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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第二十六話 嵐のような男

 




 チーム『赦謝(しゃしゃ)裏出(りでる)』を楓一人で壊滅に追いやった後、宗士郎の家に帰る途中で『赦謝裏出』の人達がいかに可哀想であったかをみなもと和心で話していた。


 話している二人の後ろを楓と宗士郎は並んで歩き、そのさらに後ろには『赦謝裏出』の面々が付いてきている。


「楓さんって、ちょっと……いや結構Sっ気がありますよね〜」

「ですね〜初めて会った和心でさえも、正直ドン引きでございましたし――」


 引きつった顔で後ろの楓を見るみなもに、会って間もない和心までもが同意していた。何度も見た事がある宗士郎はともかくとして、二人は楓が一人で戦う所を一度も見た事がなかったが故にショックが大きかったようだ。


 話をする二人に楓はそんな事はないと苦笑する。


「そんな筈はないとは思うんだけど、ねえ士郎?」

「いや、馬鹿(ましか)や股間を潰された二人は間違いなく可哀想だと断言できるよ、うん、男として。彼らは勇敢だった……」


 遠い目をして、心の底から同情する宗士郎。男としての象徴もプライドも全て、楓の前に崩れ去っていったのだ。他の舎弟はまだ良いとして、その三人は意識が戻ったとしても自殺したくなるのではないだろうか?


 股間を潰された二人に関しては、後日柚子葉を通じて、雛璃の女神の涙(ブレッシング・キュア)で何とかしてもらう他ないだろう。身体が弱い彼女には無理をさせるだろうが、二人の尊いナニが失われたのだ。宗士郎は男として、治癒してもらえるように頼むつもりだ。


「そんなっ、士郎もそう思うのっ!? 私、頑張ったわよね!」

「やるなら、しばらく再起不能にするくらいにしなさい! 男としての尊厳を破壊するのは許せません!」

「いやいや、それもどうかと思うよっ!?」

「鳴神様は敵対した相手には容赦のない事をおっしゃるのですね〜」

「喧嘩を売ったって事は、返り討ちにされるかもしれない事も覚悟の上だと考えてるからな」


 不満な点はそこなの!? とみなもが声を上げる。容赦がないのは楓も宗士郎も一緒だったようだ。ゴブリンに襲われた時に、宗士郎の無慈悲なやり取りを目の当たりにした和心はこれが彼の本質に基づくものなのだろうと納得する。


「……ところで」


 背後を見て、宗士郎は今まで気になっていた事に触れる事にした。


「いつまで付いてくるんだ、お前達?」

「姉御達を見送るまでです、兄貴!」

「あ、兄貴ぃ?」


 舎弟の一人が兄貴呼びで宗士郎に答える。何故に兄貴? と聞くと、「姉御の彼氏さんっぽいんで!」という当たり前ですよね? 口調で言い伏せられてしまった。


「まあ、それはいい。お前ら、見た感じ同い年だろ? この辺の学校といえば『翠玲学園』だけでお前達を見た事がないんだが……」

「それは……俺達が施設出身だからです。十年前の『日ノ本大地震』で親が亡くなって、身寄りがいなくなった子供達を保護されました。でも、引き取り手がいなくて、そのまま施設で今まで育ってきました」

「そうか、すまなかったな。変な事聞いて」

「いえ、気にしてないっすよ。もう十年も前の事っすから……」

「でも、変だな……そういう事情があるなら、学園としては放っておかないのに。宗吉さんはそんな事しないし……」

「そうね、パパなら財力に物をいわせて何とかするだろうし、やらなければママが黙ってないだろうし」


『赦謝裏出』の面々は十年前の地震で、身寄りをなくした人達が集まる施設にいたようだ。学園の生徒を我が子のように思う宗吉なら、その人達も通えるようにするだろう。わざわざ、みなもを……たった一人の生徒を為に宗士郎を遣わせたくらいだ。なのに、そうはなっていないという事は情報規制が行われているか、宗吉に嘘の情報が流れている事になる。


 何か裏がありそうだと宗士郎は舎弟に聞く事にする。


「最近、施設に国の重役とかが来たことはないか?」

「いや……知らないっすね。設立当初は設立記念とかで、来たことはあったんですが……」

「そりゃ尻尾は出さないよな。末端の人間にやらせてるのか……とりあえず、りかっちに調べるように依頼するか」


 宗士郎は携帯端末を取り出し、芹香に依頼の内容を記載したメールを送った。芹香は物作りや発明が大好きだが、それと同じくらいに調べ物やメカ関係に強いのだ。彼女なら異能を使って、調べる事もできるだろう。


「お前らはこれからやる事はあるのか? 施設で勉強して終わり――それでいいのか?」

「そんなわけないっす! 俺達には『赦謝裏出』があります! 今までワルやってきましたけど、これからは街の皆の為、魔物から守る為に活動する事にします!」

「良い心がけだ。せいぜい守ってやってやれ。だけどな、今のお前達じゃここにいる桜庭はおろか、魔物にだって勝てない……犬死だ」

「そんなっ、舐めてもらっちゃ困りますよ!」

「そうだぜっ!」


 舎弟達がこんな可憐な女の子に負ける程、弱くはないと主張してくる。みなもは話の引き合いに出されて、嬉しい反面、少しだけ恥ずかしいようだ。


「桜庭は危険度Aの魔物を圧殺できるんだぞ? 人を見た目で判断するな。おとなしく、次に魔物が出た時は避難誘導でもしておくのが賢いと思うんだが?」

「ぐっ……」

「で、でも、ヘッドなら!」

不良の生き様(バッドボーイズ)だったか? 慕ってくれる人の数だけ、力が増す。今の数じゃ、危険度Cの魔物を負傷込みで倒せるレベルだ。馬鹿がボランティアとかで人望を集めてから出直してこい」


 危険度はS〜Eまであり、ゴブリンや小さい下級の魔物Eに属され、異能力者数人をもって討伐できるエルードは危険度Aに属される。危険度Eの魔物の一体や二体なら、異能を持たない者でも何とか倒す事ができるが、群れで襲われた時、危険度は異能力者一人で相手にできるCにまで上がる。


 だが、ここで決して油断してはいけないのが「異能力者一人で倒せるなら、数人で囲んでしまえば、勝てるのでは?」と勘違いする事だ。過去にそう思った人が魔物に殺されたケースも少なくない。


 今では少なくなった方だが、魔物と戦うというのはそれ相応の覚悟をしなければならない。その旨を伝えると宗士郎はさっさと帰るように促す。


「わかったら、帰れ。そんでもって、さっきも言ったように魔物が出た時は避難誘導でもしてろ」

「――まあ、待て宗士郎。教えてやるのは良いが、冷たく突き放すのは良くない。お前の優しさが相手に伝わらない……お前の悪い所だぞ?」


厳しい物言いで、遠ざけようとする宗士郎に我が家の方向から声が投げかけられる。


 家に着く寸前で、大人の男性が家の前で腕を組んで立っていた。その男は宗士郎に気安く話しかけていたが、気配を察知する能力にも長けた宗士郎が話しかけられるまで気が付かなかった。


「帰ってきて早々、説教かよ。山籠りはもういいのか――父さん」

「おう、そっちの方は済んだし、こっちでやる事もあるしな。楓ちゃんも久しぶりだな」

「蒼仁さん、お久しぶりです。長かったですね、今回の山籠り」

「まあな、厄介ごとを子供達ばかりに任せるわけにもいかないからな。鍛え直しに行ってたんだよ。お、そっちの二人は新顔だな。俺は鳴神なるかみ 蒼仁(そうじん)、宗士郎の父だ」


 声をかけてきた男性は長い山籠りから戻ってきた宗士郎の父親、蒼仁だった。二人との挨拶を早々に済ませ、みなもと和心の方を見やる蒼仁。


「さ、桜庭 みなもです! 少し前から鳴神君の家でお世話になってますっ!」

「和心です! 鳴神様に命を救っていただいた狐人族の者です! 蒼仁おじ様!」

「みなもちゃんか、宗吉さんから聞いてるよ。学園在籍の間、よろしくな。異種族の和心ちゃんもよろしくな」


 緊張しながらも蒼仁への自己紹介を終わらせるみなも。今度は噛まずに言えたようだ。道場で様々な人を見ている為か、異種族である和心に対しても大人の余裕で対応している。


 挨拶を終えた後、蒼仁が先程の話題を蒸し返す。


「で、さっきの話だが……宗士郎。あんな言い方じゃ、彼らが可哀想じゃないか」

「事実を言ったまでなんだが」

「本当に戦えない人達を遠ざける為とはいえ、冷たくあしらい過ぎだろうが。ワザと冷たくしてるとはいえ、これじゃお前が冷酷な人間だと見られてしまうぞ?」


 蒼仁の言葉に宗士郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、楓以外の全員が気が付かなかったと驚愕の表情を浮かべる。


「普段は面倒見は良い癖に、ここぞとばかりで突き放しやがって……本当にお前の悪い所だぞ、宗士郎」

「説教なんてしないでくれよ、父さん。恥ずかしいだろ? で、わざわざこんな話をしたんだ。あいつらの為に何かするつもりなのか?」

「ああ……ほとんどついでなんだが、『鳴神道場』として――いや、俺個人として面倒を見る事になるだろうな」

「はっ?」


 思わず、えっ? 何聞こえなかったんですけど? という風に聞き返してしまう。


「えと、どういう意味?」

「言葉通りだ、宗吉さんからお願いされてな。異能が使えない者、使えても戦えない者を育成するように頼まれた」

「もしもの為に、か。なら、俺が口出しなんてできないな。父さんなら、素人を玄人レベルにまではいかなくとも、並以上にする事ぐらい楽勝だしな」

「そういう事だ。守りきれない人は強くするしかない。だから、私が鍛える事になったわけだ。またしばらく道場を空ける事になるから、その間はよろしくな」

「学園の近くでやるんじゃないのか?」

「ちょっと近畿の方まで行ってくる。なあに、一週間に一度は帰ってくるさ」


 蒼仁は宗士郎の師匠だ。宗士郎を強くしたのは蒼仁だし、自分が持たない異能の弱点を教えてくれたのも蒼仁だ。誰かを鍛えるという観点で言えば、これほど最適な人間はいない。


 現在の日本は簡単に分けて、八つの地方分けられている。十年前は市町村など、明確な名前があったが、魔物の脅威に対抗する為か大きく分類された。


 一致団結する意図もあったのだろうが、今も昔も変わらない呼び方で、北海道地方、東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国・四国地方、九州地方と分けられている。それぞれの地方に向かうには小型の飛行機か、ヘリ、自動車での移動が主になる。


 宗士郎達、翠玲学園は関東地方に位置している。十年前の地震で、使えなくなった施設もあるが、何故か日本復興の次にオタグッズの再販売が早かった。宗士郎はあまり興味はないが、日本のオタクのなせる技だと響が言っていた。


「というわけで、そこにいるお前達」

「は、はい!」

「俺と一緒に近畿に来い」

「「「「「「「「な、何だってぇええええ!?」」」」」」」」

「って、おい。そこで担がれてる顔の酷い二人はどうしたんだ?」

「楓さんが男の象徴を破壊したんだよ……」

「楓ちゃん、それはダメだぞ。どんな理由があれ、せめて半殺しにしておきなさい」

「士郎と言ってる事変わらない気がしますけど、わかりました」

「その二人は治すアテがあるから、治り次第、宗吉さんに頼んで輸送してもらうよ」

「わかった」


 宗吉は懐から携帯端末を取り出すと、どこかに電話をかけすぐに切る。


「俺だ俺。連れて行く奴らを見繕った。……はぁ? オレオレ詐欺じゃないっ、巫山戯た事を言ってないですぐに来てくれ」


 電話をかけて、数分もしないうちに車が数台並んで停車する。中にいた運転手が『赦謝裏出』の面々を車内へと連れ込む。もちろん、馬鹿もだ。この絵面を見ると誘拐されているようにしか見えない。


「それじゃ、俺は行く。後は頼んだぞ、宗士郎」

「柚子葉にはちゃんと説明したのか、父さん」

「駄々こねていたが、納得してくれたよ。寂しそうにしていた。……柚子葉には悪い事をしたな」

「そう思うならもっと構ってやってくれ。寂しそうにしていた分は俺が埋めるから、早く行ってこいって」

「……そうだな、任せる。楓ちゃんにみなもちゃん、和心ちゃんもまた会おう」


 先頭車に乗り込み、窓を開けてお別れを済ます宗仁。口々に言いたい事を言い終え、聞きたい事が聞けたのか宗仁と『赦謝裏出』の面々を乗せた車は軽快な動きで、この場を離れていった。


 元々施設の人のように学校に行けない者や弱い人を連れて行くつもりだったのだろう。おそらく、嘘の情報を掴ませられているのは最初から宗吉にはわかっていたのだろう。


 魔物に対して、自分だけが助かろうとする者がしたのか、良からぬ事を企む者がしたのかは定かではない。だが、最悪の事態が起こる前に宗吉は蒼仁に依頼し、来たるべき時の為に備えるつもりと考えられた。


「なんだか、嵐ように去っていったね」

「そうでございますね〜」


 みなも達が挨拶して、蒼仁が移動するまで、さほど時間がかかってなかった為か、蒼仁を荒々しい〝嵐〟と形容した。


 楓は今日は晩御飯を食べていくというので、楓も連れて中に入ると、そこにはイライラしていた柚子葉がいた。宗士郎達が出かけてから、蒼仁が帰ってくると聞き、料理を沢山用意して待っていたが、すぐに蒼仁は帰ってしまったのだ。


 この事が原因で柚子葉がカンカンに怒っていたのは言うまでもなかった。





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