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第十五話 豹変

 




 道場での鍛錬を終え、柚子葉の作った朝食を食べた後、宗士郎達は学園に登校していた。


 朝のホームルームが終わり、修練場での授業が一時間目にあるので、クラス全員で移動する。宗士郎は授業担当の凛が相談事があるとの事で、呼び出されている。そして宗士郎がいない状況で、授業が開始する前に同級生の一人にみなもは絡まれていた。


「へぇ〜、君が桜庭 みなもか。昨日は用事で休んでいて、挨拶ができなかったな。俺は榎本(えのもと)  (りょう)……異能力を持つ選ばれた者同士、仲良くしようぜ」

「う、うん。よろしくね、榎本君……」


 絡んできた同級生は榎本(えのもと) (りょう)。非異能力者を差別的に見ている生徒で、異能力が発現した者を〝エリート〟……発現しなかった者を〝落ちこぼれ〟だと考えている。


 亮はみなもを横目で見ながら、近くにいた男子生徒二人の側にまで歩く。


「しかし、君も可哀想だね。わざわざこんな奴らと授業を受けるなんて――なっ!」

「うぐぇっ!?」

「おぶっ!?」


 亮は傍にいた二人の男子生徒の腹を(えぐ)りこむように、拳で打ち抜いた。


「お、おい! 大丈夫か!? 元春(もとはる)和人(かずと)!!?」


 みなもの近くにいた響が殴られた男子生徒に駆け寄った。


「ーー!? おいっ、榎本テメェ! 異能を使ったなッ!?」


 激怒した響が亮に怒声を浴びせる。亮が突然、人を殴ったことに呆気にとられていたみなもは男子生徒二人の腹部を見て、青ざめた。


 二人の腹部は()(ただ)れて、筋肉が露出しており、ヒューヒューと肩で息をしながら、目は(かす)み、意識は朦朧(もうろう)としていた。


「ハハハッ! これが選ばれしエリートだけが持つ事を許された俺の異能――炎上籠手ブレイジング・ガントレットだ。こんな落ちこぼれとつるんでないで、俺と組もうぜ……桜庭」

「――触らないでっ!?」

「おっと……」


 薄ら笑いを浮かべながら、亮が伸ばしてきた手をみなもは本能的に振り払った。


「なんで、こんな酷いことするの! 異能はそんなことをする為の物じゃないはずだよ!?」

「――なんで、か……。簡単なことを聞くんだなぁ桜庭……それはコイツらが落ちこぼれで、異能が発現した俺の方が優れているからだよっ!」


 亮は腕に爆炎を纏い、元春と和人の状態を見ていた響諸共、巻き込むように火炎弾を撃ち出した。


「――なっ!? くそっ!!?」


 攻撃をされたことに気付いた響が驚愕し、二人を庇うようにして仁王立ちする。


「沢渡君ッ!? 神敵拒(アイギ)――」

(間に合わないッ!?)


 響達を守るべく、神敵拒絶(アイギス)によって守ろうとした。しかし、虚をつかれたみなもは防げないのもわかっていながら、どうにかして助けようと異能の構築を急ぐ。


(鳴神君ッ!?)


 火炎弾が到達する――


 その瞬間、


鳴神流(めいしんりゅう)――水蓮華(すいれんか)ッ!!!」


 何処からともなく聞こえた声とともに、一閃、二閃、三閃と三度による斬撃が火炎弾を散らした。


「遅えよっ、どこ行ってたんだよ――宗士郎!」

「悪い、凛さんに呼び出されててな」

「な、鳴神ぃ……!?」


 散らされた火炎の向こうから宗士郎が姿を現した。宗士郎は亮を一瞥(いちべつ)すると、後ろにいた響達に視線を向ける。


「これは榎本がやったのか?」

「ああ……榎本の奴、いきなり元春達を殴りやがって、この有り様だよ」


 ここは修練場だ。先生が不在で、自習時間になっていたのが、亮があのような行動を取った理由の一つとも言える。他にも理由はありそうだが、今は捨て置く。


 宗士郎は涼しい顔で二人の容態を見ていく。魔物と戦って、重篤(じゅうとく)な怪我をする人を何度も見たので、別に青ざめたりはしない。


「元春、和人。俺の声が聞こえるか?」

「ぁ……ああ――」

「そのまま意識を保っていてくれよ」


 二人の腹部に手をかざし、自分の中にある生命エネルギーを練って戦闘時のように闘氣とせず、そのまま身体に流し込む。闘氣法の応用により、人間が元々持っている自然治癒力を底上げし応急処置を施す。


「気休め程度だが、応急処置はした。響、二人を医務室に連れて行ってくれ」

「わかった。今日のあいつ……いつもと……いや、修練場に来る前と様子が違う。気をつけろ」

「ああ、わかってる。誰か、運ぶのを手伝ってやってくれないか?」

「私達が手伝うよっ!」


 そして、事の成り行きを見守っていた他の生徒達が亮を見て竦んでいた。その中で同級生の夢見(むみ) 幸子(さちこ)田村(たむら) 蘭子(らんこ)がこちらに大きめの担架を持ってやってきた。


「夢見と田村か。()()()()()()()二人が医務室で治療を受けるまで耐えられるかもしれないな。二人をよろしく頼む」

「う、うん……任せて!」

「私達がちゃんと医務室にまで連れていくから!」


 響が担架に二人を並べて、息を合わせて三人で担架を持ち上げると修練場に備え付けられている医務室に向かった。


「ククッ、逃すと思うかぁ!?」


 亮は地面に勢いよく手をつけると、地面がドロドロに赤熱化し響達の足元に火炎を送って攻撃した。


 だが、その攻撃は()()()()()()()()()()()、響達の右5メートル先の空間を燃やし尽くした。


「なに!?」

幸運体質アンラッキー・リバース。夢見の異能を知らないわけじゃないよな?」

「チッ!」


 見当違いの場所を攻撃して驚いた亮に宗士郎が補足する。


 ――幸運体質アンラッキー・リバース――


 幼少期より不幸体質だった幸子に発現した、あらゆる不幸を逆転させる彼女の為とも言える神秘の異能。宗士郎でさえも、攻撃を加えられると断定できないほどの幸運が彼女に味方する。


「さて、どうしたものかな……」

(響の言う通り、今日の榎本はどこか様子がおかしい。基本的に誇り高い奴で、差別はしても暴力に訴えかけるような奴じゃなかったはずだが――)


 普段の亮の振る舞いから、今日ような行動は起こさないと考えられる。今の亮はどこか狂信的な行動と言動をしていた。


「桜庭、無事か?」

「私は大丈夫だよ。榎本君がいきなり攻撃してきて……」

「そうか、早くあいつから離れた方がいいんだろうけど、易々と逃してくれるわけはないよな……」


 みなもの無事を確認し、現状どうするべきか考える。


(本気を出して、榎本を殺して無力化するのは簡単だ……。だが、様子のおかしい榎本が何故ここまで変質してしまったか知る必要があるから、却下。なら――)


 宗士郎はズボンのポケットから携帯端末を取り出して、電話帳のある人の番号を表示する。


「桜庭、これを」

「スマホ?」


 携帯端末をみなもに渡す。


「凛さんの電話番号だ。事情を説明して来てもらうよう説得してくれ」

「神代先生の!? わ、わかった――」


みなもはすぐに電話をかけようとする。


「待て、今はかけるな。勘繰(かんぐ)られて攻撃されるかもしれない」

「じゃあどうするの……!?」

「俺が時間を稼ぐ。桜庭は神敵拒絶(アイギス)で、向こうで固まってる他の生徒達を守れ。その後、守りながらかけてくれればいい」


 亮に視線を向け、腰に下げている『雨音』に手をかける。


「おいおい〜!? 俺を無視して、二人で秘密の相談か〜? 俺も混ぜろ、よっとぉ!!!」


 二人で話していたのが、気に障ったのか亮がこちらに両腕を燃焼させて、突進してくる。


「!? 行け、桜庭ッ!!」

「う、うん!」

「クハハッ、逃すかよォ!!!」


 他生徒達が立ち尽くしている所へ、みなもが地を蹴る。そんなみなもを逃すまいと、突進ながら火炎弾をみなもの方向に放つ。


「うぉおあああッ!!!」


 闘氣を纏って、火炎弾の射線上に入り込むと刀を車輪のように高速回転させ、みなもへの攻撃を遮断する。


「余所見するなよ……お前の相手は俺だ」


 刀を払って、火花を飛ばすと亮に切っ先を向ける。


「悪いなぁ!? お前も忘れてねぇよぉ!! 鳴神ィ!!!」


 宗士郎の顔面を打ち抜かんと放たれる亮の拳の連打。それを闘氣で強化した動体視力と敏捷力を持って回避する。


(地味に速いな。様子がおかしいからか? 生身で受けると流石に不味い……! 現に避けられるが、表皮が焦がされている。どうにかしてCOQを起動しないと――)


 亮の拳は火炎と共に通り過ぎる。拳単体でなら、なんら問題はないが、腕の横――拳一つ分の範囲で火炎が発生している。たとえ、避けたとしても火花が宗士郎の皮膚を焼くのだ。


 この現状を打破する方法は一つ。


 ダメージを肩代わりできるクオリアの籠――COQ(コーク)を起動して、凛が来るまで時間稼ぎをすることのみ。


 その為には亮に悟られず、修練上の中心にあるCOQのスイッチを入れる必要がある。


「気を(そら)さないとな――んっ? あれは……」


 亮が放出している火炎によって、右耳につけている何かが一瞬だけ光を放つ。


「あれは……宝石? いや、感覚結晶(クオリアクリスタル)のイヤリングか?」


 ビー玉のようにカッティングされた感覚結晶が装飾品として、亮の右耳につけられていた。


「っ!?」


 イヤリングの存在を認識した瞬間、心臓を鷲掴みにされたような悪寒が宗士郎を襲う。


(あれはっ、何か不味い! ひょっとするとあれが榎本を豹変(ひょうへん)させてる原因とか言うんじゃないだろうな!?)


 だとすれば、イヤリングを破壊すれば元に戻るのでは? と仮説を立てた。


(俺の異能は当てると人体を容易に斬り裂いてしまう。仮にもそんなヘマはしないが、ダメだ。イヤリングを奪うか、直接破壊する! それで正気に戻らなかったら、()()()()()()()無力化するしかない!!! )


「ふっ!!!」

「ぐぅうううッ!?」


 闘氣を纏った脚で、亮の腹部に距離を離す一撃を見舞う。


「効いたぜ……鳴神ィ!!!」

「さあ、第2R(ラウンド)始めるか」


 距離を離して、仕切り直した宗士郎は『雨音』を構え直した。





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