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第三十話 戯れと邂逅

仕事が立て込んでおり、遅くなってしまいました!

第三章最終話、お楽しみに!

 




 幻刀・『ファントムフリーク』――。


 決して避けられない速さではない。現に宗士郎は回避して見せた。ただ、その難易度が果てしなく高く、次も確実に避けられるという自信を持てればの話だが。


「さぁ……ゆくぞ」

「っ、かァアアアアアッ!!」


 宗士郎はその自信を持てなかった。故に、相手を寄せ付けない斬撃を幾度となく放つ。自分がカイザルの雰囲気に飲まれている事に気付かず、はたまた明鏡止水の心が揺れている事を自覚せず、ただひたすらに。


「どうした? 剣に焦りが見えるぞ」

「ぐっ、ぁああっ!?」


 敵であるカイザルに指摘され、幻刀が宗士郎の身体を斬り刻んだ。致命傷には至らぬ切り口で、皮膚の表皮だけがなぞられた。


「(まるで赤子扱いだっ……)」


 魔神とも畏怖されている者が放つにしては甘い攻撃が、現実を宗士郎に思い知らせる。


「私にも響にも見えない。だけど、士郎にだけは見える攻撃……」


 先程までリヴルを容易に圧倒していた宗士郎が成す術なくいたぶられる。その様は楓と響の不安を煽り、


「くそっ、もう見てられねえ!」

「やめておきなさい、そこのボウヤ。今二人の勝負に水を差すつもりなら、お姉さんも~……黙ってないわよ」

「ぅ、くっ!?」


 跳び出そうとした響を魔傑将ロゼットによる殺気で押さえつけられた。艶やかな口調の後に鋭く睨まれた響はその異様な圧力に身を退いた。


 すると、グリィドがケラケラと笑いだした。


「そうそう、お前みたいな雑魚じゃあ行っても死ぬだけだって解らねーかなぁ?」

「っ、くそォッ……!」

「私達は、なんて無力なの……」


 リヴルに手も足も出ず操られ、今は宗士郎の助けにもなれない。二人はこれまでにもない無力感に苛まれ、自身達の非力さを呪った。


「く、あぁっ……」

「ふむ……力に目覚めたは良いが、完全に馴染んでいる訳ではない、か」


 宗士郎が遂に膝を折った。多くの傷口から血が流れ落ちる中、視界が霞み意識は朦朧とし始める。心なしか、纏うオーラにすら弱々しさが表出し始めていた。


「(く、そぉ……どういう仕組みなんだ。せめて――)」


 ――せめて刃に触れられさえすれば……という思考が()()()に宗士郎を動かす。幻刀に手を伸ばし――されど、掴めなかった。


「なん、だ……?」


 意識が混濁としながらも宗士郎は目を丸くした。


 カイザルが宗士郎の手から遠ざけたのではない。伸ばした手が刃をすり抜けたのだ。そしてその一瞬――宗士郎の目には暗黒の刃が煙の如く揺らいだように見えていた。


「……! ふ、くくくっ……」


 無自覚と無意識。カイザルでさえ、その動きを察知できなかったのだろう。宗士郎の突発的な行動の後、カイザルは驚いたようにして笑みを零し、一歩、二歩と後退した。


「(ま、さか……そのまさか…………俺だけが認識できる幻刀。その正体は――)」


 ほんの数秒のやり取り。されど、たったそれだけで、宗士郎は幻刀・『ファントムフリーク』の謎に手を掛けた。その事実が、宗士郎の闘争心を僅かながらに回復させた。


「……少し興が冷めてきたとは思っていたが……まさか触れてくるとはな。血迷ったか?」

「ああ……かもな。っ――」


 ふらふらと立ち上がった宗士郎が自身の唇を噛み切った。鉄の味を舌で味わいながら。意識を明瞭にすると思考を素早く巡らせ――、


「――ほう……」


 カイザルが感心したように目を細めた。それもその筈だ。カイザルを前にして、宗士郎が目を閉じたからだ。


「っ、はぁ~~っ」


 即座に深く静かに息をする。呼吸が整い始めた影響か、黒銀のオーラは当初の姿を取り戻していく。


「何を考えているかは解らぬが、よもや我がこのまま静観を決め込むとは思っておるまいな?」


 カイザルが幻刀を振るった。他者には見えない黒刃は空を裂き、宗士郎の右腕に迫り来る。


 しかし、そのタイミングでなんと宗士郎は、前に()()踏み出した。襲い来る凶刃が腕に触れるかという瞬間――幻刀は煙のように形を崩しすり抜け、

「ぬっ――!?」

「今からお前を斬るのは、実体のある剣撃じゃない。俺の魂をも込めた全身全霊の一刀だ」


 穏やかな口調で宗士郎が黒銀のオーラで形作った鞘に刀身を納めた。


 するとすぐに、キィィィィン――ッ! と力が増大していく音を奏で始め、


「これはっ……不味い、な――ッ!」


 宗士郎から漂う強靭な意志を悟ったカイザルは()()()顔をしかめた。その直後、瞬時にその姿が揺らぎ霞み始める。


 だが、その変化が終わるよりも先に――!


魂域の鞘(ソウル・シース)――一閃ッ!!」


 ザンッ――!


 特殊な居合方法で抜き放った刃がカイザルの生身を捉え――斬った。


「間一髪、というところか……」


 ――斬った筈だった。


 当のカイザルは生き延びていた。瞬間的に回避行動を取り、斬撃が飛ぶ可能性も考えて剣の軌道から完全に外れている辺り、今の一撃には危機感を覚えていたという証左でもある。


 そして、それは行動だけでなくカイザル自身の身体でも証明されていた。


「カ、カイザル様がっ……」

「初めて傷を付けられた、だと……!?」


 カイザルの右腕から大量の血が出ていたのだ。糸が切れたようにして、肘から下が垂れ下がっており、辛うじて肉で繋がっている状態だった。


「如何様にして、我が幻刀を見破った?」

「幻刀・『ファントムフリーク』――その正体は、究極ともいえる他者と自己への暗示だ」

「ほう……」

「違和感を覚えたのは、幻刀の初撃を避けた時だ。心が揺らいでいた俺が幻刀を強く意識していた時点で俺は既に術中に嵌っていた、そうだろう?」


 宗士郎の見解を聞いたカイザルが無言で続きを促す。


「俺が考えるに、幻刀には実体がない上に俺の意識を共振・同調させる効果があったんだろう。お前が幻刀で俺を斬ったと思えば、その意識が俺の意識を上書きし、〝斬られた〟と錯覚させる。つまり、実際には斬られてなくても、相手がそれを信じ込むだけで細胞同士が自己崩壊を起こし分離させてしまう。言うなれば、自分と他者を同時に欺く究極の嘘だ」

「……見事だ。あの一瞬でよくぞ我が幻刀を看破したものだ」

「俺の意地か、あるいは信念が身体を動かしたのか、あの一瞬だけ、俺は無意識に動けたのは本当に幸運でしかない」


 全てを聞き終えると無事な左手で顔を覆い、


「フッ、ククク……やはり汝は我の見込んだ通りの男だな。最初に出会った時は路傍の石としか感じなかった汝が、この我に痛手を負わせるとはな」

「当然だ……! お前とは勝利への執念が違うんだッ」


 宗士郎がギラリと目を見開いた。すると、悪感情を抱くと揺らいでいたオーラが、まるで宗士郎の闘志と呼応するかのように燃え上がった。


「執念、か……それは、あの忌まわしき()()に関係しているのか?」


 意味深い問いに、宗士郎の心は揺れなかった。


「揺らがぬか。真相を知りたいと思っていたのだがな」

「そんなことはない。俺の運命を変えた日だ、嫌でも気にはなる。だが、それは俺自身が知るべきことだ。そして――」


 重心を下げた宗士郎が再びオーラの鞘に刀を納め、


「俺達の平穏を脅かすお前を、今ここで俺が――ッ!」

「カイザル様っ!?」


 魂域の鞘(ソウル・シーズ)による神速抜刀術で手負いのカイザルを斬ろうとして――、


「――ぁ……?」


 次の瞬間、宗士郎の身体は地面に横たわっていた。力が抜けた身体で立ち上がろうとした、その直後だった。


「うぐッ、ぅぅっ……ガァアアアアアアッッッ!!?」


 黒銀のオーラは霧のように消え去り、強力な力を使っていた反動とばかりに内側からクオリアが暴発した。


「士郎!?」

「宗士郎ッ!!」


 柚子葉を支える響が叫び、楓はすぐさま宗士郎に駆け寄った。


 服装は軍服へと戻り、身体の表面には黒い電気のようなものが断続的に流れていた。


「身体への負担を度外視した結果だ。極限状態での覚醒。限界を超えた身体は内部から壊れている筈だ。もはや指先すら動かせまい」


 カイザルが苦しむ宗士郎を見る目は路傍の石と変わりない。僅かながら抱いた脅威も失せていた。


「……何故、そんなことが貴方に分かるの?」


 震える声と身体で楓が問う。カイザルはそんな楓を一瞥して、


「牧原 静流との協力関係を終えた後、我は我なりに汝達が使う〝異能力〟について調べたのでな。汝達は知っているか? 己が使う力の仕組みを」

「仕組み……? クオリアのこと?」


 まともに動けない宗士郎の代わりに楓は自身が持つ答えを口にする。カイザルは小さく笑って、


「やはり知らぬようだな。牧原 静流はなんとなく勘付いていたようだがな――異能力の深奥について」

「深奥、ですって?」

「鳴神 宗士郎の成長ぶりに感銘を受けた礼だ。心して聞くがよい」


 胡散臭いとばかりに目を細める楓に、カイザルは泰然自若として話し始めた。


「異能力は今より十年前……世界の危機に呼応するようにして、日本の一部の子供に発現。超常の力を扱え、感覚臓器(クオリア・オーガン)という人体の臓器から生成されるクオリアを消費することで力を行使できる――これが、汝達の認識だな」


 カイザルが口にした程度の情報ならば、学園に配布される教科書にでも記載されている。魔神といえどもこの程度か、と楓は驚くことなく頷いた。


 が、しかし。


 楓はすぐに認識を改めることになった。


「その認識は根底から間違っている。異能力とは、(おの)が魂の本質からくる力なのだからな」

「「!?」」


 楓と響はすぐさま顔を見合わせた。


 カイザルが開示した情報は日本の誰もが突き止められていない〝『異能力』という力の本質〟と呼ぶべき事柄だったが故に。


「クオリアとは言わば、魂から生まれ出ずるエネルギーそのもの。自身の魂を体外に現出させる為の道具に過ぎぬ上、エネルギーを生み出す器官など元より存在せぬ。そして何より重要なのは、白髪と化した牧原 静流や鳴神 宗士郎の先の力は異能力本来の力ではなく、消費するだけだった魂の力(クオリア)をコントロールしただけに過ぎない、ということだ」

「そ、そんなこと……一般には広まっていないわ」


 カイザルの言う『異能力』の情報の真偽は定かではない。だが同時に、『異能力』を研究する日本の科学者の誰もが発表したことのない学説でもあった。自身の異能力を知る為に様々な論文を読んだことのある楓でさえ、そのような学説は未だかつて聞いたことがなかった。


「無論だ。汝達の世界に属する神とやらが意図的に隠していたのだからな」


 それは、言外に神が秘匿した事実を〝自分ならば調べられる〟と言っているようなものだった。


「な、なぜそんなことを?」


 楓は半ば無意識に神についての反応・興味を頭でシャットアウトした。既に面倒な事態に巻き込まれているが、それ以上の面倒事が回ってくると初めから理解していた為だ。


 その為、カイザルはその思考を読むことはできなかった。


「いつの世もある摂理のようなものだ。今の自分には到底不可能な境地があると知れば、人は皆それを求め獲得し何かで試したくなるものだ、善悪問わずな。無論、それだけではないだろうがな……」


 目を細めたカイザルが溜息を吐く。


「少しばかり話し過ぎたようだ。さて……」

「ま、待って! お願いっ……それだけは、それだけはやめてっ……」


 楓が宗士郎を抱き抱えるようにして庇った。もはや、戦意は再燃せず口を動かすのが精一杯だった。


「ふむ……何か勘違いをしているようだが――」

「――あなたなんかに鳴神君は、やらせないッ」


 カイザルが何か弁明しようとした瞬間、一人の女の子が宗士郎の前に躍り出た。


「み、みなも!? 教会にいた筈じゃ……!」

「コムギさんに鳴神君がピンチだって……それを聞いたら居ても立っても居られなくてっ」

「汝は……たしか以前にも見かけたことがあったか」

「私は桜庭 みなも! あらゆる悪意を退ける盾となれ――――神敵拒絶(アイギス)!」


 みなもは自分を中心として宗士郎達をも障壁で覆い尽くした。だが、その強度はお世辞にも堅牢とは言い難く、


「そのような脆弱な守りで如何にして守護するつもりだ?」

「く――ぁあああっ!?」


 瞬時に障壁の脆さに気付いたカイザルの人差し指が、まるでみなもの気概を嘲笑うかのように防壁を突き破った。


「体力もクオリアも十全に回復し切っていない者が何故戦場に出てきた? 自分では足手纏いにしかならぬと理解していた筈であろう」

「う、くっ……こ、後悔だけはしたくなかったから。何もしないで、ただ好きな人の帰りを待つだけの女に成り下がりたくなかったの……!」

「つまりは愛故にか」

「笑うつもり……?」

「いや」


 みなもが奥歯を強く噛み締め睨み付けたが、カイザルは可愛らしいとばかりに笑って受け流した。


「我とて愛情を向ける者がいる。その感情は理解できるつもりだ。それに、汝達は一つ勘違いをしている。我は現段階で鳴神 宗士郎を殺すつもりなどない」

「嘘言わないで!」

「やれやれ……頭の固い女だ。一度、恐怖を骨の髄まで刻み付けねば治らぬらしいな――」


 嘆息したカイザルが幻刀・『ファントムフリーク』でみなもを斬ろうとして、


「――やめ、ろ……桜庭。あいつの言ってることはっ……噓じゃない」

「鳴神君!?」

「士郎、無理しないで」


 意識を失っていた宗士郎がその行動をすんでのところで止めた。楓の言葉に頷きを返すと自力で立ち上がる。


「カイザルが俺を殺す気ならさっきの戦闘でやってる。それに、今回の奴の目的は不本意にも俺の潜在能力を引き出す為らしいからな」


 宗士郎は歯嚙みした。


 遊ばれていた事実を理解しているからこそ、カイザルには殺す意思がない事が分かったからだ。


「(鳴神君、そのことをもう知って……)」

「そういうことだ。理解できたようだな、桜庭 みなもよ」

「っ!」


 心を読んだカイザルに、みなもが思わず後退る。


「我も嫌われたものだな」


 溜息を吐くとカイザルは幻刀を解除し背を向けた。


「さて……異能力の啓蒙はこれにて終了だ。後で、其奴(そやつ)等に聞き、今よりも強くなることだ、鳴神 宗士郎」


 その時には、宗士郎が付けた腕の傷も既に治っていた。もはや、誰も驚きはしなかった。


「ま、て……俺との戦いが、まだっ……」


 だが、宗士郎は去ろうとする脅威を自ら引き留めた。


「……汝は、何故そうまでして戦おうとする?」

「負けられないんだ……もう二度とっ……相手が誰であってもッ」

「フッ……」


 宗士郎の瞳の奥に何かを感じたカイザルが小さく笑う。


「ならば、なおのこと強くなれ。来たるべき日に備えて、な」


 そう吐き捨てると魔傑将達の元へ足を運んでいく。


「ま、待てっ……カイザルッ――!」


 そのあまりに無防備な後ろ姿に、宗士郎は限界を超えて魂の力を使おうとするが、


「――それ以上、兄様(あにさま)への狼藉は許さないわよ」


 その瞬間、感情の感じ取れない冷ややかな声音と共に何者が地面に降り立った。


「なっ――お、お前は……!」

「……やはり来ていたか、()()()よ」


 見覚えのある顔立ちに宗士郎は愕然とし、カイザルの一言で完全に言葉を失った。


()()()()()、と言うべきよね? あたしはカミナル……そこに居るカイザル・ディザストルの妹。よろしく、鳴神 宗士郎」


 カミナルという女に淡々と名乗られもなお、宗士郎は反応できずにいた。


 長い蒼髪に整った美貌、感情の読めない翡翠の瞳。悪魔を彷彿とさせる、頭に生えた二本の黒い角と双翼。極めつけは、左の泣きぼくろ。


 間違えようがない。その出で立ちはまさしく、宗士郎が『異界(イミタティオ)』で最初に出会った恩人のクオンだった。


「クオ、ン……?」

「やっぱり、あたしのこと……忘れられなかったのね。いずれ、こうなる運命だったのよ……」


 クオン――もといカミナルが独り言のように呟く。


 それを聞いて、宗士郎はいつか聞いた別れ際の言葉を思い出す。


 ――あんたは人間族、あたしは魔人族。いずれは敵対する運命。


「(分かってたのか、俺がカイザルと敵対関係にあることが……)」


 カミナルがカイザル側にいるということは、即ち彼女とも敵対することとなる。だが、宗士郎にはカミナルがどうしても悪人には見えなった。


「ね、ねえ鳴神君。知り合いなの?」

「ぁ、いや――」


 彼女に気を取られていた宗士郎がみなもの問いに言葉を詰まらせる。なんと説明すればいいか、悩んだが、今の宗士郎はあまり冷静ではいられず、そのまま押し黙った。


「何故来た、カミナルよ」

「別に、少し気になっただけ。兄様の宿敵の顔を」

「……まぁ良いが。カミナルを連れて来たのは汝だな、エファル」

「――ふぁ~い」


 気の抜けるような声と共に空からふわふわと誰かが降りてくる。それも、何故か抱き枕を抱いたまま横になっている体勢で。


「汝には、身辺警護を命じた筈だが?」

「はぁい、ですがぁ……どうしてもと仰るカミナル様の頼みを、僕が拒めるはずがないじゃぁないですかぁ」

「はぁぁ……もう良い」


 カイザルでさえも、その口調と雰囲気には気が抜けるようで、深々と溜息を吐いていた。


「撤収だ。途中でグラーフィを拾い帰還する」

「「「仰せのままに」」」


 カミナル達を連れ添い、カイザルが今度こそ他の魔傑将の元へ歩いていく。


「此度も神天狐どもは見つけられなかったが、まぁ汝の成長ぶりが見られただけでも良しとするか……」


 カイザルの周りに輝く魔力の渦が発生し、カイザル達の姿が霞み始める。


「……そうそう、一つ尋ねたいことがあったのを忘れていた」


 思い出したようにカイザルが振り返ると宗士郎にそのまま問いを投げ掛ける。


「汝は何の為に戦う?」

「……大切なものを守る為だ」


 それは宗士郎にとっては当たり前のことで、答えるのは容易だった。答えを聞いたカイザルはくつくつと笑うと、


「そうか、我と同じか。ならば、更に問おう。汝は()から大切なものを守ろうと戦っている? それを今一度自身に問い掛ける事をお勧めしよう」


 宗士郎の信念を揺らしかねない質問を投げ掛けてきた。


「ど、どういう意味だっ」

「フフ……汝に肩入れしている神族の女、はてさてどこまで信用して良いものやら。また会おう……次は汝が正真正銘最強となった時に、な」

「ま、待てっ……」


 意味深な言葉を投下していくとカイザル達は霧のように消えていった。


「っ、くそ……くそっ、クソッ!」


 力を使い果たした宗士郎には彼等を止めることすら叶わなかった。伸ばした手を虚空に彷徨わせた後、地面に膝を突く。


「士郎……」

「な、鳴神君。落ち着いて……」


 もはや、戦場のどこにも彼等の姿はない。まさしく嵐のように現れ去っていた。残ったのは、虚しい程に荒れた土地だけだ。


「クッソォオオオオオ――ッ!!!」


 大声で叫んだ宗士郎が地面に力いっぱい拳を叩き付けた。


「おいおい、何をそんなに怒ってるんだよ宗士郎。俺達は魔神を退けたんだぜ?」


 最大の脅威は去り、宗士郎達は戦いに生き残った。たしかに響の言う通り、国を軽々滅ぼす相手を前に死なずに済んだのだ。それだけでも大金星と言えよう。


 だが――、


「……本当に、そう思ってるのか? この有り様で! この惨状で! 俺達はカイザルを退けたんじゃない……生かされただけなんだよ!!」


 宗士郎にとって、今回の戦いは清々しいほどの黒星だったのだ。


「っ、す、すまん……」


 宗士郎の剣幕と言葉に、響も事の重大さに気付き顔を伏せた。


「俺達は、奴等に手も足も出なかったんだよ。魔物を倒しても、俺が新しい力に目覚めてリヴルを倒したとしても、結局はカイザルの掌で踊ってただけ。しかもカイザルに踊らされなければ、今回の戦いは……確実に死んでいた」


 王国の死者は数万以上、いや近隣の村も含めれば数十万以上に上るかもしれない。負傷者も数知れず、同盟の誰もが力不足を否めなかった。


「完全に、俺達の負けだ……」






 あの後、カイザル達は瞬時に『魔界(メルディザイア)』の古城に戻ってきていた。魔傑将達は休息を取るようカイザルに命令され、この場にはいない。


「随分と楽しそうですね」

「そう見えるか? 我が妹よ」


 カミナルがカイザルの楽しげな顔を見て率直な意見を言う。尋ね返すカイザルの横顔はやはり楽しげに見える。


「奴の眼に我と似たモノを感じたのでな」

「兄様と同じ……?」

「そうだ。決して逃れることのできぬ運命を前に抗おうとする気高き意志を、な」





魔神カイザルの力に、宗士郎は完全敗北したが生かされた。力不足はなにより、王国の犠牲も到底無視できるものではない。

宗士郎達は己の力の無さを、改めて痛感したのだった。


「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたなら、ブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価欄から応援して頂けると励みになります!! 感想・誤字・脱字などがございましたら、ページ下部からお願いします!



はい! 第三章が遂に最終話を迎えましたー! ドンドンパフパフー!

この後はエピローグを一、二つ挟んで第四章という流れ(予定)になります!


第三章を書き始めてから今まで色んなことがありましたが、無事に三章を完結させられて嬉しく思います。読者の皆様には大変ご迷惑をお掛け致しました。


まあここで色々語るのもあれなので、『異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)』の今後や近況などはエピローグの後書きにて記載させて頂きます。


では、ほなまた!

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