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第二十八話 みなもの闇

第二章完結まで残り二話! 文章もいつもより多くなっていますが、楽しんでもらえると嬉しいです。

 




「本当に気の毒になぁ、何だっけか……はち、はちこう…………」


 ――『関東地方自衛隊本部・地下特別牢』にて。


 タングステンで出来た特殊な牢の前で、看守の一人が暇つぶしがてら疑問を口した。看守の相方が出かけた文字の補足をするように疑問に答える。


「蜂の種と書いて、『蜂種(ほうしゅ)』だ」

「そう、それだ」

「報告書によれば、向こう側から来た異種族の者が植え付けたものらしい。何でもそれを取り除く事は現在科学では無理なんだと」


 地下特別牢に収容されている特殊な事情を持つ者を監視する任を与えられた彼等は同情するような視線を牢の内側にいる者達に向けた。


 ここでいう〝特殊な事情を持つ者〟というのは、殺人鬼や性犯罪者、サイコキラーなどの人物ではなく、現代科学や法では片付けられない事情を持った者達の事だ。『異界』の住人に植え付けられた『蜂種』なるもので操られたのち、異能力者達の手によって制圧・拘束された自衛隊員達が現在、収容されている。


「しかし、動かないな……死んでいるじゃないだろうな?」

「流石にそれはないだろ。動くとしたらそれはもうゾンビでしか――」


 と、看守の一人がそこまで口にした直後。


 ビクンッ!!


「っ!? お、おい……今、動かなかったか?」

「そんな訳ないだろ。全身を特殊な合金で作った拘束具で拘束してるんだぞ、動ける筈がない」

「いや、だけど……ひっ!? また!!」


 ビクンビクンッ!!!


 全ての関節、頭までもが拘束されているにも関わらず、収容されている十数名の隊員達の身体が同時に脈動を繰り返す。


「オォアアアア…………」


 そして、遂に。


 バキンッ! ドゴォオオ!!!


「嘘、だろ……」


 人間の膂力では外す事が叶わない拘束具を破壊し、隊員達の身体は自由を取り戻した。生気の通わない彼等の虚ろな目はゆらりと牢の外にいた看守二人に向けられた。


「た、大変だ……!? すぐに知らせなければ!!」

「お、おお、俺は逃げるぞぉ!?」

「なっ!?」


 相方が看守長に連絡を取る為、内線電話に手をやろうとした時、看守の一人が恐れおののきその場から脱兎の如く逃げようとした。


「がぁ!? な、何をす――ッあぎゃブェあぁぁあああッ!?!?!?」


 しかし、拘束具を破壊しタングステンの牢をも圧倒的膂力で破壊した隊員の一人が、逃げようとした看守の頭を捻り潰す。そのまま残った看守には目も暮れず、ぞろぞろと牢から歩み出た自衛隊員達は地下牢の外壁を叩き壊し、『地下特別牢』を脱走していった。


「お、オエェロロロッ……!? ふぐぅっ……伝え、なければ……!」


 残った看守は目の前で起こった惨状に恐怖し嘔吐するも、使命感に追われて内線電話を掛ける。


「看守、長……報告致しますッ……十九時五分(ひときゅうまるご)、収容されていた自衛隊員が脱走しました!!!」





「鳴神様、治癒が終わりました」

「…………」

「士郎、何があったの?」


 風呂場で入浴中だった宗士郎に裸で迫ってきたみなもが黒装束に身を包み、姿を消したすぐ後。身体に刺さっていた硝子の破片を抜いてもらい、和心に治療してもらった宗士郎は部屋着を着て、だんまりを決め込んでいた。


「お兄ちゃん、黙ってたら分からないよ……響君も怪我してるし、みなもちゃんはいないし…………」


 治療の最中も黙っていた宗士郎にを見ていて我慢の限界だったのか、柚子葉が軽く肩をゆすって説明を促してくる。宗士郎と同様に怪我をした響は治療したのちに、部屋で寝かされている。


 妹の心配する視線が刺さり、気持ち的にも少し落ち着いた宗士郎は少し間をおいてから口火を切った。


「…………桜庭がアルバラスの手に落ちた。あいつは今、奴の依り代に……」

「えっ」


 告げられた事実に驚き目を丸くする柚子葉。


「俺は桜庭の家族との誓いを破ってしまった。あいつを守るっていう約束を…………だから」


 宗士郎は誓いを破ってしまった後悔を原動力へと変え、『戦闘服』が収納された指輪をはめ、制服を着こむ。その上で、最初から『戦闘服』である軍服を装備し、愛刀でもあり形見でもある『雨音』を左腰に下げる。


『過ぎ去った事を省みつつも、未来へと目を向ける』という、みなもに教えた教訓を自ら実践し、彼女に指定された裏山へと向かおうとした。


 だが、向かおうとする宗士郎の腕が柚子葉の手によって引き留められる。


「待ってよ、お兄ちゃん……疑ってる訳じゃないし、引き留めたい訳でもない。でも、一人で行くのは反対。私も……みなもちゃんの変化に気付けなかった責任があるし、それに……っ」


 訳を聞かされて悲痛なまでに顔を歪めた柚子葉が俯き、声を引き絞った。


「それにっ、私はみなもちゃんの友達だもん!!」

「柚子葉…………」


 それ以外に理由は要らない、自分も行く。そう言わんばかりに、柚子葉は宗士郎の眼を見た。


「そうね……私もあの子の友達だし、何より秘密を共有した仲なのよね…………私もみなもがああなった理由を知る為に、行くわ」


 妹分に続く様に、楓が宗士郎のもう片方の腕を掴んだ。


 彼女達も同じ気持ちなのだ。


 大切な仲間が敵に囚われたのなら、何が何でも救い出したいと。


「そう、だったな。俺だけの問題じゃなかった……桜庭を助けに行くぞ」

「うん」

「ええ」


 仲間を救い出す決意を固めた――いや、そんな決意は疾うの昔に決まっていた宗士郎の言葉に、柚子葉達が頷き同時に『戦闘服』を纏った。


「鳴神様! 私もみなも様を救い出しとうございます! 響様の容態をもう一度確認した後、お母さんも呼んで後を追います!」

「任せたぞ、和心。よし、行くぞ……目指すは家の裏、山奥だ」


 身支度を整えると、宗士郎達は揃って家の裏に存在する山へと入り込む。


「アルバラスの、もといみなもの居場所は?」

「相変わらず、気配は探れない…………けど、思いっきり動ける場所となるといつも特訓してる場所くらいの筈だ」

「お兄ちゃんがいつも鍛錬してる場所だね。それにしても暗いね~はぐれちゃいそう」


 宵闇の時間は過ぎ、月光の淡い光が辺りを照らすも既に真っ暗闇。


 夜の薄暗さに慣れている宗士郎はともかくとして、後の二人は危険かもしれない。


 この条件下で頼れるのは、闘氣法・『索氣』での気配探知だったが、アルバラスの支配下に置かれている影響か、その気配を掴み取る事はできずにいる。


「……これは、霧か? 気を付けろ、敵の攻撃が始まってるかもしれない」


 はぐれない様に少しずつ山奥へと足を運んでいると、辺りにかなり濃い霧が蔓延してきていた。


 十年間もこの近くに住んでいる宗士郎にとって、突如として湧いた濃霧は覚えのないもの。警戒水位を引き上げると同時に注意を促す。


「警戒もかねて背中合わせで進みましょう」

「その方がいいみたい。お兄ちゃん、私はこっちを警戒……って、あれ?」


 楓の提案の受け、三方向に注意を向ける形を取ろうとすると、柚子葉がある事に気付く。


「どうしたの柚子葉?」

「お兄ちゃんが、いないんだけど……?」

「嘘でしょ……!?」


 楓が後ろにいる筈の宗士郎を見やる。が、そこには宗士郎の姿はなく、目に入るのは視界一杯の濃霧。幸いにして、柚子葉と楓もはぐれる事はなかった。


「これ……ただの霧じゃないよ! もしかしたら、私達とお兄ちゃんを遠ざけようとしてるのかも」

「ありえるわね。今は自分達の事を優先……ねえ、柚子葉。あの人影は何かしら」

「え? ホントだ、悪意は感じないけ――」


楓の問い掛けに柚子葉も同じ方向を見た瞬間、


バァンッ!!


「ッあぁあああ!!?」

「柚子葉!?」


 甲高い音が聞こえたかと思えば、柚子葉が急に悲鳴を上げていた。


 倒れた柚子葉が手で押さえる箇所を見ると、そこには小さな風穴が空いている。


「これは……弾痕? 今直すわ、時間逆進(リワインド)

「うっ……助かるよ楓さん」

「これをやったのは、貴方達ね」


 柚子葉が負った傷の時間を巻き戻し、先程の影があった方を見ると、そこにはぞろぞろと迷彩服を着た男女が立っていた。


「あれは……確か、操られた自衛隊の人達? 洗脳が解けた、訳でもなさそうだね」

「ええ、私達は罠にまんまとハマってしまったのね。コイツ等を倒さない限り、先に行く事は無理そうよ」


 銃器を所持する自衛隊員達の首元には『蜂種』が咲いた『蜂の芽』がある。


 宗士郎よりも効果は薄いが、闘氣法・『索氣』を使っていた柚子葉が相手の悪意を読み取れなかったのは、彼等がアルバラスに操られている所為だったという訳だ。彼等自身は年端のいかぬ少女を攻撃するなどしたくもない筈だ。


 虚ろなる眼は微かに泣いているようにも見受けられた。





「まさかはぐれるとは……あの二人なら大丈夫だと思うが」


 一方、その頃。


 警戒を促して数分もしない内に、二人とバラバラになっている事に気付いた宗士郎は仕方なく先を急ぐ事に。先程まで辺りに充満していた濃霧は一時的のものだったらしく、今は元の暗闇が戻ってきていた。


「…………」


 風呂場で泣きながら伝えられたあの言葉。


 ――やっぱり私は要らない存在なんだね。


 あの時の顔と言葉が今でもずっと脳に焼き付いている。どういう意図や意味があってその言葉を発したのかは分からない。


「お前が必要ないなんて……そんな訳ないだろ。俺が必ず助け出してやるからな」


 誰もいない空間に吐き捨てるように呟いた。その言葉の真意を知る為にも、彼女という大切な仲間を救い出す為にも。


『――本当にそうかしらぁん?』


 不意に宗士郎の言葉に反応するようにして、嫌悪を抱く声で返答が返ってきた。


「俺はお前に言ったんじゃないんだがな…………アルバラス」


 声がした方向には、みなもが立っていた。もちろん今喋ったのはみなも本人ではなく、アルバラスだ。


 身体に纏わりつく(いばら)の鎖、胸元を強調するデザイン、肌にピッタリと張り付いた黒のボンデージスーツを身に纏う彼女の姿は色気もそうだが、邪悪さに磨きがかかっている。


『そうかもしれないわねぇん。でも、彼女は貴方に会いたくないって言ってるわよぉ』

「お前が言ってるだけだろ! おい、桜庭! 聞えてるなら返事しろッ!! 桜庭!!」


 宗士郎の言葉はみなもに届く事なく、空しく闇に消え入る。


「桜庭をそんな風にしやがって…………許さねえッ」

『それは違うわよぉん。このみなもちゃんはぁ~同意の上で、私に身体を明け渡したのよぉ』

「な、に…………」


 愕然とした。


 みなもが敵である魔人族に望んで依り代になった事に。きっと無理矢理身体を操られていると思っていたから余計にショックであった。


「桜庭がそんな事する訳ないだろ!? なにか、なにか理由があった筈だっ」

『その理由を作ったのは、鳴神 宗士郎……貴方なのよぉん』

「っ……」

『その顔…………覚えがあるような気がするって顔ね。それがどれかまでは判らないようだけどもぉ』


 アルバラスの的を射た指摘に宗士郎は歯嚙みする。


『ついでに言えば、貴方達の元へ帰ってからの行動の全ては、私が指示した事よぉん。貴方にとってみなも(この子)はどういう存在なのか確かめさせる為にね』

「どういう意味だよ、それ…………桜庭! 答えてくれ!! 散歩に行った後、何があったんだ!?」

「いいよ、答えてあげる」


 意外にも宗士郎の必死な問いかけに反応したのか、アルバラスではないみなも本人の声が返ってきた。


「っ、桜庭……なのか」

「うん」


 顔付きが邪悪なものから、元の穏和なものへと変わる。


 一度言葉を交わす事で、今話しているのがみなもであると宗士郎にはわかった。


『(みなもちゃぁん、話ちゃっていいのぉ? 相手は貴方を求めなかった男よぉん?)』

「だからこそ、だよ。知らないまま鳴神君を倒しちゃうと、私も後味悪いし…………」


 そうして一度言葉を切ると、みなもが事の次第をゆっくりと話し始めた。


「私は散歩と称して、アルバラスさんを見つける為に外に出た。今なら弱ってる筈だし、一人でも勝てると思ったから。でも、そう簡単には見つからなかった。あてもなく街を彷徨ってると、不意に声が聞えたんだ……アルバラスさんの声が」


 回想を始めるみなもの顔は苦しいものではなく、やけに嬉しそうな顔だった。本当に自ら望んでの結果だったのだろうか。気になる宗士郎は黙って続きを聞く。


「最初は私も警戒した……けど、アルバラスさんが言ってくれたの。『何でそんなに辛そうな顔してるの?』って。訳もわからないまま、私は思っていた事をぶちまけた。誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。話を聞いて貰ったら胸が軽くなって、アルバラスさんは共感してくれた」

『そうそう、〝そんな男捨てて当然よぉ〟ってね』

「私は鳴神君が言った()()()の言葉の真意を知る為に、アルバラスさんと協力関係を結んだ。そして、家に帰って確かめてみたら、案の定だった」

「あの時? いったい、いつの話をしてるんだ」


 みなもが強調した部分だけ、彼女の表情が悲壮に暮れる。


 当然、宗士郎はみなもの言う言葉の事は見当もつかない。意味深な内容を言った事はないし、そもそもみなもの前で口にしたのなら、みなもの変化を見逃す筈がない。


「楓さんの家に行った夜の事、学園長と鳴神君が話していた時の事だよ。私は確かに聞いた……私はいない方がいいって」

「あの時の……! じゃあ、あの時妙な気配がしたのはお前だった訳か。でも、待ってくれ。その時の言葉はなにも、桜庭の存在が必要ないって事じゃ――」

「うるさい! ウルサイ! 五月蠅いッ!!!」

「っ!?」


 みなもが言っていた言葉はある意味では正しかった。


 だが、それは断片的な情報でしかない。宗士郎がそれを否定し説明しようとすると、今まで過ごしてきた中では一度も聞いた事がない声量の怒声で、言葉を遮られてしまった。言葉の通り、聞きたくないと両耳を塞いでいる。


 宗士郎には、その姿は真実を知る事さえも諦めてしまっているかのように見えた。


「じゃあ何で私の事を求めてくれなかったの!? 何で私の変化に気付いてくれなかったの!? 何であの時キスしてくれなかったのッ!!? 私が必要なら何で茉心さんに頼ったの!? 私の方が先だったのに! 私だって役に立てるのに! 何で!!!」

「それはっ……」

「私がいない方がいいんでしょ。私は邪魔者だもんね……楓さんと一緒にいたいもんねっ……私が必要とされてないなら、私は鳴神君を殺して私も死ぬ!!!」

「お、おい待て。何を勘違いしてるのか知らないが話を……」

「嫌っ、嫌嫌嫌ぁ! 聞かない、聞きたくない!!」


 みなもの心の闇。


 それが顕現したかのような荒れっぷりに、宗士郎はみなもの母親・美千留の言葉が脳裏をよぎる。


 ――あの子は頑固だけど、一度心が折れたら一人で塞ぎ込む事が多くてね~。


 一度、意思を固めたら折れる事はほぼない。逆に折れれば、数日前のように独り殻に閉じこもる。断片的に宗士郎の言葉を聞き、真に受けてしまった。今回は彼女の意思の強さが仇となり、裏目に出ているのだろう。


 それが彼女の強さでもあり、欠点。


 みなもの魂の嘆きが宗士郎の胸に尽く突き刺さった。


「もういいよっ……アルバラスさん、後お願い…………」

『わかったわぁん♪』


 そして、再びみなもの顔は邪悪なものに戻る。


『乙女は恐いでしょぉ? 一度決めたら真っ直ぐ一直線に。恋する全ての乙女の味方として、()()()として、この子の話はかなり胸に刺さったわぁん』

「よく言うぜ。桜庭の弱った心に付け込んだお前が、そんな事言うんじゃ…………は?」


 しれっと告げられた衝撃的事実に、話の途中だった宗士郎はフリーズした。


「オカマ? オカマって、男だけど心は女性の奴だよな?」

『そうよぉん。ち・な・みにぃ~私は貴方の事が好みなのよぉん。あちらの世界に持って帰りたいくらぁい』

「ッ!?!?!?」


 得体の知れない恐ろしさに背筋がゾワゾワッとざわめきだし、みなもの姿に寄生しているアルバラスから数歩後退った。


『だからかしらぁん。私がこの子の話に共感できたのは。貴方を動けなくした後、神天狐とその娘共々、あの方の元へ連れ帰る事にするわぁん。もちろん、この子もね』

「させるか……っ、誤解させたまま桜庭を連れ帰るなんて俺がさせない。桜庭には、俺と違って大切な温かい両親がいるんだ。守るって誓った以上、お前を斬って桜庭を救う。和心と茉心をカイザルの元へ行かせる訳にもいかない!」


 最初から闘氣法全力使用。


 刀剣召喚(ソード・オーダー)で一振りの刀を虚空から引き出し構える。


 狙いはアルバラスの本体。亮が反天(ブラウマ)した時にもした、精神だけを斬るイメージで刀を振るえば、みなもは戻って来る筈。


 そう考えた刹那、


「ッ!?」


 不意に頭上が明るく光り出し、嫌な予感がした宗士郎は瞬時にその場から離れた。直後、元居た場所には神々しい光盾が叩きつけられていた。


『便利よねぇん、この力。異能って言うらしいけど、中々使い勝手がいいわぁん』

「お前がその力を使うなッ!!!」


 みなもの異能――神敵拒絶(アイギス)をいともたやすく使いこなすアルバラスの姿に、宗士郎は吠えて地面を踏み砕き突進。


 一瞬の内に懐まで潜り込んだ宗士郎はそのまま斜めに一閃を放つ。


『背中がお留守よぉ!!』

「がぁ!?」


 だが、宗士郎と同様に目の前から姿が掻き消えたアルバラスは背後から回し蹴りを見舞った。


 後ろから伝わる激しい衝撃に、正面に吹っ飛ぶも体勢を整えて反撃しようとしたのも束の間。吹っ飛んだ先には神敵拒絶(アイギス)の光盾が待ち構えており、慣性に従って光盾に激突。


『オラァオララララララッ!!!』

「ぐぁ!? がッ、うぐ!? ガハッ!?」

『オラァ!!!』


 野太い声と共に拳のラッシュ。


 ガードする間もなく叩き込まれた一撃に宗士郎は背後に吹き飛び、幾つかの大木を破壊してダメージを負う。


「やるなっ……桜庭の身体能力を大幅に引き上げてるのか」

『正解よぉん。異能の力も身体能力も、宿主の力を数十倍にも引き上げるのが私の力よぉん。もっとも、この力に特化しすぎて、ろくな魔法も使えないけどねぇん!!!』


 みなものか細い腕から放たれた拳が宗士郎に迫る。


 流石に隙が大きかったので、躱す事は容易かったが、その分威力絶大。拳でクレーターができる程のものだ。


「だが、お前自身はそこまで強くない。あくまで、依り代がある前提での力だ。なら、お前と桜庭の繋がりを斬れば……!!!」


 避けた拍子に居合切りを見舞う。その刹那、


『良いのかしらぁん? 繋がりを絶てば、私もこの子も死ぬわよ』

「なっ――!?」


 アルバラスの告げた言葉に高速の刃がみなもの首元ギリギリで止まる。


『隙アリィ!!』

「がっ……はぁ!?」


 例え、嘘でもみなもが死ぬと聞かされれば、宗士郎は居合を止める他ない。動きを止めた瞬間、宗士郎の腹部に拳が突き刺さった。


 血反吐を吐く宗士郎だったが、それだけでは終わらない。


 拳を突き上げた瞬間、アルバラスが神敵拒絶(アイギス)の光盾で宗士郎の腹部を再度突き上げたのだ。


 空高く舞った身体は衝撃による痛みで動かず、受け身も取れないまま地面へと殴打した。


「っ、ゴホッゴホッ!? 卑怯な事をするなッ、アルバラスッ」

『冴え渡る戦略、と言ってほしいわねぇん。貴方が仲間を大事にする事はこの子の記憶から分かっていた。大切な仲間であるこの子を殺せないわよねぇえええ?』

「くそがッ」


 アルバラスが可愛らしいみなもの顔で、醜悪に嘲笑う。


 みなもの身体を痛めつける事も、アルバラスを斬る事も彼女の命に関わる。宗士郎が仲間を大切にする人物だと知って、このやり方を使ったアルバラスは卑怯という他ない。


『どうするのかしらぁん? 打つ手なしよぉん』

「くっ…………!」


打つ手がなくなり歯噛みした直後、


「――まだ手こずっておったのか、小童」


 どこからか、呆れた声が投げ掛けられた。この独特な話し方と呼称をする者は一人しかいない。


「茉心……!」


 空から降臨するかのように、光を纏って降りてきたのは、先程までアルバラスの行方を探していた狐人族・『神天狐』の茉心だった。





打ち明けられたみなもの心の闇。その闇を重く、深いものだった。みなもを取り戻そうと奮闘する宗士郎はアルバラスの卑劣な作戦にどうする事もできずにいた。その時、救いの手が差し伸べられるかのように茉心が現れたのだった。



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