エピローグ1 弔歌を捧げし夜
不定期投稿になってしまいましたが、8月1日にエピローグ2も上げます!
「弔いの歌、か……」
王宮内に存在する大きな広場の片隅で、宗士郎は独りで座っていた。
広場では死者を弔う為の演奏と歌い手の歌声が流れている。その歌声は歌い手や同席している者達の気持ちを代弁するかのように悲しげだ。
「(俺に、ここにいる資格があるのか……? 王国の民達を守れなかったこの俺に)」
胸中で、自らを責めるように呟く宗士郎。
聞こえてくるのは、なにも歌と演奏の音だけではない。
啜り泣く者や号泣する者、果ては泣き疲れて憔悴した者。大切なものを失った者達の嘆きが、大小問わず聞こえてくるのだ。
その度に宗士郎の胸は酷く痛んだ。
「(だいたいおかしいだろ。帰ってきた俺達を笑顔で出迎えるなんて……)」
王都に帰還した時のことを思い出し、心でぼやく。
魔神の軍勢を退けた者達に向けられたのは、非難ではなく歓声だった。歓声が胸に棘の如く突き刺さる事など、宗士郎はおろか他の者達ですら経験がなかった。
何故、誰も責めない? 家族や友人を殺した敵のお情けで生きて帰った者を笑顔で迎えたいと思うか? 否、絶対に有り得ない。むしろ、石を投げ付けても良いくらいだ。
いくら急な襲撃だったとはいえ、彼等を守れなかった責は背負うべきなのだ。同盟を組んでいる今、宗士郎達には王国の民を守る義務があるのだから。
「(国を守っても皆の大切なものを守れなかった……なのに、なんでだよ。なんで、皆して笑顔を浮かべられるんだ……?)」
彼等と目が合えば、泣きながら微笑んでくる。守ってくれてありがとうと頭を下げてくる。それらの光景が宗士郎には、とても理解し難かった。
「(いや、だからこそか……俺が彼等にとっての他人だからこそ、責められる筈……ないんだ)」
考えてみれば、単純な話だ。
宗士郎は家族や友人を何よりも大切とする。もし逆の立場だったとして、友人や家族でもない人の為に命を懸けて戦った者を誰が責められようか。
「(彼等も理解してるんだ。俺達を責めたところで、死んだ人が生き返る筈ない事を)」
だからこそ、民は行き場のない怒りや悲しみを歌に乗せて天に放つのだ。
「はっ、俺も変わったな……いつから他人を思い遣れるような善人になったんだよ……」
宗士郎を変えてしまった原因はこの場にいない。今頃、民家を失った者達を対象とした炊き出しの手伝いをしている筈だ。
皮肉ぶって、未だ暗い空を仰いでいると――、
「辛気臭い顔をしているな。身体の調子はどうだ?」
視界の端から虎顔の男が姿を見せた。
「ティグレか……」
宗士郎は視線を合わせずに前を見ると、
「……治療師達のおかげで動くのに支障はない」
王国の民を守れなかった負い目から、つい素っ気ない態度を取った。
「そうか」
ティグレは静かに頷くと宗士郎の横に並んで立った。
「先程はあまり構えなくて悪かったな。事後処理に手間取っていた」
「いいさ、それくらい」
かなりばつが悪かった宗士郎は言葉少なめに会話を切ってしまう。本当は彼に言わなければならないことがあったというのに。
「新たな力を、得たらしいな」
そんな心境を察してか、単に興味があったのか。ティグレは宗士郎が得た力について話を振ってきた。
「……それでも、奴には勝てなかった。この国の人を守れなかった……済まない」
再び巡ってきたチャンスに、宗士郎はティグレに今の気持ちを吐露していた。彼等の態度に納得したが、それでもティグレには謝意を示したかったのだ。
「謝るのはオレの方だ。国の一大事というのに、オマエ達や部下に任せきりだった」
ティグレは他の者達と同様、宗士郎を責めなかった。むしろ、彼の方が申し訳なさそうだ。
「いや、ティグレが来たところで状況は変わらなかったさ」
目を閉じて、短いようで長かった一日を振り返る。
禍殃の竜、魔傑将リヴル、そして魔神カイザル=ディザストルとの激しい戦闘の記憶を。
「それくらい奴等は……カイザルは強敵だった」
次に目を開けた時には、自然と拳に力が入っていた。
敵の盤上で踊っていなければ生還できなかった事実が、屈辱が、宗士郎の誇りに傷を付けた。
「もっと力が必要なんだ。大切なものを絶対に守れるくらいの力が……!」
「ソウシロウ……」
宗士郎は自分でも気付かない程に思い詰めていた。
ティグレはどんな言葉を掛けてやればいいものかと悩んだ末に、
「――ソウシロウは知らんと思うが、この催しは王家の伝統の鎮魂歌でな。人間族が生きていた数百年前までは、戦争が起こる度行われていたのだ」
王家の伝統についてしみじみと話していた。
「急に、どうしたんだ?」
急な話題転換に、宗士郎も怪訝そうに振り返る。ティグレは焦るなと言わんばかりに話を続けた。
「今まで聞く機会がなかったが、これ程までに胸が締め付けられるとは思わなかった。それだけ今までが平和だったということなのだがな……」
穏やかな顔をしている反面、先程の宗士郎と同じくその拳にはギリギリも力が入っていた。
「もし、オマエがオレの国を想い、民達の死を悼んでいるのなら……奴等の卑劣なる仕打ちに怒りを感じているのなら……再びオレに――」
ティグレが宗士郎に向き直ると、
「いや、この国に力を貸してくれ」
突然、深々と頭を下げた。
「ティ、ティグレ? あ……」
宗士郎は驚愕に目を見開き、そこでようやくティグレが鎮魂歌の話をした理由に行き着く。
「(俺だけじゃないんだ……一番苦しい思いをしているのは民を持つティグレなのに、俺は自分のことばかり……)」
宗士郎は自分を酷く恥じた。
同盟を組み、これから仲間も更に増えるだろう。だというのに、宗士郎は自らの失態ばかりに目を向けて、周りを知ろうとしていなかった。
「すまないティグレ! 俺はっ……」
立ち上がった宗士郎がティグレに謝ろうとする。しかし、面を上げたティグレが首を横に振った。
「良いのだ」
そして、宗士郎の肩に優しく手を添えた。
「オマエのこの国を憂いている気持ちは十分に伝わった。だから、自分をあまり責めてやるな」
まるで父親のような優しさを向けてくるティグレ。
「それに、獅子奮迅の活躍をしていたとコムギより聞いている。その身が傷付くことを恐れず、仲間の為に戦ったオマエを……誰も責めはしない。前を向くのだ、異国より参った勇敢なる剣士よ」
「っ……」
一人の男として、戦士として、そして王としての言葉に、宗士郎の身体は喜びと感謝の気持ちで震えた。
自分も辛いだろうに、それでも他人を気遣える度量の深さ。流石は一国の長といったところか。あるいは、それだけ歳を重ねて来たということか。
いずれにせよ、感謝せねばなるまい。
「……俺もまだまだ子供だな――ティグレ」
心に漂う鬱蒼とした霧を晴らしてくれたティグレの怒りを共有する者として、宗士郎は再度決心する。
「改めて誓う……俺は今よりも更に強くなる。そして、王国に生きる全ての者の想いを剣に乗せて戦う」
「うむ、良い返事だ。ようやく本来の顔に戻ったな」
厳しい顔をしていたティグレがようやく笑顔を見せると、宗士郎の背中を強く叩いた。
「ならば行くがいい、仲間の元へ。これからの事をよぉく話し合うのだ」
「ああ!」
一度振り返って、宗士郎も微かな笑みを浮かべて走り去っていった。
次第に小さくなっていく背中を見届けると、ティグレは溜息を吐いて肩を竦めた。
「大人びていても心根は未だ子のままか。全く、ガキというのは本当に世話が焼ける」
「――あなたも昔は王位を継ぐ者として、私情と建前の葛藤に苦しんでいた筈では?」
建物の影からぬるりと進み出た者が苦笑しながら出てくる。
「盗み聞きとはあまり良い趣味とは言えんな。それに、若い頃の話はしない約束だぞ――ユズリ」
「ははは、そうでしたかな」
鷹の鳥人族のユズリがとぼけたように微笑する。
「幼き頃よりお仕えしてきましたが、あの〝暴れん坊王子〟が他人を思い遣れるようになるとは……あなた様も成長されましたね」
眼を瞑ったユズリが感慨深げに呟く。瞼の裏では懐かしい過去が再生されている事だろう。
しかし、思わぬ過去が飛び出たティグレにとってそれは封印したい過去そのもので、
「五月蠅いぞ! これ以上この話を持ち出すなら、今のシズリとそう変わらない頃に、まだ布団を濡らしていた事を娘にばらすぞ!?」
「は、ハハ……じょ、冗談ですよ、冗談」
「ならば良い、行くぞユズリ。執務の時間だ」
引き攣った顔で誤魔化すユズリの横をすり抜け、すっかり王の顔付きに戻ったティグレが城内に突き進んでいく。
「御意、王都周辺の村に捜索隊を派遣するのですね?」
するとユズリもティグレの従者として付き従い共に戻っていく。
「王都を魔物に包囲されていた結果、後回しにせざるを得なかったが、ヤツ等の軍勢が引いた今ならば安全に生存者を探せるだろう。隊の編成は任せる、街の復興はその後だ」
「は、副団長のコムギを中心に動ける者で構成致します。捜索規模は――」
「鳴神さまぁ~!」
「っと……! ぅぐっ……」
宗士郎が城内で借りている自室のドアを開けた瞬間、小さな女の子が勢いよく腰に抱き付いてきた。咄嗟に受け止めはしたものの、治り切っていない傷の痛みで呻き声を上げてしまう。
「よくぞご無事で! 私、心配したのですからねっ……」
「わ、悪かったと思うが和心……まだ身体が痛むんだ。だから離れて、くれ……」
「あわわっ、それはいけませんね!」
ひょいっと腰から離れる和心に、宗士郎は内心で溜息を吐く。
正直なところ、動けるというだけで身体は未だズタボロのまま。死者を弔っていたのは、宗士郎自ら望んだ事で、本来ならしばらくは安静が必要だ。
「小童、どうやら今回は乗り切れたようじゃの。あの魔神相手によく生き残れたものだ」
離れていった娘の代わりに母親の茉心が労いながら近寄ってくる。
「まあ、な……」
対して、宗士郎は沈んだ表情を浮かべた。
「あまり嬉しそうではなさそうだの。こやつ等の消沈具合に何やら関係ありそうじゃが……」
茉心が流し目で後ろに居る者達へ視線を向けた。
机に頬杖をついて座っている楓。ベッドで寝転がっている響に、その脇に座って顔を伏せている柚子葉。そして、窓辺で考え事をしている様子のみなも。
「いったい何があったのじゃ? お主が纏う気配も少し異なる事も含めてな」
「カイザルと戦った俺も全て把握できてないんだ。楓さん、補足をして貰えるか?」
宗士郎の要請に、楓は静かに首を縦に振った。
事情を何も知らない茉心は宗士郎の言葉に疑問を覚えたが、二人の話を聞いた後、ようやく納得できたようだった。
「小童が魔神の思惑通りに動いてなければ死んでいたと……確かにそれは凹むのぅ」
ベッドの上で膝に和心を抱えて話を聞いていた茉心が素直に同情する。
和心を除く五人がほぼ同時に肩を震わせた。
「しかし、気になるのは魔神の真の目的じゃな。何故そうまでして、小童の潜在能力を引き出そうとする? 最初の邂逅では敵とすら思われておらんかったようではないか」
茉心が真面目な顔で楓に聞いた事実を告げる。
「日本では相手にされず、今回は何故か強い興味を持たれていた。奴の行動と思惑はまるで嚙み合ってない」
「世界の支配が目的なのに自ら敵を強くしようとするなんて、私なら考えられないわ」
目的完遂までの余興か、ただ単にそれでも倒せる自信があるのかはさておき。
楓の意見を聞いた者は宗士郎を含め、全員が同意を示した。流石に事が事だけに、少ない情報でもカイザルの目的を何か推察したくなるもので、
「ふぅむ……もしや、魔神とは別の意思が働いているのやもしれん……」
考え込む空気の中で唯一見解を述べたのは、この世界の事情に明るい茉心だった。
「第三の勢力ね」
「それもカイザルの思惑に介入できる程の、か……」
楓と宗士郎も自らその可能性を口にした手前、新たな勢力が存在するなどと信じたくはなかったが、
「この世界で『神天狐』である吾輩と同等、それ以上に強い者など片手で数えられる程しかおらん」
「本当なら一人もいて欲しくないけどな」
カイザルや茉心の力を自ら体感している宗士郎としては、数人いるだけでも悪夢に違いない。
「で、どんな奴なんだ?」
「そうじゃな……例えば、当代における竜人族、鬼人族、エルフ族の長が挙げられるの」
「その三種族って、同盟を持ち掛けようとしている所じゃないの……! 同盟を断られたらと思うと、今からゾッとするわね……」
「もっとも、魔神を敵視していた筈じゃから吾輩達と戦争になる事はまず有り得ぬよ」
身体を震わせる楓に、茉心は安心しろとばかりに微笑みを見せた。が、しかしすぐに表情を曇らせたかと思うと、
「此度の襲撃、神の意思が絡んでなければ良いがな……」
誰にも聞こえない程の声でそう囁いた。
「なんにせよ、今後はカイザルの真の目的を探らないとな。クオンのこともあるし……」
「ふーん……」
話を総括した宗士郎に楓のジト目が向けられる。
「な、なに?」
「別に……あの魔人族の女を随分と気に掛けているのねとか、全然、これっぽっちも思ってないわよ」
「思ってるんじゃないか……本当になんでもないんだよ」
大仰に不満を言う楓に、宗士郎が深々と溜息を吐いた。
命の恩人かつ魔神の妹で、楓やみなもに負けず劣らずの美女。加えて、何か重い事情を抱えている人を気にならない筈がない。かと言って、クオンについて何か語れる程の情報を持ち合わせていないのも事実なのだ。
「いつか聞かせて貰うわよ。それで……足手纏いと知りつつ戦場に来たみなもは、さっきから何を考えているの? 士郎が私達の知らないところで女引っ掛けてきたのに気にならない訳?」
未だにクオンの事を根に持っているようで、楓が宗士郎に想いを寄せているライバルに声を掛ける。
「誤解を招く言い方はやめてくれ……」
「くく、色男は辛いの」
同情した茉心がまたも溜息を吐く宗士郎の肩を叩く。
「気にならない――訳じゃないけど、私が今知りたいのは、鳴神君に起きた異能力の変化であって、小難しい話じゃないもん」
と、窓辺から離れたみなもが珍しく真面目な事を言い張った。
「……あなた、本当にみなも?」
「どういう意味!? 私だって、鳴神君以外の事を考えたりするよ! 特に今回は、思うところがない訳じゃないし……」
宗士郎が大変な時に傍に居てやれなかった事を言っているのだろう。むすっとしたみなもは顔に皺をつくりながら、掌を見ていた。
楓はみなもの反応が想定通りとばかりに続ける。
「やっぱりね」
「やっぱりって、何が?」
「実は私も気になってはいたの……禍殃の竜やリヴルを倒し、カイザルに傷をつけた士郎の力が。二人もそうでしょう? 柚子葉、響」
楓は宗士郎を一瞥してから、柚子葉と響に同意を求めた。
すると唐突に、柚子葉が震える声で語り出した。
「…………今回の戦いで思い知ったの、自分の力の無さを……その所為で、お兄ちゃんにもいっぱい迷惑掛けちゃった。このままじゃいけないのに、どうすれば今より強くなれるか分からないっ……」
「……!!」
宗士郎は驚きを隠せないでいた。俯く柚子葉が見せた大粒の涙に。
母薫子が死んでから、柚子葉は滅多に泣かなくなった……周囲に甘えなくなった……我慢する事を覚えてしまった。
それが今回の戦いで、我慢できる限界を超えてしまったのだ。
「私、悔しいよっ……本当は並んで戦いたいのに、呆気なく魔桀将に操られて、大好きなお兄ちゃんを傷付けてしまったのが、堪らなく悔しくて嫌になっちゃう……! ごめん、なさいっ……お兄、ちゃっ……」
それ程までに悔しかったのだろう。部屋に柚子葉の嗚咽がだけがよく響いた。
「(今、俺が柚子葉に掛けてやれる言葉は……悔しいけど、ない)」
今、宗士郎が兄として「気にすることはない」と優しく言葉を掛けるのは簡単だろう。しかしだからといって、自らの弱さから目を背けさせるのは余りにも酷だ。
楓やみなも、それに茉心や和心でさえも柚子葉を慰める事は容易ではない。
「俺も、さ……情けない話だけど、今回の一件で生き残れた事が奇跡だと思っちまったんだ。だけど、それは間違いだった」
そんな中、ベッドに身体を預けていた響が顔を腕で隠しながら上擦った声で言った。
「本当はメチャクチャ悔しかったんだっ……親友のお前が辛い時に、俺はただ見てる事しかできなかった! 一緒に戦ってやれなかった!!」
「響、お前…………」
「俺はただ、親友とその家族や友達を守りたいだけなんだ……だから、この旅に付いて来た。なのに、なのによぉっ……今の俺には、その力がないんだチクショォっ」
宗士郎に指摘されてから事の重大さに気付き深く考えたのだろう。いつもは楽観的な思考をしている響でさえ、今回の一件を重く捉えていた。
「お兄ちゃん、私、強くなりたいよっ……背中を任せられるぐらいに!」
「俺だってっ……あいつらにこれ以上好き勝手させてたまるかよっ!」
二人共寸分違わぬ願いの発露。
「私も二人と同じ気持ちだよ。もちろん、楓さんもね」
「ええ。あいつらを放置していたら、私達の幸せな日々はそれこそ永遠に失われてしまうわ」
〝守りたい〟という強い想いはこの場にいる誰もが抱いていた。
「鳴神君……あの力について、教えてくれないかな?」
「桜庭……皆……」
皆の視線が宗士郎に集中する。
己の弱さを自覚した皆に、既に一つ上のステージに進んでいる宗士郎が出来るのはたった一つだ。
「皆の想い、確かに受け取った――俺から話せる事はあまりに少ないが、強くなる為だ……やれる事はやっておこう」
強く握った拳を皆の前で掲げる宗士郎に、面々は真剣な表情で一様に頷いた。
「皆、すぐにでも強くなりたいと思ってるだろう。だけど今は、身体を休める事に専念してくれ。戦闘に次ぐ戦闘で、疲労と眠気も相まって正直ヤバい」
「なんなら、吾輩が治す事もできるぞ? 不慣れ故に時間は掛かるがの」
宗士郎が休息を勧めると、茉心は腕まくりして意気込む。
「いや、やめておく」
しかし、宗士郎はその申し出を断った。
「何故じゃ」
「今回の傷は、己の弱さへの戒めのつもりなんだ。綺麗事に聞えるかもしれないが、これだけは譲れない」
「ふむ、そういう理由ならば仕方あるまい。それならば――」
あっさりと引き下がった茉心は肩を竦めて笑うと宗士郎達へ次々と視線を投げ掛け、
「七日間じゃ――その間は鍛錬は禁ずる。破った者は吾輩の愛しい娘、和心のお仕置きが待っておるぞ」
「そういう事です! 遊ぶ時は全力で遊んで、休む時はしっかりと休む! こんな事は、子供でも分かるのです!」
「いや、遊びじゃ……まぁ良いか」
少しズレたアドバイスをする和心は実に得意げであったが、二人が言いたい事は皆理解していた。
宗士郎達は一刻も早く強くなる為に、全力で休息に専念するのだった。
此度の戦は大勢の命が戦火に飲み込まれてしまった。他人の命の重さを感じられるようになった宗士郎はティグレの言葉を受け、再び立ち上がる。
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前書きにも書きましたが、8月1日にエピローグ2も上げる予定です。その後の投稿についての詳細は同じく1日に報告させていただきます。




