第二十話 感応武装と懸念
「さて、戦闘服の性能はわかりました。次はこの武器に見える試作品を試しますか……」
氷漬けにされた男性陣は先に抜け出した宗士郎の剣技によって、助け出された。宗吉と響が妙に震えていたが、それが〝凛が怖かった〟のか〝凍え死にしそう〟という意味で震えていたのかはわからない。
だが顔が青ざめていたので、〝凛は怒らせない方が身の為〟という教訓でもできただろうと宗士郎の中で完結した。
「では次行くっす〜! こっちの筒状の物と一見、拳銃に見える物は試作品〝感応武装〟っすよ! 『異能が発現していない人でも扱える』というのがこの試作品のコンセプトっす!」
「へえ〜どれどれ――ん? おいりかっち、拳銃の使い方はなんとなくわかるけど、こっちの筒状のやつはどう使うんだ?」
宗士郎が筒状の物を手に取り、中を覗き込んだり、色々触ったりする。
「ふっふっふ……よくぞ、聞いてくれましたっす。それは男のロマンが詰まった試作品! その名も〝光線剣〟!!! っす!」
宗士郎が持っていた物とは別の物に手に取り、付いていたスイッチを入れ、真っ赤に光る光線がブォン! と出現する。
「まんまパクりじゃねえか!? スター・◯ォーズのライト◯ーバーまんまじゃん! その作品が嫌いなわけじゃないけど、これはダメだろ!? っていうか、お前女だろ!?」
「な、鳴神君もそう思った? 名前が違うだけで、中身は一緒だよね」
某作品を知る者として、抗議の声を上げる宗士郎と幸子。
「細かい事は気にしない! っすよ! 先日見た某作品でインスピレーションが湧いたのは事実っすけど、尊敬と愛を込めて作ったので、問題なしっす!」
真っ赤に光る光線剣を手にブンブン振り回して、熱く語る芹香。その際、誰も近づけなくて独りで踊るように振り回し続ける。あ、危ねえ……
「あと赤く光ってるのは中に内蔵している長さ10センチに加工した感覚結晶からクオリアを凝縮しているからっす! 過去に討伐した魔物の身体を使って実験したところ、軽々と貫いたっす!」
「これは……自衛隊でも直ぐに採用できるかもしれませんね。魔物に対する大きな戦力アップに繋がります」
凛が感心したように頷く。
現状は魔物一匹に対して、十人の銃を持った自衛隊員が決死の覚悟で挑んで、ようやく勝てるレベルだ。慣れが必要ではあるが、多くて四人……少なくて二人で対峙できる可能性が今ここで生まれたのである。
軍に入っていながら、教師もしている凛は被害を大きく食い止める事ができると同時に死傷者が少なくなる可能性に、顔には出さないが、底知れない喜びを感じていた。
「では最後の試作品がこれ! 光線剣と同じく、クオリアを凝縮して、撃つ事ができる光線銃っす!!! 魔物の身体を軽々と撃ち抜ける優れ物! ……っすけど、いくら異能で弄っても最大射程距離で十メートル程しか、光線は出ないっす……十メートルを過ぎると自然消滅するようにはしているので、安全性は取れてるっす……」
先程までの勢いで最後の試作品を紹介してくれる。だが先程までと違い、沈んだ様子だった。
「自信満々で紹介した割には、自分で作った物に自信を持てないのか?」
「……はいっす」
「そんなに落ち込むな、時間があるときにまた手伝ってやるからさ」
「なるっち先輩……はいっす!」
落ち込んだ芹香の頭を撫でてやると、なでなでされた犬のように嬉しそうにしていた。
「でも凄いね〜! 異能力者じゃない私でも使えるんでしょ? 試し撃ちしてもいいかなっ!?」
蘭子が机に散らばっていたもう一つの光線銃を手に、荒野に立つガンマンのように銃口を正面に向ける。向けた方向は学園長室の立派なドアだった。
「あ、あのっすね!? 安全面を考えて、銃にセーフティを付けてるっすけど、セーフティを入れてなかった気がっ――」
銃のセーフティを入れ忘れていた芹香が直前になってその事を思い出し、蘭子に注意しようと思うが――
「えっ? なに――」
時、既に遅し……
あまりにも呆気なく引かれたトリガーは光線銃に内蔵されている感覚結晶からクオリアを凝縮し、文字通り光線として、銃口から放出された。
ビュウウウウウンッ!!!
レーザーのような発砲音と共に、学園長室のドアが音もなく、貫通した。
「ま、マジかよ……」
「ああ!? 私がデザインしたドアがぁあああっ!?」
先程、ようやく立ち直った響と宗吉が顔を上げた瞬間、放出された光線がドアを撃ち抜かれていた。というか、自分でデザインしたのか……
「おい、田村……?」
「え〜と…………ごめんなさいっ!?」
ジロリと宗士郎に睨まれた蘭子は蛇に睨まれた蛙のように固まり、勢いよく宗吉に謝った。
「いや、大丈夫だ。キミが謝る必要はないよ」
「――えっ……」
宗吉が蘭子の側に近寄り、肩を持つ。
「壊れたのは残念だったけど、壊れた物はまた直せばいい。それよりもキミや他の人達に怪我がなくて良かった」
「学園長……」
「次からはちゃんと説明を聞いてから扱うように……ね?」
「はいっ、はいっ! ありがとうっ、ございますっ……」
大人としての余裕の態度で、蘭子を諭した宗吉はもう一度肩を叩いて、風穴が空いたドアの方に向かう。
「凄いな。一瞬で安心させるとは……流石は二条院財閥のトップ」
「全くです。それよりも外に人がいなくて良かったですね」
そんなフラグともいうべき凛の言葉の後に――
「――ああッ!?」
風穴を覗いた宗吉が突然、声を張り上げると、後ろに尻餅をついた。ドアの風穴に指を指し、震えながら宗士郎達を見る。
「学園長? いったいどうしたんですか……?」
「そ、そそ宗士郎君っ、外に人が……!?」
「外? 外に人……?」
宗士郎が風穴を覗き込むと――
「――なっ!?」
そこには微動だにしない三人の人が立ち竦んでいた。
「まさか……!? さっきので撃ち抜かれて、死ん――」
「――そんなわけないでしょ。士郎?」
「えっ……」
突然外から聞こえた声に驚くと、ドアがゆっくりと開かれる。そこには光の盾で守られている楓と柚子葉、そして修練場から逃げたみなもがいた。
「楓さん、柚子葉! それに桜庭も……無事だったのか」
「私が万物掌握を使う前にみなもが異能で守ってくれたのよ」
呆れたように楓が説明してくれる。
「鳴神君、無事だったんだね!? 楓さん達を連れて、後から修練場に向かったんだけどいないから、学園長にいるのかな思ったけど、とにかく良かった!」
「お兄ちゃん、聞いたよ!? 一人残って、みんなを逃したって! どうして逃げてくれなかったの……!?」
「いやあ、凛さんが来たらなんとかなると思ったからな〜。実際はなんとかならなかったけど、凛さんが来てなかったら本当に危なかった。二人とも心配してくれて、ありがとな」
楓の真横を縫うようにして、柚子葉とみなもが心配しにきてくれた。みなもが心配してくれるのはともかく、柚子葉に至っては泣きながら心配してくれた。
「楓さんもありが――」
宗士郎が楓に礼を言おうとしたその時――
パシンッ!!!
「えっ……?」
突然、側にいた楓に頬を叩かれていた……
「どれだけ……どれだけ心配したと思ってるのよ……」
そのまま倒れるように抱擁され、何が何だかわからなくなってしまう。
「か、楓さん……」
「みなもに一人残ったって聞いた時、息が止まった……っ! 大切な人がこの手から溢れ落ちていくって……っ! 心配、したんだからぁ……っ!?」
大量の涙が瞳から溢れる。
(――そっか……楓さんに心配をかけてたんだな、俺。俺は幸せ者だな)
宗士郎からは顔は見えないが、楓に酷く心配をかけたことは変わらない事実だった。
「俺は楓さんを置いて行ったりしないよ。なんたって、楓さんは俺の大切な人だからな」
「士郎……っ!」
「わっ!? 苦しいって、楓さん!」
楓の頭を優しく撫でると、感極まったように強く抱きしめてきた。
「宗士郎君、私達がいることを忘れてはいないかね?」
「完全に忘れてるっすね〜」
「忘れていますね……」
「宗士郎め、羨ましいぜ……」
宗吉、芹香、凛、響の四人が置いてけぼりを食らっていた。幸子や蘭子、それに柚子葉やみなも達も〝甘々な空気に耐えられない〟という顔をしている。
「ゴホンッ! ゴホンッ! 神代君を通して、今回の事件の事を余さずに聞いた。既にいくつか手を打ったし、今日の所は午後を休みにするから、皆は帰って休養を取るといい」
その空気に耐えかねた宗吉がわざとらしく咳払いをし、帰るように促す。
「それと一週間後に開催する〝学内戦〟の準備を少しずつ進めておくように。菅野さん、試作段階の感応武装を実戦で使えるレベルにしておいてください。学内戦でデモンストレーションとして使えるようにしますので」
「はいっす!」
「「「「「「はい!」」」」」」
凛が一週間後に迫った学内戦の準備をする事と芹香に感応武装についての指示を出すと、宗士郎達は揃って学園長室から退室した。