を倒す者、恐いのを我慢して、戦場に立つ者。その全てが凛に力を与える。
「ガーゴイルが行ったぞ!」
「任せて!」
翼を持つ悪魔にでも似せた石造の魔物が空中を滑空して、凛に肉薄する。それを火を操る異能の持ち主の女子生徒が火弾を発射する。だが、空中でひらりひらりと躱され、凛まで残り3メートルまで接近を許してしまう。
「危ない神代先生!」
「お任せください! ……我が身に宿る妖狐の血よ。我が求めに応え、敵を焼き尽くせ――劫衝波!」
ガーゴイルと凛の間に入り込み、素早く詠唱した和心が妖狐の力を最大限に使った灼熱の炎弾を放ち、ガーゴイルを焼失させた。
「まだまだでございますよぉ!」
「あの異種族の子、凄い……同じ炎使いとして負けられない! はぁ!」
迫りくる敵を生徒達が一丸となって討伐していく。疲労の顔をしているものもチラホラ存在するが、仲間の鼓舞や気合でなんとか乗り切っているようだ。
「――よし、オジサン達と交代だ! 後ろで休んでな!」
「ここで女の子に良い所見せるぞ~!」
「馬鹿野郎! ここにはウチの娘も通ってんだ! そんなことをしたら、まずはお前から血祭りにあげるぞッ!?」
戦い続ける生徒達と交代して魔物の殲滅に入ったのは、先程武器を取りに行った牛雄と牛雄と同じく、鳴神家の道場の門下生をしている伊散に玄さんこと玄十朗だった。それぞれの手には光線剣が握られており、鍛え上げられた身体で敵をばったばったと倒していく。
「和心さん! 溜まりました!」
「っ! 了解でございます! ……我が身に宿る神天狐である母の血よ! 我が求めに応え、敵を動きを封じろ! ――業炎縛縄!!」
技の溜めが終わった凛の呼び掛けに応え、詠唱を済ませた和心が両手を合わせて叩くと、上空の魔物が突如現れた炎の縄が敵を縛り上げ、動きを封じた。
「今でございます!」
「皆の頑張り、無駄にはしません! 凍てつき、砕け散りなさい――優雅たる凍久ッ!」
周囲に漂っていた冷気すら、右手へと集約し、渦巻く大粒の雹が巨大な氷弾となり、上空の魔物に向けて解き放たれ、身体を撃ち抜いた。
魔物の身体を貫通した氷弾は大粒の雹となり、魔物を包み込んだ後、凍結、砕氷した。
「宗士郎君、皆…………やりましたよ」
空から雪のように降る魔物の残骸は光に反射され、勝利の美を飾ったのだった。
学園にいる生徒や鳴神家の門下生の助力のおかげで、危険度Sとされる魔物を撃破。
後は残った魔物を殲滅するのみ…………
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