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紅に燃ゆる〜千本桜異聞〜  作者: 吉野
第一幕〜初音〜
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初音の鼓


【初音の鼓】


「桓武天皇の御代の事。


日照り続きで苦しむ民の為、大和国で千年生きた狐が捕らえられ、その皮を張った鼓が作られた。


その鼓を打ち雨乞いを行なった所、たちまち雨降り出した事に民百姓救われ、初めて喜びの声をあげた事から、この名が付けられた」



その鼓が今、目の前にある。


内裏にて後白河院の寵臣、左大将藤原朝方と対面した義経。


平家追討の恩賞として、院宣と共に鼓を賜る事になったのだ。



しかし箱の中には鼓が一つ。


奉書などは見当たらない。




——院宣とは?


内心首を傾げていた義経に、朝方は


「これなる鼓が、すなわち勅命なり」


と語る。



まるで謎かけのよう。




先だって、義経は後白河院より官位を賜った。


しかし、兄であり源家の頭領である頼朝を差し置いて、しかも無断での行動に兄弟の間に蟠りが生じてしまった。



勿論、義経に他意はなかった。


しかし釈明のため鎌倉まで赴くも、目通りする事も叶わず追い返される。



そんな兄弟の間に、さらに楔を打ち込むのが左大将の狙いだった。



「要は頼朝公を討てという事であろう」


鼓の表と裏。

表が頼朝なら裏は義経。


その鼓を打て、とはすなわち頼朝を討てという事。



院宣の意味を正しく理解した弁慶が、左大将に問いただす。




鼓の拝領を拒めば、後白河院に背く事になりかねない。


かといって、兄頼朝と敵対する意思もない。



のらりくらりと躱し、院宣に気付かぬふりをしたままやり過ごして、鼓を拝領するか。

それとも身に余る賜り物と固辞するか。



我が身と立場を守る為、模索していた義経。

しかし弁慶の一言で、彼は窮地に立たされてしまった。



主君を差し置き、出過ぎた振る舞いをした弁慶を叱る義経。


けれど朝廷と揉めたくはない義経は、この場を穏便に済ませる為にも決意した。




ならば鼓は箱に収めたままで。


鼓を打ちさえしなければ院宣に背いた事にはならず、また兄を討たずともよい。


そう判断し、拝領した鼓を持ち帰ったのだった。



これこそが、まさに義経の悲劇の始まりだとは知るよしもなく。



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