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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第二十九話 歩く凶器みたいな奴

 




 ――無機質な音が響き渡った。







 誰もが凝縮されたクオリアの光線が亮の額を撃ち抜いたと思った……









 だが、撃ち抜かれたのは亮の顔の真横――光は虚空を切り裂き、修練場の地面を穿っていた。


「手が滑った……な〜んて。しょうがないな、これまでの事は水に流すよ」

「あ、ああ……今まで、本当にすまなかった」


 冗談っぽく笑う元春に、流石の亮も不気味に感じる。「手が滑った」……まるで手が滑らなければ、本当に撃ち抜いていたとも取れる言い方に目の前にいた亮だけでなく、宗士郎と和人は懐疑心を抱く。


「それじゃあ、これからは俺や和人の事を〝無能〟とかじゃなく、名字で呼んでくれ」

「わかった、佐々木。陣内も今まですまなかった……」

「う、うん」


 今まで名字や名前では呼ばず、『無能』の代名詞で亮は呼んでいた。一応クラスメイトだからとフルネームは覚えていたが、わざわざ呼ぶ必要はないだろうと元春や和人の名字……〝佐々木〟〝陣内〟と呼ばなかったのだ。


 静まり返った修練場に感応武装(ディヴァイズ)の調整をしていた芹香が戻ってきて、元春に注意する。


「もうっ、感応武装を人に向けちゃダメっすよ〜! COQコークが展開してないんすから、危ないっすよ!?」

「ご、ごめん……気をつけるよ」


 注意されて、銃のセーフティをかけ直し、支給されたホルスターに戻す元春。さっきまでの不気味な雰囲気はどこへやら、元春は元いた場所まで戻っていき、和人もそれについて行った。


「注意してなかったあたしも悪いっすけど、流石にわかってないと困るっす!」

「りかっち、今回は勘弁してやってくれ。ちょっと事情があってな」

「むぅ、なるっち先輩が言うくらいだから、今回は見逃してあげますっす」


 プンプンと怒って、腰に手を当てる芹香。先程まで感応武装を調整していた所為か、着ているタンクトップやメンテナンス用の手袋が汚れていた。


「良いデータは取れそうか?」

「はいっす! 凛せんせーに日々鍛えられた成果が出ているのか、武器を持ってもまあまあの動きはできてるっす。ただ、感覚結晶クオリアクリスタルからクオリアを取り出して武器として使うので、クオリアの量に限りがあって、持続時間や出力効率がまだまだ低いんっすよね〜」


 異能力者達クオリアン・チルドレン感覚臓器クオリアオーガンに貯蓄されているクオリアを消費して異能を行使する事ができる。クオリアの量は人によって千差万別だが、感覚武装に内蔵されている感覚結晶のクオリアの量と比べると、感覚武装の量の方が少ないのだ。


 COQに使われる感覚結晶はかなり大きく、クオリアの量も段違いに多い。COQ内で使うのならまだやりようはあるが、いざ市街地などで戦闘になった場合、魔物を倒すよりも先にクオリアが無くなり、武器としての役割を果たせなくなる可能性あるようだ。


「そこはりかっちの腕の見せ所だろ? 改造に悩んだら、また相談に乗ってやるから頑張れ」

「なるっち先輩が応援してくれるなら、まだまだ頑張れるっすよぉ! じゃあ凛せんせーの所でデータ取るんで、ここら辺で失礼するっす!」

「ああ、頑張れよ」


 芹香が宗士郎の側から離れていくのと入れ違いに、みなもと響が近寄ってくる。二人とも、少し顔色が悪いようだ。


「鳴神君、私さっきの二人の事をあまり知らないんだけど、いつもあんな感じ……って訳じゃないよね?」

「和人はいつも通りだったな。元春は……少し、いやかなり不気味だったな」

「宗士郎もそう感じたんだな。俺はいつもとなんかちょっと違う? ってぐらいにしか感じなかったけど」


 亮に対しての元春の態度がおかしい。普段から殺意すら覚える程に虐められていた元春が簡単に許し、何事もなかったように去っていったのだ。殴られて、「うん、別に大丈夫」と言うほど、お人好しでもないはずなのに一体どういうことなのだと二人は思ったらしい。


「許してくれて、俺的には本当に嬉しかったんだが……俺はあいつの瞳が濁ってるように見えたぜ」


 嬉しそうなようで、どこか複雑な顔している亮もこちらにくる。


「ひとまずは解決したみたいだし、あまり気になくてもいいんじゃないか?」

「……そうしとく」

「ともかく、今は授業中だ。さっきは凛さんも大目に見てくれたみたいだし、真面目に修練に励まないとな」


 宗士郎は異能を持つクラスメイト中で、一人だけ感応武装を渡されており、扱いも任されている。渡された感応武装――光線剣レイ・ソードのスイッチを入れる。


「こうして間近で見ると本当にライト◯ーバーみたいだね」

「だな、空を切る度に音が鳴る所がいかにもそれっぽい」


 ブォンブォンッ! と振り回す度に音が鳴る。もちろん安全は確認済みだ。


「鳴神ぃ、感触はどうなんだ?」

「やっぱり俺の刀や刀剣召喚ソード・オーダーで創生した刀の方が握り心地はいいな。これも良い物だと思うんだが、慣れた物の方がいい」

「じゃあ俺に貸してくれよ〜」

「……響に渡すと死人が出るからダメだ」

「なんでだよ!? 俺も試してみたいぃ!?」

「駄々こねるじゃねえ!? 仕方ない、榎本も桜庭も離れてろ。冗談じゃなく死ぬぞ……」


 剣を持つだけで人を殺せる響は何者なんじゃい! と不思議に思いながら、みなもと亮は響から距離を取る。


「せいっ!」


 勢いよく上段から振り下ろされた光線剣は紅の軌跡を描いた後……


ブォンッ!!!!


紅光がみなもと亮の間を通過した。


「えっ……」

「はっ?」


 突然の出来事に二人して間抜けな顔をしてしまう。壊れたロボットのようにギギギギッと背後を見る。


 すると背後には、先程響が持っていた光線剣が壁に突き刺さっていた。


「やっぱダメか〜。上手く踏ん張れてなかったな、うん」



「てめっ、沢渡……喧嘩売ってるんよなぁ、そうなんだな?」

「沢渡君は私達に恨みでもあるのかな〜?」

「そんなことないっての!? 言い掛かりはよせって!?」

「ほう、ならなんで俺と桜庭の方向に剣が飛んできたんだろうなぁ? ん?」


 みなもと亮がジリジリと距離を詰める。響的には本当に他意はない。むしろ、〝新しい物を試したかった〟という無垢な考えしかない。


「だから持たせたくなかったんだ……二人ともすまない」


 申し訳なさそうな顔をして、宗士郎は軽く頭を下げる。


 鳴神家にて、戦い方を習う響は徒手空拳が最も秀でている。戦闘スタイルは武器(徒手)爆弾付与マインストールを使った爆風を利用したり攻撃したり、爆弾を直接投げたりするものだ。


 素手や足、身体を使った戦い方が得意な響はかなりの確率で戦闘とは関係ないが、ゲームが大得意なのである。そんな身体を動かす事とゲームをする事が得意な響にも致命的にダメな物はあった。


 それが剣道もとい、剣術だった。


 剣を振れば、刀があらぬ方向へと飛び、居合抜きを試そうとすれば刀と同時に鞘が抜かれて、相手へとぶつける始末。宗士郎やその父である蒼仁でさえも、刀を使いこなすどころか普通に振る事さえ可能にする事はできずに諦めている。


 歩く凶器……詰まる所、響には絶対に刀や光線剣を持たせまいと再び心に固く誓った。





 危うく死にかける出来事(全面的に響が悪い)があった後、この授業の担当の先生である凛がクラスメイト全員を集めていた。


「そろそろウォーミングアップは済んだでしょう。非異能力者の皆さんもなんとなく感覚武装の扱い方は理解できましたね? この時点で何かわからない所があれば、挙手してください」


 凛の問いかけに手を上げる者はいなかった。


「では、メニューの最後の項目。模擬戦を行いたいと思います。今回は後期課程一年の菅野さんが開発した『感覚武装』を用いて、非異能力者の皆さんも参加してもらいます」


 お待ちかねの感覚武装を用いた模擬戦。感覚武装を与えられた者は誰しもが緊張と期待をした顔つきだ。今まで、異能力者の模擬戦を見学する事や凛に徒手空拳を教えてもらう事しか修練場でする事はなかったのだ。緊張、期待をするのも頷ける。


 凛が次々に対戦メンバーを呼び上げていく。


「――第一試合、桜庭さん! 榎本君!」


「負けないからね!」

「あの時のリベンジをさせてもらうぞ、桜庭ぁ!」


 二人は意気込みを言い交わす。


「――第二試合、夢見さん! 沢渡君!」


「お、お手柔らかに……ね?」

「今日は負けないからな!」


 あらゆる幸運を引き寄せる幸子と爆弾を用いて、戦う響。あらゆる可能性において、響が負ける確率は高いだろう。


「――第三試合、鳴神君! 佐々木君!」


「元春。胸を借りるつもりで、全力でこい」

「ようやく、俺も戦えるんだ。一太刀でも浴びせてみせるからな、鳴神!」


 元春に対して、未だに不気味なものを感じる宗士郎はそれを確かめる良い機会だと思い、言葉には出さないが凛に感謝した。不気味さの本質は知れなくとも、その一端を知る事ができれば御の字といった所だ。先程に見せた顔を引きずり出してやる、と少しだけ探る事にした。


次々に対戦者を呼び上げた後、第一試合が始まろうとしていた。


「では第一試合……両者、前へ!」


 凛がみなもと亮をCOQが設置されている場所付近に促す。


 二人が返事して移動したと同時にCOQを起動するようにと凛が指示を出す。程なくして、スイッチが入り、半径二十メートルの半球の形の障壁が構築される。


「桜庭! 無理に感覚拡張しなくてもいい、道場での動きをメインに立ち回ってみろ」

「できるかも? って時にはしてもいいんだよね!?」

「それが本当に好機で、自分にできると思ったならな」


 障壁の外からみなもにアドバイスをしてやる。無理に感覚拡張(クオリス)して、失敗するよりかはシールドバッシュを用いた戦闘方法を磨く方が幾らかマシだと判断した。自分で作った好機に感覚拡張した技を繰り出せるなら、それはそれでみなもが成長しているという事なので、良しとする。


 宗士郎とみなもで話していると反天(ブラウマ)した時のことを思い出したのか、呆れたように笑う亮。


「また内緒話かよ、早くしてくれねえかぁ」

「すまない、もう大丈夫だ。凛さん、合図お願いします」

「ええ、では模擬戦第一試合――」


 凛に目配せして合図を促す。フラッグを持ち上げるように右手を持ち上げ、二人が戦闘態勢に入った事を見計らい……


「始めッ!」


 右手を勢いよく下ろすと同時に、戦いの火蓋が切って落とされたのであった。





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