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エピローグ 3 みなもの覚悟

第二章エピローグ、正真正銘最後です。お楽しみください!

 




「すみません、急に時間を取って貰っちゃって」

「いいのよいいのよ、この子のこれからに関して重要な話があるみたいだし」


 大成総理との会合にて、『異界』に赴く許可を頂いた後の事。


 みなもに連絡を取った宗士郎は彼女の両親とのアポを急だったが、取り付けてもらった。『異界』に行くという彼女の意思とその危険性を伝える為だ。その為、『異界(イミタティオ)』に詳しい狐人族の茉心にも付いて来てもらっている。


 話し合いの場所はみなもの母美千留の提案で桜庭家に、現在の時刻は午後七時前。


 今は桜庭家の大黒柱・父淳之介が帰ってくるのを待っている所である。


「あ、そうそう! 今日は夕飯食べていくでしょ? おばさん、腕によりをかけて作っちゃうんだから!」


 そう言って力こぶをつくる美千留。


 もてなしてくれるのは大変嬉しい事だが、食事に来た訳ではない。なので、宗士郎は丁重にお断りを入れようとする。


「あ、いえ。そこまでご迷惑をお掛けする訳には……」

「うむ、馳走になろう」

「なんでお前が答える」


 しかし、宗士郎が座っているソファの横で腕を組んで偉そうにふんぞり返る茉心が勝手に答えた。


「小童よ、折角の厚意を無下にするのはいかん。こういうものは素直に受け取っておくものじゃ」

「そう言って……さも、して当然の礼儀みたいに言ってるが……お前が食いたいだけだろ」

「うむ、そうとも言う」

「お前なぁ」

「いいじゃない、鳴神君。茉心さんにも娘がお世話になってるみたいだし」

「……えと、美千留さんがそう言うなら、ご相伴に預からせてもらいます」

「はい♪」


 こういう譲らない頑固な所もみなもに似ているのだろう。


「(今の内に連絡入れとくか)」


 美千留の輝かしい笑顔を前に屈服した宗士郎は素直に頷くと、夕食のお誘いを受けたから今日は飯いらない、と柚子葉宛てにメールを送った。


「そういえば、桜庭遅いですね」

「そうねえ。部屋の掃除でもしてるのかしら?」


 桜庭家に案内して貰った当のみなもが先程から姿が見られない。ここに着いて早々、みなもと美千留が話し込んでいた事と今まさに美千留がニヤニヤしてる事に何か関係があるのかもしれない。


 みなもの姿が見えない理由を宗士郎が考えていると、不意にリビングのドアが控えめに開けられ、はたまた控えめな声が室内へと届いた。


「お、お待たせ」

「あら、遅かったじゃないみなも。いったいどうした、の……?」

「どうしたの? お母さん」


 入ってきたのは私服姿のみなもだった。合流した時の服装ではなく、自宅で過ごす事前提のラフなものだ。その娘に対し、美千留が目を丸くする。


「みなも! ちょっとこっち来なさいっ」

「あ、ちょっと!?」


 そして、そのまま娘の腕を引っ掴み、キッチンの隅へと連れていった。


「なんか変なとこでもあったか?」

「さぁの……ずずっ」


 何故みなもが美千留に連れていかれたのかは解らない。こういう機微には経験豊富そうな茉心に聞いてもはぐらかされるだけ。宗士郎は大人しく彼女達が戻ってくるのを待つ事にする。


 一方その頃、キッチンの隅でしゃがみながら小声で美千留がみなもに尋ねていた。


「どういう事なの、みなも? ちゃ~んと鳴神君を悩殺できるような服を用意してあげたじゃない。なのに何で着てないの?」

「いや、えと……あんな服着たら確実に痴女扱いされないかな? 胸元が大きく開いた上着に、丈の短いスカートなんて…………大胆にも程があるよ」


 自宅に帰ってきた後、美千留に宗士郎の事が好きだと伝えたみなもはすぐさま美千留に洋服一式を手渡されていた。その際、宗士郎がかなりの鈍感である事も。一体、いつこのような露出度の高い服を用意したのか不思議ではあったが、そのような服を着るのには抵抗があった。


「何を言ってるの我が娘よ。鈍感系主人公みたいな鳴神君を意識させるには、女である事をもっとアピールするのが大切。私もお父さんを堕とす時は外堀を入念に埋めてから、それはもう大胆かつ色気たっぷりに迫って……デュフフッ、ゲフンゲフン」

「お父さんとお母さんの恋愛事情なんて、今聞きたくなかったかな~。じゃなくて! 今日は本当に大切な話をしにきたの」


 それを伝えると突如として美千留が自らの恋愛事情を語り出した。下品な笑みを浮かべては咳払いで消す。その様子を見てみなもは大層ゲッソリした様子で肩を落とした後、気を取り直して真剣な表情を浮かべた。


「付き合い始めましたっていう報告?」


 そして、即座に恋愛方面の冗談を挟む美千留。


「だったら良かったけど……じゃなくて! 今回の話、私もかなり覚悟してここにいるの。だから、鳴神君を悩殺だとか惚れさせるとか、そういうのはしたくなくて」


 一瞬、その話題に乗りかけて否定。


 真剣だが、浮いた話ではない。みなもはそれを言葉と表情で母親へと伝える。


「わかったわ」

「え?」


 すると、美千留は食い下がるでもなく、詳しい訳を聞くわけでもなく……穏やかな笑みを浮かべて引き下がった。てっきり、また冷やかしてくるものだと思っていたみなもは面を()らった。


「え、じゃないわよ。みなもがそんな真剣な顔だから、私も真面目に返しただけ。その意味、後で聞かせてくれるんでしょ?」

「……うん。とても、とても大事な話だから」

「よし! なら戻りましょうか」


 美千留がパンッと合掌すると、みなもは美千留と共にリビングへと戻った。リビングに引っ込む前よりも真剣な面持ちで。


「もう良いのか?」

「うん、大した話でもなかったから」

「(小童は将来苦労するのぅ)」


 帰ってきたみなもを見るなり、茉心が出されたお茶を啜りながら宗士郎に同情の視線を送る。そのような視線を送られる覚えもないが、特に気にしない事にする。


「そういえば、みなもの父君はどのような御仁なのだ?」

「急にどうした」


 不意に茉心が思い出したように淳之介の事を聞いた。みなもでもなく、美千留でもなく、宗士郎に。


「いや、なに。あの二人を見ておったら少しばかり気になっての。で、どうなのじゃ」

「そうだな……一言で言えば、『ザ・親バカ』。桜庭の事を溺愛し過ぎて、近付く異性を目の敵にする人だ。大切なのはわかるけどな」

「なるほどの~……むむっ」


 宗士郎が説明してやると、半ば上の空気味に頷く茉心。聞いておいてその態度はないだろう、と宗士郎が思っていると、茉心が突然耳をピクピクとさせた。


「どうしたの茉心さん?」

「いや……なにも♪ それよりもみなもよ。こちらへ来るのじゃ」

「……? うん――って、うわぁ!?」

「っと、大丈夫か」


 その様子が気になったみなもが茉心に問いかけるも、少しはぐらかした後すぐにニンマリと笑みを浮かべた茉心はみなもを呼び寄せる。そして、近付いてきた所でみなもの足を足払いし、宗士郎の胸元へ飛び込ませた。


 宗士郎は転んだみなもの肩を掴んで押し留める事に成功した。


 否、それはそれで失敗だったのかもしれない。


「――たっだいま~~!! 待たせてごめんね~マイエンジェルことみなもちゅわ~ん!!」


 その体勢のまま、いきなり勢いよく開かれるドア。聞える甘ったるい、みなもの名を呼ぶ声。


 宗士郎は瞬時に察した。淳之介が帰ってきたのだと。


「(ま、まずい……っ!? な、身体が動かない!? ま、茉心めぇ……!)」


 すぐさまみなもを退かして無害である事を主張しようと身体を動かすも、ビクともしなかった。横でクスクス笑う茉心を睨み付ける。


「あら、随分早かったのね。おかえりなさい、あなた」

「まあね! みなもちゅわぁんが帰ってくると聞いて居ても立っても居られな……く、て……」


 しかし、その甲斐もなく、無慈悲に淳之介の視線がこちらへと移った。お、終わった……と宗士郎は嘆き、諦めて挨拶をした。


「お、お邪魔してます~」

「お、お父さん。おかえり~」

「おい貴様、何故ここにいる? そして、何故みなもと見つめ合ってるんだい?」


 顔をヒクつかせて乾いた笑みを浮かべる宗士郎と控えめな笑顔のみなもを見て、淳之介の目が据わる。途轍もない圧が襲い掛かる中、淳之介の質問に茉心が答えた。


「キッスをしておったのじゃ」

「――ギョォエエエェェェェエエエエエァアアア!!!?」

「おま、なんてことを!? うおぉわぁああ!!?」


 かなり余計な補足を入れた茉心に目も暮れず、淳之介が人ならざる化け物のような奇声と共に荒ぶり、宗士郎に襲い掛かった。


 身動きの取れない宗士郎は茉心に文句を投げ掛け、悲鳴を上げながら必死に藻掻く。


 …………暴走した淳之介の誤解を解くまで、優に一時間も要したのだった。





「で、大切な話とはなんだい? 言っておくが、もし詰まらない話だったら貴様のナニをここで再起不能にしてやってもいいんだぞ」

「内容的には詰まらないかもれませんが、桜庭に関わる重要な話ですのでご安心を」


 暴走した淳之介の誤解を解いた後。


 正面のソファに淳之介、美千留。対面のソファに宗士郎、茉心、みなもの順で座ると、淳之介が口火を切った。もはや宗士郎の前では敵意を隠しもしない淳之介の態度に、宗士郎は内心溜息を吐きつつも話を始める。


「まず、前提の話なんですが。十年前に繋がった世界、『異界』の事はご存知ですよね?」

「舐めるな、それくらいは常識だ。猫耳や犬耳の生えた異種族の人間がわんさかいるっていう世界の事だろう」

「その通りです。一ヶ月以上程、俺と桜庭、横の茉心も含めての七人がその『異界』に行きます」

「なっ――!?」



 前振りに重ねてサラッと『異界』に行く事を伝えると、淳之介と美千留が驚愕した。


「本当なの……みなも?」

「うん」


 問いただす美千留とみなもの反応を見るなり、宗士郎は茉心に頼み、再び『狐人族』として彼女の姿を露わにして貰う。すると、淳之介と美千留の顔が再び驚き一色に染まった。


「え、え? え? もしかしてひょっとすると……彼女は」

「吾輩は狐人族の茉心なのだ。隠しておって済まなかったの」

「あ、うん。いや、納得だわ……不思議な髪してるし、どこか浮世離れしてたから」


 茉心が正体を明かすと、美千留は妙に納得した様子で受け入れた。結構、図太い性格なのかもしれない。


「……それで、その異種族の彼女と『異界』に行く事に何の関係があるんだい」

「『異界』出身の彼女に『異界』がどれほど危険かを教えてもらいます。茉心、頼んだ」

「吾輩の記憶映像も合わせて説明するぞ」


 そして、茉心が自身の『異界』に関する記憶映像をソファとソファの間にあるテーブルへと照射した。


「異界、吾輩の世界では『イミタティオ』と呼ばれておるが、決して平和な世界などではない。この世界よりも魔物は多く生息しておるし、異種族間の争いも絶えぬ。戦争など、ざらじゃの。そんな世界に赴こうとしておる小童達にはある目的があるのじゃ」

「そんな危険な世界での目的? いったい、どんな目的があるのかな?」

「『異界』とこの日本を征服しようとする魔神に対抗する戦力を集める為だよ、お父さん」


 淳之介の問いにみなもが答える。


 答えを聞いた淳之介達は何故そんな事をする必要があるのかと首を傾げた。


「この日本、いや『異界』も。魔神という化け物みたいな奴の脅威に晒されつつある、という事を俺は神様から直接聞きました。その際、魔神を打倒できる仲間を集めるように、とも」

「神様に? 冗談よね、鳴神君」

「冗談に、見えますか?」

「…………本当、なのね」


 宗士郎の話が信じられないといった様子で美千留が尋ねてくるが、真っ直ぐと美千留の眼を覗き込むと静かに納得してくれた。


 本当は魔神カイザルによって、日本と『異界』が未曽有の危機に晒されるという話を話すべきか、ここに来る前から悩んでいた。だが、彼等にとって大切な娘であるみなもがそんな危険な場所に行くのだから、この話はしておくべきだと宗士郎は考えた。


「魔神はそう遠くない未来に、この世界を襲うと聞きました。それが一ヶ月後なのか、二ヶ月後なのか……それとも一年後なのかも、定かではないです。ですが、すぐに対処しないと大切な家族も友達も……皆、殺されるかもしれないんです」

「っ」


 宗士郎が醸し出す深刻な雰囲気、加えて『殺される』という言葉によって、淳之介と美千留が乾いた喉を潤すように生唾を飲み込んだ。


「それを阻止する為に俺は『異界』に行きます。そして、桜庭も。貴方達家族や大切なものを守る為に」

「…………」


 そこで、一旦言葉を止めると美千留が宗士郎に向かって言葉を投げ掛けた。


「ね、ねえ。それって、みなもが行く必要ってあるかしらっ。みなもが鳴神君と一緒にいたいのはわかるし、世界の危機だっていう事もわかるわ。でも、だからといってわざわざそんな危険な場所に行く必要ってあるのかしらっ……」


 美千留が否定してくれとばかりに、顔を伏せて尋ねる。その身体は少し、いやかなり震えている。


 それはそうだろう。


 大切な一人娘が『異界』という未知で危険な場所に赴くのだから。例え、いかなる理由があろうとそのような場所に行ってほしくないと思うのは親として当然の事だ。


「お母さん…………」


 内心では、既に美千留もわかっている筈だ。


 自分の娘はやると言ったらやる、行くと言ったら行く……といったような一度決めたら真っ直ぐに突き進む性格なのだと。みなもが頑固だという事は今までの生活で分かっているのだ。


 だがしかし、あえて「行かないで」とハッキリ言わないのは、みなもの意思を尊重したい気持ちと本当は行ってほしくないという気持ちが美千留の中でせめぎ合ってるからだ。


 みなもが引き留めたくても引き留められるような存在ではないからこそ、『親』として葛藤しているのが、宗士郎にはわかった。それは『異界』に行く話をしてから今まで黙っている淳之介も同様だ。


「私は何と言われようと行くよ」

「みなも……」

「私は死ぬ為に行くんじゃないの。お母さんやお父さん、この世界の人や『異界』の人達も守りたいから行くの。それが、人を守るこの異能を手に入れた私の使命なんじゃないかって思ってる」


 みなもが両親の顔をちゃんと見て、はっきりと自らの意思を告げた。その言葉と眼には、確かな覚悟が宿っていた。


「それに、私がピンチな時は鳴神君が守ってくれるって約束してくれたから」

「ああ、俺が桜庭を守る。俺の力は大切なものを守る為に得たものだからな」


 茉心を挟んで、みなもと宗士郎が頷き合う。すると、今まで黙っていた淳之介が口を開いた。


「わかった。鳴神 宗士郎、娘をよろしく頼む」


 そうして、深く……深く頭を下げた。


 一番反対すると思っていた人がまさかすんなりと許可を出すとは、つゆほどにも思ってなかった宗士郎は目を丸くした。


「どうした、小僧。私の娘を守ってくれるんじゃなかったのか? あの時の誓いは嘘だったんだな?」

「あ、いえっ。その約束に嘘はありません。絶対に彼女を、お二人にとって大切な桜庭を守ります」

「フン、それならいい」

「ちょっとあなた!? なんで、止めないの!? いつもみたいに止めてよ……!?」


 反対してくれると思っていたのは美千留も同じだったようで、淳之介の肩をゆすり始める。そんな美千留を優しく止めて、淳之介は話し出す。


「この子が頑固なのはわかっているだろう。絶対に曲げないよ、みなもは」

「でも、でもっ……」

「それにここでみなもを引き留めたら、娘の覚悟も鳴神 宗士郎の覚悟も無駄にしてしまう。そんな事は望んではいないだろう?」

「ぅっ、ぅっ…………わかってるけどっ」

「なら俺達は笑って送り出してやろう。みなもが無事に帰ってくる事を願って」

「ずずっ、ぅっ…………わかったわ。みなも」

「う、うん」


 納得した美千留が零れていた涙を拭って、みなもへと声を掛けた。


「待ってるからね……ちゃんと笑顔で帰ってきてね」

「うん、うん…………お母さん」

「……みなも」


 泣き晴らした顔の美千留が笑顔を浮かべる。そんな母親の反応に耐えきれなかったのか、みなもは美千留と淳之介の元へと向かい、家族三人で抱き合った。


「美しい家族愛じゃの~」

「ああ。全くもって……羨ましい限りだ」


 そんな三人の姿を見て、感極まったように茉心が呟いた。宗士郎もそれには全面的に同意だった。


 そのまま和んでいると不意に淳之介が宗士郎へと質問を投げ掛けた。


「それで、鳴神 宗士郎。いつ出発するんだ?」

「そうですね……準備もあるし、遅くても一週間後くらいですね。その数日前に、桜庭には家族水入らずで過ごして貰いたいと考えてます」


 宗士郎のその言葉にみなもが「うっ」と痛い所を突かれたとばかりに呻く。自らの勘違いが引き起こした悲劇に内心悶絶しているのだろう。すると、悶絶し終わったのか、みなもが思い出したように言葉を発した。


「ねえ、鳴神君。その家族水入らずの話なんだけど……」





 ―四日後―


「さあ、じゃんじゃん食べてね!」

「「いただきまーす!!」」


 美千留の言葉に、宗士郎達は一斉に声を上げた。


 そこかしこで食器がカチャカチャと鳴り響き始める。


「なあ、本当に良かったのか? 家族水入らずって言ったのに、お前の(うち)にお邪魔して」


 桜庭家の庭にて、立食形式で始まった桜庭家と鳴神家+αの交流会。


 有給を取った淳之介と美千留、みなもが企画した交流会に、宗士郎、柚子葉、楓、響、和心、茉心がお邪魔する形となってしまっていた。本来ならば、みなもには家族と過ごして貰いたかったのだが、それをみなもが拒み、皆で過ごしたいと言ってきたのだ。


 ちなみに、亮や和人、蘭子や幸子など、他の面子にも声を掛けたが、「用事がある」「邪魔できないよ」などと遠慮されてしまった。


「いいの。家族も大事だけど、鳴神君達も私にとって大事なんだから。それに、私の大切な友達を家族に紹介したかったし」

「それなら良いけどっ……お、美味い……!」

「でしょ! お母さんのご飯は美味しいんだよ!」


 少し納得し難かったが、彼女が決めたのなら文句はあるまい。そう思って、美千留の手料理に箸を伸ばし口に入れた宗士郎がその余りの美味しさに驚きを露わにした。


 聞くところによると、みなもの母親美千留はプロの料理人だったらしい。


「うめぇ!! これ美味いですよ美千留さん!!」

「へえ……やるじゃない。うちのコックにも引けを取らないわ」

「う~ん、これは思わず師事したくなるような美味しさっ」

「いやぁ~美味いのぅ! こっちの世界の料理は!」

「そうでございますね~! 私はこのカレーライスがお気に入りでございます!!」


 端々から上がる褒め言葉に、美千留が照れ、淳之介が「そうだろうそうだろう!!」と同意を煽っていた。それはもう、絶賛の嵐祭りだった。


「守らないとな。この光景を」

「うん。その為にも、『異界』で仲間集めを頑張らないとね」


 楽しげに振る舞う皆の姿を見て、しみじみと宗士郎は口にした。


 どんな困難が待ち受けているかも判らない。どれくらい時間がかかるかも判らない。


「異界でも頑張ろうね、鳴神君」

「ああ。頑張ろうな、桜庭」


 だが、目の前の光景を守る為なら、宗士郎はいくらでも頑張れる。宗士郎にはそれを成す力と仲間がいるのだから。





決意を秘めたみなもの覚悟は両親を説得する事に成功に至った。戦地に赴く子供を見送る親、その心情が如実に現れた一コマである。次に宗士郎達が向かうのは、異界――『イミタティオ』。その先にどんな困難が待ち受けているのか。今以上の困難が待ち受けているのは間違いないだろう。



面白いと思って頂けたなら、ブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価欄から応援して頂けると励みになります。感想・誤字・脱字などがございましたら、ページ下部からお願いします!



これで第二章『停滞へのカウントダウン編』が終幕しました。第二章、楽しんで頂けたでしょうか? ようやく『異界』に行くのか! と一章の最後ら辺の神族アリスティアのセリフで匂わせていたのですが、二章はまさかの『停滞』という事でしたね。


この第二章の題名の込めた言葉の意味は、『異界』に行かなければならないのに行けないという意味での『停滞』と主人公である宗士郎とヒロインのみなもの関係が『停滞』する所にありました。それら二つが『停滞』するまでのカウントダウン、てな感じです。


一章で「なんだよ、『異界』行かないのかよ」と思った方も多いと思いますが、あっさりと異世界に行ける訳ないだろうと私は考えてました。その困難をどう乗り越えるのか、宗士郎やみなもの様々な葛藤を上手く描けていたかは不安が残る所ですが、ひとまず第二章を無事終える事ができて良かったです!


さて、お次は第三章、遂に異界に行きます。


そろそろ大学も再開しますし、更新速度も今よりも少し遅くなると思います。第三章以降の物語の構想は結構前から大雑把に決まっているのですが、第一章が完結した時と同じく、第一章の改稿&添削、そして第三章の設定を練る為に、早くて二週間、遅くて一ヶ月程時間を頂きとうございます(大体十月初めか、半ば頃まで)。


またもや待たせてしまう可能性が大ですが、楽しみに待っていただけると嬉しいです。第二章の登場人物や技設定も投稿するかもしれません。


では、長ったらしい文章で失礼しました。ご清聴ありがとうございました!

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