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おにキャン  作者: 田鰻
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最終話「嗚呼キャンプ道、王者の輝きバーベキュー」

緊急案件です、駆除要請が出ました。

去年それで私がキャンプを一回断念した時みたいに、近頃キャンプ場にやたら退治屋が出没するって話は聞いてたけど、今回は二人同時に出てるうえにいつまで待ってもいなくならないとあって、とうとう猟幽会が駆除に踏み切ったらしい。

もちろんこれはキャンプじゃない。私も現地で獲れる人間を料理に使ったりはするけど、ここまでいくと狩猟だからね。

だから本当なら関係ない世界の話のはずだったのに、なんでかこうして参加している。

どうしてこうなった……いや、ちょっと断れない事情があって……。

キャンプ仲間の先輩に「手が足りない」って泣きつかれちゃってさ。


危険な人間が生活圏や遊び場近くをうろついてたら、誰でも困る。

でも面倒だとか危なくて嫌だとかで、積極的に退治しに行きたいとまで考える妖怪は少数派だ。それに妖怪なら誰でもいいって訳じゃなくて、ちゃんとした専門知識や実力がないとそもそもいても役に立たない。

だから最近は、呼び掛けてもなかなか数が集まらないんだって。うーんシビア。

まあ待ってれば誰かが何とかしてくれるなら、わざわざそんな事に関わりたくないって思うのが普通かもね。

その辺の事情を知ってて、全くの未経験でもない私は妖怪助け気分で参加したんだけど、集合場所に着いてビックリした。


「おばあちゃん!?」

「おや、小町!」


私と同じぐらい、おばあちゃんも驚いていた。

いやそれより、なんでおばあちゃんが!? 昔ならともかく今はほとんど隠居の身でしょ?

で聞いてみたら、やっぱり猟幽会も新しく参加してくれる妖怪が年々少なくなってきてて、このままだと本当に対策が取れなくなる一歩手前ってとこまできてるらしい。そんな状況で新しくメンバ-に加わってくれた貴重な後進の指導をかねて、広告塔としてネームバリューのあるおばあちゃんに白羽の矢が立ったんだって。

それでも普段なら断るんだろうけど、昔っから付き合いのある妖怪に頭を下げられて断りきれなかったみたい。

……なんか、理由にデジャブが……。


「ありゃま、お孫さんかい?」

「そうなんよ」

「小町です。今日はよろしくお願いします」

「はいよ、よろしく。なあに宜しくお願いしてるのはこっちのほうサァ。

若い子が来てくれるのは助かるよ。みんな年寄りばっかりでね」

「来たのが年寄りで悪かったね」

「や、ばばさまは別、別」


騒ぎにつられて続々と妖怪たちが集まってくる。

これは恥ずかしい。ほんと若輩ですから私なんてほんと、そんな「あの安達ケ原一族が!」みたいな目で見ないで。

ちょうど会のお偉いさんがパンパンと手を打って説明と班分けを始めてくれたので助かった。このまま続いてたら逃げ出してたよ。


さて今回、出没してる退治屋が二人いるから、駆除としては割と大きい規模になる。

私が割り振られた班の担当は、逃走経路の封鎖だ。

要は勢子……駆り出し班が目的地に向かって人間を追い立ててる時に、もし移動先が逸れてしまった場合に備えて、壁の役目をしておくって事。

普通はそこまで大幅にずれないし、ずれたとしても待ち構えてる妖怪を見れば慌てて戻っていくから、そこまで危なくなくて未経験でもなんとかなる。

ちなみに一番経験がいるのは目的地まで誘導する駆り出し班で、一番危ないのは最後に直接人間を仕留める狩猟班。

今回はおばあちゃんが担当するから、仕留めるのは問題なさそう。


あ、ところで、どうしてこんな回りくどい方法とるの?って思うよね。

人間って殺すだけなら簡単なんだよ。でも、どこで殺してもいいって訳じゃない。

特に退治屋は暴れるから、町の中でやったりしたらもう大変。目立つじゃすまなくなる。なのでまず、やりやすい場所まで連れて行かないといけない。

これを罠だって人間に悟らせないようにするのが駆り出し班の役目ってわけ。ね、聞くだけで難しそうでしょ。実際、気付かれて逃げられちゃった場合は数年から数十年単位でその地域が立ち入り禁止になったりするからねー。


いろいろ準備してる間に暗くなってきたので、移動開始。私も配置につく。

一応は経験者なので、今回が始めてだっていう子と一緒に、割り当てられた場所でじーっと気配を潜めて待つ。滅多に役目は回ってこないって分かってても、ただ待ってるだけってのは緊張するなぁ。

月が目に見えて動いた頃だろうか、ピィーッ、と口笛が聞こえた。

続けてもう一回。二人とも仕留めたという合図だ。

隣の子と顔を見合わせて、なんとなく笑ってから、行こう、と腰を上げる。


追いついたら、地面に人間が二人伸びてた。

血は流れてないし、ゆっくり呼吸もしてる。

おばあちゃんが気絶させたんだって。すごい、フツー退治屋なんて殺しちゃわないとおとなしくさせられないのに。

やれやれと肩と首筋を揉んでるおばあちゃんに向ける、私の尊敬の眼差し。


「ハイ皆さん、今回はこれで片付きました。おつかれさまでしたー。

いやァ鮮やかな手際だった! 鮮やかだった!」

「ああ、あの両腕広げて退治屋の前に現れた時の鬼気迫る様子といったら」

「そら鬼婆だからな、鬼気迫ってるだろうさ」

「髪振り乱して牙剥いて目ェかっぴらいて躍りかかってった時なんざ、近くで見てたワシらの方が怖かったもんな。こっちのちっこい人間なんて動く事もできずに固まっとったし」


みんなが口々におばあちゃんの勇姿を讃えている。うう、私も見たかったよう!

孫っていってもおばあちゃんはとっくに現役退いてたから、実はそういう姿を見た事ってほとんど無いんだよねー。


「うぉーしっ、それじゃ明るくなる前にこいつら運ぶぞー!

手の空いてる奴は手伝えー。それと一応人間来てないか注意するようになー」


おっと、残念がってばかりもいられない。いよいよもうひとつのイベントだ!

私たちは出くわした退治屋に原則手出ししないから、今日みたいに猟幽会が動きでもしない限り、捕まえた退治屋を目にする機会はない。

そしてもちろん、獲った退治屋は無駄になんかしない。

殺したからにはその命をきっちり頂く。責任がどうこうって言い始めると難しい話になっちゃうけど、少なくともその辺に捨てとくよりはいいと思う。

普段の私たちじゃなかなか接する機会がない肉の下処理を見たり、一風変わった料理を食べられたりするのも、有害人間駆除の他にはないメリットだったりするのだ。


しかも今回は、私のおばあちゃんがいる。

これは期待するしかないでしょ。というか、さっきから私より周りの妖怪たちの方が盛り上がってるし。

半隠居しても真のスターのカリスマは衰え知らず。現役時代はホントにすごかったらしいからね。人間がグッズまで出す妖怪は格が違うわ。


って訳で、私たちは人間二人を抱えて場所を移した。

最初の集合地点から歩いてちょっとの森の中だ。近くに、だいぶ昔に人間が使ってたボロい墓場がある。建物はないけど、たぶんこの不自然に開けた空間にもその頃は家があって人間たちが住んでたんじゃないかな?

ま、私たちが集まるには都合がいい。必要な道具なんかももう揃えてあった。

平べったい岩でできたベンチみたいなまな板の前に立つのは、もちろんおばあちゃん!


「あ、おばあちゃん包丁使う?」

「いらないよ。切るだけなら何使ったって同じだよ」

「でも、みんな期待してるみたいだし……」


私も期待してるし……。

こっちを見てた妖怪たちがウンウンと頷く。だよねー。

私の差し出した包丁を溜息つきながらもおばあちゃんが受け取ると、おお、とすかさずあがるどよめき。

たかが包丁持っただけで大袈裟な、なんて事はない。

何を使ったって同じっていう言葉とは裏腹に、包丁はおばあちゃんの手の中で輝きを一段増して見えたからだ。

これがプロの放つオーラ……!


「それじゃ始めるかね」


おばあちゃんが、大きな方の退治屋をまな板の上に置いた。

まず服を剥いで、それから何かを確かめるように首、肩、脇、腰と順番に手で触っていく。

それが済むと、おばあちゃんは持ってきたズダ袋から長い串を何本も取り出した。

長さは……人間の腕より少し短いぐらいかな? 太さは小指ぐらい。

それを、おばあちゃんは手際よくスッスッと人間の肩に、脇に、背に通していく。

たちまち人間の手足がぴんと反り返るように伸びて、皮膚が両側から引っ張ったみたいにきつく張った。


「出た、ばばさまの串打ち!」

「あれが伝説の!」


ギャラリーたちは大歓声。私も思わずすげーって言ってしまった。

ああすると筋肉と皮膚がぴーんと張って、この後の処理がしやすくなるんだって。

しかもほとんど血が出なくなるし、よっぽど無茶しなきゃ死ななくなる。

もちろん、そうなる箇所へ的確に串を打っていくには、熟練の技術が必要だ。

特に背骨に通すのが一番難しくて、長年の経験があっても失敗する事もある超高等技術だから、全部一発で成功させて自慢げでもないおばあちゃんが尚更かっこいい。


伸びきった人間の腕と脚の付け根、手首と足首に、おばあちゃんが深めに切れ込みを入れる。完全には切り落とさないで、皮をなるべく傷つけず残す。こうすると盛り付けの見栄えがぐっと良くなる。

そうしたら、腕に沿って包丁を手首までまっすぐに入れて、皮を左右に開く。

あとは肉を薄く削ぎ切りにしていって、左右に広げた皮の上に、真ん中の骨を挟むように並べていけばここは完成。

うん、赤身がつやつやしててとってもきれい。


次に、おばあちゃんは体の方に取りかかった。

首の下からヘソの下まで一気に包丁を入れたら、肋骨を思いきってぐわっと左右に広げてしまう。広がった鳥の翼みたいでなかなかオシャレだ。

動いてる心臓や肺、お腹側の内臓にはまだ手を付けない。

この状態のまんまアバラの間の肉、お腹の皮膚についてる脂、それから背中側の肉と脂を一枚ずつ削いでいく。

ただ、この時に膀胱だけは先に取ってしまう。

なんでかっていうと、背中側の肉を削ぐ時はひっくり返さず仰向けのまま、一旦内臓を外に出せるだけ出して、ぽっかり空いた穴の内側から包丁を入れていくからだ。ズルズル引っ張り出してる時にうっかり膀胱破いちゃうと、ちょっと残念な事になるからね。私もやった事がある。


裏返してからやれば楽なのに、なんでわざわざお腹側から背中側を切るのかっていうと、これはもうそういう技術だからって事らしい。

ううむ、伝統ってたまにわからない。

あ、ちなみにこの手探り作業で背中側の皮にちょっとでも穴を開けちゃうと失敗ね。未熟者が分不相応な真似をして無様を晒したと笑われるとかなんとか。

ううむ、伝統ってたまに怖い。

おばあちゃんはもちろん、そんなミスはしない。

手元を覗き込んでみると、下のまな板が透けて見えるんじゃないかってぐらいギリギリまで削いでるのに、傷がついてないどころか、なめしたみたいに表面が均一になってて全然でこぼこしてない。


「仕上げにかかろうかね」


外に出しといた内臓を、もう一度元通りにお腹の穴へぎゅうぎゅうと。

途中で肝臓の根っこに短い串を刺してさっと切り離してたけど、おばあちゃんそんなついでにやるみたいに高度な技を……。

戻した内臓の上に並べていくのは、さっき薄切りにした肉や脂、脂付きの肉だ。

腸の上には節に沿うように規則的に並べて、魚の鱗っぽさを演出。

心臓周りには脂付きの肉をぐるり囲むように並べて、まるで満開の花みたいに!

土台を最大限にいかした盛り付けに、もう私たちは黙って見惚れるしかない。

最後の一枚を優しく乗せたら、石のテーブルに慎重に運んで、熊笹と野菊で飾り付けて出来上がりだ。


「さあ出来たよ。やれやれ、久々だけどまずまずってところだね。

退治屋の活造り、安達ケ原の気まぐれそよ風ふうさ」

「おおおー!!」


大歓声、大拍手。

いやこれは盛り上がるしかないわ……ここは料亭か?

仰向けの人間は口をパクパクさせて息をしている。まだ生きてるんだよねー。

これも全部、最初に打った串のおかげ。あれがないと出血を抑えられないし、ここまで命を保てない。刺身作りの腕前と、卓越した串打ちの技術との両方があって、初めて可能になるのが活造り。

うーん、おばあちゃんさすが!


「おっと忘れてたよ、醤油をおくれ」

「はいよっ! たっぷり使ってくんな!」


あっ、あの小さい壺に入った醤油、蝦蟇印の醤油じゃない。

すっごくいいやつ。奮発したなー。

おばあちゃんは木の蓋を外すと、壺の中にさっきの肝臓を丸ごと入れて、潰しながらかき混ぜた。肝醤油だ。

あとはこれを太腿から足首にかけて並んだ刺身にざーっとかけていく。脚の肉にはこれが一番合うんだって。

人間っていっても部位によって味も食感も全然違うんだよね、ほんと不思議。

醤油のかかった肉が、ピクピクと跳ねるみたいに動いてる。


「おお、イキがいいねえ」

「やっぱ染みんのかな、しょーゆ」

「オレ知ってる! オレ知ってる!

これって活きの良さとは関係なくて、ハンシャ?ってので動いてるだけなんだぜ!

デンキが出るんだ! それで動くんだ!」

「いや、これはただ染みてるだけだと思いますよ」


まだ生きてるしね、土台。

ではでは、新鮮なうちに頂きますか。


「ちょいと待ちな、小町」

「んえ?」


と思ったらおばあちゃんに呼び止められた。

うう、なんだろう。他の妖怪たちはもう食べ始めてるのに。


「もう一人残ってるだろう。こっちはお前が料理しな」

「うっ、ええええええ!?」


地面に寝てる小さい方を指差しながらの、とんでもない不意打ちに私は思わず叫んでしまった。

なんで、だって、料理!? 今から!? ここで!?

ムリムリムリ、と私はぶんぶん首を振りながら拒否った。そして後退った。

しっかり話を聞いてた妖怪たちが、おっいいねえだの頑張れだのと口々に囃し立ててくる。ひとの気も知らないで!


「なーに逃げてんだい。ほれ、あのキャンプってのか?

行く時はいつも自分で作ってんだろ?

それと同じにやりゃいいんだよ。いつものように、さ」

「そ、それでも無理だよう……。

だってこんな、おばあちゃんのすごい活造りの後で私の料理なんて……」


尻込みという名の当然の権利を主張する私に、おばあちゃんが皺だらけの顔で笑った。


「活造りは活造り、キャンプ料理はキャンプ料理さ」

「……意味わかんない」

「どんな料理にも、そいつに相応しい場所があるって事だよ。

この活造りは腕のいる凝った料理だけど、お前のキャンプで出してどうかっていったら違うだろ?」

「おう、ばばさまの言う通り。散歩中にこれ食うかって言われたら食わねえよなあ。うめえけどよ」

「どっちかっていったらじっくり腰据えてショーミしたいね。うまいけどさ」

「おまえら文句言いながらどんどん食ってんじゃないよ」


横から参加してきた妖怪たちにおばあちゃんが突っ込んだ。これ、話が終わるまで私のぶん残ってるよね……?

でも、言われてみれば確かに。

おばあちゃんの活造りは本当にすごい。だけどキャンプ場で一人で作って食べたいかって言われたら、ちょっと首を傾げるかもしれない。時間と手間がかかりすぎるし、おかしな言い方だけど綺麗すぎる。

もっとこう、いい意味での雑さというか、野趣あふれる感じが洗練に勝る舞台がキャンプ料理じゃないのかな。

そして私たちが集まってるここは、そういう大雑把な場で、膝先揃えてかしこまって、みたいなのからは遠い。

気付いたら、周りの皆が料理をつまむ手を止めて、私を見ていた。


……ようし!


「わかったよ、おばあちゃん! 包丁借りるね」

「はいよ」


おばあちゃんの手から、私の手に包丁が戻ってくる。

それはやっぱりおばあちゃんの手の中にあった時ほど輝いてはいなかったけど、私の期待に応えてくれるには充分に思えた。


「まずは首!」


包丁を振り下ろす。一発で切り落とした首がゴロゴロ転がった。

吹き出す血はそのまま放置。今回、血は使わない。


「次は腕! 脚!」


だんだんだん!と先端からリズミカルに手足を輪切りにしていく。


「やー、豪快だねえ」

「ばばさまとは違うわな。ああ、でもきれいに切れてる」


一工程ごとに外野がうるさいのなんの。

首と手足をすっかり切り落としてしまったら、おばあちゃんに頼んで余ってた串を貸してもらう。

もちろん、今からこの人間に串打ちをする訳じゃない。もう死んでるしね。

や、まあ刺す事は刺すんだけど、串を打つんじゃなくて、串に打つ……かな?

さっきぶつ切りにした腕肉と脚肉を、交互に串に刺していく。

ははあ、と誰かが呟いた。私が何を作ろうとしているか分かったみたいだ。

ぶつ切り串ができあがったら、次は幅を広めに薄く切った赤身肉を、折り重なるようにたたみながら串に刺していく。肉と肉はなるべく密着させるのがコツだ。時々、隙間に薄切りの脂を挟む。これでいい感じにジューシーになるのよね。

おっと、塩を振っておくのも忘れずに。その次は、近場に生えていたコゴミを細切れにして……。


「じゃじゃーん、完成でーす!

鬼ノ小町特製、退治屋のバーベキュー串・ザ・キャンプ場臨時出張所ッ!」

「うん、切って焼くだけだな!」


いっそ感心したみたいな声があがった。

その通りだ。だが、これがキャンプだ!

キャンプ料理の王道にして正道、バーベキュー!

ただ焼くだけという調理法が、他のいかなる超絶技巧をも押し退けて頂点に君臨するッ!

まあ人数いないと面白み半減するんだけどね。だからソロキャンプが基本な私も普段やらないんだし。


「ご苦労だったね、小町。

焼くのはあいつらに任せて、おまえも食べな」


私が下処理をしてる間に、誰かが石で簡単な竈を作ってくれていた。

口からぼうぼう火を吹きながらウインクしてくる妖怪に山盛りの串を任せてテーブルに戻り、私もやっとおばあちゃんの作った活造りにありつけた。


「うんまい……」

「だらしない顔するんじゃないよ」


おばあちゃんが片方のほっぺたを引っ張ってくる。いふぁい。

それでも直らない至福に緩んだ顔のまま、私はいつの間にか酒盛りに突入している猟幽会の皆さんを眺めた。

私が作ったバーベキュー用の串は、間違いなくどこに出しても恥ずかしくないキャンプ料理だけど、今やってるこれがキャンプかっていうと違う。

でも、この和気あいあいした中にいると、いつもは一人であっちこっち行ってる私も、たまには大人数もいいなって思う。

ひょっとしておばあちゃん、活造り以上に私にこの気持ちを味あわせてあげたくて、料理作れって言ったのかな。

鬼って基本、誰ともつるまないからね。もっと仲良くなりたいなって思うと、殺して食べちゃうから。


「ほれ、そろそろ焼き上がりそうだ。

孫が作ってくれたもんを食べるのなんて、ずいぶん久しぶりだから楽しみだね」

「うん……できれば、もうちょっと頻繁に訪ねてくようにするよ」


さっきの火吹き妖怪がお皿に盛ってきてくれた串からは、完璧な焼き具合を示す香ばしい匂いが立ち昇っている。

私は手を伸ばした。最初の一本は、もちろん、尊敬するおばあちゃんに。

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