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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第四十一話 暗中模索

 




「協力感謝する。楓嬢ちゃん、鳴神君、それに君たちも。本当は頼るべきじゃあねえのによ」


 危険度Aの魔物――ドレッドコングを無事討伐した後、宗士郎達は賭博場関係者達を引き渡すべく外にいた。楓が電話で呼んだ警察がパトカーを数台連れてやってきている。


「顔がバレてるかもしれない事や魔物相手だと対応できないから、私達に頼ったんですよね? なら仕方ないですよ」

「あ~、楓嬢ちゃんはそういうけどよぉ。俺のさらに上役の人が〝訳のわからん力を使う子供達に頼るのは警察の威信に関わる!〟なんて言うもんでよぉ? 『異界魔物対策課』なんて作っといてよく言うぜ」


 楓が呼んだ警察上層部の偉丈夫が溜息をついた。既に北菱や四肢を斬り落とされている毒島を含め、賭博場の関係者はパトカーの中に入れられている。


 今は世間話中という訳だ。


「その対策課があるから俺達も動きやすいし、今回みたいに協力して事に当たれるんですから、いいじゃないですか」

「だな! 鳴神君の言う通りだ!」


 男が宗士郎の背中をバシバシ叩く光景を見て、みなもと響が話についていけなくて困惑していた。


「あのぅ、楓さん…………この人がさっき言ってた?」

「ああ、ごめんなさい。紹介が遅れたわね。こちら、パパの友人で警察本部刑事部『異界魔物対策課』の北郷(ほんごう) 秀虎(ひでとら)さん」

「北郷 秀虎だ。よろしくな! えっと……」

「え、ええと!? 翠玲学園後期課程二年の桜庭 みなもであります!?」

「お、同じく! 後期課程二年の沢渡 響でござりまする!?」


 二人が秀虎のヤクザっぽい顔面に緊張しまくって、語尾がおかしくなってしまう。


 顔に無数の切り傷の痕や右眼が切り傷で閉じられている事を除けば、至って普通の警察官なのだが、明らかにヤバイ橋を何度も渡っただろう!? というその顔面の凄みに二人の脚が生まれたての小鹿のように震えていた。


「ハハハ! そう畏まらなくていいって! 鳴神君達と一緒に依頼をこなしたってこたぁ、二人も異能力者なのか?」

「は、はい」

「そ、そうでっす」

「堅いぜぇ、お二人さん! 鳴神君、この二人は強いのか?」


 未だに緊張し続ける二人を秀虎は豪快に笑い飛ばし、宗士郎に眼を向けた。


「響は戦力としては申し分ないですし、桜庭はまだ荒削りですが他人を守る事に関しては俺より凄いですよ」

「ほう、鳴神君がそこまで言うとは…………なぁ、二人とも。学園を卒業したら、ウチに来ないか? ウチは人手不足で異能力者は大歓迎だぞ?」

「ふぇ!? え、私スカウトされてる!? でも『異界魔物対策課』なんて知らないし、私に務まらないよぉ!?」

「おお!? 俺、警察の人に誘われてる!? 流石俺!」


 宗士郎の評価を聞くと秀虎が二人をスカウトし始める。宗士郎がやっぱりこうなったか、と頭を抱えて笑っていた。


「秀虎さん、響は良いですけどみなもはナンパしないで下さい」

「楓さん、酷ぇ!? 俺を売りやがった!?」

「ハハハ! 冗談だって! 人手不足なのは否定しないがな!」


 楓がみなもだけを庇い、響を差し出した。毎度の事とはいえ、響が不憫過ぎる。秀虎にいたっては、冗談ではない程に真剣な声音だった気もするが。


「それで、『異界魔物対策課』って何なんですか?」

「なんだ知らないのか? 公表されてるし、俺達もそれなりに頑張ってんだがなぁ」


 秀虎が『異界魔物対策課』について、頭をかいてから説明する。


 異界魔物対策課というのは十年前の地震以降に発足したもので、基本的に『異界』や魔物に関する事件などに対応する。関係する仕事ならなんでも行動に移し、ごくたまにだが魔物と相対する事もある。


 今回は違法賭博で、賭博場にいる関係者を一網打尽にするべく動いていたわけだが、宗士郎達に依頼した時点では魔物がいるという事はわからなかった。


 何故、本来の分野ではない仕事を依頼したのかは先程楓が言っていたように、もしもの時に動きづらいという問題があった事と依頼が収束した時に引き渡しが容易であるからだ。


 実力者である宗士郎や時間を巻き戻せる楓がいれば、仮に逃げられたとしても直ぐに拘束できるので、秀虎は宗士郎達に安心して依頼したのである。


「人手不足は解消できませんが、異能が使えない人でも魔物と戦える武器を支給してもらえるように宗吉さんに伝えておきますね」

「それはありがてえな! 今度、久しぶりに会って話してみるか」

「秀虎さん、そろそろお開きにしましょう。部下の人達が待ってますよ?」

「おっと、そうだったな。久々に将来有望な子供達に話せたからつい興奮しちまったぜ」


 秀虎が数台あるパトカーの一台の運転席に入り、窓を開ける。すると、みなもが皆の輪から離れて北郷の前に立った。


「ん……? どうした、みなも嬢ちゃん?」

「えっと、賭博場のオーナー……北菱さんはやっぱり裁かれるんですか?」

「そりゃ違法賭博をしていたわけだしな。ましてや魔物を使った賭博だ…………今回、君達が倒さなければ、周辺の住民達に危害が及んだ可能性がある」


 みなもはドレスの裾をギュッと握って、秀虎の顔の圧に押されつつも、絞り出すように言葉を紡いだ。


「魔物を倒した後、北菱さんは魔物の賭博をした事に悔いていました。自分がした事の大きさに気付いて……」

「……それで?」

「だから北菱さんを許してはもらえないかなって…………」


 みなもの言葉を聞いて、秀虎をポカンとした顔を浮かべるが、すぐに呆れたように言葉を返した。


「あのなあ、みなも嬢ちゃん。俺は今日、君に会ったばかりだが、これだけはわかった。君はお人好し過ぎる。物事を甘く考え過ぎだ」

「でも!?」

「仮に本当に反省していたとしても、法は法だ。本気で反省している事が罪を帳消しできる免罪符になる訳じゃねえんだ」


 みなもは側で秀虎が己のした事を後悔していた事に気付いていた。言葉からだけでなく、表情や雰囲気から察してそう思ったのだ。宗士郎達が黙って見守る中、みなもだけが取り残されたように感じた。


「あー、俺個人としては、その考え方は嫌いじゃねえ。だがそれは、国が、社会がその考えを認めない。な?」


 秀虎が頭をガシガシとかいて、優しく諭すようにみなもに話す。会話が途切れると助手席に乗っていた部下の一人が秀虎に耳打ちする。


「おっと、そろそろ時間だから行くぜ。ま、みなも嬢ちゃんがそう思うならそれを突き通すのも悪くはない。でも、その甘さが周りの不幸に繋がらないようにな」

「はい、ありがとうございました。お気をつけて……」

「おう、またな。鳴神君達も機会があればまたな!」


 パトカー数台を連れて、秀虎が去っていく。その場に取り残されたみなもは周りからは小さく見えただろう。


「桜庭、誰かを救うつもりなら、その甘さは捨てろ」

「鳴神君……」

「敵だった奴に情けをかけると、痛い目に遭う。その優しさは美徳だと思うけどな」


 宗士郎はみなもに背を向け歩き出す。響と楓がみなもの側に近寄ってくる。


「みなもの為を思って言ってるの。悪気がある訳じゃないわ」

「わかってます」

「宗士郎は身近にいる人しか見えないんだよ。敵だった奴や知らない奴の為に割く時間なんてないって考えてるんだ」

「うん、わかってるよ……」


 力なく頷くみなもに二人は顔を見合わせ、努めて明るく振る舞う。


「さあ、依頼が無事に終わったから打ち上げよ! 今日は士郎の家で飲み明かしましょう〜!」

「酒はダメだからな!? 俺達、明日学校なんだからな〜!?」


 二人が陽気に喋り合い、宗士郎の後を追う。未成年だから、学校もなにも飲んではいけないのだが、響なりの気遣いをみなもは感じた。


 みなももそれに続いて、重い足を持ち上げ歩き出す。


「鳴神君……私、鳴神君の事がわからないよ…………」


 みなもが発した言葉は風にかき消されて、響と楓には聞こえなかった。もちろん、宗士郎にもだ。宗士郎の根底にあるもの、考え方――それらがみなもの考え方と大きく外れていたのだった。






「ただいま、柚子葉、和心」

「おかえりなさいです!」

「おかえり! 依頼はもう良いの?」


 夜十時、家に戻った宗士郎達はパタパタと走ってきた柚子葉と和心に迎えられた。


「ああ、数日かけてするつもりが思ったより早く終わってな。これから打ち上げでもしようかと思って、みんなを連れてきた」

「おっす! 柚子葉ちゃん!」

「柚子葉、お邪魔するわね」

「…………」


 皆が柚子葉に挨拶する中、みなもだけがぼーっとして俯いていた。そんなみなもを不思議に思ったのか、柚子葉が話しかける。


「みなもちゃん? どうかしたの?」

「……ぅえ!? いや、なんでもないよ!? ああ、お腹すいたな~!」

「みなも様、なんだか元気がないですね~」

「本当になんでもないから!?」


 みなもの落ち込んだような態度に会話が途切れる。先程の一件を気にしているのだろう。そんな空気を何とかしようと響が思い出したように声を上げた。


「ああ~! そういえばこの子誰なんだ? 可愛いし、耳と尻尾も…………って、耳と尻尾ぉ!?」


 短期間に色々な事があったので、宗士郎も紹介するのをすっかり忘れていた。驚くのも無理ないだろうし、何よりも異種族の子供だから驚きも倍増だ。


「そういえば響には紹介するのを忘れていたな。この子は和心。異種族の狐人族の子供で、わけあってうちで居候中の身だ」

「狐人族の和心でございます! えっと、貴方様はなんというのですか?」

「ひ、響だ。沢渡 響」

「では響様ですね! よろしくお願いいたします!」


 名前を聞かれて、あまりの愛らしさと花が咲いたような可愛い笑顔に少しどもってしまう響。そして、様付けで呼ばれた事で響の身体に雷が落ちた。


「ふみゅ? どうかいたしましたか?」

「なあ宗士郎………………」

「どうした?」


 宗士郎に背を向けたまま、響は話しかける。




「この子をお持ち帰りしてよろしいか?」

「――断固として拒否する」

「なんでだよぉおおおおお!? こんな可愛いロリ――もとい! 子供を独り占めするなんてズルいぞ!」

「独り占めなんてしてないっての!? てか、お前ロリっ子って言おうとしたろ! 実際にロリっ子だけども!」

「俺、運命と出会っちまったようだ…………ケモ耳でしかもロリっ子! もう嫁にするしか他ならん!!!」


 宗士郎に言い返される響は、宗士郎に「ふんぬっ!」と取っ組み合いながら言い合いを続ける。


「とうとう隠しもしなくなったな!? そもそもお前と和心とじゃ、十歳も離れてるんだぞ! 見境なしか、このロリコン!」

「ロリコンじゃねえし! 小さい子が好きなだけじゃい!?」


 なんと響がお持ち帰り宣言。


 異種族の子供とはいえ、郷に入っては郷に従え。法律上では二人は結婚できない。しかし、それ以上に問題なのは十歳も離れた和心に手を出そうとしている見境なしの響だ。いくら他の女性に相手されないとはいえ、子供に手を出すのは良くないだろう。


 そんな二人の言い合いに和心を除いた女性陣は呆れ、柚子葉が「ささ、リビングに行って一足先に休んでよう?」と提案し、二人を置いて先にリビングへと入っていった。





 宗士郎達の取っ組み合いが終わり、リビングで柚子葉の作ったカレーライスを食べた後、今日の柚子葉達の出来事を話していた。


「ミノタウロスに襲われたって!? 大丈夫だったのか、柚子葉!?」

「うん、和心ちゃんに助けられてなんとか…………」


 宗士郎達が調査を行っていたのと同時刻、柚子葉はミノタウロスに遭遇した事を話していた。門下生である伊散も夜に襲われた事を柚子葉が話すと、宗士郎達は怪訝な表情を浮かべた。


「夜行性じゃないミノタウロスが……大した怪我がなくて良かったわ」

「ただでさえ珍しいのに、危険度Aのミノタウロスが二体も、か………………」

「授業で教えてもらった活動時間と大きく違ってるね」


 全員が柚子葉の心配をし、何故、夜行性のミノタウロスが現れたか考える。ようやく普段の態度に戻ってきていたみなもも思案する。すると、柚子葉は和心が言っていた事についても触れた。


「魔素? 魔物がそれで活性化したっていうのか?」

「おそらく。異界の門が開いた影響がさらに強まっている可能性もあると思います」


 和心と出会った時に異界の門(アストラルゲート)ができた理由について教えてもらった。その時の話によると、無理やり異なる世界同士が繋がったので、門自体が不安定となっている。


 不安定という事はつまり、安定して空間を維持できていないという事だ。和心の言った事が本当なら、今後さらに影響が強くなると、魔素が濃くなり、多くの魔物や強力な個体がこの日本に蔓延る事になる。


(神族のアリスティアが言っていた障害…………魔物が活性化して、街が襲われるって事か? 確かに障害ではあるし、その為の保険として力を譲渡したなら、辻褄は合うが……元春が失踪した事や榎本が人為的に反天(ブラウマ)した事とは無関係なのか? くそ、わからない。教えてくれよ、アリスティア…………)


 当然の如く、宗士郎の問い掛けに十年前に宗士郎に力を渡した神族のアリスティアからは返事がない。別々の問題なら、それぞれ順番に解決すればいいが、もし…………万が一にでも重なるようなら、恐らくD.Dディザスター・ドラゴンが出現した以上に恐ろしい現実が待っている事になる。


「これは学内戦なんてしてる場合じゃないかもな。学園長である宗吉さんが今のを聞いてどう判断するかにもよるけどな」

「そうね、魔物が活性化して夜に徘徊してるとするなら、夜に襲われる人が続出しても不思議じゃないわ」


 学内戦をするよりも異能力者、自衛隊の協力体制で夜に警備した方がいいのかもしれない。その場合、子供である異能力者達の疲労は計り知れないだろう。


 慣れない事の上、夜は寝ずに警戒に当たらなければいけないからだ。交代で仮眠をとりながらでも、難しいはずだ。


 この問題の最も簡単な解決方法は魔物を活性化させる『魔素』の元を断つ事にあるが、そもそもの原因が仮定の域を出ないままなので、闇雲に行動に移せば、取返しのつかない事態に発展する恐れもある。


「今、俺達で話しても結論はでない。今日の所は早く寝る事にしよう」

「なら、先に私たちがお風呂に入ってきてもいい? お兄ちゃん」

「ああ、いいぞ。響が風呂を除かないように、見張っとくから」

「そんな事しねえよ!? どんだけ信頼ないんだよ!」


 響の服を引っ張って、自分の部屋に宗士郎は戻っていく。お決まりのお約束はこの家では起こさせないという宗士郎の気遣いが見て取れる。事実、昔に柚子葉の風呂を除きに行ったことがあるので、前科持ちの響は女子がいる時には出入り禁止だ。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな…………」

「みなも、そんな暗い顔してたら、胸が大きくならないわよ!」

「ひゃ!? 楓さぁん、やめ、ふぁ!?」

「和心ちゃんは見ちゃだめだからね~」

「何故でございますか!? 和心も見たいです!?」


 風呂場に入る前から女子達の楽しそうな声が鳴神家に響き渡る。この場に響がいようものなら、「俺も混ぜて~!」とル〇ンダイブするに違いない。


 女子達の女の子特有の長風呂が三十分以上にも及んだ後、宗士郎達はようやく汗ばんだ身体を流す事ができた。


 そのまま楓と響は鳴神家に泊まっていく事になり、柚子葉達女子と宗士郎達男子で別れて布団にくるまって、夜は更けていった。





いつも読んでくださり、ありがとうございます!

諸事情により、一週間休載する事になりました。

読んでくださる読者の皆様にはご迷惑をお掛けしますが、一週間後をお待ちください泣


次回は12月17日中に投稿します!

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