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おにキャン  作者: 田鰻
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第二話「海の見えるキャンプ場で親子丼」

夏! 海! 空!

今日も今日とてお天道様は絶好調。

今年の夏は記録的な暑さだとかで、町じゃ人間たちもヘバってるってカラスの藍ちゃんが言ってた。

妖怪だって暑いんだから、そりゃ人間が暑がるのも当たり前だよね。

ただ人間って、暑ければ暑いほど却って活動的になる性質があるのも面白いとこで。

私が来てる海岸も、端から端まで海水浴客でびっしりと埋め尽くされていた。

そうだよねー、暑いと水、入りたくなるよね。私も小さい頃によく川遊びしてたから、わかるわかる。

思わず私もあの中に飛び込んで行きたくなったけど、今日の目的地はあそこじゃない。


人間でごった返してる海岸から少し歩くと、岩場を挟んだ向こうにもうひとつの砂浜が現れる。

ここが実は穴場。駐車場から遠くて、砂浜自体も狭いせいもあって、さっきの混雑が嘘みたいに空いている。海の家も一件もないから、カップルや家族連れがお気軽に海水浴するには向いてないのかもね。

おっと、ここもまだ目的地じゃないよ。

本命は、ここから山沿いの道路を戻っていった先にあるキャンプ場!

管理所で「あそこ、いいよ」と教えてもらった、海が見えるって触れ込みで売りに出されてる別荘だ。売りに出されてるというかもう売れてるんだけど、持ち主の人間が遊びにくるのは毎年もうちょっと遅くだから、それまでは私たちのキャンプ場として使えるらしい。

さすがは管理所、いつもながら情報が細かいや。


拠点を確保できたし、私も海へ。

砂浜の端っこにある岩場で、しばし童心に帰って波と戯れる。

岩で丸く囲われた場所は、海水の出入りも穏やかだ。これぞ天然のプール。

魚でも見付からないかなと思って顔を浸してみたけど、残念ながら変な色の海藻と、その陰に逃げ込む小さいカニだけ。

うーん、せっかく海まで来たんだから海産物は欲しい。かといって沖まで探しに行くのもちょっとなー……。

そう思って何気なく道路の方へ目をやると、人間の建てた無人販売所があった。

近くの農家さんがやってるのか、いろんな野菜に混ざって今朝産みたてだという卵が置いてある。

それを見た瞬間ひらめくものがあった。

そうと決まれば、さっそく材料探しだ!

まずは岩場の近くにいた人間の子供を確保。

こういうちっちゃな子供の近くには大抵親がいるから、静かに待ってれば出てくる。岩陰にじっと身を潜めて待ち、探しにきたところを素早く捕まえる。二人もいれば私の夕飯用にはじゅーぶん。

これは女だから、母親かな? 父親もいそうだけど、食べきれないぶん捕ってもしょうがないしね。

おっとそうそう、肝心の卵を忘れるとこでした。

キャンプをしてるとこういう事が結構あるから、私は人間のお金を持ち歩くようにしている。料金箱に1000円札を入れて、8個入りの卵パックひとつと交換。あ、ついでにタマネギも貰っとこ。


さて、キャンプ場に帰ってさっそく料理開始!

携帯式の使い捨て鬼火と、万能鉄鍋をセット。お湯が沸くまでの間に肉の下ごしらえを済ませておく。おばあちゃんの包丁は今日も大活躍だ。タマネギだってさくさく切れるし、涙も出ない。

あ、実はこの鍋もおばあちゃんから貰ったやつだったりする。

どんな強火でガーッとやっても焦げ付かないし、かなり大きいからいっぺんに料理できるのも便利だ。底が深いのでお箸や調理器具一式を全部入れて、リュックサック代わりにも使えるしね。

なんか私が子供の頃に見たより色が黒くなってる気がするけど……。


鍋の中がぐらぐら言い始めたら、まずはタマネギ投入。一緒に塩も投入。

町中と違ってこういう場所だと調味料が手に入りにくいので、塩だけは持参する事にしている。醤油やみりんがないかなーと思って探してみたけど、あんまり利用しない別荘だからなのか空振りだった。

ま、いっか。素材の味、素材の味。

タマネギが煮えてきたら小さく切った肉と内臓を入れて、更に煮る。

肉の色が完全に変わったら、しっかり溶いておいた卵を流し込んで蓋をする。ハイそのまま一分!

蓋を取ると、湯気と共にふわあっといい匂いが立ち昇ってくる。ここで鬼火を消して、底から一度掻き混ぜれば――。


ぱぱーん! 親子丼の完成っ!


といっても親子なのは肉と内臓だけどね。この場合は卵が混ざって他人丼って事になるのかな?

まあいいや、おいしければ何でも。おいしいは正義。

鉄鍋一杯に作った親子丼をおたまで掬って口に運ぼうとして……私は気付いた。


「あー、結局海産物食べてない!」


そしてお米がない!

これじゃ親子丼じゃなくて親子丼の上のやつだー!

私とした事がなんといううっかりミス。久々の海沿いキャンプで浮かれすぎてたかも。

拝借しようにも調味料も置いてないのにお米なんて尚更ある訳がないし、あったとしても今から炊いてたんじゃ遅すぎる。何か代用できそうなものはと考えて、余っていた骨を細かく砕いて、器に盛ってみた。

白いは白いけど……。


「……ゴリゴリしてる」


舌触り悪っ。

肉団子にした時はいいアクセントになってくれる骨も、どうやら白米の代わりにはなってくれないようだ。






「ふー、おいしかった」


なんだかんだでおかわりしてしまった。産みたて卵の威力、おそるべし。

朝食用にちょっと残しておこうと思ったのに、鍋の中にあるのは汁だけ。

鬼だからしょうがないけど、いつもながら私は食べすぎる。

かたっぽは子供だったっていっても、さすがに人間二人と卵8個はちょいきつい。

動く気になれなくてソファに寝転がってると、窓ガラスを外から叩く音。


「よっ、やってる?」

「あー、どうもどうも。大丈夫ですよー」


昼の管理所にいた妖怪だ。何事もないか見回りに来てくれたらしい。

管理所によってサービスの種類も様々で、ただ利用手続きとキャンプ場所だけ教えて終わりって所もあれば、道具の貸し出しからこういう見回りまで行っている所もある。キャンプに来た妖怪がヘマしてないかチェックする意味もあるんだろうけど、そこはお互い暗黙の了解ってやつ。

ちゃんと綺麗にやってますよと室内の様子を見せると、管理所の妖怪は頷いた。


「こっちも細かい事は言いたくないんだけど、やっぱり皆で使う場所だからね」

「いえいえ、そういうの大事だと思いますし。

……あっそうだ、お米って余ってませんか? 朝におじや作りたくて」


私がほぼ空っぽの鍋を指差すと、ないねえ、と管理所の妖怪は二本ある首を時間差で横に振った。






翌朝。

ゴミなど残さないようきちんと片付けて、私は別荘を出た。

この時間から既に強い日差しに炙られながら、最後にもう一回海を見て帰ろうと浜辺まで足を伸ばすと、麦わら帽子に白いシャツのお爺ちゃんが、ちょうどあの無人販売所に商品を補充しているところだった。

つやつやの野菜に、そして私が買った卵。あんまり儲かってそうには見えなかったけど、あの人間にとってはああやって販売所を管理するのも楽しみのひとつなのかもしれない。

おいしい卵をありがとうございました。

私は遠くから手を合わせてお礼を言うと、海には行かずに元来た道を引き返していった。


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