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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第四十九話 災厄の到来





 告げられた名前を反芻していく。


『カタラ』――北菱に魔物を卸し、一度は学園を襲った者。魔物を街に大量に解き放とうとする者。そして……宗士郎に異能を授けた神、アリスティアが言っていた『危機』をもたらす者。


「――ッ!!!」


 目の前の奴がこの世界に厄災を運び、大切な人を危険に追いやるかもしれない。コイツは……目の前にいるコイツは…………敵だ。そう判断した宗士郎は腰に引っ提げていた相棒であり、愛刀の『雨音』の柄を掴み、濃密な殺気をカタラに放った。


「あらあら、熱烈な視線ですねぇ~。思わず、疼いてしまいましたぁ……!」

「適当な事を言うな。一歩でも動いたら殺す。魔物を放つのをやめろ」

「あれぇ~? 交渉できる立場だと思っているんですかぁ?」

「……何だと?」


 カタラから一切、視線を離さず、宗士郎は思わず聞き返した。カタラはその様子を喜々として見ると、修練場を一周するように歩き、話を続ける。


「何故、他の生徒が静かなのか……わかりかねますか?」


 観客席を見やる。特に何も見受けられないが、観客席にいる全ての生徒達が揃って萎縮していた。まるで、何かに怯えているいるような様子で。


「何も見えない……よな? わかるか、鳴神ぃ?」

「わからない……いや、まさか…………!」


 亮の言葉でハッとする。


 何もいないのではない。()()()()()()()()。眼に見える物が真とは限らない…………そう考えた宗士郎は体内に巡る生命力を闘氣として練り上げると同時に、全方位に向かって闘氣の波を放射した。


 ――闘氣法 生命探知術、『索氣(さくき)


『闘氣』は生命力を練り上げて作られるものであり、生物ならば微少でも『氣』は存在する。宗士郎の放った闘氣の波は生命探知機(ソナー)としての役割を果たし、あらゆる生物の『氣』と交わる事で反応する。いくら存在を誤魔化そうが、生物である以上生命力の根源である『氣』は誤魔化す事は不可能。


 案の定、闘氣の波が通った観客席の一部に、生徒達の『氣』に混じって、他よりも大きな生命反応が複数体、混在していた。


 宗士郎は瞬時に創生した刀を握りしめ、大きな生命反応がある全ての部分に向け、複数の『概閃斬』をお見舞いした。


「おお、これは驚愕ですねぇ」


 毛ほどにも驚いていないカタラがわざとらしく、驚いた素振りを見せた。次の瞬間、観客席の一部の空間がズルリとずれ、次第に露わなった存在の血潮が飛び散る事になった。


「あれは……!? 魔物!? それも危険度AやBの魔物が隠れてたってのかっ!?」

「お見事です、学園最強の剣士――鳴神 宗士郎様ぁ。()()で使役し隠蔽した魔物をこうもあっさりと見つけ出すとは…………いやはやっ、全く感服しましたよぉ?」

「やっぱりか……お前、異界から来た奴だな」


 ケタケタと笑いながら、身振り手振りで驚きを示すカタラ。


 その言動に宗士郎は確信した。


 ――カタラが『異界』から来た者だという事が。


「異界? ああ~! こちらではそう呼ばれているのでしたねぇ。ピンポンピンポン~! だぁい正解」

「そうか、正解ついでに魔物を放つ事もやめてもらいたいものなんだが?」

「残~念っ、それは出来かねますねぇ。命令に背く事にもなりますのでぇ~」

「ほう、それは残念だ。誰に命令されているのかも知りたいが、どうせ答えないだろう? なら、今ここでお前を斬る」


 おちゃらけるカタラからこれ以上の有益な情報を引き出せないと考えた宗士郎は魔物の大群を放たれる前に、魔物を使役していたカタラ自身を斬り捨てる事にした。だが、またもやカタラがケタケタと笑った。


「あっ、私を殺して……〝これで安心! 万歳!〟って、考えているなら、考えが甘々ですよぉ。あくまで野生の魔物を使役しているだけであって、私自身が呼び出した訳でもないですしぃ? 私の制御下から離れれば、使役されていた魔物は本能に従って、敵という敵を蹂躙しまくりになるんですよぉ~。アッヒャッヒャッヒャッ!」


 してやったりと言わんばかりに、得意げな表情で高笑いをするカタラ。元々、希望的観測に基づいての発言だったが、残念な事には変わらない。


 さて、どうしたものかと宗士郎が思案していると、


「――神敵拒絶(アイギス)ッ!」

「――(ひょう)(そう)! 乱れ咲きッ!」


 宗士郎より後ろ、亮よりもさらに後ろから、躊躇いのない声と凛とした声が聞えた瞬間、カタラの四方が光の壁にて固め上げられる。そして、唯一の逃げ場である上空から、一人の影と共に氷槍が圧倒的物量でカタラのいた場所を破壊しつくした。


 氷槍が幾重にも重なった場所に砂塵が立ち込める中、宗士郎達の目の前に一人の女性が降り立った。


「怪我はありませんか? 宗士郎君、榎本君」

「アンタは、神代先生!?」

「凛さん! どうしてここに!?」


 カタラを攻撃したのは、先程別れた凛だった。髪をかき上げ、宗士郎達の疑問に答える。


「学園長に会う為に別れた後、もう片方の会場に行ったのですが、どこから侵入したのか魔物であふれかえっていまして。そちらは何とかなりそうでしたので、柚子葉ちゃん、それに沢渡君と二条院さんを含めた生徒と先生で対処してもらい、こちらに援軍に来た次第です」

「なるほど。そういえば、見覚えのある技も見かけたようなぁ……?」

「みなも、参上! なんつって……!」


 どうやらもう片方の試合会場にもカタラは魔物を放っていたようだ。響や楓を含めた実力者がいれば、安心だと判断し、凛が援軍を連れてきてくれた事には感謝の言葉しかない。そんな凛の援軍は後ろから正義の味方、仮〇ライダーのセリフと香ばしいポーズを決めて立っていた。


「なんだ、残念娘――ザンネィダーじゃないか」

「何その、店で他の人気ライダー人形が売れる中、在庫が余る程に売れ残った残念そうなライダーの名前はぁ!? 売れ残ったって言いたいの!?」

「援軍ご苦労。撤収」

「酷い!?」


 相変わらずの寸劇を繰り広げる程に弛緩した空気。みなもは周囲の雰囲気を柔らかくするのにはうってつけのアイテムのようだ。


 そんな緩み切った空気を断ち切るように、修練場の上部にある窓辺から声が響き渡る。


「いやぁ~危ない危ない。魔法を使えても、私の身体は貧弱も貧弱、腐敗した肉体のようなものですからぁ、お手柔らかに頼みますよぉ」


 いつの間に移動したのか、無傷のカタラはそこにいた。いったいどういう手品を使えば、あの状況を無傷で切り抜けられるのか。


「先日ぶりですね。あの時の借りは返させてもらいますよ」

「あなたはあの時の虫ですかぁ。残念ですが、私も~色々と忙しいのでぇ~そろそろ退散させてもらいますねぇ」

「っ、待ちなさい!?」


 カタラがサッと手を振ると、どこからともなく黒色の飛竜が修練場の窓を破壊し、中へと侵入。すぐさまカタラの目の前でホバリングし、カタラが飛竜に飛び乗ると踵を返そうとする。その直前、カタラが後ろを振り返り、助言――いや、悪夢の宣告をした。


「――ああぁ! 言い忘れてましたが、街の外に二千体程、遠隔で魔物を放っておいたので、頑張って対処してくださいねぇ? ゆっくりぃ~進軍させてますが、早く対処しないとぉ、大変な事になりますからねぇ! それではごきげんよう~!」


 最悪な事実を伝え、さぞ嬉しそうな愉悦の笑みを浮かべると、カタラは飛竜で飛び去って行った。そんなカタラを逃がすまいと、亮が炎を迸らせ、爆炎を放とうとする。


「逃がさねえぜ! 炎狼(バーン)――!!!」

「やめておけ、榎本」

「何すんだぁ……? 止めるなよ」

「この距離じゃ、榎本の攻撃は意味をなさない。それよりも優先すべき事がたった今できた」


 爆炎を放とうとする亮の肩を掴んで止める宗士郎。かなり不満げな表情だったが、ここは飲み込んでもらうしかない。街に、大切な人達に危険が迫っているのだから。宗士郎の真っすぐな瞳が亮の瞳を覗き込む。


「……ちっ! それもそうだなぁ。で、どうするんだぁ?」


 亮が燃え上がらせていた両腕の炎を解き、宗士郎達に向き直った。亮もカタラの言っていた事をしっかりと聞いていたようだ。そんな亮に感謝しつつ、話を続ける。


「とにかく時間がない。まずは魔物の正確な位置と数を探る。奴が言っていた事が本当だとは限らないからな。それが分かり次第、学園の修練場を避難場所に設定し、街の住人に避難誘導を」

「位置と数なんて、どうやって探るの?」


 みなもが首をかしげる。


「俺が探ってもいいが、時間がかかる。凛さん、確か後期課程三年の人に索敵系の異能の持ち主がいましたよね?」

「ええ。確か、街の地図があれば、位置と数も探れたはずです」

「なら凛さんはその人に接触し、索敵が終われば、学園全生徒の端末に地図データを転送してください。その後は生徒達の中から、防衛メンバーを選抜。学園で避難所の防衛指揮を執ってください」

「わかりました」


 魔物の殲滅の前にまずは住民の避難を済ませなければならない。戦闘の巻き添えを喰らわせてしまうと目も当てられないからだ。自らの役目、責任、秀でている事を鑑みて、凛は生徒であり、年下である宗士郎の作戦を素直に受け入れた。


 凛は観客席にいる生徒達と先生達に事情を説明し、すぐに件の三年の生徒に接触しに向かった。ぞろぞろと移動を開始する。


「俺達だが、避難誘導をしながら敵を各個撃破。うちの門下生達も避難誘導をしているから、協力と情報交換を密に頼む。避難誘導が済んだら、火力に優れている異能力者達で魔物を殲滅だ」

「了解だぁ」

「うん、わかったよ。あっ、先にお母さん達と連絡をとってもいい? 心配で…………」

「わかった。三分で済ませてこい」


 みなもは宗士郎の許可が下りると、携帯端末を取り出して電話を始めた。その間、各個別の仲間に携帯端末から現在の状況と指示内容を書き連ねたボイスメールをまとめて送信する。ただのメールよりも本人の声で聴いてもらった方が信憑性が増すと考えた。次に()()()()を使う為に、ある人物に電話を掛けた。


「――はい、芹香っす!」

「りかっちか、俺だ」

「おお~なるっち先輩! 何か御用っすか?」


 携帯端末越しに聞えたのは、キーボードを打つ音と特徴的な話し方をする芹香の声だった。


「現状は把握しているな?」

『魔物っすよね? もちろんっす!』

「話が早くて助かる。りかっちに頼みたい事があるんだが――」

『――「戦闘服」の事っすよね? モチのロンっす! 既に調整を終えて、なるっち先輩が言っていた数を揃えてるっすよ~!』


 本当に話が早くて助かる。携帯端末越しに心でも読まれているかのようだ。


「助かる。それを今から指定する場所に届けてくれ。その後、りかっちは凛さんと一緒に避難所を防衛してくれ」

『了解っすぅ! では武運を!』

「ああ、武運を」


 プツッと音を立てて、電話を終えた。そろそろみなもの電話も終わる頃だろう。


「鳴神君! お母さん達は無事だって! 今、学園に避難している所だって!」

「それは良かった。魔物に反応して、避難勧告を流れたんだろう」



 みなもの両親は既に避難を開始しているらしい。この分だと、魔物に襲われる確率は低いだろう。


「おい、鳴神ぃ。そろそろ動かねえとやばいんじゃねえのか?」

「そうだな。先に楓さん達に合流してから行くぞ!」

「おう!」

「うん!」









「よし、一人ずつこれを付けてくれ」


 学外に出た宗士郎達は学園の校門前に置かれていた箱から取り出したものをつけていた。


「榎本以外は知ってると思うが、これはりかっち――菅野 芹香が開発した『戦闘服』を瞬間装着するものだ。COQ(コーク)の代わりを果たし、装着者の戦闘能力を数倍に引き上げる」


 芹香が以前に開発したものよりも、さらに開発を重ね、小さく戦闘の邪魔にならないようになったもので、戦闘服を収納している指輪だ(名前はまだ決まってないらしい)。外では生身の身体での戦闘が求められ、危険性が高かったが故に開発された。


「これは戦闘能力を引き上げ、防御力も増すが、痛覚がない訳じゃない。それを留意しておいてくれ。装着する時は〝装着したい〟と念じるだけで大丈夫だ」


 宗士郎はすぐに実践して見せる。念じると、直後淡い光に包まれ、宗士郎の服装が瞬時に変化した。


 所々、蒼く彩られた黒基調の軍服のような服装を身に纏うと、周りから感嘆の声が上がった。


「私も!」

「俺も!」


 みなもに続き、響も念じる事で戦闘服を装着した。が、どんな服装なのか期待していた二人は少しガッカリする事になる。


「あれぇ? 私も軍服?」

「俺もだ」

「ええと、それはだな…………りかっちが〝デザイン考えるのは専門外なので、無難に軍服にしたっす! 男子の下半身はボトムス。女子はスカートで、いわゆるバトルドレスにしたっす!〟らしい」

「そうなのね。別にみんな一緒の方が味方って分かりやすいんじゃないかしら?」

「同感だ。動きやすければ何でもいい」


 楓と亮はデザインに対して、何も意見はないようだ。とりあえず、動きやすい服装なら、何でも良しといった感じで。


「それで兄さん。どう行動する?」


 同じく戦闘服を身に纏った柚子葉が尋ねる。


「全員、さっき凛さんから送られてきた地図を開いてくれ」


 先程、魔物の索敵を終えて、凛から地図が送られきた。芹香の協力により、魔物の位置をリアルタイム表示できる地図を添付してくれたようで、非常に助かる。


 地図によれば、街の囲むようにして、四方に魔物が配置されている。徐々に街の中心である翠玲学園に向かって、虫食いでもするかのように進行してきている。


「敵はカタラが言っていたように約二千。俺達一人一人じゃ、数の暴力で押しつぶされる。だから、不安が残るが、二人一組(ツーマンセル)で行動する。俺と柚子葉で最も魔物の数が多い北、楓さんと響で魔物の数が比較的少ない南を、桜庭と榎本で西を担当してくれ」

「東はどうするんだぁ? 殲滅どころか、守りすらねえぞ?」

「東は捨てる。避難所になってる学園は魔物に周囲から囲まれるように位置している。三方を押さえれば、比較的楽に防衛できるはずだ」


 宗士郎が東を捨てたのには、他に理由がある。


 圧倒的戦闘力で魔物を数十単位で凍結させる事ができる凛。不幸を逆転させ、幸運を運ばせる幸子。先日、感覚拡張(クオリス)教えた事により、さらに異能の使い道が広がった宮内に、回復役の雛璃。そして、その異能にて、あらゆる物を想像で作り出す芹香がいれば、防衛はかなりの確率で成功するだろうと。


 いざとなれば、宗士郎は自らの消耗を度外視にし、魔物の大群を殲滅させる技を持っている。まさに切り札ともいうべき技があるが、これを使わない事を願うばかりだ。


「………………っ」


 これから魔物の大群を相手にする為、全員の身体が微かに震えている事がわかる。それを少しでも和らげ、鼓舞する為に宗士郎は言葉を紡ぐ。


「今から俺達は死地に向かう。負傷するかもしれない、命を落とすかもしれない。だけど、俺は……俺達は大切な人達を守るために戦いに行く。俺は敵を斬りつくすまで、死ぬつもりはない。皆も誰かの為に命を張るのなら、絶対に死ぬ事は許さない…………! 必ず、生きて帰るぞ」


 宗士郎の熱のこもった言葉に全員がコクリと頷いた。それぞれの眼から確かな覚悟と闘志を感じ取る事ができた。


「――武運を!」


 宗士郎はこれから戦場に向かう仲間達に生き残る為の言葉を捧げると、それぞれの持ち場に駆け抜けていった。





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