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第二十八話 斬滅者

最近は一ヶ月置き投稿になってしまっている……未だ就職活動中とはいえ、申し訳ございません。


読者の皆さん方には、ご迷惑をお掛けします。

 



 宗士郎の身に起きた驚天動地の変化。


 リヴルが自ら望んでいた結果が起きた瞬間、瞬く間に形勢逆転してしまった。


 リヴル自身が見下していた存在に、尚且つカイザルが認める相手に大きな傷を負わせられた。リヴルにとっては、それが何よりの屈辱だった。


「ぐっ……! ボクを斬滅する、だって……? 調子に乗るのもいい加減にしろよ! 運よく力に目覚めただけの劣等種風情が! おい、お前達ッ!」


 発狂したリヴルの命令に従い、楓達が手傷を負ったリヴル()を守るようにして立ち並ぶ。


刀剣召喚(ソード・オーダー)


 宗士郎は手放していた刀を念じる事で右手に引き寄せて脱力した。


「……気に入らないね。その自信満々な態度――」


 いかにも不機嫌な顔付きで、リヴルは切断された右手を拾い上げた。切断面に寸分違わずくっつける。続いて、(アメジスト)色の魔力がリヴルの身体を包み込み、


「はぁあああああっ!!」


 気合の叫びを上げた直後だった。


 どういう絡繰りなのか、切断されたリヴルの右手が何事もなかったように元通りとなっていた。


「――強制支配の魔眼アイズ・オブ・ヒュブリス・『因果歪曲(ディストォティオ)』……()()()()の傷……ボクの力なら無かった事にできるっ」


 息荒々しく、リヴルが対抗するように新たな力を魅せてくる。


「ふふふ、驚くのはまだ早いよ。ボクは支配下に置いた存在の力を掌握し、自らの力とする事ができるんだ。更にその総量を全体に再分配し強化する事もできる! こんな風にねぇ!」


 瞬間、目を疑う光景が宗士郎の目に飛び込んできた。いつどこから現れたのか、数百以上の魔物が大波のように迫ってきたのだ。


「…………」


 危機的状況。それでも宗士郎は動じない。そうして、魔物の大波が宗士郎を圧し潰そうとした刹那、またしても黒銀のオーラが動きを見せた。


「なっ――!?」


 次の瞬間、百体以上は存在した魔物が粉微塵となり、宗士郎の両脇を通り過ぎていた。


「――それを聞いて安心した。お前の異常な強さにはタネがあった。その元を絶てば、お前は勝手に弱体化する」


 かつてない程に頭が冴え渡る。以前の能力を凌駕している感覚すらある宗士郎にとって、今の攻撃は動揺するに値しない。


 その凄まじい光景はリヴルだけでなく、高みの見物をしていた者達にも衝撃を与えていた。


「――ほう、中々やるではないか。今の奴は、さしずめ斬滅者(アニヒレート・ソード)……全てを斬り滅ぼす超戦士、といったところか」


 今まで一切表情を動かさなかったカイザルがニヤリと笑う。


「う、うそだろ……この俺がっ、あいつとの戦いを恐れるなんて!?」

「い、いや……私もよ、グリィド」

「正面での戦闘が得意な僕でさえ、身体が戦うのを拒否してる……こんな感覚は初めてだよ」


 魔傑将の三人が心の底から宗士郎という存在に脅えていた。


 そして、同時に考える。何故、カイザル様はあの者の潜在能力を引き出そうと考えたのかと。だが、胸の内で思うだけで、三人が疑問を口にする事はなかった。


「(いいぞ……その調子だ、どんどん力を高めろ。我が目的に立ちはだかる()()としてな…………)」


 カイザルは宗士郎の成長に歓喜したのち、意識をリヴル達へと戻した。


「さぁ。数百、数千もの魔物をぶつけてみろよ。命を何とも思ってないお前なら簡単な筈だ。無駄だとは思うがな」

「ふ、ふふ……アハハハハ! その必要はない……! 君におあつらえ向きの相手がいるからね!」


 リヴルが不敵な表情のまま、眼を光らせた。すると、宗士郎の行く手を阻むようにして楓、響、柚子葉の三人が立ち塞がった。


「士郎、大人しく殺されなさい」

「親友が裏切るっていうのは、創作じゃあ……よくある話だぜ?」

「そうだよお兄ちゃん。兄妹仲良く殺し合おう、ね?」


 感情の抜け落ちた表情で、三人が絶対に言わないであろう言葉を宗士郎へと投げ掛ける。


「……すまない、俺が不甲斐なかったばかりに。今、楽にしてやるからな」


 敵として立ち塞がる仲間達に宗士郎は優しく微笑む。そしてスゥと真顔に戻った――瞬間、その姿が霞んで消えた。


「なっ――ガッ、ッォブ!?」


 理外の動きにリヴルが驚愕してみせた途端、その喉に刃が突きたてられた。


「心にもない事を勝手に話させるな……心を蝕み支配するな。俺の大切な存在に手を出して、楽に死ねると思うなよ?」


 刀を突き刺したのは無論宗士郎で、一見して落ち着いている風に見える。


 だが、実際は違う。仲間を傀儡にされた強烈なまでの怒りと何も出来なかった自責の念。鞘に刀を仕舞うように、それらの激情を内に秘めているに過ぎない。


 しかして、それこそが宗士郎を取り巻く現象の()()でもあった。


「早く支配を解け。さもなければ今すぐ殺す」


 宗士郎が剣を勢いよく引き抜き脅迫する。


「ボクは傲慢の魔傑将リヴルだぞ……そのボクに対してなんて口の利き方だ! どうやら本気でボクを怒らせたいらしいなッ!」


 リヴルは一切解く気はない。『因果歪曲(ディストォティオ)』によって喉の傷をなかった事にして、立場を弁えろとばかりに偉ぶっている。


「まるで世間知らずのガキだな。いいだろう、その気になるまで痛みを叩き込んでやる」


 嘆息した宗士郎が身体に力を込める。そして、地面を力強く蹴った。


「がっ、ぁは!?」

「お前が根を上げるまでな」


 宗士郎の左拳がリヴルの腹に深くめり込む。バク転の要領で蹴り上げたのち、宗士郎は虚空を刀で斬った。


 空中に蹴り飛ばされたリヴルは素早く周囲を見渡す。


「チィ! 奴はどこだ!?」

「こっちだ」

「なっ――ぐあぁッ!?」


 いつ回り込んだのか、宗士郎はリヴルを背後から蹴り飛ばしていた。そして、その度に虚空が斬り裂かれ、背後に回っては蹴撃を放たれる――その繰り返し。


「くっ、ぁ…あぁっ……」


 たった数秒の出来事の後、リヴルの身体は地面に叩き付けられていた。宗士郎が覚醒する前の頑丈さは何処へ行ったのやら、身体の至る所が血で(にじ)んでいる。


「そろそろ解除する気になったか?」

「っ、誰がそんな、ことを……っ!?」


 遅れて地面に着地した宗士郎がリヴルに刀を突き付ける。


「寄生するアルバラスの能力と違って、お前を殺しても仲間達には影響はない、と俺は考えている。が、今すぐお前を殺さないのは、万が一の為だ。お前が今生きている価値はそれだけでしかない」

「……く、くく」

「何がおかしい?」

「いや、ね? 君の考え()は……実に傲慢だと思ってね。もしかすると、ボク以上に」


 急に含み笑いをし始めたリヴルが宗士郎の刀に右手を添えて言った。


「だとしたら、どうなんだ」

「その傲慢といえる生き方は君から温もりを奪っていくよ。……このボクがそうであったようにね」

「勝手にほざいていろ。俺はもう迷わない」


 宗士郎の刀が無情にも振るわれる。


「ぐっ――うぁああああッ!?」


 ボトリと地面に転がるリヴルの右腕。同時に断末魔にも似た叫びが戦場に木霊した。


仲間達(みんな)が非力だから、信頼できないから守ってる訳じゃない。母さん(大事な人)との誓い、そして自分自身の心に恥じない為に、俺は戦っている」


 リヴルの悲鳴など、どうでも良いとばかりに言葉を続ける。


「今までの俺の行いが正しいとは言わない。俺の人生(歩み)は、それこそ多くの血で濡れているからな」

「うぐっ……本当に君はボクにっ……に、似ているよ」

「俺の覚悟は俺だけのものだ。お前如きが、俺の生き様を我が物顔で語るんじゃない」


 宗士郎はもう片方の腕を無慈悲に斬り飛ばした。


「どうやら、傷は治せても痛みまでは無かった事に出来ないようだな」

「く、ぅう…うっ、ぅぅ……!」


 リヴルの顔は既に涙でぐしょぐしょだった。


 二度目である。激動だった今までのリヴルの人生で。真に死の恐怖を味わったのはカイザルに続けて宗士郎が二度目であった。


 純粋な衝動で加速する闘気(オーラ)。深淵に魅入られたかのように深く、純粋で澱みのない瞳。リヴルは眼前の鳴神 宗士郎という存在(バケモノ)から放たれる気配に狂気を感じてしまっていた。


 そうして、リヴルは悟る。楓達(オモチャ)の支配を解かない限り、この苦しみは続く事を。


「(……奴の力は完全に引き出せた、筈だ……後は、撤退して終わりだ……けどね)」


 だが、リヴルはその事実にこそ活路を見出していた。直後、リヴルの眼が妖しく光った。


「っ……」


 またもや支配の波動が来るものだと宗士郎は一瞬身構える。けれど、いつまで経っても身体に影響はなかった。


「……? 何をした」

「あ、あれ……俺、何やってたんだ?」

「うぅっ……私、士郎が来てからの記憶が……」


 宗士郎が訝しげにリヴルを注視していると響と楓の支配状態が突然解除された。解除された当人達は前後の記憶が曖昧なのか辺りを見渡した。


「っていうか、あれ宗士郎か?」

「以前とは、見た目と雰囲気が別人みたい……」

「皆、元に戻ったか…………」


 感情のこもった視線に宗士郎は安心する素振りを見せる。それを見るや否や、リヴルが焦燥に駆られたようにして宗士郎に命令し始めた。


「ほ、ほら! 解放してやった、だからこのボクから離れるんだ!」

「…………去れ、二度はない」


 少し考えた後、溜息を吐いた宗士郎は背を向けてリヴルから離れていく。


「(――ククク……このまま、ただ退くと思うなよっ! カイザル様の前でボクの誇りに泥を塗ってくれたんだ……その代価は当然! 死あるのみだ!!!)」


 リヴルの眼が今までよりも一際妖しく光る。直後、()()()()の柚子葉が異能による『雷斬』を起動し、宗士郎に向かって振りかぶった。


 当然、宗士郎がその事に気付いた様子はない。だが、支配が解けた楓達は別だった。


「っ! 士郎、危ない!?」

「(はっ、忠告したところでもう遅い!)」


 柚子葉の斬撃に合わせて、リヴルが宗士郎の首へと渾身の蹴り技を放った。


 しかし――――、


「無駄だ」

「なっ――ぎぃあああああっ!?」


 その不意打ちすらも予想していたのか。


 あろうことか宗士郎は振り返る事なく、それらの凶刃を黒銀のオーラを以って迎撃せしめてしまった。


「な、なぜっ……なんだっ! どうじてっ……!?」


 斬祓霊魂(アナテマ・ガイスト)の余波で操っていた柚子葉の意識は散らされ、自身の企みまで看破されていた。蹴り技を放った右足を失って尻餅を突いたリヴルは痛みすら忘れて尋ねた。


「分からないのか? 自分の事なのに……いや、自分の内面だからこそ気付けないのか」


 またも宗士郎が溜息を吐く。


「どういう、意味だ」

「簡単な事だ。お前は妙に誇り高い。それこそ、小さな子供が自分を大きく見せるようにな。そんなお前にわざと隙を見せれば、何かしら行動を起こすと思っていた」

「ボ、ボクが子供だと!?」

「先に響と楓さんの支配を解く事で意識をズラそうとしたんだろうが、残念だったな」


 先程のリヴルの行動は宗士郎へ一矢報いる為の布石だった。狙い通り、先程の宗士郎は仲間達に意識を向けていた。だが、リヴルはそれが罠だとは気付けなかったのだ。


「こ、このボクを謀ったのか!?」

「ただで引き下がる筈がない……誇りを傷付けられたら尚更だ――それで、屈服させ合おう、だったか? 望み通り、屈服させられた気分はどうだ?」

「ボ、ボクを見下ろすな! 憐れむな! 嗤うなァアアアアアッ!」


 リヴルは宗士郎に欺かれた怒りと悔しさにその場で芋虫のようにジタバタした。


「もうお前に敵としての価値はない。そろそろカタを付けてやる」


 宗士郎の中でリヴルの脅威が失墜した。同時に敵である故の興味が薄れようとしているが故に、刀を上段に構えた。


「(しかし、おかしい。プライドと心をへし折ってやった。だが、こいつは戦意を失うどころか逆に生への執着を強くしている。傷も元には戻さない。なにか別に、奥の手があるのか?)」


 だというのに、宗士郎は何か不気味なものを感じ取っていた。リヴルの眼が諦観(ていかん)していない事を見て。


「(――それに、だ)」


 心に出来た余裕があるのか、宗士郎は別の事柄に思考を割く。


「(アルバラスにリヴル。魔傑将達は自分の力を〝固有魔法〟と呼んでいた。固有という事はリヴルだけの特別な魔法。だが、どうしてか……こいつらの力はまるで……それこそ、異能力のような――)」


 その瞬間だった。リヴルが年相応の泣き声を上げたのは。


「カ、カイザル様ぁあああああっ! た、助けて下さぁいぃぃぃぃっ……!!」


 それは救援の要請だった。散々苦しめてきた魔傑将が助けを呼ぶにしては、少々小物に過ぎる声だったが。


「(さっきのは、気のせいか……こんなみっともない叫びを聞いたらな。というか、今気付いたな。カイザルがここにいるって)」


 戦闘に没頭し過ぎた意識がリヴルの声で弛緩し、ここにきて初めて倒すべき敵を認識する宗士郎。ゾーンにも似た状態に内心驚きつつも見据えた先に長い紅髪の男はいた。


「…………」

「もう良いではありませんか!? 奴の力は引き出しました!? カイザル様ぁあああ!?」


 再三の呼び掛けに、カイザルはたった一言。


「――まだだ」

「カッ――……え?」

「リヴルよ。()()()()()、十分な働きをした。だが、まだなのだ。奴の潜在能力はまだまだこんなものではない。我の言っている事が解るな?」


 告げられた言葉は、再起不能に近い状態だとしても宗士郎と戦え――――と、詰まる所そういう意味だった。


「……なぜ、何故奴にここまで固執しているのです、カイザル様……。ですが、それがご命令とあれば、やむを得ない――」

「っ」


 先程までの幼稚な雰囲気が一転して、肌がひりつくような空気を纏い、リヴルの身体が宙に浮いた。リヴルを赤子扱いできる程に強くなった宗士郎だったが、その異様な光景にただならぬものを感じて身構えた。


「あの姿になるのだけは嫌だった。あんなに醜い姿になるくらいならいっそ死にたいと思える程にね。強制支配の魔眼アイズ・オブ・ヒュブリスの奥の手だ……それで君の力を限界まで引き出し、その上で無惨に殺してやる――ッ!」


 (アメジスト)色の魔力が辺りに散らばった手足を手繰り寄せるように集結させ、リヴルの周囲に渦巻いていく。


「――幾星霜の時を経てなお現世(うつしよ)にて猛威を振るう邪霧龍ミスト・デモン・ドラゴンよ! 今こそ一つとなりて我が怨敵を討ち滅ぼさん――」


 リヴルの詠唱は(いざな)う。足も翼もない蛇のような霧の龍を。再び発生した黒雲より出でて、リヴルの背後に守護霊の如く陣取る。


 そして――


支配統合(カオス・ドミナトゥス)――ッ!!」


 そう叫んだ途端、世界は(アメジスト)色に染まった。





宗士郎は辿り着いた……新たな新境地へ。覚醒したその姿と力は静謐にして苛烈、強敵であった『傲慢の魔傑将』リヴルを容易く圧倒し、窮地へと追い詰める。


リヴル戦も遂にクライマックス! 宗士郎はリヴルに勝てるのか!? 果たして、この戦争の行く末はどうなってしまうのか! 次話でご確認ください!



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