その九:お前が怖い
前回紹介したNなる人物は中々にやってくれる人物であった。
彼との帰り道、後ろから憑けてくる幽霊がいた。
正直私はうんざりしていた。またかと。
私は腹に力こめて、そいつを追い払おうとした。しかしその必要はなかった。
Nは私以上にいらついていたらしい。人間を殺せるくらいの眼光を振り向きざまに、そいつに見舞った。そいつはビビッて音速で逃げて(消えて)行った。
私「人間が幽霊ビビらして、どうする?」
N「憑けまわした方が悪い。」
私「まあ、そうだけど。」
N「なに?なんか文句ある。」
ないよ。あと、お前はなんなんだ?人間であるはずの自分も、お前には恐ろしさを感じるよ。
それから数カ月たった。私は恐ろしいものを見た。
体育館の舞台下手の控え室の奥はせまい倉庫があり、そこにはピアノが置いてある。そこはいつもうす暗く、鼠のようなお化けが動き回っていた。
そこには化け物がいた。大きな影でヒト型をしており、そいつがネズミのようなモノを食べていた。化け物が顎を動かすたびに鉄が軋みをあげるような不協和音が響いた。
私は自分が殺されるかもしれないと思う余裕もなかった。そいつは、ただただ恐ろしく。凶暴だった。あれは化けものだった。
そしてその化け物の正体は、何年もかけて心に澱のように沈殿した負の感情だった。僕には恐ろしかった。人はどこまででも人を憎めるようだ。その証拠に化け物がいたのだから。
そして、その化け物の飼い主はNだった。
彼が憎み続ける限り、あの化け物はきっと大きくなるだろう。そしていつか、彼を押しつぶすだろう。
私は、お前が怖いよ。そして哀れだよ。お前は老いることを知らずに死ぬだろう。私はそう確信している。だけど、この予測が外れてほしいと僕は願い続けている。