第二十四話 チェンジで!
買い物に行く準備の為、和心を自室へと連れてきた宗士郎は和心に異種族であるとわかる身体的特徴をどうにかできないのか? と聞いてみる事にした。
「なあ和心、こっちの世界では異種族はまだ奇異の存在なんだ。すまないがその耳と尻尾をどうにか出来ないか?」
「奇異、ですか? こんなにも愛らしいというのに」
尻尾をフリフリッ♪ と揺らしながら、両耳を抑える和心。普通、自分で言うか?
「いやたしかに愛らしいし、一部の人にはコスプレとして認識されるかもしれないが、流石にバレるかもしれないから……な?」
「むぅ、わかりました。耳と尻尾を見えないように致しますね!」
「それも神力で消すのか?」
「そうでございます! これくらい妖狐である私にはお茶の子ささいです! うにゅ〜〜〜〜!!!」
和子が踏ん張るように力を入れて、可愛らしく唸りだす。すると三秒もしないうちにポンッ! と耳と尻尾が和心の身体から消えた。あと、お茶の子さいさいだからな?
「どうでございますか? ちゃんと見えないようになってますよね?」
「ああ、見えない。バッチリだ、和心! じゃあ、桜庭を連れて、行くか!」
和心とみなもを連れて、宗士郎は駅前へと向かった。
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ニ十分程度で駅前に着いた宗士郎達は辺りを見回すと、既に着いていた楓が私服姿で立っていた。
「楓さ〜ん!」
「士郎っ! 今日は誘ってくれてありが……とう?」
「どうしたの?」
「な、なんで私以外にも人が――」
「ああっ!? ごめん、言葉足らずだった」
「い、いいのよ……別に〝久し振りに士郎とデートだ〟とか、〝今日は気合入れないと〟とか思ってなかったわ。ええ! 全く期待なんかしてなかったわ!」
てっきり二人だけだと思っていた楓が明らかに期待していたのがバレバレの態度をとる。それを見て、みなもは「期待してたんだなあ」と同情した。
「本当にごめん! 今日はこの子の服を買いに来たんだ。和心、自己紹介だ」
「和心でございます! よろしくお願いします!」
「え、ええ……私は二条院 楓。よろしくね、和心」
「実はここだけの話。今は耳とか消してもらってるんだけどこの子、異種族で家で保護してるんだ。すぐに帰してやりたいけど、時間がかかるし、それまでこっちで過ごすだろうから服を買いに来たわけなんだ」
「そうなのね、わかった。服選びを手伝えばいいんでしょ? わかってるわ」
長年の付き合いのおかげで、あっさり和心が異種族である事になんの疑問も覚えずに、事情を察してくれた。少し残念そうにも見えるが今度埋め合わせする事にしよう。
「ところで鳴神君。どこに買いに行くの? 遠出するにしても、今は電車使えないよね?」
「ああ、わかってる。近場のデパートにでも、行けば子供用の服なんかすぐに見つかるだろ」
十年前の地震で各地の電車やレールが使い物にならなくなった上、復興やその他対応に追われていた当時の日本は移動手段である電車の修繕、レールの再配置などの作業を後回しにしていた。その結果、駅としての形だけが残り、現在の移動手段は徒歩、自動車、ヘリ、飛行機だけになっていた。
ただ、空港の滑走路までもが地震の影響で、使い物にならなくなった為、飛行機は小型の物しか飛べなくなってしまった。
「そうね、なら二条院グループの系列店に行きましょう。そこなら私がいるだけで、安くしてくれるわ」
「それは嬉しいな。俺の手持ちだけじゃ、足らないと思ってた所だから助かるよ」
二条院グループは薬品やクオリアの研究を主に行っているが、その他にも楓の母である風里が経営している服飾関係の会社がいくつもある。その系列店で買い物をする時、〝二条院グループのご令嬢がうちの店来た!〟という反応をされ、いわゆる顔パス状態で安くしてくれるのだ。
宗士郎の言葉に疑問を覚えたみなもは宗士郎が払うという事なのか確かめる事にした。
「えっ、それって鳴神君持ちってことなの? てっきり、自腹を切るつもりでいたんだけど……」
「これは俺の歓迎の気持ちだ。柚子葉は手料理、俺はこれ。お金は宗吉さんの依頼で貰った報酬があるから、心配するな」
「おお〜! 鳴神様、太っ腹でございますね〜!」
「でも……」
「素直に受け取っておきなさい。こういう時の士郎は頑固だから引かないと思うわよ?」
「楓さん……わかった、鳴神君ありがとう!」
「気にするなって。でもあまりに高いのとかは御免だぞ?」
苦笑いしながら歩き出す宗士郎に楓達は着いていき、小一時間程にも及ぶ、日用品や和心とみなもの服の買い物をしたのであった。
その後、宗士郎はしみじみと思った。
(やはり女の子の買い物は長いなあ。服選びに妥協しないし、桜庭って全く遠慮しないんだな。安くなるとはいえ、持ってきたお金がほぼないんだが……)
気にするなと言った事を後悔した。ただ和心とみなもが可愛い服を買えた事を喜んでいたので、結果オーライだとも思った。
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買い物を終わって家に帰る途中、エルードを倒した後に感じた気配を感じた。
数は十人程度。
それぞれが敵意を持っている事がわかる。目的はわからないが、敵意を持って害をなすなら、容赦する必要はない。宗士郎が路地にいるであろう人物達に声をかける。
「おい、そこにいる奴ら……出てこいよ。そんなに敵意を剥き出しにしていたら、見つけてくれって言ってるようなものだぞ」
楓は宗士郎と同様、勘付いていたが、みなもと和心はなんのこっちゃ? と首を傾げていた。
「チッ、バレてたか。ったく、バレちゃあしょうがねえな! おい、オメェら!」
「「「「「「「「「へいッ!」」」」」」」」」
舌打ちをした奴の後に気迫を感じさせられる程の声量と共に奴等が路地から勢いよく飛び出す。
「俺様の名前は馬鹿 丸出ッ! 馬鹿の馬は馬面の〝馬〟! 馬鹿の鹿は鹿煎餅の〝鹿〟! 丸出の丸は花丸満点の〝丸〟! 丸出の出は出しゃばるな、の〝出〟! ――鹿煎餅が好きで花丸満点の出しゃばりができる馬面の男! チーム『赦謝裏出』のヘッド! 馬鹿 丸出とは俺様の事だぜ!」
「略して、〝馬鹿丸出〟か……言い得て妙だな。名は体を表すという言うけど、ここまでとは……クッ……はははっ!」
口上が長い上に聞いていて、「よく考えたな……そのチーム名」と……満点花丸を上げてやりたいくらいだ。チーム『赦謝裏出』と呼称している程なので、『赦謝裏出』と裏に金糸で刺繍された改造肩パット学生服まで着て、無駄にしゃしゃりでてきている。
「テメっ!? 読み直しただけじゃねえか!? ワザとか!? 俺様は馬鹿丸出って言われるのが死ぬ程嫌なんだよっ! 喧嘩売ってんのかゴラァ!?」
馬鹿がマジ切れして、怒声を浴びせる。対して、宗士郎は全く怯えもせず、気にした様子はなかった。そんな宗士郎に続いて、楓も本人が気にしてるであろう点を遺憾なく突いていく。
「ふふっ……馬面なのに鹿煎餅好きとはこれいかに……ね……あははっ!?」
「前にも会ったオンナァッ!? 馬面なの気にしてんだから、馬鹿にしてんじゃねえぞ!? 後、鹿煎餅は嫌いだ! ◯すぞ、ゴラァ!?」
怒声を上げて、卑猥な言葉を使って中指を立てる馬鹿。可哀想な人を見るような眼で、楓は呆れ果てていた。鹿煎餅が嫌いなのに、何故に口上で使ったのか全く理解できない。
「あの時は柚子葉やみなもに下衆な視線を向けていたから、口を開く前に沈めてあげたけど……性懲りも無く、また来たのね」
やはりエルードを倒した後に楓が離れたのはそういう事だった。どうやら楓言う通り、喋る前にボコボコにされたみたいだが……
またまたそんな楓に続き、桜庭と和心が「あの名作のキャラと比べるのもおこがましいぜ!」と言わんばかりに追い打ちをかける。
「いつの時代も不良っているんだね〜! トゲ肩パット不良なんて、北◯の拳に出る雑魚モブ――いやそれ以下だよ!」
「不良や北◯の拳とかよくわかりませんが、和心よりも馬鹿だという事は理解しました!」
和心は何もわかっていなかったようだ。悪気は微塵もない二人の発言に馬鹿はイライラを覚えつつ、冷静をギリギリ保っているようだ。
「お、お前達は俺様を怒らせた……っ! 子供には手を出さないでやる。だがその男の言葉は俺様をプッツンさせた……女達は後で俺様の女にしてやっから、覚悟してとけよッ! ゴラァッ!?」
「チェンジで」
「チェンジで!」
「チェンジでございます!」
「――待てやッゴラァアアアアッ!?」
楓、みなも、和心の「お前無理だわ、うん生理的に受け付けない発言」と共に繰り出された指バッテンポーズにより、マジ切れしていた馬鹿の最期の堪忍袋の尾が切れた。血管から血がブシュッ! と飛んだ感じに――というか実際に飛んだのだが。
「オメェらッ! やっちまえやぁあああ!!!」
「「「「「「「「「任せてくだせぇ! ヘッド!」」」」」」」」」
馬鹿の怒り狂った掛け声に反応し、鉄パイプや釘バットを持った馬鹿の舎弟どもが宗士郎に襲いかかる。
「桜庭、和心を守ってやってくれ」
「わかった」
「楓さんは――」
「……士郎、私がやってもいい?」
宗士郎は仕方ない、と肩をすくめる。またもや楓にやられるとは、なんて可哀想な奴らなんだと『赦謝裏出』の面々に心の底から同情した。一度目は「二度とそんな眼を向けるな、次はない」と念押しも込めての制裁だったはずだ。今回で二度目――つまり、今度という今度は確実に再起不能にするはずだ。
宗士郎は一応、こちらに火の粉がかからないようにと刀を使わず、軽く構えをとる。宗士郎が許可を出した事がわかった楓はニヤッと笑い、拳を握って、『赦謝裏出』の面々に向かっていった。




