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第十三話 会談と再会

ほぼ、一週間ぶりです。お待たせしてすみません!

会話が多いので、少~し長いかもしれませんが、お楽しみ下さい。

 




「今夜のところは、こちらのお部屋でお過ごしください。何か御用がございましたら、外の者にお申し付け下さいませ。では……」


 にこやかな笑顔と共に深々と頭を下げた兎耳の女メイドが静かにドアを締める。


 夜中の王宮。その客室の一室に押し込まれた柚子葉達は、ご丁寧に人数分揃えられたベッドの上に荷物を下ろした。


「交渉失敗、か~。断られる可能性もわかってたけど、出鼻を挫かれた感じだよぉ……」

「即却下、ってならなかっただけでもまだ有り難いかもね~」

「基本的に優しい人達だったしな。こうして、部屋まで用意してくれたし」


 ふかふかベッドに突っ伏したみなもが枕を抱き締めながら愚痴を零す。みなもの呟きに、柚子葉や響もそれぞれ似たような事を言った。


 全員の顔付きは余り芳しいものではなかった。その理由は、数時間前に急遽行われたグランディア王とその重鎮たちとの会談の場での交渉が失敗した事に影響している。


「〝無理だーっ!〟とか、〝勝てる訳がない!?〟って、思うのもわかるけど、王様なんだから、もっと勇ましくあって欲しかったよぅ…………」

「夢見すぎ。私も彼等が重い腰をあげなかったのは、流石に驚いたわ。まぁ、神天狐様が少しビビるくらいだから? 仕方ないかもしれないわね」

「言い方に棘があるのが気になるところじゃが、(おおむ)ね同意見じゃ」


 神に仕える神獣『神天狐』。そんな茉心さえも畏怖する魔神カイザル=ディザストルの野望と残虐の限りを尽くす光景を知ってもなお、グランディア王国の重鎮達は否として、首を縦に振らなかった。


「にしても、重大な問題ってなんなんだろうな?」

「そうだよ! 問題さえ無くなったら同盟結んでくれそうだし、教えてくれたら良いのに」

「一国の長が、他国の者に弱みを見せる訳ないでしょう?」

「……同盟の話、どうなっちゃうんだろ。お兄ちゃんも行方も気になるし……はぁ」


 室内に一同の不安が重りのようにのしかかる。


 王国陣が同盟を断った理由には、カイザルとはまた別の事情があるようで…………。時は数時間前まで遡る。





 商人である猫人族のカッツと共に、無事グランディア王国に到着した柚子葉達は、外壁の門前でひと悶着あった後、グランディア王国に入国した。事前に用意していたフード付きの外套を深々と被り、王宮へと辿り着いた。


 城の造りはロマネスク建築に近いもの。厚い壁や小さな窓などが散見でき、外観はまさに『質実剛健』といった風だ。


 彼とはそこで別れ、王宮の入り口には衛兵二人が仁王立ちしていた。全員で入り口に近寄ると衛兵二人が立ち塞がったものの、外套を被った茉心が衛兵に話しかけた直後に、衛兵達が訝しげな顔を浮かべて王宮内に戻ったのは、記憶に新しい。


 その後、なんとか謁見が許可されて中に入る事が許された。そのまま途中で合流した兎人族のメイドによる案内を受けて、いわゆる玉座の間に向かう事に。


 外観と違って、内観は王族が住む城だけあって実に煌びやかなものだった。そこら中に興味の視線を向けつつも、十分(じゅっぷん)そこらで玉座の間に到着。そこで、柚子葉達は遂にグランディア王国を治める国王陛下と顔を合わせた。


「よく来たな、遠き異世界から来た者達よ。オレはグランディア王国国王、虎人族のティグレ・ガラントだ。後、先に言っておくが、オレは堅苦しいのが嫌いでな。だから、普通に立って話してくれればいい」

「そう? 分かったわ。私は日本から来た二条院 楓。以後、お見知り置きを」


 電気の灯りではない何らかの光源が辺りを明るく照らす室内で、国王であり虎人族のティグレ・ガラントが開口一番にそう口にした。


 真紅のカーペットの上に一応跪いていた柚子葉達は面を戸惑う。


 第一印象は虎の人間だけあって、虎の耳、尻尾の生えた金髪の巨漢。眼光は鋭く、場を支配する威圧感は並大抵ものではなかった。しかし、流石二条院グループの娘たる楓は物怖じなどしていなかった。


 普通に話す事自体は許されたが、本来ならば王と対話するにはそれ相応の礼儀は必要であろう。そう思っていたみなもが面を上げたと同時に、本音が口をついて出た。


「え、良いんですか?」

「構いません。十年前とはいえ、貴方達と同じような服装を着た人達を我々は記憶してますし、我が王のお言葉ですから。ああ、私の事はユズリと御呼び下さい」

「普通に考えなさいよみなも。私達は尻尾とか耳が尖ってるとか、そういう特徴がないでしょうに」

「あ、そっか。えと……じゃあ」


 ティグレの脇に控えていた六人いる重鎮達の一人。鷹の翼を背中から生やした、丸眼鏡を掛けた鳥人族の男が落ち着いた雰囲気で王の言葉を肯定した。まだ戸惑いはあったが、柚子葉達は恐る恐る顔を上げて立ち上がり、ティグレと向き合った。


「実に十年ぶりか……今回は何の用でこの国を訪れた?」

「目的はただ一つ。貴方達、異種族の者達と同盟を結びに来たのよ」


 昔を懐かしむティグレが柚子葉達に目を見る。その中で、事前に話す事を決めていた楓が腕組みして、早速本題を告げた。


「同盟? いったい、何を目的としたものだ?」

「魔人族、ひいては魔神カイザル・ディザストルを打倒する事を目的とした同盟よ」

「…………正直、頭が沸騰していると思う程に突拍子もない話ではないか。何故だ……?」


 こめかみを押さえて、ティグレが楓の双眸を見た。


「私達の故郷、そして異界(イミタティオ)に生きる魔人族以外の国や村が、魔神に蹂躙される可能性があるから」

「なん、だと……?」


 淡々と告げる楓に、ティグレだけでなく、側で控えていた他の異種族達も目に見えて動揺し出した。楓は言葉を続ける。


「私達が独自に入手した情報だけど、間違いなくこれだけは言える。近い内に、それも確実に滅ぼされるわ」

「魔神が本腰を入れれば、この国の平和が去る、という事か」

「一ヶ月先、数ヶ月先、もしかしたら一年先の話かもしれない。でも、それを指をくわえて待つくらいなら、滅ぼされる前にこっちから攻めてやろうって訳」

「うぅむ…………」


 ティグレが頭の中の情報を整理しているのか、重々しく唸る。他の面々も同じのようで、ひそひそ話をしている。


「……仮に、あなたの言っている事が正しくとも、私達にはそれを真実だと判断できる証拠がない。もし、その証拠をお見せして貰えるのであれば、拝見させてもらいたい」


 そんな中、いち早く意見をまとめた鳥人族のユズリが丸眼鏡を指で持ち上げ、訝しげな態度を隠しもせずに、そんな要求してきた。


 しかし、その返答を予想していない筈がない。


「茉心、お願い」

「まこ…………?」


 楓が外套を深々と被った茉心に目配せした。ティグレがその名前に首を傾げる中、茉心がいつかのように取り出した棺を数度ノック。すると、中に封じ込めている魔人アルバラスの記憶が映像として投影され始める。


 ティグレ達が目にしたものは、地獄と言うには生易し過ぎる凄惨な光景と町や村を蹂躙するカイザルの姿。


 ――我が名は魔神カイザル・ディザストル。魔界にいる魔族、魔王の全てを統率し、いずれは物質界を支配する者だ。


 そして、説得力を持たせる為に茉心が続けて投影したのは、宗士郎が初めてカイザルと邂逅した時の記憶。出立前、既に宗士郎には許可を貰っているが、その時側にいた柚子葉が複雑そうな顔をしている。


「こんな奴を倒すには、仲間が必要よ。それも強さに秀でた優秀な人材が。その為に、私達はこの国に生きる種族の他にも協力を仰ぐつもり。いるんでしょ? どこかに強い人材が」


 楓が口惜しげに拳を握り込み、ティグレに視線を注ぐ。


「いる。我等よりも力や魔法に優れた者達が、この南大陸に存在する。悔しい事にな。だが、これだけは言っておこう――狐人族だけは、仲間に引き入れるに値しないと」

「え?」

「…………はぁ?」


 ティグレが口にした内容に、みなもや柚子葉、響が思わず疑問を抱き、楓に至っては文字通り、開いた口が塞がらない状態。


 口元を引き攣らせつつ、しかし懸命に平静を装いつつ楓はティグレに尋ねる。


「えぇと……理由をお聞かせ願えるかしら、ガラント陛下」

「奴等は()()、妙に物腰も低い。更に、我等が先祖がこの国を建国しようとした際、共に暮らす事を提案し断られた挙句、辺境の地で暮らし始める始末。あのような劣等種、引き入れるに値しない」

「ちょっとタイム」


 親の親からも聞かされてきたのか、ティグレはくどくどとのたまった直後、楓が右手を突き出し、ちょっと待ったポーズを取る。そうして、柚子葉とみなもと響で情報交換を始めた。


「弱い、かしら?」

「むしろ強いよね」

「まあ、和心ちゃんは物腰が低いけど、茉心さんはそうでもないし」

「詰まる所、全く信じられない」


 満場一致で、ティグレの話は信じられない、との結論に達す。建国云々の経緯はどうであれ、『神天狐』の茉心やその娘の和心の種族が弱い訳がないと。


 次に四人の視線が狐人族二人に向けられた。茉心と和心は黙っていたが、楓の視線に気付いた茉心の表情が笑みへと変わる。


 意図を察した楓は咳払いを一つしてから、ティグレを見た。


「それは狐人族の『神天狐』の前でも同じ事が言える?」

「何故、その存在を知っているかは知らんが、同じ事だ」

「ほぅ……この一大事にそのような世迷言が言えるとは。やはり、見かけ倒しかのぅ」

「なに?」


 フードで顔を隠したまま、茉心がティグレの発現を煽る。


 今まで成り行きを見守っていた重鎮達も、王であるティグレ・ガラントも茉心の一言に顔をしかめずにはいられなかった。空間が彼等の怒りで満たされ、空気が重く軋む。


「(ちょ、ちょっと何煽ってるの!!)」

「(みなもちゃんの言う通りだよ!?)」

「(な? 謝ろう? 今ならまだっ……遅かったかー!?)」


 響が謝るように勧めるも、既に噴火寸前。謝って済む次元を()うに超えてしまっている。


 周囲がパニックに陥る中、茉心が「そろそろ頃合いかの」と言ってフードを頭から取り払い、神力で隠していた耳と尻尾を曝け出した。


「なっ……おまえは!?」

「一国の長が平然と人の種族を馬鹿にできるとは……いやはや、中々に酷い。のぅ? ティグレ・ガラント陛下」

「どこかで聞き覚えのある名前だと思ったら……! お前は神天狐の茉心!?」


 素顔を晒した茉心に、王国陣が騒然とし出した。


 その理由は明白。狐人族の中で最も強い――否、神とも繋がりのある神獣が目の前に居たにも関わらず、彼女達の仲間を公然と馬鹿にし、蔑んでいたのだから。


 もっとも、茉心自身や和心はその扱いを受ける事を元より理解していたようだが。


「ねえ、和心ちゃん。もしかして、この扱いを受けるのがわかってたから……?」

「……はい。外套は姿を隠す為。ここと村では扱いが違うのは、王国でガラント陛下の考えが国民に知れ渡っているからでございます」

「ああっ、宿屋と馬車での話はそういう……」

「戦いを好まないだけだというのに……とほほ」


 ひそひそと事情を聞き出す中、結構込み入った経緯があるらしく、和心が少し涙ぐむ。柚子葉達が姿を隠す理由に納得した辺りで、和心の頭をわしわしと全員撫で付けた。


「まあ、そういう事じゃの。この際、狐人族の扱いは置いておくとして、この者達との同盟。結んで見る気はないのか?」

「いくら神天狐と言えども、聞けない話だ」

「カイザルが吾輩をも超える力を有しているとすれば…………話は変わるかの?」


 その一言に、王国陣が再び騒然とする。


「魔神カイザル・ディザストルという男は、吾輩でも勝てるかどうか……いや、そもそも同じ土俵に立っておるのかすら分からぬ。それ程、手に余る奴という事じゃ」

「そんな奴に一体どうやって……」

「だからこそ、魔神に対抗できる勢力を作り上げる。戦わねば、お主達の大切な者達が死ぬという事を心得よ!」

「っ……!」


 真に迫る言霊。年の功というだけではない。大切な者が居るからこその迫力が、今の茉心にはあった。その気持ちは他種族と言えど、同様のものを持っている筈だと。


「(畳み掛けるには今しかないわね……!)」


 交渉を進める絶好の機会と踏んだ楓が茉心に続いて言葉を紡ぐ。


「もし、この同盟に参加してくれれば、私達の国『日本』は魔神・魔人族討伐後に、『グランディア王国』との国際交流という形で技術、食や娯楽文化なども提供する事を約束するわ。そちら側はこちらと似たように、魔法などを含める技術体系及び食料、そして戦力の提供を。どうかしら? グランディア王国国王、ティグレ・ガラント陛下」

「…………うぅむ」


 楓が口にした条件は出まかせではない。大成 元康総理の承認ありのれっきとした条件だ。


 日本の食料事情は少し危うい面がある。回転寿司や焼き肉での食べ放題などを決行した日には、食糧難に陥る可能性すらあるのだ。条件としては少し日本に不利な面があるが、先方を納得させなければ未来はない。


「さあ、返答はいかがかしら?」

「……残念だが、断らせて貰おう」

「理由は、教えてもらえるのよね?」


 ティグレが重々しく頷く。


「まず、オレや仲間達が君達の実力を知らない。同盟を持ち掛けてくる辺り、力には覚えがあるようだがな」

「なら、力を示せば良いんじゃないかしら?」

「人の話は最後まで聞くものだ。正直に申せば、同盟を組む事自体には賛成だ。実力を見せる機会も与えよう。だが、今オレ達の国では重大な問題が発生していてな。それの対処に追われていて、今はそれどころではないのだ」


 重鎮達がウンウンと首肯する。


「故に、同盟の誘いは断らせてもらおう。今すぐに帰れ、とは言わない。今日のところは部屋を用意させよう」

「え、ちょっ――!?」

「こちらでございます。ささっ、どうぞこちらへ」


 ――――といった具合に、兎耳の女メイドさん達に半ば強引にその場から退場させられ、今に至る訳だ。





「問題が解決するまで、同盟は結べそうにないね~」

「ん~なんとかならないか――」


 落ち込む柚子葉の発言に、寝転んでいたみなもが寝返りを打った瞬間だった。


「一体どこまでほっつき歩いてたんだッ!!! このバカ娘が!!!」

「うわぁあああ!?」


 閉じたドア向こうから、けたたましい怒鳴り声が木霊した。次いで、誰か複数の泣き声まで混じっている。


「な、なにごと!?」

「ともかく、声が聞えた方に行くわよ!」


 仰天してベッドから転げ落ちるみなも。


 状況を把握する為、楓の一声に従って、全員でドアの外に出た。すると、ドア横で待ち構えていた兎耳のメイドが声を掛けてきた。


「あっ! 一体どちらへ!?」

「ごめんよ!」


 しかし、柚子葉達は呼び掛けをあっさり無視すると、一足飛びに音源へと駆け付けると其処には…………。


「こんのバカ娘が! あれ程、勝手に外へ行くなと何度言えば分かる!?」

「ぎゃぅん!? いたいいたいぃぃぃぃ!!? もうしないから許して父ちゃ――いだぁい!!」


 虎耳虎尾の金髪の女の子を抱えて尻を叩くティグレ・ガラント陛下がいた。その周囲には、涙ぐむ異種族の子供達と先程の重鎮達の姿も。


 怒声が聞えたので、てっきり敵襲かと思いこんでいた柚子葉達は一斉に面食らう。状況が飲み込めずに、みなもが鳥人族のユズリに視線を移した。


「えぇと、どういう状況、かな? ユズリさん?」

「貴方達でしたか……たった今、この国の重大な問題が解決したところですよ」

「へ?」


 自分と同じ翼を生やした女の子をあやすユズリの言葉に、みなものみならず他の面々も唖然とした。


 ――それから数分後。


「みっともない所を見せた」

「いえいえっ! 半日以上も行方知れずだったなら仕方ないですよ!!」

「そう言ってもらえると助かる」


 玉座に座ったティグレが申し訳なさそうに頭を下げた。


 なんでも、ティグレを含む重鎮達の子供が行方不明だったようで、今さっき帰ってきたようだ。今回のような事態は何も初めてではないらしく、これまでに何十回と起こった事があるらしい。しかし、大切な子供故に慣れるような事はなく、今回も大騒ぎだった所に、柚子葉達が訪れたという経緯だ。


「何はともあれ……これで問題が解決した訳だから、同盟の件は受けてもらえるのよね?」

「実力を見てからだな。あとは、条件の見直しくらいだろうか」


 事態が落ち着き、子供達は自室へと帰った後、楓が改めて交渉を再開した。しかし、ティグレの発言にまたも出鼻を挫かれる事に。


 みなもが指を折って釣り合いを考えてから、ティグレに話を振る。


「え? 科学と魔法は釣り合ってそうだし、戦力は仕方ないと考えれば、むしろお釣りがくると思うんですけど……」

「双方納得できる条件、という意味での見直しだ。同盟を組むというのは問題ないが、その部分を詰めていきたいのだ」

「そういう事なら構わないわ。ですが、既に夜遅く。詰めるのは、実力を見た後という事でどうかしら?」

「うむ。では、そのように……」

「――会談中失礼いたします!」


 そうして、ティグレが言葉を切ろうとした時、玉座の間に慌ただしく猫人族の兵士が入り込んで来た。区切り良く終えられそうだったというのに、タイミングを逃してしまったティグレがその兵士をひと睨みしてから訊ねた。


「何事だ!」

「北門にて、魔物の大群が発見されました!! その数、およそ二百!!」

「またか……! それくらいの数、物の数ではないだろう!」

「いえ、それがただの魔物ではないらしく、普段の倍以上の力を有しており、並の者では太刀打ちできません!!」


 話の内容から察するに、普段通りならば敵ではないという事らしいが、何やら雲行きが怪しい。


「ねえ、北門って……私達が入ってきた所だったよね?」

「店や家とか多くなかったか!?」

「門が破られれば、多くの被害が及ぶ事になるのぅ」


 みなもと響と茉心の話に、皆も思い至り、ティグレがすぐに行動を起こした。


「城の兵を向かわせろ!! オレも出る!」

「なら、吾輩が北門まで転移してやろう。楓達も来い。なに、礼は要らんさ」

「貸一つ、という訳か? まあいい、頼むぞ」

「ティグレ! 貴方はこの国の王なのですよ!? もっと王として自覚を――」


 ユズリが言い終わるよりも前に、茉心が転移を実行し、ティグレを含む柚子葉達の姿がその場から消えてしまった。


「全く……怪我人も出ている筈です! 急いで救護班も向かわせなさい!!」





 同時刻――北門付近では。


「全く……中に入れないし暇だから素振りでもしてようと思ったらこれか。まあ、丁度いい運動になった」

「いったい、何者なんだ……あの男は? あんなにいた魔物を全部一人で片づけるなんて」


 黒衣の服を纏った人間が最後の魔物を刀で斬って一息吐き、刀が光となって霧散する。すると、傍で成り行きを見守っていた門衛の犬人族がそう呟いた。


 その直後、門衛の近くにその場に降り立つ大勢の姿があった。


「へ、陛下!?」

「状況はっ……な、何故だ? 魔物がいない、だと……!? どういう事だ!」

「ひぃ! ほ、ほんの十分前までは凄い数居たんですが、あそこにいる男が全て斬り伏せてしまって……!!」

「男……? この者達と同じような服装と姿だな。おい、何か知って――」


 門衛の話を聞き、ティグレが男の後ろ姿を見て、柚子葉達に尋ねようとした時だった。


 ティグレの脇を幾人もの影が走り、当の男の元へと走っていったのだ。そのままの勢いで男の懐へ――――。


「今日は野宿か……はぁ――っぐほぉ!?」


 そして、強烈なタックル。


 複数人の重さを足した突撃は男の腹を的確に抉り、男の体を地面へと倒した。突然、タックルを食らった男は怒りを露わにする。


「なんだよっ、いったい……!」

「お兄ちゃん!!」

「宗士郎! 今までどこに居たんだよ!?」

「ゆ、柚子葉!? それに皆も……というか、重い!」


 しかし、男の怒りはタックルをしてきた者達の顔を見て、一気に弛緩した。何故ならば、その男が――鳴神 宗士郎が会いたくて仕方がなかった大切な者達だったのだから。


 宗士郎が皆を退けて立ち上がると、改めて全員の顔を視界に入れる。


「ただいま……っていうのは、おかしいか。数日ぶりだな、皆。心配掛けたみたいで悪かった」


 頭を掻いて、照れくさそうにすると、宗士郎は控えめの笑顔を浮かべた。


「全くよ。柚子葉なんて、枕を抱いて泣いてたくらいなんだから」

「ちょっと楓さん!? それは言わない約束だったでしょ!」

「無事で良かったぁ……!(よし……! 合法的に鳴神君に抱き着けた!)」

「宗士郎ちょっと匂うぞ!?」

「それもまた良いのでございます!!」


 宗士郎の周りが笑い声と笑顔で満たされる。


 そんな中、置いてけぼりを食らっていたティグレは尋ねようとしていた言葉を引っ込め、茉心に話を振った。


「あの者は?」

「小童か? あやつは魔神を倒し平和をもたらそうとしておる人間じゃ」

「そうか……さてと、魔物もあの男が倒したようだし、オレは王宮に戻るか。話が終わったら、あの者も連れて王宮に連れてきてくれないか」

「うむ。これくらいなら貸でも何でもない」


 茉心の話に一応納得したティグレが一人で王宮への道を戻っていく。茉心は宗士郎達が再開を喜ぶ中、それを母親のように見守るのだった。





グランディア王国国王であるティグレ・ガラントと会談した柚子葉達。この国が抱える重大な問題は払拭され、宗士郎との再会を果たした今、次にするべきは先方が納得できる実力を見せるだけである。



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前回の投稿からこちらの都合で約一週間空けてしまいましたが、また忙しくなってしまい、次の投稿は18日から19日に変更する事にしました。次回まで4日も空けてしまい、読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、次回をお楽しみにしていて下さい!(泣)

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