その四:人間って身勝手
小学六年の夏。ついに私たち家族は中国から逃げることになった。子供だった僕には、詳しい事は話してもらえなかった。
分かった事は、父は本土の人間に認めてもらえなかった。しかも、逃げるために狂った振りをしなければならなくなった。
父が人前で、狂気の人を演じた。そんな状況でも、父は子供に対しては、
「日本に帰るぞー!」
と陽気に振舞っていた。
そんなこんなで、一週間足らずの間に、貴重品と必要最低限の荷物を鞄一つにまとめ上げた。そして僕らは逃げた。
その道中、中国を脱出する最後の最後まで両親は周りを警戒していた。父は問題が起こった際は、人に賄賂を贈ってでも、強引に説得してでも家族と共に日本に帰るつもりだったそうだ。事実、父の財布は新札でパンパンに膨れていた。
そんな時に、女の幽霊が弟にくっついていた。僕は空港でそいつを引っぺがした。若い女性だった。
「連れっていって……。」
彼女は未練がましく、弱弱しく訴えてきた。だが、しかし憑れてはいけない。当時の僕は、容赦なく彼女を置いていった。もしかしたら、明日には自分が幽霊になっているかもしれない身だ。そんな人間に優しさはない。余計な荷物は持ってはいけなかった。
今思い出しても僕の判断に間違いはなかったと思っている。でも、彼女を何とか出来なかったのだろうかと私は考えてしまう。人間はどんな時でも残酷になれる。私は、その事を深く心に刻みつけた。
色々なモノを無くして私たち家族は日本に逃げ帰った。
人間って危機的状況に陥ると自然に余裕と優しさが抜けます。それはもう怖いくらいに。どっちが化け物なんでしょうねぇ。
ついでに書くと、サブタイトルを変更しました。
次回は人魂の話です。あまり怖くはありません。