第一章 飛翔
籠の中の鳥は何も知らない
外の世界の美しさも
外の世界の厳しさも
抜け出した鳥は
何を思うのだろう
第一章 飛翔
001
コンコン
扉を叩く音が聞こえる。
「おーい、マキトー」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
だが僕は忙しい、無視だ。
「おーい!マキトー!」
ドンドン!
「ちょ、おい!大丈夫か !?」
大丈夫だ。
「開けるぞ!」
バン!
扉を蹴破る音と共に僕の親友であるユウガは現れた。
鍵は開けていたのに。
「おい、扉を壊すな。鍵は開いていただろ」
「すまんすまん、あとで直す。つか返事くらいしろよ…。」
ため息まじりに言われた。
「で?また調べ物か?どーせまた変なこと考えてんだろ?」
にやにやと笑いながらそんなことを言われた。
変なこととは心外だが、まあ、図星だ。
「で?何考えてたんだよ?」
「外の世界は、どんな姿をしているのだろう」
「は?」
聞き返された。もう一度言おう。
「外の世界はどんな…」
「いやいや、そうじゃねーよ。そうじゃなくって、何?お前、トリカゴから抜け出すってのかよ !?」
聞こえてるじゃないか。
「いや、抜け出そうとまでは思ってない。ただ、このセカイにある文献に外の情報がないか調べていただけだ」
「へぇ。で?なんかあったのか?」
「いや、何一つなかった」
まるで、隠されているかのように。
「ふーん。ま、お前の事だから、いつか外に出たいって言い出すと思ってたけどよ。でも、出る時は一緒だぜ」
な? ーー と、ユウガは拳を突き出してきた。
「あぁ、そうだな」
ガッ ーー と突き出された拳に僕の拳をぶつけた。
抜け出したいとは、言ってなかったが。
「おーい、マっキトー!」
どーん! ーー と、扉の無い玄関を元気よく入ってきたのは、幼なじみのルッカだった。
「うわ !? 何この部屋? きったな!」
机の椅子に座っている僕の部屋は、散らばった本で床が見えなくなっていた。
002
「もう、仕方ないなぁ。私が片付けてあげよう!」
そう言って部屋へ踏み込んだ一歩目で本に躓き、部屋をより汚くしたルッカをなだめ(危うく家ごと本が爆破されるところだった)、ユウガと二人で部屋を片付けた。
「うぇ!? マキト、出て行っちゃうの!?」
僕達が何を話していたのかを軽く話している途中だった。
「ねぇ?嘘だよね?だいたい、外に出る方法なんてないじゃない!」
うん、だから出るとも出たいとも言ってない。
「えぇ!?そんなのつまんないよ!私もついて行くから一緒に出ようよ!」
言ってる事がさっきと違う(情緒不安定か)。
「そうだぜ、こんな何もねーとこにずっと居続けるなんてつまんねーだろ。出る方法なら俺らも考えるからよ、一緒に出ようぜ、な?」
確かに、実際に出るかはいいとして、出る方法を考えるのも面白いかもしれない。
「わかったよ。じゃあ、三人で出る方法を考えよう。じゃあ、何かアイデアがあれば言ってくれ。」
「ハイハイはーい!」
「ルッカ」
「壁を爆破する!」
「いいじゃねーかそれ!やってみようぜ!」
前途多難。
003
僕には説明しなければならない事があったようだ。
トリカゴノセカイ
僕達は籠の中の鳥である。
といっても、本当に鳥っていうわけじゃない。あくまで比喩だ。
このセカイは大きな島だ。そして、大きな壁に囲われている。僕達はそれをトリカゴと呼び、このセカイをトリカゴノセカイと呼んでいる。
トリカゴは僕が生まれるずっと前からあるそうだ。
トリカゴに関する歴史は完全に衰退しているから、それくらいしか言えない。わからない。
それと、ルッカは爆弾魔ではない。いや、爆弾魔かもしれないが爆弾は使わない。魔法だ。僕たち人間は魔法が使える。一人につき一属性なんてこともない。でも得手不得手は存在する。僕は風の魔法が得意だ。ユウガは火、そしてルッカは爆破と回復(厳密には爆破魔法なんて魔法はないが)。
魔法に関する歴史も完全に衰退している。
これらの歴史は、外の世界にはあるのだろうか?
説明終わり。話を戻そう。
今、このトリカゴノセカイを出るための方法を議論しているのである。
今思ったのだが、何もコソコソと抜け出す必要はないんじゃないか?
「なあ、トリカゴにも扉があっただろ?それを開けてもらうのはどうなんだ?」
「あぁ、あの、えぇと…アレな!」
「ユウガ、無理をするな」
「扉なんてあったかなー?」
どうやら、二人とも扉を知らないらしい。
「代々このセカイの長が管理している扉があるんだ。それを開けてもらうのはどうだ」
「普通じゃね?」
「普通だね?」
何が悪い。
「いや、別にいいんだけどよぉ。迫力がねぇじゃん?俺らの新しい人生が始まるかもしれないってのにそれは、…地味じゃね?」
「そうだよ。地味だよ、じみじみ。つまんないじゃん。爆破しようよ。そっちの方が面白いよ」
「この方法が嫌なら何か新しいアイデアを出してもらおうか。あと、爆破は駄目だ、論外だ」
えぇ… ーー とルッカがこぼしたのを最後に沈黙が続いた。
004
結局、扉を開けてもらう案が採用された。それと、この案の実行は確定らしい。そういう雰囲気だ。
後は早かった。長に会いに行き、扉を開けてもらうようお願いし、一悶着あって了承された。
今、僕達は扉の前にいる。扉の前の海岸にいる。
「先程も言ったが、セカイの安全の為に扉はすぐに閉める。もう二度と戻ることはできん。よいな?」
と、長からの最後の忠告を受け、僕は舟に乗った。
長が詠唱を始めると、扉が開いた。
この先に僕達の始まりがある。終わりがある。
そう思うと、少し、いや、すごく緊張してきた。
さっきまでの馬鹿みたいな会話が嘘のようだ。
そしてこの緊張も、いつかは同じく嘘のようになる。
「なぁ、本当にいいのか?無理して僕についてこなくてもいいんだぞ」
「何言ってんだよ。俺はお前の親友だぜ?お前が行くなら俺も行く。お前が行かねぇなら俺も行かねぇ。なんだ?ビビったのか?」
「いや」
ユウガも舟に乗る。
「ルッカも、いいのか?戻るなら…今しかないぞ」
「何言ってんの。私はマキトの幼なじみよ?マキトが行くなら私も行く。私が行くならマキトも行く。私は行くわよ。ビビってても連れてくから」
ふふっ ーー とルッカも舟に乗った。
さぁ 行け、と長に急かされて僕達は舟を漕ぎ始める。扉が近づいてくる。後戻りは…もう、できない。
「行くぞ、この先に、僕達の知らない世界がある。」
「おうよ!」 「おーう!」
僕達の舟は扉をこえた。
こうして、僕達は初めての遭難を経験するのだった。