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その十二:仲の良い姉妹

 高校生になり、半年がたった。だいぶ学校生活にもなれ、怖い事にも慣れてきた。そして、ついに演劇の大会も本番が来た。

 毎年、秋になると演劇の大会が行われるとか。このとき僕は、民宿の親父役だった。これはこれで、思い出になった。

 その大会は、三十校近くの高校が来るので、上演場所も市民会館の大きな舞台の上だ。だが、お金がかかる。そこで経費削減のために自分たちで出来る事は、自分達でやることになった。弁当の集配、掃除、荷物の搬出搬入、それに受付だ。

 

 僕はあの日、受付の当番だった。

 あの日は、からりと暑く、そして濃緑の木の葉が影を作っていた。しかし、会館の中は冷房が効かせてあるので、それとは無縁だ。

 僕は劇場前のカウンター前に立っていた。目の前には、閑散としたホールが広がっていた。いる人と言えば、ホールには涼みに来たおじいちゃん、おばあちゃんくらいだった。今、僕の後ろの劇場では公演中なのだが、防音扉はしっかりと音を閉じ込めているので静かだ。

 ゆったりと時間が流れていた。これで緑茶とカリン糖でもあれば、最高だ。

 そう思っていると、左の方から二人の人が来た。女の人で、二十代前半くらいの、ちょっぴり美人なお姉さん達だ。

 その内の一人は淡い緑のふわりとしたスカートに、白いシャツをあわせ、季節感もセンスもばっちりな服装だった。目はすこし気が強そうだった。

 そして、もう一人は色違いのスカート(こっちは淡いオレンジ)に白いシャツ、ようはお揃いの服を着た二人だった。

 でも、僕が一番目を引きつけられたのが、二人が同じ顔で、手を繋ぎながら仲良く歩いている事だった。

 たぶん、姉妹なのだろう。でも、どうして手を繋ぐんだろう?そんな事を考えながら、見ていると、その二人は一瞬だけ会館の柱の陰に隠れた。

 出てきたのは、一人だけだった。

 僕は驚いて、受付を放棄。どうせ誰も来やしない。

 そして、柱の裏に回ると、あたりをすぐに見渡した。いなかった。出てきたのは。淡い緑のスカートの人だけだった。

「うそ。」

 僕は信じられなかった。あれほど実体がよく見えていたのに、あれは……。

 僕は、会館から出ていく一人だけになった女の人の背中を無言で見送った。女の人が出ていく時、開いた自動扉から外の熱気がちょっとだけ入り込んできた。



 後日、この事を別の霊感持ちの人に聞いてみると、

「たぶん、それは仲の良い姉妹だったんだよ。それで片っぽが死んじゃったんじゃないの?」

 との事を言っていた。僕もそう思う。あれほど、歩幅まであわせて仲良く歩いていた姿が目に焼き付いているのだから。そういえば、オレンジの人の方は笑っていた気がする。

 僕は今でも、夏の暑い日に仲の良い姉妹を見ると、この事を思い出す。そして、今でも彼女らを探してしまう。


 

 

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