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第十九話 いざ変身!

 




「そうか……極秘事項である反天(ブラウマ)の情報が外部に漏れている可能性があると……」


 凛が提出した報告書に目を通し、学園長である宗吉が溜息をつく。


「ええ……今回の事件で生徒二人が重傷を負いました。何らかの対策を早急に練るべきです」

「なに、既に手は打ってあるよ。一つはCOQ(コーク)を必要としないバリアジャケットの代わりとなる代物。もう一つは非異能力者でも扱える、クオリアを用いた武器の製造。最後は――」

「最後は……?」

「いや、やめておこう。これは無駄になるかもしれないからね。心配することはない、他にも手はある」

「わかりました。ところで、そのCOQを必要としない代物とクオリアを用いた武器は誰が開発しているのですか?」

「学園の生徒である開発のスペシャリストに全て一任しているよ。確か名前は――」


 宗吉が開発者の名前を声に出そうとした時、コンコンっとノックの音が学園長室のドア向こうから聞こえてきた。


菅野(すがの)  芹香(せりか)っす! 失礼しますっす!」

「……噂をすればなんとやらだね。入りたまえ」


 ドアがゆっくりと開け放たれる。


「学園ちょ〜! 試作品を持ってきたっす〜!」

「菅野くん、待ってたよ。して、注文通りの品は作れたかな?」

「はいっす! リュックの中に詰め込んできたっす!」


 芹香はリュックの中身をひっくり返し、学園長の机の上にばら撒いた。


「これは……」


 凛が散らばった中身を見て、驚きを隠せないでいた。散らばった物はどれも掌サイズの物や素手で容易く持てるサイズの物だったからだ。


「あっ! 凛せんせー! 手に取ってみてくださいっす!」

「え、ええ……」


 いつものように名前で呼ぶなと注意すらしないで、興味の惹かれるまま、その一つを手に取る凛。


感覚結晶(クオリアクリスタル)を水晶玉のようにしたものに見えますが、これは?」

「それはバリアジャケットの代わりになる戦闘服を瞬間装着できる物っす! 初期設定になってるっすから、凛せんせーのクオリアの波に同調させるっすね!」

「お、お願いします……」


 心配しながら、凛は芹香に身体を委ねる。すると唐突に学園長室に来客が現れた。


「学園長、鳴神です。失礼します」

「おお、宗士郎君! よく来てくれたね〜ようやく楓と結婚してくれる気になったかね!」

「しつこいですね!? 今回の事件の関係者を連れてきただけです!」


 入ってきた宗士郎に宗吉が対応する。宗士郎の後ろには響、幸子、蘭子が並んでいた。


「あれっ!? なるっち先輩じゃないっすかー!? お久しぶりっす〜!」

「おっ、久しぶりだな。元気にしてたか、りかっちー!」

「元気いっぱいっすよー! あ、ちょうど良いところにきたっす! 新しい試作品を凛せんせーに試してもらう所だったっす!」

「そうだったのか、それは楽しみだな」


 どうやら知り合いだった宗士郎と芹香は他に人がいるのも忘れて、大いに盛り上がっていた。芹香を知らない響、幸子、蘭子はやけに親しげな二人が気になる模様。


「……そ、宗士郎、その子は?」

「この子は後期課程一年の菅野(すがの) 芹香(せりか)だ。開発の相談に乗ってるうちに〝なるっち〟〝りかっち〟って呼び合う仲になったんだよな」

「な、なるっち……?」

「り、りかっち……?」


 幸子と蘭子が愛称に疑問を覚える。


「そうっすよー! お三方はなるっち先輩の友達さんっすかー!?」

「ああ、こっちが沢渡 響、後ろの二人が左から夢見 幸子、田村 蘭子だ」


 各々、よろしくと挨拶を交わす。眼をキラキラさせて、歓待の意を示す芹香に三人は引き気味だ。


「あの〜菅野さん? 準備は終わりましたか……?」

「ああっ!? 忘れてたっす! すぐに終わらせるっすねー!」


 芹香が凛に呼ばれて、水晶玉を弄り始める。


「学園長、あの水晶玉はなんです?」

「私が以前から依頼していたバリアジャケットの代わりになる試作品だよ。外では裸同然の防御力を上げる為に頼んでいたんだよ」

「へぇ〜、それは素直に助かりますね」


 学園長の周りに集まり、話を聞き始める。


 COQによるバリアジャケットの装備で、痛覚を肩代わりできる〝修練場〟という戦場に対して、身を守る物が異能以外にはない、市街地、海、上空など〝陸海空〟の戦場では身を守る防御力に圧倒的差がある。


 もちろん、バリアジャケットのバリア値には限度がある。少ないのもいるし、多いのもいる。だが、訓練中の怪我などを防げるのは大変助かるものだ。その理由は心置きなく、技を極め続けることができるからだ。


 身を守る物がない――これは武器を持った相手に素手で立ち向かおうとするのと、なんら変わりはない。先日のエルードの一件で、もし攻撃を避けることができなかったらと考えると……当然、脳髄をぐちゃぐちゃに潰され、血と肉塊だけが撒き散らされていたであろう。


「よーし! できたっす〜!」

「どうすれば、装着できるのですか?」

「それはすっね〜! ごにょごにょごにょごにょ……っすよ!」

「ええっ!? 本当にそんなことを言わないとダメなの……?」

「もちろんっす! 変身シーンは何事も〝カッコ良く〟が基本っす!!! これを言わないと変身できないように設定したっす!」

「ほう、変身とな?」


 弄り終えた芹香が凛に耳打ちする。聞き終えた凛は顔を真っ赤にして相当恥ずかしがっていた。見慣れない凛の恥じらう姿に二人を除く、男性、女性陣は変身? 何が始まるんだ、と期待を膨らませる。


「……やらないと、本当にダメ……?」

「はいっす! じゃないと試作品が上手くいったのかさえ、わかんないっす!」


 何故だろう。芹香に言われたセリフがそれほど恥ずかしいのか、凛の瞳がうるうるとしていた。


 だがそれを考慮しない子供が()()もいた。


「凛せんせー! いざ、変身の時来たれりっす!」

「変身! 変身! 変身!」

「変身! 変身! 変身!」

「変身! 変身! 変身!」


 芹香に続き、宗士郎、響、そして()()である宗吉が変身コールをおっ始めた。


「なんか神代先生、可哀想だね……」

「うん、羞恥心で顔真っ赤だよ」


 幸子と蘭子が同情の視線を凛に向ける。


「変身っす!」

「変身! 変身! 変身!」

「変身! 変身! 変身!」

「変身! 変身! 変身!」


 未だに続ける変身コールに凛の身体がぷるぷると震え出し、無意識だったのか、周りに冷気が立ち込み始める。


「ああっ! もう、やればいいんでしょう!? やれば!? 派手に散ってあげますよ!!!」

「――凛さん、キャラ崩壊してますよ?」

「キッ!」

「ひっ!?」


 ようやく覚悟を決めて、変身しようとする凛を茶化す宗士郎に、凛の冷酷なる視線が突き刺さる。


「すぅ〜〜〜〜、はぁ〜〜〜〜っ!」


 深く深呼吸をし、凛が態勢を整える。周りがゴクリッと生唾を飲み込む中、凛が口を開いた。


「……ク、クオリアッ! イマジナルパワー! メイクアップッ!」


 力ある言葉で凛の身体が極光に包まれる。


 感覚結晶で出来た水晶玉から極光のベールが複数飛び出し、身体中に巻きつけられる度、シャンシャンッと光が弾ける音が鳴り、凛の体感時間でおおよそ三秒が経った頃、変身完了した。


「ぅぅ……これが私? いつもよりクオリアを近く感じますね……」


 光が晴れると、そこには白と水色の法衣を纏った凛が立っていた。全てを凍結させる異能を持つ凛にはお似合いの装備だった。


「ぶふぅ!? ぷぷぷっ……!」

「――菅野さん? 何を、笑ってるんでしょうか……」


 口を押さえた芹香が笑いを堪えながら腹を押さえ、今にも吹き出しそうになっている。ふと気づくと、芹香を含む男性陣の皆が笑いを堪えていた。


「ぶふぅ〜!!! あっはっはっはっはっはっすぅッ! 本当に言うとは思わなかったっすよぉ〜! くぅっ!? お腹痛いっすー!?」

「……………………」

「本当は〝戦闘服に着替えたい〟と思うだけで、装着できたのにっすぅっ!? ぷふぅ〜〜〜〜〜!?」


 芹香の口がついに決壊した。爆笑しながら、お腹を抑えて、ゴロゴロと床を転げ回っている。


 凛の眼から光が消える。


「なんだそうだったのか!? 今のセー◯ームーンの変身の時のやつじゃんっ! 凛さん、真面目すぎるよっ! あ〜腹痛いっ」

「そうだよねえ!? 菅野君が何か企んでるって、私でもすぐにわかったのにっ……!?」

「宗士郎もそう思ったか!? だよなぁ! 凛さん、普段は勘がいいのにこういう時、鈍すぎるよなあ!」


 男性陣も口々、言いたい放題であり凛のことをダシにして大いに笑っていた。


「よく考えたな、りかっち! ほんとっ、良いセンスしてるぞ!」

「それほどでもないっすよ〜! ちょっとだけ、アレンジしただけっすから!」


「――皆さん……わかっていて、教えてくれなかったんですね……?」

「!?」

「!?」


 凛の怒りが頂点に達し、凛の身体を取り巻くように吹雪が吹き荒れる。凛以外の皆が時間でも止まったかのようにピタッ! と動きを止める。「HAHAHA! 冗談だろ、ブラザー?」とおちゃらけてみせる。


「……覚悟は出来てますね?」


「いえ、全くっす!?」

「「「いえ、全く!?」」」


 凛が一歩踏み出す。たったそれだけで足元が一瞬にして凍りつく。


「――凍て付きなさいッ!!!」


「ごめんなさいっす〜!?」

「「「ごめんなさい〜!?」」」


 手を振りかざすと幸子、蘭子を除く、全てが刹那の内に凍りついた。


「!? 威力がいつもより数段上になっている……?」

「ぷはっ、そうっす! 今回の試作品、通称〝戦闘服〟にはクオリアの塊――感覚結晶をあたしの異能の物質可変(バリアブル・マター)で弄って、開発したっす! 体内にあるクオリアだけでなく、感覚結晶からもクオリアを引き出してるので、異能の威力向上はもちろんのこと! 防御力、発動スピードまで底上げする自慢の一品っす!」


 凛が気を緩めた為か、自力で氷から抜け出してきた芹香が自慢してくる。


 異能を使うには体内にある感覚臓器(クオリアオーガン)からクオリアを消費する必要がある。クオリアの量も人によって差があるので、今回の〝戦闘服〟は『クオリアが少ない』、『燃費が悪い』人達のデメリットを軽減することができる。


「よいっしょッと! やるな、りかっち! それをわからせる為にわざと凛さんを煽ってたのか……!」

「いえ……あ、いや、そ、そうっす! よく気付いたっすね!? なるっち先輩!?」


 本当は素で煽っていた芹香だったが、氷から抜け出した宗士郎に褒められ、凛に怒られるのが怖かったの所為なのか、肯定し始める。実は宗士郎は素で煽っている事に気付いており、少し意地悪をしていた。


 それを見た幸子と蘭子がジト目で見ていた事に気が付かない宗士郎と芹香だった。





変身といえば、セー◯ームーンかなって書いてた時にふと思いました笑

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