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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第四十話 卓越した連携

 




「で、具体的にはどうするんだ?」


 ドレッドコングがこちらの動向を観察する間に、響が宗士郎に問い掛けた。


「奴は賢い。現に状況を見て下がった訳だしな。だから、そこを狙う」

「どういう事だ?」

「俺がミノタウロスを倒した事で、奴は俺を警戒している。後はわかるな?」

「よくわからんが……了解だ!」


 宗士郎の考えを理解したのか、していないのか自信満々で響が答えた。色々端折って説明した宗士郎も悪いが、今までの経験でカバーしてくれる事を宗士郎は切に願った。


「あの、楓さん。 今の会話にめちゃくちゃ不安しかないのは私だけですか?」

「安心して、みなも。私もこればかりは不安がいっぱいだわ」


 その会話を聞いていたみなもが小声で楓に話しかける。十年以上も一緒にいる楓でさえ、二人の言動に不安感を抱いていた。


「でも、ドレッドコングは人の会話を理解している節があるって、教えてもらった事があるから、これくらい雑な方がいいのかもしれないわ」

「いつも〝残念娘〟とか言われてるから、言わせてもらいますけど――正直、不安しかないんですが!?」


 数年前にドレッドコングを討伐しようとした異能力者達がいた。簡略化した作戦内容を大声で叫んでおり、魔物だからわからないだろうと鷹を括っていたが、見事に動きを読まれて返り討ちにあった事があった。


 その後、なんとか討伐したが、怪我人が大勢出たとニュースでやっていた事を楓は思い出した。


 その話を聞いて、みなもは一旦納得しかけたが、やはり理解できなかったのか、大声で不安を漏らす。


「何を言うか残念娘!」

「俺達の連携を見せてやる、行くぞ響!」

「応!」


 宗士郎と響の妙に連帯感溢れる会話にみなもがイラッとするが、そのまま二人が走り出した事で追求をやめた。そのままドレッドコングへ向かって一直線に走り抜けると、宗士郎の後ろから賭博場内に散らばった瓦礫の破片がドレッドコングへと飛来する。


 ドレッドコングが瓦礫をその剛腕で打ち払う。


「グガガガガッ! グガッ!?」


 しかし打ち払った瞬間、瓦礫の破片が赤く光って爆発。響が瞬時に作った煙幕で濃い白煙がドレッドコングの周りに蔓延し、視界を塞いだ。


 煙が蔓延る中、その状況を好機と見るや、宗士郎が煙を突っ切ってドレッドコングに肉薄していた。


「おぉぉぉぉぉっっ!!!」


 突進の勢いを殺さず、闘氣を纏ったまま、神速の斬撃を叩き込む。


「グガガ! グゲッ! グゲッ!!!」

「――ぐぅぅぁっ!?」


 だが、視界を奪われた中、宗士郎の眼にも止まらぬ一撃をいとも容易く見切り、ドレッドコングが宗士郎の身体をその巨大な掌でガッシリと掴んだ。


「士郎!?」

「鳴神君!?」


 この場にいた誰もが二人の絶妙なコンビネーションでドレッドコングが倒されたと思っただろう。しかし、その期待を打ち砕く様に宗士郎の身体が粉砕されていった。


 宗士郎の腕がだらんと垂れ下がる。力の抜けた右手から刀剣召喚(ソード・オーダー)で創生した刀が枷から解き放たれるように落ち、光となって霧散していく。


「ぁぁ、ぁ…………ぁ、っいやぁあああああああ!?」


 直後、みなもの悲痛な叫びが響き渡った。


 同時に楓が魂の抜けた肉体のように、その場で深く膝を折った。自らを構成する半分以上が宗士郎で埋め尽くされていた楓は心にぽっかりと穴が開き、言い知れぬ絶望、喪失感に駆られていた。


「嘘だろ………………」


 逃げ惑い、パニックを起こしていた賭博場の客は、「彼ならなんとかしてくれる」と期待と不安を胸に戦闘を見守っていた。だが、宗士郎がドレッドコングに敗北した光景を目の当たりにすると、徐々に瞳から希望が失われ、楓と同じく地面に跪いていく。


「私は……魔物を、災厄を……パンドラの箱から解き放ってしまったのかもしれない」


 事の成り行きをスポーツの試合を観戦する感覚で楽しんでいた北菱でさえも、この現状を引き起こしてしまった責任を感じていた。


「グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッッ!!!!」


 楓達の絶望をあざ笑うかのようにドレッドコングが雄たけびを上げる。


 そのまま次の獲物を定めて、賭博場を駆けようとする瞬間――――




「――いけるな、響?」

「ああ、バッチリだ!」


 静寂と絶望に満ちた空間に冷静な声と威勢のいい声が響き渡った。


「…………え?」


 その声の元を楓が確認する前に驚くべき光景が楓達の眼に映った。


「――グギャァアアアアアアアアアッッッッ!!!」


 なんと、空気をつんざくような苦痛を感じさせる咆哮が響き、ドレッドコングの太い両腕が同時に両断されていたのだ。ズルリと腕が落ち、切断部分からは泣き叫ぶが如く、血が大量に飛び散る。


 直後、ドレッドコングに握り潰されてしまった宗士郎が霧となって消えた。


 皆がありえない光景に驚きを隠せないでいた。その感情を高めるように大きくはないが、それぞれの耳に届く声が聞えてくる。


鳴神(めいしん)(りゅう)奥義――霧幻(むげん)。……穿弾(せんだん)!!!」


 ドレッドコングの懐近くで声が響き渡ると、ゴウッと空気を突き抜ける音と共にドレッドコングの巨体が吹き飛ばされる。決して広いわけではない賭博場の端に激突すると、断末魔を上げて崩れ落ちた。


 次第に煙幕が晴れていく。


「ドレッドコング。わざと隙を見せれば、食いついてくると思ったぞ。視界を奪われた後、音と空気の揺らぎを手がかりに掴みかかってきた事には流石に驚いたが、相手が悪くなったな。……お前は賢すぎたんだよ」

「ぁ、ぁぁ……っ!」


 煙幕が晴れた場所にいたのはドレッドコングに握り潰されたはずの宗士郎だった。『穿弾(せんだん)』を放った拳からは闘氣のオーラが発せられていた。


 光の消えた瞳に宗士郎が映った楓は絶望の雲が晴れるように眼に光が灯る。


「――士郎! ……っ!!」


 感極まった楓が涙を零しながら、宗士郎に抱擁を交わしに行った。


「おっと…………なんで泣いてるんですか?」

「士郎が握り潰されてたからじゃないっ!? 死ぬほど心配したんだからぁ!!!」


 楓が嘆く様に宗士郎の胸板を叩く。目の前で宗士郎が敗北した姿を見たのだ。泣き叫ぶのも無理はない。


「鳴神君! 大丈夫なの!? 怪我とかしてない!?」


 遅れたようにみなもが宗士郎を心配しに行く。みなももまた、楓同様に涙を零していた。


「大丈夫だ。さっきのは闘氣で投影した身代わりだからな。俺の存在を闘氣で構成して、身体の外に放出する事で、感触、存在感のある身代わりをぶつけたわけだ」

「そんなの知らないよ!? 奥義とかあるなら、最初から使ってよ!?」

「奥の手は最後まで隠しておくものだ。響の技の時間稼ぎだったとはいえ、無事だったんだからいいだろ?」

「良くないっ!」


 ぷんすか! と怒りを露わにするみなも宥めていると、響がこちらを見ている事に気付く。


「あのさ、俺も頑張ったんだけど………………?」

「ぐすっ、良いとこなしじゃない。よく言うわ」

「せいぜい、あの煙幕だけかな?」


 涙を拭った楓とみなもに辛辣な感想を言われる響。正直、哀れというしか他あるまい。


「酷ぇ!? 俺だって、活躍した! …………いや、これから活躍するんだけど?」

「どういう事かしら?」

「ドレッドコングが吹き飛んだ方向をご覧ください……!」

「え、なに………………って、えええ!?」


 響の言われた通りにドレッドコングのいる方向を見る楓とみなも。視界に入ったのは死んだはずのドレッドコングがこちらに走ってきている光景。


「ドレッドコングがこちらに向かって、疾走していますね…………!」

「していますね……じゃないよ!? やばいやばい!?」

「くっ、時間逆(リワイン)――」


 みなもが慌て、楓が時間を巻き戻して逃げようとするが、その行動は無意味と終わる。


間零爆破(ダイレクト・マイン)


 ドレッドコングが決死の突撃が宗士郎達に直撃する前に、響の一声の瞬間、ドレッドコングの身体が風船が破裂するように爆裂した。


「………………」

「………………」


 目の前でべちゃべちゃっ!! と撒き散らされる肉片に楓とみなもの眼が据わる。


「ね? 活躍したでしょ? あれ、あの技仕掛けるのに数秒時間がかかって大変……って、あれ? 何で二人ともそんなに怖い顔してるのっ!?」

「…………爆弾を仕掛けてるなら、吹っ飛んだ時点で爆発させなさいよ、この馬鹿っ!」

「わざわざ、〝ドッキリ大成功!〟みたいな雰囲気出す前に、やっつけてよ!? 馬鹿たれ響君っ!」

「――あべしっ!?」


 二人の怒りを買った響はダブルブローをその身に受け、殴り飛ばされていった。


「響、すまん。庇いきれない…………ご愁傷様だ」


 宗士郎の嘆く中、響の身体が二人の女の子の足でゲシゲシと何度も踏まれ続ける。


「鳴神 宗士郎。終わったのか?」

「ああ、アンタの魔物オモチャは壊してやったぞ」

「そうか………………会場にいる皆様! 魔物の危機はここにいる勇敢な子供達によって去りました! もう安心でございます!」


 北菱が魔物を倒された事を確認すると、賭博場にいるすべての人に安全が確保された事を伝えた。すると、徐々に火が付くように喝采が響き渡っていく。喜ぶ者、泣く者、安心する者………………ギャラリー達が宗士郎達に賛辞と拍手を送った。


 この後、この賭博場に関わったすべての人を警察に引き渡す事を考えると、少し申し訳なく思うが、仕方のない事だ。


「響を踏むのはいいけど、そろそろやめてやれ。響も俺以上に頑張ったんだからな」

「むぅ、士郎が言うなら」

「そうだね、流石に頑張った人を踏み続けるのは可哀そうだね」


 宗士郎に言われて、二人が響から足を引くと、響は地面に突っ伏したまま泣いていた。


「なんでだ、なんでだよう…………俺頑張ったのに」

「女の子の目の前で、魔物を爆発させて、肉片を撒き散らすからだろうが、ったく………………良い連携だったぞ、響」

「宗士郎…………っ、うわああああああん!!!」

「抱き着くな!? 汚いだろうが!?」


 唯一、響を慰めた宗士郎に響は鼻水を出しながら、ヒシッ! と宗士郎に抱き着いた。宗士郎のタキシードが鼻水と涙でぐしょぐしょに汚される。頑張ったのに怒られたのだから、仕方ないことかもしれないが………………


「さて、士郎。この後どうする?」

「北菱に魔物を提供した奴について吐き出させる。北菱、大惨事になったんだ。教えてくれるよな?」

「…………ああ。話す、私の本当に知っている限りの事を………………」


 北菱は先程の光景を見て、思う所があったのか、自分に魔物を提供した者について赤裸々に語った。





 北菱が魔物に提供した者に出会ったのは、ほんの数ヵ月前だったらしい。


 新しい事業を進める為に必要な資金をどう集めるか考えていた北菱はある日、立ち寄ったバーで偶然出会った。


 相手は透き通るような白い髪の女性で、肌は浅黒く、服装は黒一色の魔法使いのような服の上にフードの付いた外套を身に纏っていた。良いアイディアが浮かばず、物憂げな顔をしていると相談に乗ってくれるというので、話を聞いてもらったそうだ。


 既に酔っていた事や白髪の女性が不思議な魅力を醸し出していた事が相まって、気が付くと水を得た魚のように話していた。


 すると、「魔物を使った催し物をしてはどうか?」と提案される。最初は〝魔物〟と聞いて不審に思ったが、毎回決まった時間に魔物を連れてきて、安全は保障すると言ったので、北菱は二つ返事で了承した。何かよくわからない恐怖もあったが、それを上回る程に「こんな面白そうな話を逃してたまるか」と好奇心が勝ってしまった。


 以降、寝静まった深夜にこの廃工場の下にある空間に魔物を持ってきてくれたらしい。これから共に仕事をする仲間だからと、名前と見返りは何がいいかを聞くと、


「あたしの名前はカタラ。見返りはいい。あなたに魔物を提供できればそれで………………」


 と返され、目的はわからなかったそうだ。





「以上だ」

「カタラ、か………………聞いた事がない名前だな」


 北菱の話を聞き終えた宗士郎が呟く。


「その上、素性がはっきりしてないわね。名前と性別、服装だけしかわからないから、探すのも少し難しいわ」

「間違いなく、強いってことはわかったね。危険度Aの魔物をドンドン連れてくるんだもん」

「宗士郎、探知系の異能の持ち主って、翠玲学園にいたか?」


 楓、みなも、響の三人が口々に話す。普通に探すのは無理だが、常識の埒外の異能ならばどうだ? と響が宗士郎に尋ねた。


「前に宗吉さんから他校にいるって、話は聞いたぞ。一度、掛け合ってみるのも悪くないな」


 賭博場に調査に来る前に、佐々木 元春が失踪し、探す為に他校の生徒の異能に頼る話を聞いた宗士郎はすぐに思い至った。当然のことながら、元春が失踪した事については伏せておいた。


 バレるのも時間の問題だと思うが、今この場で伝えるべきではないと宗士郎は判断した。


「これ以上、ここにいても得るものはなさそうだな。楓さん、電話を頼む」

「わかった、あの人に電話してここを今すぐに包囲してもらうわ」


 楓が感覚結晶(クオリアクリスタル)をエネルギー源とする携帯端末を取り出し、電話を始める。


「それって、警――むぐっ!?」

「わー!? わー!? 響君、ケーキが食べたいんだね! 私もだよ~~~~っ!?」


 〝警察〟の単語を口にしようとした響の口をみなもが両手でがっしりと塞いだ。周りに聞かれると関係者に逃げられてしまう可能性があると思ったみなもの動きは素早かった。ファインプレーであった。


「なるほど。私は捕まってしまうのか……当然だと思うが………………」

「え!? 違いますよ!? ケーキですよケーキ!!?」

「いいんだ、お嬢さん。私はそれほどの事をしたのだから…………」

「北菱さん…………」


 北菱は今の会話から自分が逮捕される事を察したのだろう。既に覚悟を決めた眼をしていた。


「士郎。数十分後に来てくれるって」

「わかった、それまで俺達はここで待機。桜庭、念の為に出入り口を神敵拒絶(アイギス)で塞いでいてくれ」

「……わかった」


 宗士郎はみなもに異能で逃げられないように塞ぐよう指示すると、みなもは申し訳なさそうな顔をして頷いだ。





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