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第七話 柚子葉の雷、落ちる

柚子葉達視点です! お楽しみに!

 




「いやぁ~神天狐様方に護衛してもらえるなんて嬉しいなぁ。大事な商品を無事届けられそうですよ」

「それは何よりじゃ。有事の際は吾輩達に任せてくれれば()い」


 宿屋『エノコロの宿』でぐっすり休息を取った翌日。


 宿屋で出会った商人である猫人族のカッツが所有する馬車を護衛する報酬として、昨夜の宿代に加えて馬車の荷台に乗せてもらった柚子葉達。早朝に出発してから、かれこれ四時間は荷台の上だった。


 カッツ自ら御者を担当し、その横に座る茉心。商品が積まれている荷台には柚子葉、楓、みなも、和心、そして顔色を悪くした響が乗車している。


 馬車が進んでいる道の両端から先は雑木林。日本と違って、あまり舗装されていない。


 ゆっくりペースで進んでいるとはいえ、馬車のタイヤが小さな石ころや地面の凹みの上を通る。当然、ガタガタと道からの振動がダイレクト伝わってくる。


 普段から自転車や車などに乗っていた者ほど、その不規則な振動には堪えるようで。


「ぅぷ……きもび、わる」

「大丈夫? 背中さするね」

「ぅ、ありがと……柚子葉ちゃん」


 現代人の響が馬車揺れに酔い、先程から口元を押さえている。乗り物酔いするとは想定しておらず、酔い止めの薬など用意してきてはいない。柚子葉に背中を(さす)られる響を見て、楓が呆れた様子で提言する。


「本当情けないわねー。荷台から降りて歩いた方がいくらかマシじゃない?」

「そうする……というか、最初からそうすれば良かった」


 楓に提案された響は気持ち悪い事もあり、素直に荷台から降りて歩きだした。馬車のスピードは歩くソレと変わらないので、響の感想はもっともだ。


 茉心、和心を除く他の女子は馬車に乗るなど人生初の体験、などという理由でお尻の痛みを多少我慢してはいるが、酔いはせず馬車での旅を楽しんでいる様子だ。


「お連れさんは大丈夫なのかい?」

「あ、はい。本人も歩く方が気が楽そうですし…………でも驚いたなー」


 心配するカッツの言葉に、みなもが響の代わりに答える。そして、この世界『イミタティオ』に着いてから出来事、出会いを振り返り、不思議そうな顔で感想を漏らした。


「うん? 何がだい?」


 気になったカッツはフレンドリーに言葉を投げ返す。


異世界人(私達)に対するカッツさんや他の人の態度ですよ。『(ゲート)』の向こう側、私達の故郷では、私達に敵意を持っている人がいるって話を聞いてたもので。カッツさんや『マタタビ村』の人達を見て、なんか拍子抜けしたなぁと」

「私達を見た瞬間、かなり驚かれたけどね~」

「素性を明かした時は、村総出で歓迎された記憶もあるわね……宿では歓迎されなかったけどっ」


 優しい人で良かったぁ、とみなもが今更ながらに人心地つき、柚子葉が『異界(イミタティオ)』で初めて訪れた村の人々の反応を思い出し笑いをし、楓に至っては柚子葉と同様に反応を思い出し口を尖らせている。


「ははは! 成程、そういう事ね!」


 それぞれの反応を少し後ろに振り向いて見ていたカッツは手綱を握りながら笑った。


「君達と本の絵で見た数百年前に滅んだ人間族は同じ容姿のようだけど、あの村や王国の人は多分大丈夫だよ。彼等が滅んだのは魔人族のやり方が気に入らなかった人間族の当時の(おさ)が起こした(いくさ)が原因だし、君達故郷の人が十年前に来た時も歓迎ムードだったからね。むしろ、王国では狐人族の方が――」

「それは、これ以上話さなくとも良い。じきに分かる」

「わ、分かりました。すみません…………」

「?」


 カッツの口から『狐人族』と出た時、茉心は少し凄み、荷台にいる和心の表情に(かげ)りが差す。茉心が話を遮った訳が分からず、外で話を聞いていた響も含めて柚子葉達の胸にしこりが残ったが、カッツが途切れさせた話を再開する。


「えーと、話を戻すけど。敵意を持ってたのは少数でね。王国から少し離れた場所で暮らす牙狼族や吸血鬼族とか、後は魔人族」

「魔人族とは戦った事があるし吸血鬼族も何となくわかるけど、牙狼族って……?」


 柚子葉が「魔人族とは戦った事がある」と口にした途端、カッツはギョッとしたが、咳払いをして疑問に答える。


「気性が荒くて、種族としての誇りが高い種族でね。犬人族(いぬびとぞく)と似た容姿と言えばわかるかな?」


 〝犬〟という単語が出てきて流石に連想するものがあったのか、柚子葉とみなもが真面目に思案し始める。


「犬……」

「チワワとかドーベルマンとか?」

「パ〇ラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……で、有名よね」

「「ハイ! ストッッッップ!!!」」


 突然、別ベクトルの話題を口にした楓の口が柚子葉とみなもの手で塞がれた。楓のセリフに反応したのは二人だけでなく、気分が悪かった響も荷台に乗り込み、×ポーズを楓に送っていた。


「なんじゃ? そのパトなんとかと言う奴は?」

「僕も気になるね……」

「私もでございます!」

「創作物で登場する名犬なだけ!! はいこの話終了ね!?」

「むぅ……ならば仕方あるまい」


異界(イミタティオ)』組の三人が柚子葉とみなもの尋常ならざる態度に興味惹かれるが、みなもが強制的に話をシャットダウンさせた。


「何もそこまで否定しなくても……名作なのに」


 話題が落ち着き、ようやく口から二人の手が離れた楓が少しむくれ気味で呟く。


「名作なのは知ってるけど、今は関係ないんです!」

「それでカッツさん。姿は何となく想像できましたけど、具体的には何が違うんですか?」


 みなもが憤慨し、柚子葉が話題修正を図る。カッツは顎に手を当て、少し考えてから答える。


「うーん、単純に戦闘能力の差、かな。牙狼族は日頃から狩りを愉しみ自然に身を置く種族だから戦闘意欲が高く、身体能力も犬人族の比じゃないね。牙狼族の姫は今までの代の中でもダントツに強いって噂だよ」

「うっ……できれば戦いたくないなぁ」

「みなもちゃんは防御専門だもんね」

「確かにそれもあるけど、こっちの事情を考えると味方の方が嬉しいんだよね。きっと話せばわかってくれるよね?」


異界(イミタティオ)』に来た最終目的は『魔神カイザル=ディザストルの打倒』と『その野望の阻止』。その足掛かりとして、この世界に生きる異種族の協力は不可欠なのだ。


 戦力は多い方が良いに決まっているし、敵を増やしたくはない――とみなもが考えるのも仕方ないのだが、その考えはこの世界の住人達に否定される事になる。


「それは甘い考えでございますよ。みなも様」

「和心の言う通りじゃ。種族としての誇りが高い奴等は語り合っても分かり合えぬのが普通じゃ。仮に其奴等と協力関係を結ぶのならば、双方が納得できるだけの材料が必要不可欠と知っておけ」

「むむむむ…………わかった」


 和心と茉心。狐人族の二人に言い包められたみなもが歯痒そうに首肯した。お人好し代表のみなもほどの者でもない限り、無条件で協力関係を認める事など有り得ないだろう。それは、いつの世もどこの国でも同様だろう。


「おっと、そういえば旅の目的を聞いてなかったね。観光かな?」

「それは魔――」

「まあ、観光みたいなものじゃ。この者達とは少しばかり借りがあってな。お礼として『グランディア王国』まで共に……という事なのじゃ」


 旅の目的を素直に話そうとしたみなもを遮るようにして、茉心が口を挟んだ。それを聞いたカッツは王国での観光を勧めてくる。


「なるほどねー、良い所だから是非とも楽しんでいってね」

「(ちょっと茉心さん! なんで邪魔をしたんですか!?)」

「(話しても目的の規模が大き過ぎてわかってもらえないのがオチじゃ。それに、その話はみだりにせぬようにと、出立前に言った筈じゃぞ)」


 茉心に近付いたみなもが小声で抗議するが、茉心の言い分はもっともである。柚子葉が『魔人族』と口にした時も驚いていたのだから、今回の話も突拍子がなさすぎると一蹴されるだろう。


 茉心に諭され納得したみなもが後ろに戻ると同時に、楓が思い出したように言葉を漏らした。


「それにしても、魔物が全くと言っていいほど出て来ないわね……この辺りには生息していないのかしら」

「そんな筈はないんですけどねー、いつもなら一時間に一回は遭遇する筈なので」

「出番がないのもなんか申し訳ないよ……あ、そうだ。そろそろお昼にしませんか?」

「そう、ですね……そろそろ休憩を挟まないと馬も疲れて動けなくなるだろうし」


 そう言って柚子葉が御者席にまで来て身を乗り出す。既に日中なのか、まん丸い日が真上ほどに位置している。カッツも上を見て昼時だと判断したようで、昼食の場に相応しい位置を探し始める。


「それならば、この先にある川はどうじゃ?」

「……全然見えないんだけど」

「『神力』を用いて空から俯瞰しておるから間違いない。綺麗な川じゃぞ」

「千里眼ってやつかな? じゃあそこでお昼にしよう。みなもちゃん、響君に伝えてきて」

「うん、わかった」


 そうして、数分馬車で進んだところで、道を横切るようにして川が通っていた。馬車が通れるほどの橋もあり、幅や強度も問題がなかった。


 川の側は木々がそびえ立っているとはいえ、馬車を置いておくスペースも程よくある。


「じゃあ僕は馬にエサをやってくるよ」

「はい。お昼は任せてください」

「期待してるよ。よろしく」


 止めた馬車かた降りたカッツが馬の側へ近寄りにいく。期待を寄せられた柚子葉は制服の袖を捲り上げ、気合を入れる。


「よし、今日はビーフシチューにしよっと! 茉心さん。まな板出してくれますか? あと、椅子を人数分とテーブル、じゃなくて食卓一つ」

「うむ。よっこらせっとっ……まな板はこれじゃったか?」

「うん。その上に置いておいて」


 柚子葉の指示で茉心が虚空に手を突っ込む。先に大きめのテーブルが地面へと置かれ、次に七人分の椅子がその周りに。最後に取り出したまな板を茉心が食卓へと置く。


 茉心の『神天狐』としての力を使った空間収納術である。なんでも空間を捻じ曲げた上で領域を維持しているのだそうだが、力技過ぎて仕組みは全く理解できない。ちなみに食材や水、その他諸々の私物等々も茉心が創った空間に収納されている。


 その後も指示は続き、包丁やら食材やら……必要なもの一式がテーブルへと並べられる。


 その間、手持ち無沙汰だった残りのメンバーは何もする事がなく、柚子葉一人に作らせるのは悪いと思った楓が準備中の柚子葉に声を掛けた。


「ねえ、柚子葉。私にも何か手伝え――」

「楓さんはこの場に近寄らないでっ」

「そ、即答!?」


 楓の善意を即座に一蹴する柚子葉。そのやり取りに手持ち無沙汰だったみなもや和心も近寄ってくる。


「柚子葉ぁ! 私にも料理くらいできるわ! お願い手伝わせて!?」

「へえー……楓さんの言う料理って、一口食べたら泡吹いて痙攣するような毒料理のこと?」

「酷いわ!? 私の愛情込めた料理をそこまで言うなんて……っ」


 妹分に懇願する楓だったが、とびっきりの柚子葉の笑顔で口にした内容に「よよよ」と泣き崩れる。酷い言い草だが、柚子葉にはそれを言ってのけるだけの過去があるのでやむ無しだ。


 話題が面白そうに感じたみなもも話題に飛び入り参加し始める。


「なになに!? 楓さんって料理できないの?」

「できるわよ!!」

「できない……というか下手したら死んじゃうから本当にやめて」

「何があったの!?」

「何があったのでございますか!!?」

「それはお兄――」

「わーーっ! わーーッ!!!」


『料理を食べれば死ぬ可能性もある』という驚くべき内容に、みなもと和心が目をキラキラと輝かせ、柚子葉が答えようとして楓が大声で遮った。話はそれで終わるかと思われたが、バラす気満々の柚子葉は口を開きかける。


「おっと、吾輩も気になるのでな。しばらく黙っておれ」

「むぅ~~ッ!? むぅ~~ッ!?」


 と、そこで興味を示した茉心の腕が楓の体へと絡みつき、その口が塞がれてしまう。その後、明かされた事の真相を聞き届けた皆は今後一切、楓に料理させるなと目を光らせる事になった。





「くくっ……しめしめ。全員、馬車から離れてやがるぜ」


 柚子葉が料理に取り掛かり始めた頃、馬車の近くにある木の側でリーダー格らしき大柄な男が呟いた。頭部には、裏に特徴的な模様の耳、臀部には少し長い縞模様の尻尾。虎人族(とらびとぞく)だ。


 その男の周りには仲間と思しき虎人族が四名ほど。どれも剣で武装している。


「兄貴! 馬車で男が一人寝てますぜ!」

「放っておけ。逃げる時にその辺に捨てればいい。問題は邪魔者を先に殺しておくことだ」


 リーダー格の虎人族の男が鞘から大剣をスラリと引き抜く。何人何匹と斬ってきたのか、刃はボロボロで刀身は血で汚れている。


「行くぞ。俺に続け」

「「あらほらさっさー!」」


 リーダーの声に賛成の意を示した仲間達はリーダーの後に続いて行く。


「なんだぁ? っ、あれは…………!」


 誰もいなくなった後、馬車の中で漏れた声に気付く者は当然いなかった。





「よいしょっと……後は煮詰めるだけかな。出力は……これくらい、かな」

「驚いたなっ……魔法も使わずに雷を操れるなんて」


 四つの支柱の上にセットした網。その上に必要な材料を入れた鍋を置き蓋をした柚子葉が自身の異能である雷心嵐牙(テンペスター)を発現させ、鍋に熱を加えていく。


 柚子葉の手先や頭からは電気が迸っている。


 それを見たカッツが電気を操る柚子葉を見て、素直に賞賛の言葉を送っていた。


「カッツさんは魔法は使えないんですか?」


『魔法』の概念を知っているとはいえ、それは創作物や魔法を使っていた魔人族を見て知った知識だ。この世界の魔法事情など知る由もないみなもがカッツへと質問を投げた。


「僕は使えないね……残念ながら。人は生まれながらにして魔力を持つけど、僕は魔力の総量が低いし適正もなかったから」

「みなもちゃん、カッツさん……向こうで話してもらえない? 気を付けないと吹き零れるから」

「ご、ごめーん……異能でIHってしんどいよね、うん。あっち行ってるね」

「あい、えいち?」


 鍋に熱を送り続ける柚子葉の注意を聞き、みなもと柚子葉の力に驚いていたカッツは邪魔にならないように食卓へとつく。既に戦力外通告された楓と良い子の和心は椅子に座って待っていた。


「この椅子や机、他のといい……素晴らしい一品ばかりですね。これとか売って貰えないですか!」

「いくらお世話になってるカッツさんとはいえ、売れません! 絶対に!」

「だよね…………」


 現代日本の物はどれも商人であるカッツが喉から手が出るほど欲しいものだそうで、まだ何も載っていない皿を持って売ってくれるようにみなもに頼み込むが、絶対拒否姿勢のみなもの剣幕にすごすごとカッツは引き下がった。


「代わりに私の力を見せてあげますから!」

「うーん。見てみたいけど、魔物や野盗に襲われなかったし、こりゃあ君達の力を存分に見せてもらう機会は訪れないかな?」

「いや……どうやらその機会は訪れたようじゃぞ」

「……え?」


 神妙な面持ちで告げた茉心の言葉に、カッツが茉心の視線を追う。その先には、大柄な男を先頭として合計四人の男達が剣を片手に立っていた。


「どうやら気付かれてしまったようだな。狐人族の女、中々やるじゃないか」

「気配駄々洩れで何を言うか。少しは気配を隠す練習をしたらどうじゃ、虎人族の」


 茉心と大柄な虎人族の男の間で火花が散る。その間、大して慌てた様子のない楓達がコソコソと話を始める。


「もしかして山賊かしら? 所々汚いし」

「そのようですね……と、ところで君達本当に大丈夫なんだよね?」

「どうかしましたカッツさん?」

「いや、ね……神天狐様のお言葉を疑う訳じゃないけど、本当に戦えるのかなって」

「ああ、そういうこと。まあ、私とみなも、あとは向こうにいる柚子葉に任せなさい」


 楓もみなもも柚子葉も死線をくくり抜けただけあって余裕たっぷりだ。和心も楓達に心配などなかったが故に、虎人族には視線一つくれていない。


 その一方で、虎人族の下っ端四人は下賤な視線を茉心と楓、みなもへと和心に注いでいた。


「兄貴! あいつ狐人族ですけど、結構な美女じゃないですか!?」

「確かになぁ……うっへっへ、可愛い子ばっかりじゃないか」

「ん? でもよく見ろお前等。耳とか尻尾がないぞ! 何者だ……?」

「――答える必要はない! とうっ!!」

「なんだぁ!?」


 ヨダレを垂らす虎人族達の声を遮り、少し離れた位置から響いた声と共にドゴォン!! と爆発音が鼓膜を揺らす。


「シュタ!」

「響! もう酔いは収まったの?」

「ああバッチリだ!」


 その直後、空中で三回転捻りを加えて楓達と虎人族達の前に地面へと降り立ったのは、馬車で酔って休憩していた筈の響だった。


 突然の響の登場に虎人族達がざわめき始める。


「なんだお前は!!」

「あ、あいつ! さっき馬車で寝ていた男ですぜ!」

「フッ……その通り! 宗士郎がいない今! 俺が皆を守って見せるぜ!」

「やば……不覚にも響君がカッコよく見えた」

「みなもちゃん!? 不覚って何!?」

「気にするだけ不毛よねぇ」

「なんだYO!? みんな俺に冷たいYO!?」


 まるで主人公なような台詞を吐いた響に、みなもが有り得ないとばかりに手で顔を覆う。みなもが宗士郎に惚れている事を知っている楓の意味深な言葉は響には理解できず、少し憤慨している。


「まあいいや! 茉心さん! ここって、魔法とか魔力の概念があるんだよね!!」

「ん? ……ああ、そうじゃが……お主まさか」

「フッ…………」


 何かに勘付いた茉心を尻目に、響が一息吸って目を閉じた。右手を胸の前に掲げて集中し出す。


 話の流れ的にも盗賊達は響が魔法を使おうとしている事を理解したらしい。響が発せられるあまりの気合に、盗賊一同が一斉に身構えた次の瞬間――!


「ファイヤーボール!」


 目をクワッ! と開け、かつドヤ顔で響がそんな事を口走った。


「…………」

「…………」

「…………」


 この場が静寂で満たされる。魔法を警戒していた虎人族達も無言だ。そして、その静寂を破ったのはまさかの身内だった。


「響……あんた何言ってんの?」

「…………」

「…………」

「笑えYO!? そうやって目だけで笑われるのはめっちゃ辛いんだぞぉ!?」


 まるで厨二病発症者を見るかのような可哀そうな視線を周囲が響に注ぎ、楓の一言で流石の響も悶え始めた。


 その無様な光景を見るや、虎人族達は急に余裕を取り戻す。


「な、なんだ。こけおどしか……! 驚かせやがって!」

「許さねえ! あいつら全員三枚おろしにしてやる!」

「ひぃい!?」

「……お主が逃げてどうするのじゃ」


 でかい図体の虎人族達が不良のように凄むと、響が茉心が座っている椅子の真後ろに身を隠す。その震えようは生まれたての小鹿のようだ。


「やっちまえやァァァァ!!!」

「よし、ここは私の神敵拒絶(アイギス)で!」


 我慢ならんとばかりにリーダー格の虎人族が怒号を上げた瞬間だった。


「――雷槌」

「「ぎぃにゃぁあアアアア!?!?!?」」


 小さくも響き渡る声と共に大きな雷球が虎人族達に被弾する。雷球は被弾した後、はじけるように強さを増し、感電する虎人族達の悲鳴が一際大きくなった。


 しばらくして、雷球が消え去ると虎人族達の意識は飛んでおり、煙がプスプスと上がっていた。


「皆~料理できたよー!」

「あ、うん……」

「柚子葉、ありがとう」


 一同が啞然とする中、ミトンを装着した柚子葉が鍋を持ってきて、食卓へ置いた。どうやら虎人族達の事はいないものとして扱うらしい。


「そういえば、そうだったわ……あの子、料理を邪魔されると笑顔でキレるんだった」


 柚子葉の笑顔を見て、楓が溜息を吐いた。


「何か言った? 楓さん」

「な、なんでもないわ」

「成程のぅ。料理を始めた時からピリピリしておったのはその為か」

「危なかったでございますね……」


 笑顔で鍋からビーフシチューを皿へと取り分ける柚子葉には何も追求する事などできず、楓が食卓に並べられていたパンの一つを手に取り食べ始める。各々納得し食事し始める中、カッツが先程の響のように震えていたのは言うまでもないだろう。





馬車での旅。旅はなんとも苦労が多く、王国までの道のりは遠そうだ。皆さまも料理の邪魔はしないようにしましょう(笑)。



次から数話、宗士郎視点に戻ります!! 時系列が少しバラバラで申し訳ないです(泣)



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