その十:鬼の面
しばらく放っておいて、すいませんでした。
高校演劇の演目に『トシドンの放課後』というものがある。
主人公は素行不良のヤンキー女子高生。あとちょっとで留年の彼女は生徒指導室で、引きこもり寸前の男子生徒と会う。彼自身の学力自体には問題が無かったが、出席日数の問題で彼は留年の危機に立たされていた。生徒指導室を舞台に二人の交流が始まる。そして……。
まあ、あらすじとしては、こんな感じだ。この演目では「トシドン」と呼ばれる鬼の伝説、それに鬼のお面が鍵となっている。
物語とお面が、どのように絡むかは自分の目で見て欲しい。
今回の話では、鬼の面が問題なってくる。
自分が卒業した高校で、鬼の面を作ると、鬼が出るという話がある。今から四年前の話だ。
当時の先輩達は「トシドン」のお面を作っていた。もちろん、『トシドンの放課後』の稽古もやっていた。
本番まで一週間を切ったころ、先輩達は学校に泊まり込んでいた。そしてその日の最後の稽古も終わり、舞台を片づけていた。
「あれ、お面ないよ?」
お面だけ見つからなかった。『トシドンの放課後』で鬼の面がなければクライマックスを演じる事は出来ない。だから先輩達は夜中の十一時を過ぎても探した。
舞台を探し、倉庫を探し、教室を探し、部室を探し、トイレを探し、職員室も探した。しかし、どこを探してもない。
先輩達は学校の中庭で途方に暮れていた。もう夜中の一時になろうという時刻だ。
「あれ?あれそうじゃない!?」
先輩達が校舎の屋上をみると、フェンスに丸い物がぶら下がっていた。先輩達はそれがお面かどうかは半信半疑で、屋上へ行ってみた。
今はもう閉ざされている屋上の扉を先輩達は開けた。
「だれ?」
鬼の面はフェンスには引っかかっておらず、誰かがその面をかぶっていた。黒い服を着た人物は先輩達をじっと見ていた。
カラン。
鬼の面が不審者の顔から勝手に取れた。
「うそ……。」
誰もそこにいなかった。
不審者は消えてしまった。
爛々と満月は先輩達を照らしていた。
先輩達は、校舎の屋上に取り残され、しばらく動けなかったそうだ。
「そんな事があったんだよ。」
そういって先輩は話を終えた。
そして、その後、僕らも鬼を見ることになった。