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第十二話 到着?

 




 黒き侍が繰り広げた戦闘。そして、その者が抱く抜身のような鋭く強靭な意思。


 つい先程、鳴神 宗士郎との邂逅を果たした『傲慢』の魔傑将リヴルは、それ等を思い出しては悩ましげに身震いしていた。


「はぁっ、はぁっ……! 凄いね、鳴神 宗士郎ッ。ボクをここまでゾクゾクさせるなんて……! 君が欲しくなったよっ」

「ほう。(なんじ)がそこまで言うとはな…………。して、揃えた駒は全滅してしまったのか?」


 通路の壁際に立っていた真っ赤な長髪の男が尋ねた。


「はっ、申し訳ございません。ボクの傀儡(おもちゃ)共が腹が減ったと申しまして……手近にいた亜人共を宛てがったところ、一緒にいた鳴神 宗士郎に全滅させられてしまいました。この罰はいかようにも……」

()い。予定の日時まで、まだ時間はある。それまでに新たな駒を揃えておけ」


 即座に膝をついたリヴルが報告を済ませる。男は怒るでもなく責めるでもなく、ただ頷いた。眼前の男に崇拝、忠誠を誓っているリヴルは更に伏して言葉を続ける。


「ありがとうございます――カイザル様」


 魔神カイザル・ディザストル。男でありながら、女のような顔の持ち主であり、『魔界(メルディザイア)』を統べる魔神だ。


「リヴルよ。あの男をどう思う?」


 カイザルが放った二度目の問いに、リヴルは(おもて)を上げて答える。


「かなり強く気骨のある者かと……ボクほどではありませんが、屈服させ甲斐があります」

「汝ならばそう申すと思った。だが、リヴル。鳴神 宗士郎を侮ってはいかぬ。彼奴(きゃつ)の潜在能力は、あれでまだ一端しか出ておらぬ」

「はあ……そこまでの者には見受けられませんでしたが」

「もしも彼奴の力が全て引き出されたのであれば…………我の力と同等、いやそれ以上の存在になる可能性を秘めている」

「なっ――!」


 最強の主が口にした言葉にリヴルが絶句するが、次の瞬間に不満を爆発させた。


「それほどの力を秘めているなら何故放置するのですか! 危険分子は即刻殺すべきではないですか!!」

「誰が我に意見して良いと言った?」

「っ!?」


 カイザルが持つ琥珀色の眼に睨まれたリヴルが硬直した。


 蛇に睨まれた蛙。否、魔神に睨まれた餓鬼とも云うべきか。主と仰ぐカイザルに意見してしまった事を遅ればせながら後悔し、途方もない恐怖に呼吸をするのも忘れそうになる勢いだ。


「見たくはないのか? このカイザルを超えるやもしれぬ力を、鳴神 宗士郎を」

「そ、それで万が一の事があれば……ボクはあいつを殺さなかった事を永久に後悔します」

「…………」


 暫し続く無言の圧。またしても、意見してしまった事に恐怖を抱くリヴルは顔を伏せ押し黙る。


「ク、クク……」

「カ、カイザル様?」


 だが、唐突にその堰を切ったのは、カイザルの笑い声だった。


「いや、済まぬ。確かにそうだな、後悔するだろう。汝と同様にな。だが、それも一興とは思わぬか?」

「お戯れが過ぎますっ、カイザル様」

「冗談だ。許せ」


 不敵に笑うカイザルに、心臓に悪いとばかりにリヴルが胸をなでおろす。呼吸を整えた後、カイザルは真剣な面持ちとなって口を開いた。


「リヴル、我は次の準備に入る。汝は必要な駒を揃えたのち、魔界(メルディザイア)に帰還し、汝の力を以って彼奴の()()調()()をしておけ」

「はっ、では失礼します」


 主直々の命令を承ったリヴルは最後まで膝をついて礼を払った。言葉を切ると、リヴルが足早にこの場を去っていった。


「ふむ、鳴神 宗士郎がこちらの世界に来ているのならば、神天狐の娘も同様と考えるべきだな。もっとも、神天狐本人が近くにいるやもしれぬが……」


 くつくつと笑いを零すカイザル。


 アトラ山脈地下ダンジョンに訪れた理由の大半は、彼自身の勘によるものだ。勘に従い配下のリヴルに付き添えば、興味が引かれて止まない鳴神 宗士郎()が『異界(イミタティオ)』に来ているではないか。


 これを愉快と言わずして何と云う。


「やはり汝と我は似た者同士、惹かれ合う運命やもしれぬな……ククッ」


 彼の目的は物質界――『異界(イミタティオ)』と『現界(日本)』の支配。なればこそ、自身を超える可能性を秘める鳴神 宗士郎の存在は邪魔と配下は考える。


 されど、カイザル・ディザストルという男は違う。


「もっと強くなれ、鳴神 宗士郎。その為の艱難辛苦(かんなんしんく)は我が与えてやろうぞ」


 むしろ、その者の成長を希求し、その者との激闘を求め、その者と雌雄を決する事こそ、彼は望む。


 それは自身の欲求の為でもあり、()()()()()()()()()()()()宿()()を喰い破る為でもあり…………()()()()()を達成する為に必要なプロセスなのだ――――。







「へぇー、細かい事はよくわかんねーけど、要するにナルカミはここじゃねー別の世界の住人って事で良いんだよな?」

「文明も文化も違う別の、な」


 女王蟻との一戦を交えた後、宗士郎達はシノの誘導に従い、アトラ山脈地下ダンジョンの脱出を試みていた。その道中、宗士郎は自らの素性をシノに明かした。


「まっ、服も違えば姿も少し違うしなー。会った時から何となくそんな気がしてた……あ、ここを右だ」

「それにしても助かった。ブラッドヴォルグが来た道覚えてて、その上案内までしてくれるなんてさ」

「気にすんなって。一緒に戦った仲だろ?」


 そう言って、シノが宗士郎の脇腹を肘で小突く。


 宗士郎が別世界の住人だと知っても、シノがその親しげな態度を一切崩す事はなかった。むしろ、彼女が助けに入ってきてくれた時の理由を顧みれば、当然といえば当然の話だった。


「てか、急に堅苦しくするなよな。シノで良いって言ったろ?」

「そっちこそ、名字の方で呼んでるじゃないか」

「あたしは良いんだよ。『ソウシロウ』って、長いじゃんか」

「それを言うなら『ブラッドヴォルグ』も同じようなものだ」


 随分詰まらない事で揉めてはいるが、そこに怒りはない。やり取りは普通の友人のようなもの。有り体に言えば、波長が合ったという事だ。


 こんな話ができるのも、先の戦闘があってこそだ。


 脱出する際、改めて宗士郎は闘氣法・『索氣』で生命探知を行っている。今度は長く時間を掛け、広く綿密に。その結果、魔物がいない事を知った。


 どうやら、リヴルが引き連れた魔物で全部だったようだ。


 一応、同じ(わだち)を踏まぬように宗士郎が警戒しているが、宗士郎とシノが出会うまでの道中に倒した魔物は結構な数になるので、心配せずとも良いだろうとの結論に達している。


 その理由はシノ曰く、「あたしの鼻に捉えられねーもんはねー」とのこと。


 その為、レオーネ達は宗士郎達より先行して談笑しながら歩いている。


「まあ、いいや。今度会った時、あたしとサシで戦ってくれ。そんで、互いの事が分かり合えたら名前で呼ぶ事にしねーか?」

「随分極端だな。それに、次にいつ会えるのかさえ分からないのに」

「会えるさ」


 嘆息する宗士郎の言葉に、シノが断言した。


「根拠は?」

「言ったろ? あたしの鼻に捉えられねーもんはねーって。あたしの勘によると、お前はお前の目的の為に、もう一度あたしに会いに来る」

「…………」


 匂いじゃないものをよく嗅ぎつけるな、と宗士郎は思いつつも、感覚的かつ的を射た答えに黙った。


 自身でも気付かない内に、その話題を出し渋っていた事が露見していたようだ。シノの実力をほんの少ししか垣間見ていないが、それでも強者である事が宗士郎の目には解った。


「無言は肯定とみなすぜ?」

「全く、それはもう第六感のようなものだろうが」

「心配しなくても前のあいつらには聞こえねーから話せよ。力になれるか確証はできねーけどさ」

「はぁ……完敗だ。わかった、話す――――」


 そうして、宗士郎はこの世界に来た理由と目的をシノへと語った。


「――(おっどろ)いた……!? お前、かなりぶっ飛んだ事やろうとしてるな。正直、正気を疑うぜ」


 即落ち二コマのような速さでシノに驚かれてしまった。


「驚かれるのもぶっ飛んだ事なのも分かってるが、俺は本気だ」

「そう、怒んなよー。動機はしっかりしてるし、守りたい気持ちも分かる。あたしも群れが危険に晒されそうになった時、迷わずそうするだろうしな」


 しかし、シノの感想は宗士郎の目的を否定するものではなく、むしろ肯定を示すものだった。言葉が悪くなっているのは、彼女が弱肉強食の(ことわり)と『魔神を倒す』という事がどのような事かを理解しているからだろう。


「魔神の打倒に力を貸してくれる仲間を探して、大切なものを守る為に戦う、か……」


 シノが宗士郎の目的を反芻するかのように、しみじみと口にする。


「……うん、お前の心意気。気に入った」

「っ、じゃあ……!」

「――けど、ごめんな。協力するのは……ちょっとな」

「そうか……」


 好意的な言葉が返ってきて喜ぶのも束の間。宗士郎が聞かされた答えは否定を示すものだった。


 宗士郎は全て話した。カイザルの悪逆非道さを、その力が自分の世界だけでなくイミタティオ(この世界)にまで及ぼうとしている事も。


 その上で、賛成のような答えを聞かされた後に否定されれば、宗士郎の微かな期待が音を立てて崩れ去るのも無理はない。


「か、勘違いすんなよ!? 〝今は〟ってだけだ! だからそんなに落ち込まねーでくれよ」

「そうか……って、今は?」


 気落ちする宗士郎の顔がぐりんとシノに向く。


「協力するのはやぶさかでもねー。けど、あたしの一存だけで決められる事でもねーんだ。あたしは牙狼族の……一応、姫って事にはなってるからな」


 そう言って、耳と尻尾をピコピコ! と激しく動かすシノ。その横顔は慣れない言葉に恥ずかしさを覚えているように見える。


「姫、ねえ……?」

「あっ! 今お前笑ったろ!? 似合わねーって自分でも思ってんだからな!!」

「いいや、別に。言葉足らずなシノ姫」

「姫ゆうなーッ!」


 煽りネタを手に入れた宗士郎がすかさず茶化し、シノが耳と尻尾を逆立てて憤慨した。


「げふんっ、まあとにかくだ! 帰ったらその事を村の皆に話してみるよ」

「ああ、それでいい。協力に乗り気だって事がわかっただけで、こっちとしては大助かりだ」

「な? やっぱり、また会えそうだろ?」

「ああ。王国の次は必ずそっちの村に会いに行く。約束だ」

「おう!」


 そうして二人は笑みを零し、約束として互いの手の甲を合わせた。


 グランディア王国の次に牙狼族の村に訪れる事が決定した宗士郎は、引き続きシノ達と共に出口を目指し…………そして、


「兄ちゃーん! 外だよー!」


 先頭を歩いていたレオーネの声に、宗士郎とシノは長く険しいダンジョンの脱出を果たしたのだった。


「半日ぶりの外だぽん!」

「ようやく抜け出せたわ~!」


 外に出るなり、カナデとフゥーカが喜びを胸にバンザイしていた。それは彼女達の友達であるレオーネ達も同じのようで、全員一緒になってはしゃいでいる。


 そんな元気な子供達に反して、宗士郎は溜息をした。


「元気だなぁ……少し羨ましいな」

「なんだ? そんなにしんどかったのか」

「アトラ山脈の反対側から走って、荒野と密林を抜けた次の日にダンジョンに潜ってその日の内に脱出だぞ? 疲れない訳ない」

「そ、そうか……そりゃ災難だったな?」


 シノが疲労が如実に現れている宗士郎に、気休めの言葉を投げる。その言葉に反応する気は、今の宗士郎にはないのだ。


 ダンジョンこそ、入ってから半日ほどで抜け出せたが、それ以前の荒野と密林は丸一日ほぼ休憩なしの攻略だった訳で。自然環境の脅威や魔物との戦闘、最後は百近くいる魔物と魔傑将との出会い。


 これで疲れない訳がないのだ。


「とはいえ! もう直ぐだ。もう直ぐで、皆と再会できる」

「皆? 一人で来たんじゃねーのかよ」


 突然、自身に発破をかけた宗士郎の言葉に、シノが首を傾げる。


「一人じゃない。大切な仲間達と一緒に世界を越えてきたんだからな」

「……余程大切なんだな。羨ましいぞ、このヤロー」


 シノの拳がやんわりと宗士郎の胸板を叩く。だが、消え入りそうな声は宗士郎に届く事はなく、


「ん? なんか言ったか?」

「なんでもねーっての!」

「いてっ!?」


 それ以来、シノは口を曲げてしまった。宗士郎の目には、シノの反応が心なしか羨ましそうに見えたのは気の所為だったのだろうか。


 それから一時間後。


 シノが住む牙狼族の村近くに着くと、別れる前にシノが宗士郎に言葉を投げ掛けた。


「ここで一旦お別れだな。ちょっと距離あるけど平気か?」

「王国っぽい街も見えるし何とかなるだろ。最悪、『乖在転』で連続して飛べばいいか」


 牙狼族の村は高所にあるようで、既にグランディア王国らしき街は見えていた。宗士郎だけならば、数時間の内に着く事はできるだろうが、レオーネ達に歩調を合わせれば、日が沈んだ後くらいに着く事になってしまう。


「か、カイ……なんだって?」

「『乖在転』だ。長距離を一瞬にして移動する技で、俺の疲労が激しいから使わなかっただけで、これくらいの距離なら大丈夫だ」

「そうか……じゃあ、しばらくお別れだ。なるべく、早く会いに来てくれよな?」

「もちろんだ」


 差し出された手に宗士郎は笑顔で握手に応じた。一波乱ない限りは、またすぐに再開できるだろう。


「じゃあな! ちびっ子たちも機会が合ったらまた会おうぜ!」

「うん! またねー!」


 最後まで元気の良いまま、シノの姿は遠ざかっていった。その後ろ姿に、懐いたレオーネ達が別れの言葉を投げ掛け、それはシノの後ろ姿が完全に見えなくなるまで続いた。


「よし、行くぞ。お前達の家族も心配してる」

「うん!」

「わかりました!」


 宗士郎の言葉にレオーネ達は素直に頷いた。


 それからグランディア王国への道のりを歩いて進んだが、レオーネ達の疲労が限界に達したので、やむなく宗士郎の刀剣召喚(ソード・オーダー)の『乖在転』で数度飛ぶ事に。


 かなり気持ち悪そうな顔をしていたようだが、その甲斐もあって、宗士郎達は日が暮れるまでにはグランディア王国に着く事ができた。


 グランディア王国はかなり広大な土地を所有しているようで、領内は高い外壁に囲まれていた。なんでも、外敵である魔物の侵入を防ぐ為だとか。


 これでようやく皆に会える、と宗士郎が思ったのも束の間。


 何故か、そこでも面倒な問題が起きてしまった。


「あ、レオーネ様達! お父様とお母様達がえらく心配してたよ? 早く帰って安心させてあげなさい」

「兄ちゃん! また後でねー!」


 グランディア王国の前にある外壁の前で、門衛らしき犬の亜人族がレオーネ達を中に()れる中、


「君、この国の人じゃないよね? ステータスプレート持ってる?」

「は? なんだそれ」


 宗士郎だけが入る直前でストップを掛けられてしまった。首を傾げる宗士郎に門衛が懇切丁寧にご教示してくれる。


 曰く、グランディア王国の住人だという事を証明する身分証明書のようなものらしい。ないならば、通行料を払え、との事。


「昨日もいたんだよねー、君と同じ姿の子達が。ま、その子達は連れにお金を出してもらったようだけど」

「(柚子葉達か……先に着いてたんだな)」


 当然、この世界のお金だど持ち得る筈もない宗士郎が通行料を払える筈もなく…………、


「ならば、通す事はできない」

「は…………?」


 レオーネ達がグランディア王国内に入る中、宗士郎だけは家の玄関で待ちぼうけを食らう子供のように、中に入る事が出来なかったのだった。





牙狼族の姫シノ=ブラッドヴォルグとの再会を約束し、その後王国に着いた宗士郎だったが、レオーネ達が王国内に入る中、独り外に締め出されるのだった。



「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたなら、ブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価欄から応援して頂けると励みになります!! 感想・誤字・脱字などがございましたら、ページ下部からお願いします!


次回の投稿はお休みさせて頂きます。次の投稿は14日の月曜日、20時から22時の間になりますが、次回のお話をお楽しみに! 第13話は柚子葉達視点です!

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