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第五話 闇夜の襲撃

普通に書いていたつもりなのに、文字数がやべぇ事に……

 




姐御(あねご)、今戻りやした」

「おう、どうだった?」


 今しがた森より帰還してきた牙狼族の若い男が、住居の壁を背に寄り掛かる銀髪の女へと声を掛ける。


 彼の後ろには()()()()()男女五人が控えており、男は悔しさを隠しもせず肩を竦めてみせた。


「見ての通りでさぁ、全員無事。異常や臭いの痕跡も特になく……」

「相変わらず神出鬼没な奴だ……クソ、早いところ奴を取っ捕まえて問題解決といきてぇのに……」


 僅かな落胆の後、震える程に拳を握った銀髪の女は歯を強く噛み締める。


 その感情の遷移が自らの落ち度だと受け取ったのか、報告者の男と後ろの五人がバッと頭を下げた。


「すいやせん! 俺達が不甲斐ねえばっかりに……!」

「そんなに気負うな。あたしは嬉しいんだぜ? 皆が無事に帰ってきてくれただけでさ」

「姐御(姐さん)っ……あざます!」

「しぃーっ! 声が大きい!?」


 真夜中に大音量で響く感謝の言葉。


 慌てて唇に人差し指を当てて銀髪の女が黙らせるも、既にその言葉は身近にいた者の耳にも届いていた。





「っ……敵か?」


 外から聞こえた大声に全身を射貫かれたように、勢いよく起床した宗士郎。


 状況把握をする為、周囲に素早く視線を巡らせる。


「(まだ夜か。起きたのは……俺だけのようだな)」


 室内での異常は見受けられず、次いで外の様子を窺える位置へ気配を殺して移動する。


「……ったく。少しは中の奴らの事も考えろよな」

「すいやせん、つい感極まって」

「あぁもう良いから、早く帰って休め」


 見れば、シノに叱られた数人の男女がこの場を後にしたところであった。


「他の交代要員は……来たか。じゃあ、明け方まで一緒に頼むな」

「「はい!」」

「(明け方まで……? こんな夜遅くに一体何を……)」


 ふと疑問を抱く宗士郎を他所に、先程の男女とはまた別の若手数人がシノの(もと)に集うと、シノは彼等を引き連れて夜の森へと踏み入っていった。


「あいつ、夜は危険だって言いながらっ――いや? 待てよ……?」


 咄嗟に飛び出そうとしたが、不意にある種族の名称が宗士郎の脳裏を過ぎった。


「そうか、吸血鬼族か。あの人数で朝まで警戒なんて無茶が過ぎるぞ……」


 シノと再会したあの日。彼女の目の下に隈が出来ていた訳がここにきて判明する。


 襲撃を警戒する時に限らず、寝不足の時ほど注意を払えないものはない。


 宗士郎は寝入っている者達を尻目に制服を羽織り、〝雨音()〟片手に玄関に向かう。


「どこへ行くの? 士郎」

「っ!」


 と、その行動を見透かしたように背中へ涼やかな声が掛かった。


 振り返った宗士郎の目に映ったのは、果たして寝間着姿の楓であった。宗士郎をそのあだ名で呼ぶのは彼女しかいない。


「えぇと、ちょっと涼みに……」

「嘘おっしゃい。それなら、形見の雨音(それ)指輪(戦闘服)も必要ないでしょう」

「……おっしゃる通りで」


 誤魔化そうとして吐いた嘘がアッサリ看破されてしまう。呆れて腕を組む楓に、宗士郎は潔く諸手を挙げて降参した。


「彼女の意思を無視してまで吸血鬼族を探るんじゃなかったの?」

「今のあいつを……なんだか放っておけなくて……」

「(! 珍しいわね。まさか士郎がそんな事を言うなんて……)」


 その言葉から滲み出る優しさが、楓の頬を緩ませる。


 かつての宗士郎は今ほど他人に優しかった訳ではない。ただ一人の例外を除いて、全ての他人に等しく無関心であったのだから。


「もう仲間だと思っているのね……」

「楓さん……?」

「うぅん、なんでもない。私も行くわ……それから――」


 かつて例外的にもその優しさに触れた楓は首を振ってから、すぐ横に敷かれている毛布の膨らみに顔を近付ける。


「私だけ良い所見せてくるわよ〜……大ピンチね、私のライバルさん?」


 そして何故か、挑発するように呟いた。


 室内では皆が寝息を立てている。本来ならば煽る言動をする必要はない……筈なのだが、その毛布はまるで意思を持っているかのように震えた。


「うぅぅ~もうっ!」


 途端、可愛らしい声と共に毛布が宙へと舞う。


「抜け駆けは許さないよ、楓さん! 私も行く、行くったら行くからね!!」


 毛布の影から現れたのは、プリプリと頬を膨らませたみなもであった。


「みなもも行きたいって。何もなければ予定通りここをたてば良いし、どうかしら?」

「……まぁ、人手が多いに越した事はないか。よし、この三人で様子を見に行こう」

「他の皆はどうするの? よいしょっと……」

「っ!?」


 その場で制服に袖を通し始めるみなも。楓に至っては下着姿になってから制服を着込んでいた。


 宗士郎は胸の高鳴りを感じつつも背を向け、可能な限り平静を装う。


「ゆ、柚子葉や茉心もいるし大丈夫だ。心配なら結界を張ればいい」


 睡眠中の皆を残していく事に、宗士郎は一抹の不安すら抱いていなかった。


 柚子葉は殺気を感じれば起きられる訓練を積んでいる。そして、茉心はこの場の誰よりも強い。響や和心も並の敵相手にやられる程ヤワではない。


「んー、なら平気かな」

「それじゃ急ぐぞ。二人とも俺から離れるなよ」


 みなもと楓が頷きを返し、宗士郎達は家を飛び出すと同時に〝戦闘服〟を身に纏った。


 行き先は、昼間シノと話した大樹――その奥に広がる巨大な森だ。


 真夜中の行動ともなれば明かりを期待したいところではあるが、生憎と月光はどんよりとした曇り空が遮っている。少しずつ暗闇に目を慣らしていく必要があるだろう。


「ねぇ! シノさんはどの辺にいるの?」


 楓と並走しながら、みなもが前方に問い掛ける。


 視線の先には、闘氣法〝索氣〟で生命探知しながら走っている宗士郎の姿がある。


「俺達から北東に数百メートルも離れた所だな。だが、少し妙だ」

「何が妙なの……? まさか、シノさんの身に危険が!?」

「そうじゃない――()()()()がやけに静か過ぎるんだ」


 宗士郎が大体の位置を言うや否や、不安を露わにするみなも。しかしすぐに、宗士郎はその可能性を否定した。


「動植物のいる自然()にとって、俺達人間は異物でしかない。走ってる今なら、余計にざわつく筈なんだが……何故か反応がない」

「ごめん、何がおかしいか分からない……」


 目を伏せてお手上げ状態のみなもに、楓が少し呆れたように息を吐く。


「あのねえ、ここは牙狼族の狩場なのよ? 獲物を狩り尽くしたならまだしも、沈黙しているのは変でしょう」

「あぁ、確かに――きゃぅ!?」


 みなもが納得した途端、不注意にも大木の根で躓き盛大にずっこけてしまった。


 これには、先行していた宗士郎も流石に足を止めざるを得なかった。


「おい、大丈夫か?」

「あいてて……ちょっと擦りむいちゃったみたい」


 紅く滲んだ右手を掲げてみせるみなも。


「もう、相変わらずドジなんだから……ほら手を見せて」


 楓が溜息を吐き、万物掌握(クロノス)による逆再生で傷を治そうとした――直後。


 キュッキュッキュッキュッ――!!


「なんだっ!?」

「キャッ!?」

「え、なに! 何事ぉ!?」


 無数の茶黒い影の到来と共に、機械音のような雑音が全員の聴覚を蹂躙した。


 皆一様に両手で耳を塞ぐ中、宗士郎だけは注意深く闇に目を凝らす。


「こいつは、コウモリ!? なんで急に、俺達を……!?」


 宙に蠢く物体。その正体は、闇夜に輝く赤目のコウモリであった。


「それにこの気配、さっきのか……! くっ、一旦散るぞ!」


 散開の指示を出しつつ後ろへ下がった宗士郎だったが――


「な、なに!?」


 二人はその場から一歩も動いてはいなかった。


 普通、人間は訓練もなしに特定周波数の音を聞き分ける事は難しい。そうでなくとも複雑に重なる奇音と驚きが聴覚を搔き乱し、楓とみなもの判断力を奪っているのだ。


「は、離れなさい!」


 それでも楓だけは不快感から行動を起こせていた。コウモリを手で追い払いつつ、偶然にも宗士郎の下へ逃げ去る。


「よし! 桜庭も早くっ……――は?」


 楓がコウモリから逃れ安堵したのも束の間、残るみなもだけだと宗士郎が視線を戻し、奇妙な光景を見た。


「あれ、私……?」


 少し遅れて、楓も同様の異変に気付く。


 獲物が逃げれば追うのは必定に近い。にもかかわらず、宗士郎と楓は逃げ遅れたみなもを()()()眺める事ができていた。


 それ即ち、コウモリの矛先が二人に向いておらず――


「ちょーっ!? なんでっ、私っ、だけぇ!?」


 そう、コウモリは変わらず集中攻撃していたのだ。()()()()()


 果たしてその人物は、逃げ遅れた()()()であった。


「ど、どういうこと……? あの魔物には、藤色(ラベンダー)頭を襲う習性でもあるというの?」

「いや、そもそも魔物かどうかも……楓さん、時を――」

「っ、ええ」


 最初は混乱していた楓だったが、〝時〟という言葉を聞くだけですぐさま真剣な顔付きとなり、


時間停止(タイムフィクス)!」


 発現させた万物掌握(クロノス)によって、眼前のコウモリが起こす活動――その事象のみを時の牢獄へと(いざな)った。


「も、もうやめてぇえええ~!!」


 軽くパニックに陥っているみなもを他所に、途端に動きが静止するコウモリの群れ。


 それは――意識を除いた、羽の動き、超音波の鳴き声の全てが世界から隔絶された事を指していて。


「みなも! さぁ今の内に!」

「……へ? コウモリが止まって……?」


 楓の声で事態が鎮静化したと気付くみなも。辺りを見渡し、宗士郎達の姿を見つけると目元を潤ませる。


「うぅっ……か、楓さ~んっ!!」


 そして、勢いよく楓の胸に飛び込んだ。


「ちょ、ちょっと苦しいってば!」

「だって、だってぇ……! ライバルなのに助けてくれたし~っ!」

「馬鹿ね……」


 楓は熱烈な抱擁に不満を漏らしつつも脱力したように笑い、みなもの頭に手を乗せる。


「仲間を助けるのに、理由なんていらないじゃない?」

「か、楓さん……ちゅき」


 歯が浮きそう台詞を平然と言ってのける楓の姿に、みなもは思わず告白していた。


 まさに、女の園に咲く百合空間の誕生だ。


 ――キュッキュッキュッキュッ――!!


「!?」


 そんな緩んだ空気を叩き壊したのは、世界より隔絶されていた闖入者の鳴き声。


「効果が切れたか……いい加減耳障りよっ」

「さて、どうするか」


 活動を再開したコウモリを睨み付けつつ、楓と宗士郎が身構える。


 その途端――


「さっきのお返し!」


 二人の背後から互いの間隙を縫うようにして突き出された細腕。


 その手の平から直径ニメートル程の透明な球体が前方へ射出される。蠢くコウモリ全てを透過して包み込むと、すぐさま球体が収縮し内部の動きを封殺してしまった。


「あら、神敵拒絶(アイギス)で捕獲したのね」

「良い判断だ。よくやった、桜庭」

「えへへ、耳障りだったしね。ざまあみろだよ。うわぁ気持ち悪っ」


 振り返った宗士郎の問いかけに対し、みなもは地面に落ちた障壁を両手で拾い上げる。


「それにしても、なんで私だけ執拗に狙われたんだろ?」

「特別な事は何もなかったと思うが……」


 その点に関しては、宗士郎も頭を悩ませていた。


 自分と楓は巻き込まれただけで、みなもに何らかの要因があったと考えるのが妥当だろう。しかし、その理由は皆目見当もつかない。


 となれば、選択肢は一つだろう。


「(念を入れて、こいつらはさっさと処分した方が良さそうだな)」


 宗士郎は、みなもが捕まえたコウモリを忌々しげに睨み付けた。


「でもまさか、助けに向かった私達が酷い目に遭うなんてね」


 楓が皮肉っぽく笑うと、一番の被害者であるみなもがぷくぅと不服げに頬を膨らませる。


「ほんとだよ。私なんかコケるしコウモリに襲われるしで、もぅ踏んだり蹴ったりだよぉ!」

「いや、その残念っぷりは割といつもの事だぞ」

「酷いっ!? これでも精一杯やってるんだよ!」


 精一杯やってこれなのか、とは流石に可哀想で言えなかった宗士郎。今はそれよりも、こちらに近付いてきている存在達に意識を割きたかったのもある。


「今の騒ぎを聞きつけて、シノがこっちに向かってきてるみたいだ」

「本末転倒ね。なんて言い訳しようかしら……」


 宗士郎は振り返って闇を見つめると、釣られるように楓もそちらを見た。


 闇の中で連綿と広がる木々。冷えた空気の中で聞こえてくるのは、風で揺れる枝葉の音と互いの息遣い。


 そして、その中に混じる()()()()()――


「(羽音……?)」


 その音は宗士郎だけが聞えていたようで、音の発生源である背後に振り返り、


「――うっ……」


 衝撃的な光景を、その目で見た。


 みなもの首筋に()()()()()()()()()()()()姿()を。


「っ……な、なるかみ、く……」


 首筋に作った傷から血を吸い上げているのだろう。その体は異常なほど速く膨れ上がる一方で、反比例するようにみなもの肌がほんの少しずつ瘦せこけていく。


「っ!!」


 何故コウモリが? 何故血を吸っているのか?


 そんな些末な思考が脳裏を過ぎるよりも速く脳が下したのは、刀剣召喚(ソード・オーダー)による武器の顕現だった。


 即断即決で創生した刀を躊躇いなく真横に振るい、みなもの肩に()まったコウモリの首を刎ね飛ばした。


「桜庭!!」

「え、なにが――みなも!?」


 前方に傾くみなもの体を正面から抱き留める宗士郎。


 遅れて楓が事態に気付く中、みなもの手から障壁球が滑り落ち地面を転がる。一つの影が急速に空へと離れていったが、今の宗士郎にはどうでも良かった。


「みなも! どうしたのみなもっ!!」


 みなもの状態は控えめに言っても酷い有り様であった。


 目は虚ろで顔面蒼白、息も荒く弱々しい。肌にできた皺はとても健康な女の子とは思えないほどで、此度の異常性を雄弁に物語っている。


「っ、はぁっ、ぅくっ……」


 そして最も特筆すべきは、首筋にできた二つの傷だ。


 未だに紅い血の溢れる丸い傷痕。そしてその傷から湧き出た血を、先程のコウモリは嚥下していた。


「(この傷口、血を吸うコウモリ……に、似ている――)」


 頭に詰め込んだ異界(イミタティオ)の知識が、一つの可能性を提示してくる。


 しかし、()()()()()とはいえコウモリではない。それでもその行為は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「(まさか、あのコウモリの正体は――!)」


 後回しにしていた疑問が確信に近い答えに変わり、脳の警鐘をけたたましく鳴らした。


「楓さん! 桜庭に全力時間逆進(リワインド)っ!」

「え?」

「血を戻すんだ! 早くっ!!」


 みなもの首筋を指差しながら、宗士郎は必死の形相で指示した。


 一瞬呆然とした楓であったが、その後すぐ時間逆進(リワインド)をみなもに作用させ始めた。


 程なくして、両断されたコウモリの残骸と周りの地面から紅い液体が抽出され、ゆっくりと傷口へ戻り始める。


「(早く、早く戻ってくれ……!)」


 徐々に肌艶が戻り、生気を取り戻していくみなも。しかし、未だ垣間見える死の予兆から、宗士郎には気が気ではなかった。


「血が途切れたわね。後は……」


 宗士郎の心配をよそに、体内へ戻る血液の流れは僅か八秒程で止まった。傷口もまるで元々存在していなかったかのようにみるみる修復されていく。


「よし……血も回収したし、傷も治った。もう大丈夫よ」

「ま、間に合ったか……助かったよ、楓さん」


 楓による応急処置が済み、宗士郎は心の底から安堵した。額に不安と緊張の汗が浮かんでいた事に、遅れて気が付く。


「一体どうしたのよ。あの傷、そこまで不味いものだった訳?」

「ああ、血と生気が大量に抜かれていた。下手すれば、命の危険があった程に……」

「あんなに小さな傷口で……!?」


 そう答えながら、宗士郎はみなもの頬に手を添える。


「(桜庭が襲われる直前まで、まるで気配を感じなかった……どういう事だ? さっきは気配を感じたのに。桜庭が起きない理由は予想つくんだが――)」


 傷口こそ完全に塞がったものの、依然としてみなもの意識は混濁している。


 それが出血性ショックによるものか、『干渉された者は時間の変化を認識できない』という万物掌握(クロノス)特有の効力が原因かは定かではない。


「今ので病気になる可能性は?」

「心配ないわ。仮に病原体に感染していたとしても、その過程すら遡って戻すようにしているから」

「ふぅ……それなら安心だ」


 再び溜息を吐く宗士郎。楓の言う通りであれば、みなもは(じき)に目を覚ますだろう。


「(後はこいつ等――いや、()()()をどうするかだ……)」


 この場に存在する潜在的危険に視線を向け、宗士郎は思考に耽り始めた。


「ねえ、みなもに何があったの? 病気の心配までするなんて……」

「――おい! お前ら、なんでここにいるんだ!!」

「うわぁ……」


 そんな宗士郎に楓が訳を訊いた直後、どこからともなく怒声が木霊した。


 楓は頭を抱えて、声のした方向へ振り返ってみる。銀髪の女牙狼族が怒り心頭の様子で、数人の同胞と共にこちらへ近付いてきていた。


「ええと……シノあのね? これには深い訳が……」

「夜の森には近付くなって……あたし言ったよな――」


 銀髪の女――シノは弁解しようと立ち塞がった楓を押し退け――


「え……?」


 ――途端に、怒気溢れる表情が曇った。


 半身だけ振り向いた宗士郎を――否、その腕に抱えられた人物を見たが為に。


「……ミナモ? 何が、あったんだ……?」


 目を閉じてぐったりとしているみなもの姿がシノに僅かな動揺をもたらし、声音が弱々しいものへと変わる。


 状況を把握するべく、シノは瞳を右往左往させた。そして、宗士郎達の傍に転がっていた障壁球に視線が集中する。


「これは……」


 その中では、無数のコウモリが未だに活動を続けていた。


「……よし。楓さん、桜庭を……」

「え、ええ」


 そんなシノをよそに、決断を下した宗士郎は楓にみなもを預けると、虚空から一振りの刀を召喚した。そして、柄を握る手を逆手に持ち替え――


「っ、ナルカミ!?」

「し、士郎! 何を!?」


 ――あろうことか、()()()()()()()()()()()()()


 みなもの神敵拒絶(アイギス)とはいえ、意識的に防がなければ脆いもの。


 障壁は見るも無残に砕け散り、コウモリが爆発するかのような勢いで飛び出した。


 キュキュッキュッキュ――!!


「なにしてるの士郎!? 折角みなもが捕まえたのにっ――!」

「おい、早く説明しろってっ! なんなんだコイツは!?」


 頭を抱える楓と説明を求めるシノ。そして、宗士郎や他の牙狼族をも無視して、大量のコウモリは飛翔していく。


 夜空の一点に向かって、ひたすら一直線に。


「そこかっ!!」


 その先を見据え、宗士郎は頭上に広がる闇を斬り裂いた。衝撃波を伴った不可視の斬撃は、空を覆っていた黒雲さえも吹き飛ばす。


「(……斬った)」


 程なくして、雲の隙間から微かな月明かりが差し込み始める。


「……ねぇ、いきなりどうしたのよ?」

「ナルカミ、誤魔化そうたってそうはいかねーぞ。早く訳を話せ、な?」

「訳は後で話す。それより――おい!」


 未だ状況を把握できていない楓とシノの追及を聞き流し、宗士郎は頭上の闇に向かって叫ぶ。


「良い加減出てきたらどうだ! ()()()()()よ?」

「…………は?」


 シノは初め、宗士郎が言った事を理解できなかった。


「……ば、馬鹿言えよ。吸血鬼族だって? 仮にあたしが追ってる奴だとしたら、この鼻で捉えられねー訳が……」

「いいや居る。……どうした! 敵が大勢いたら出てこれないのか……? 臆病者め」


 この場に居る筈のない存在に向かって叫ぶ宗士郎。


 虚空に呼び掛け続けるその姿は、皆の目にはさぞかし滑稽で可哀想な奴に映った事だろう。取り越し苦労で済めば、道化を演じるだけの価値があるというものだ。


 しかし、幸か不幸か。あるいは偶然、それとも必然であったのか。


『――言ってくれますね……良いでしょう』

「な、なんだ……!?」


 その杞憂は、男の声と共に目に見える形で現れた。


 闇の虚空より生まれ下降してきた()()()()()()()が地上にて激しく渦を巻く。地表に近い個体から順に、その身を重ね合わせ混ざり合う。


 グチュグチュ、とまるで肉をこねるかのようにして。


「おい冗談だろ……この血生臭いはっ……」


 結合を繰り返していくソレ等は驚愕で眼を見開くシノの前で二本の細足、胴体、顔へと変貌を遂げていき――


 やがて、()()()()()()()()()は人のカタチを成した。


「――ご機嫌麗しゅう、牙狼族の皆さん。そして、()()()()()()()()()()()()()





初稿では、みなもを老婆の如く老けさせてましたぁ! 反省はしてない!(by鬼畜作者)

物語が良くなるならば、主人公や味方、敵キャラの魅力を最大限引き出せるなら、ヒロインやモブ共を貶めたり惨殺したりする事に躊躇などない……というか要るかな? フハハ、と。

ですが後で推敲していく内に、そんなヒロインは見たくないなぁとの結論に無事至りました。


※現実の都合上、またしばらく休むことになります! 読者の皆様、次話を期待して待っていてください!※



「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたのなら幸いです。

ブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価欄から応援して頂けたら、更に狂喜乱舞ゥ! 執筆励みますよぉ……!

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