第三章 泥棒
第三章 泥棒
001
………!!
それを感じたとき、言葉が出なかった。
リアノ王国に着き、船室から出て最初に感じた世界。
行き交う人の群れ、ガヤガヤとした声、露店から漂う美味しそうな香り。
言葉が出なかった。いや、言葉なんていらない。
この感覚が全てだ。
「すっっっごーーーい!!!」
僕の隣で全てを言葉にしたルッカ。
ユウガでも息を呑んでいるというのに。男女の違いか?
「すごい!すごい!!すごい!!!ねぇ見て!人がいっっぱいだよ!こんなの初めて!!」
僕も初めてだよ。一つのセリフでここまでの「!」を見たのは。
それが影響したのかユウガも口を開いた。
「すっげぇ…」
人は本当にすごい物を見ると語彙力が低下するのだろうか?(何も言っていない僕が言うことではない気がするが)。
「ガハハハハ!どうだ?すごいだろう!」
と、僕達を乗せてくれた漁師。
「あぁ、凄い。こんなにも多くの人を見るのは初めてだ。こんなにも楽しそうな人を見るのも」
行き交う人は皆笑顔を浮かべていた。僕達のいたトリカゴの中の人は皆退屈そうな顔をしていた。
「そうか!そいつぁよかった!」
ガハハハハ!ーー と。
002
それにしてもよく笑う漁師だ。行き交う人もこれには敵わない。
「このリアノ王国はな、小さい国だが良い国でよお。なんといっても国王がすごい!たった一代でこの国を築いたんだからな!」
それは凄いが、たった一代で国を築くなど可能なのだろうか?というより、それが出来たから凄いのだろう。
僕達は漁師にギルドの位置を確認して船を降りた。
ルッカの提案により、ギルドへは少し遠回りして向かうことになった。今思うと僕達は真っ直ぐギルドへ向かうべきだった。
「あ!ねぇ見て。あれって果物かな?あ!なんか踊ってる人がいる!」
楽しそうでなによりだ。
「うぉ!なぁ見たか?さっきすれ違った人、すっげぇ美人だった」
楽しそうでなによりだ?
そんなやりとりをしていると後ろから叫ぶ声が聞こえてきた。
「きゃー!泥棒よ!誰か捕まえて!」
003
僕達は牢屋の中にいた。
路銀の無い僕達は泥棒になったのでした。
めでたし。めでたし。
チャン、チャン。