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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第五十話 それぞれの戦い

 




「落ち着いて避難して!」

「先走って自分だけが助かろうなんて考えちゃだめですよ~!」


 いち早く南の方面に着いた楓と響は避難誘導をしていた。地図で見た通り魔物の数が少ない所為か、南側は魔物の侵攻が他よりも遅かったようだ。


「この様子なら、こっちの避難は上手くいきそうね」

「俺達が来るよりも先に、門下生の人達が避難誘導してくれたおかげだね」


 既に二人が着いた頃には鳴神家の門下生達が避難誘導をしていた。連携を取りつつ、避難誘導を進めていく。


「遊んでいるのか、それ程余裕があるのかわかんないけど、魔物の動きが遅くて助かるな~」

「カタラが使役している所為もあるでしょう。野生の魔物だとこうはいかないわ」


 話している内に徐々に距離を詰めてくる魔物達。隊列を組むかのように、危険度D〜Eの魔物――ゴブリン、コボルド、狼系の魔物の順に並んで侵攻してきている。比較的に数が少ないといったが、それでも優に五百近くの魔物がいる為、物量に押されれば最後、命を落としているだろう。


 なので本格的に攻め入られる前に、ここは一度に多大な損害を与える方が得策といえる。


「さっさと畳んだ方がいいわね…………響。アンタ、広範囲爆撃とかできたかしら?」

「それは無理かなあ。一度に大量の石を飛ばせる投石器とかでもあれば話は別だけど」

「地雷みたいなのは?」

「それでもいいけど……最悪、爆破の衝撃で地盤が緩んで、避難どころじゃなくなるよ?」


 響の異能で石を爆弾に変え、敵に大量の石を飛来させる事で広範囲で爆撃できる。だが、肝心の広範囲に飛ばせる物がない、そして逃げ遅れた人がいた場合に被弾させてしまう可能性があるので、不可能。そして、地面や物体を爆弾に変えた場合でも避難に支障をきたす場合が高い。


 自分と響のメンバーで組ませたという事は宗士郎に考えのあっての事だろうと楓は考え、時間のない中で最適解を導きだす。


「正面の敵だけを吹き飛ばすのは?」

「それならできる。ただ連射が遅いから楓さんの異能で足止めをお願いするよ」

「わかったわ、期待しているわよ」


 そういって楓は後ろに下がるが、響は呆けたように楓を見る。


「…………何よ?」

「いや、期待されてるとは思わなかったから。いつもなら〝さっさとやりなさい愚図〟とか言ってくるし」

「言わないわよ! 私には魔物の軍勢を前にして、敵を倒せるような手段がないから…………だから期待してるわよ」


 宗士郎には甘い楓だが、響にはとことん厳しい態度だったので、期待されるとは露ほどにも思わなかったようだ。少し、いやかなり嬉しい気持ちが響の心を満たす。


「……なんか新鮮だな。よしっ、見せてやる! 俺のとっておきをな!」


 その期待に応える為、響は意気込んだ。


「はぁああああ…………!」


 少し離れていてと楓に言い、右手を突き出し、意識を集中。そのまま普段、爆弾に変える対象を空気に変更し、少しずつ爆弾へと変化させていく度にエネルギーが集束していく。


 その間、響に集まるエネルギーを感じてもなお、魔物の動きが止まる気配はない。おそらく使役されている影響で魔物としての生存本能が麻痺しているのだろう。


 だが、そんな事は今の響には関係ない事だ。


 突き出した右手の空間にエネルギーが溜まり続け、熱が立ちこみ始めた。大気がビリビリと震え始め、傍で見ていた楓が思わず竦む程にエネルギーが集束する。


「喰らえ、魔物共! これが俺のとっておき――!!!」


 右拳を握りしめ、集束したエネルギーに向かって振りかぶって拳をぶつける。


「――穿てッ! 滅龍砲(アボリションカノン)ッ!」


 瞬間、視界を埋め尽くす程の閃光が迸った。集束されたエネルギーを殴りつけ、爆破させる事により指向性を持たせたエネルギーは衝撃破と熱量を持ち、眼前の敵を穿ち、消滅させていった。


「…………な……!?」


 まさに全てを穿ち、滅する一撃。『戦闘服』を着ている影響で、元々の威力が倍以上となり、閃光が迸った先は魔物も建物の一切合切が塵となって消滅していた。


「はん! 魔物も大したことないな!」

「っ、バカ!? それはフラグ――」


 響が魔物を倒し、侮った瞬間、残った魔物が響の存在を危険と判断したのか一斉に特攻をかけてきた。あれほどの威力、そうそう連続で撃てるものでもない。威力が高いという事は、それすなわち異能の源であるクオリアの消耗が激しいという事。


 響がエネルギーを溜め込んでいるのを気にせずに進攻してきたのは、魔物が相手の出方を窺っていたという事であり、残った魔物は技の溜めが長い事を観察して理解したのだ。


 響に向かって魔物の軍勢が破竹の勢いで攻め入ってくる。さながら街を飲み込む巨大な大波のようだ。


「――ッ!」


 滅龍砲(アボリションカノン)のあまりの威力に数瞬、我を忘れていた楓は瞬時に意識を引き戻し時間を巻き戻し始めた。


 魔物全体にかけた時間逆進(リワインド)は消滅した魔物の時間は戻らず、攻め入ろうとしていた動作自体を五秒間だけを巻き戻す。だが、それだけでは終わらなかった。


「……えっ、嘘……!? まだ時間が戻っていく…………!?」


 過去の経験により、自らの異能の力に制限をかけていた楓は時間逆進(リワインド)などの時間操作を行う場合、操作する時間を『五秒間』と無意識に設定していた。五秒、時間が戻り、響が再び準備をする時間を稼ごうとしていた楓は面を食らった。


 最終的に巻き戻した時間は()()()。制限をかけていた時間の約二倍の時間を巻き戻した。


「やるじゃない……っ、あの子」


 感覚結晶(クオリア・クリスタル)で出来た、『戦闘服』を収納し、瞬間装着できる指輪を開発した芹香の実力を認め、感謝する。これほどまでに力を発揮できるのなら、避難が済むまでに魔物を押し留めるばかりか、殲滅できるだろう。


「響! 魔物をなんとかするから、さっきの準備をしなさい!」

「お、おう!」


 響に声をかけ、楓自らも魔物の動き自体を再び巻き戻す。クオリアの消費効率も上がっているおかげで、異能が使えなくなる程に使用する心配はない。


「(こっちはなんとかなりそうだわ。士郎、柚子葉……任せたわよ。みなも、あなたも大事な人を守る為に頑張りなさい)」


 心の中で全員にエールを送り、気持ちを引き締めると目の前の敵を殲滅する事に専念し始めた。







 ――楓達が魔物との交戦を開始したのと同時刻。


「きゃ!? 何、この地響き……っ!」

「この方角、南か。って事は沢渡がおっ始めたって事だなぁ!」


 西で魔物を食い止めながら、避難誘導をしていたみなもが驚く。


「これを響君が!? 何をしたら、ここまで衝撃波が届くの!?」

「何か必殺技とかでもあったんだろ。それよりも気を緩めるなぁ、壁を壊そうと攻撃してきやがる」


 みなも達が西側に着いた頃には見敵必殺の勢いで進攻され、避難民が逃げ惑う構図が出来上がっていた。


 避難誘導を開始する際、神敵拒絶(アイギス)の光壁で押し留めていたが、徐々にその壁に綻びが生じ始める。


「んっ! わかってるっ」


 さらに異能の出力を上げ、強度を増す。ゴブリンやオークが体当たりをするもびくともせず、鬱憤を溜め込むのが見て取れる。


 せめて、みなも達の後方で避難している人達が学園へ少しでも近づけるように時間を稼ぎたい所だ。


 しかし――


「――通してください!? 息子がいないんです!」

「えっ?」


 避難の波から押しのけるようにして、出てきた夫婦が悲壮な顔でみなもにすがってきた。


「どういう事だぁ? さっき、逃げ遅れた人がいないか確認したはずだろ」

「さっきまではいたんです! でも目を離した隙にっ」


 閉じ込められる事がないように、光壁を展開する前に逃げ遅れた人がいないかを確認していたはずだったのだが、どうやら逃げ遅れてしまったらしい。光壁の内側――みなも達がいる側にいれば、よいのだが、その期待はもろく崩れ去る事になる。


「――お母さん!? お父さん!? 助けてぇえええッ!!!」


 男の子の泣き叫ぶ声が聞える。ただし、内側ではなく、外側から…………


「ぁぁっ!? 大変っ、今助けに行くからねーーーッ!?」

「待て! 今は魔物を食い止めてるんだぁ……! 今、異能を解いたら魔物にやられるぞ!?」

「そ、そんなっ……」


 亮が助けに行こうとした夫婦の手を引っ張り、説得を試みる。それは暗に「あの男の子を見捨てる」と言ってるようなものだった。


 夫婦の目元に涙が溜まる。助けられない、見捨ててしまうという事に悲しみを覚えているのだろう。


「――榎本君、あの子を助けるよ……っ!」


 そんな悲しみを払拭する声がみなもから発せられる。突然のみなもの提案に亮は耳を疑う。


「馬鹿かお前は!? 今異能を解いたら――」

「今あの子を見捨てたら、この人達は一生苦しむ! もちろん、この私も!」

「桜庭ぁ、お前…………」


 みなもが助けたい人は『家族』『友達』『他人』だ。大切な人でなくとも、助けたいという正義の心。だがそれは甘さの象徴。危険がありながらも人を助けたいみなもの根っこ部分にある気持ちだ。


 亮からすれば、その甘さを指摘されてもなお、己を貫き通そうとするみなもは輝いて見えた。


「私があの子がいる近くに穴を開けるから、榎本君が助けにいってあげて!」

「……ったく、しょうがねぇなぁ。五秒後に開けろ」

「っ! ありがとう、榎本君!」


 異能を発現させ、両腕に炎を纏るとカウントダウンを始める。


「五……四……三……二……一っ!」

「ゼロ!」


 ゼロになったと同時に、みなもが神敵拒絶(アイギス)の光壁の一部を歪めて、大人一人が通れる程の穴を開けると、亮が一足飛びにその中へ飛び込んでいった。


 壁の向こう側にはこちらに気付いていない魔物達と今まさに襲われようとしている男の子。


「シッ!」


 両腕から連続して爆炎を飛ばし、男の子に襲い掛かっていた魔物達を吹き飛ばす。突然の光景に呆気に取られていた男の子を異能を解いた左手で掻っ攫い、右手から爆炎を噴出させ、推進力を生み出して高速で内側に引き返した。


「桜庭ぁ! 閉じろぉおおお!」


 亮を追いかけてきた魔物が内側に入るその前にこじ開けていた光壁を元の状態に戻す事に成功した。推進力を生みだしていた爆炎を解いた亮はその手で男の子を守りながら、地面を転がった。


「っいってえ……! 無事かぁ、坊主?」

「うん! お兄ちゃん、カッコよかった!」

「そりゃあ良かった」


 安否を確認すると、男の子は笑顔で答えてくれた。そんな男の子の前に夫婦がやってきてお礼を述べられる。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「君のおかげだよ。本当にありがとう!」

「ああっと、俺のおかげじゃないぜぇ? お礼はあっちで、避難しやすくしてるお人よしの甘ちゃんにしてやってくれ」


 必死に敵を食い止めているみなもの元へ親子共々、頭をガクンガクンと凄い勢い下げられ、お礼を言われる。


「君もありがとう! 君みたいなお人よしがいなければ、息子は助からなかった! 本当に、ありがとう」

「えええ!? そんな当たり前の事をしただけで……ってあれ? なんか微妙にバカにされてる気が…………?」


 男の子の父親がみなもの手を掴んでお礼を再び言われる。本人にその気は全くないのだろうが、遠回しにバカにされてる気がしてならないみなもだった。


「まあいいや! 早くここから離れてください。いつまで防げるかわからないですから」

「はい! 本当に、ありがとうございました!」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! ありがとう!」


 手を握られているみなもは、光壁を維持するのに必死な上に意識の半分以上を目の前の親子に向けている。このままではすぐに光壁が崩れてしまうと考えたみなもは早くこの場から離れるように言うと、すぐに避難場所の学園の方向へと走っていった。


「桜庭の残念さは他人にも伝わるんだなぁ」

「私、泣いてもいいかな?」


 亮の発言に戦闘中にほろりと涙を零すみなも。その涙と湧いた悲しみを拭い、目の前の敵に集中しなおす。


「むしゃくしゃしてきたから、この状況を作った魔物をボコボコにしたくなってきたよぉ、くひひ」

「さ、桜庭ぁ?」


 ヤンデレのような表情をしつつ、不吉な笑いを浮かべるみなもに亮が引き始める。


「なんて冗談は置いておいて……早く終わらせて、援護にいかないと」

「ああその事なんだがなぁ、案外早く終わるかもしれねえぞぉ?」

「どういう事?」


 亮の言葉に首を傾げるみなも。


「さっきから、異能の力が膨れ上がってる気がするんだ。多分、この『戦闘服』って奴のおかげでな」

「……! 確かに気を緩めなかったら、いつまでも展開できそうな気もするよ!」

「てなわけで、さっさと終わらせるぞぉ!」

「うん!」


 今もなお光壁に突撃する魔物の軍勢を前にして、再び爆炎を纏った亮が気合を入れ、みなももそれに答えるのだった。







 ――響の滅龍砲(アボリションカノン)が敵を屠ったと同時刻。


「どうした、この程度か! せあッ!!!」

「雷槌っ!」


 他よりも圧倒的に魔物の数が多い北側で宗士郎は喜々として刀を振るう。闘氣法にて強化した身体を操り、軍勢のど真ん中へと飛び込み、縦横無尽に駆け抜ける。宗士郎が駆ける度、目の前にいた魔物は宗士郎の神速の一撃を目にすることなく、刈り取られていく。


 そんな宗士郎の邪魔をしないように柚子葉が得意の『雷槌』での広範囲攻撃にて、一瞬にして数十もの魔物が焼き殺す。


 五百以上もいる魔物の軍勢など、この二人の前ではいないのも同然。せめて危険度Aの魔物を百体程援軍に持ってこなければ、ものの十分程で殲滅されつくされてしまうだろう。


「……弱過ぎるな」


 柚子葉と背中を合わせになった宗士郎が呟く。


「お兄ちゃんが強いのもあるけど、確かに弱いね。危険度Aの魔物も数匹しかいないし…………」

「これくらいで、敵であるカタラが急げなんて言うとは思えない。何かあるぞ、気を引き締めろ」


「うん。ふふ……!」


 警戒を促すと、柚子葉がくすりと笑う。


「どうしたんだ?」

「お兄ちゃんと一緒に戦えるのが嬉しくて…………! それだけだよ!」

「おかしな妹だな。まあ、俺も一緒に戦えて嬉しいけどなっ―――!」


 迫ってきていた魔物共に『概閃斬』を放ち、両断する。


 やはり手ごたえがなさすぎる。ゴブリンやオーク、その他の低級の魔物では宗士郎の相手にもならないが、危険度B~Cの魔物でも足止めをする程度にしかならない。


「そろそろ強い奴とやりあいたいな…………ふっ!」


 闘氣法――生命探知術の『索氣(さくき)』を使い、生命力の高い氣を探る。存在するのは弱い魔物だけだった。


「(おかしい。俺達の街を襲うはずなら、こんなに貧弱な魔物をよこすわけがない。時間稼ぎをしているとも思えない……どういう事なんだ?)」


 北側にいるのは軍勢とは名ばかりの低級の魔物の寄せ集めだった。ただ数を揃えただけ、そうとしか考えられない程に弱く、脆い。時間稼ぎをする理由にも心当たりがない為、考えだけが宗士郎の頭を縛る。


「――あらぁ、流石でございますねぇ。ここまでとは私も驚きでございます」


 不意に上空から声が聞えた。それと同時に周囲の魔物が首を垂れる。


 聞き覚えのある憎たらしい声に上空を見ると、そこにいたのは――


「カタラ!?」

「はいぃ。ごきげんよう、鳴神 宗士郎様ぁ……!」


 魔物を放ち、修練場から姿を消したカタラだった。




再び姿を現したカタラ。その意図はいかに……



今日からしばらくの間、流浪の旅に出ますトホホ泣


本当は旅ではなく、テスト週間な訳ですが、テスト期間中に小説を書きながら単位を取れるとかいう天才君でもないので、29日まで勝手ながら休載させて戴きます……泣


本当に申し訳ありません。この作品を読んでくれる読者の皆様にはご迷惑をお掛けしますが、見放さず待ってくれる事を祈ります!


ではそれまでお元気で!

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