姉に歴代の彼氏を盗られた妹は彼氏のリサイクルをはじめることにした
※微妙に病んでます。
「ごめん、亜弥。俺、美里さんのことが好きになったんだ。悪いとは思っているが、別れてくれ」
「・・・」
彼氏がこう言ってくるのはいつものことだった。何故か、私の彼氏は毎回毎回、私の姉のことが好きになって別れる。
でも、この状況で言うか?
今日は私の誕生日で、前から行きたかったお店のディナーを予約していたその当日に。
浮気現場を目撃しなかった分、マシかもしれないけどさ。
それでも、ないんじゃない?
・・・。
もしかして、今日のディナー、姉と行きたくなった?
ああ。もう、いいや。
何度も何度も姉に彼氏を盗られていたら、どうでもよくなってきた。
はじめの二、三人はショックだったけど、そろそろ両手で数えられなくなってきたし。
もう、いいや。
両親も綺麗な姉贔屓で、私の彼氏として紹介した相手が姉の彼氏として顔をあわせても気にしない。基本的に両親は姉の肩を持っていて、「亜弥とは釣り合わないと思ったのよ」と言う始末。余計なお世話だ。
「姉を末永く大事にして」
「勿論、大事にする」
「末永く、って言ってるんだけど」
「え? それは・・・」
「結婚までして、末永くお幸せにってこと」
結婚しちまえ。
また私の彼氏を奪ったら×が点くようにしちゃえ。
いっそのこと、結婚してこれ以上私の彼氏を盗らないようになってくれ。
「結婚?! そんなの、まだ付き合ったばっかしだし――」
「付き合ってたんだ」
誠実そうに見えて二股かけてる系だった。
マジ、ないわ。
「いやっ! 違うんだ、これはその・・・」
「末永くお幸せに」
妹の彼氏と付き合う姉と、彼女の姉と浮気する男。お似合いな二人。
というわけで、今回の彼氏も姉に盗られた。付き合って3か月。長かったほうだ。
さて、次の彼氏はどうするか・・・
ストックやキープはいないけど、なんとなくいいかなって思う相手はいる。
いるけど・・・また姉に盗られそうで怖い。
盗られたばっかでも、次の彼氏を盗られる恐怖があるくらい、姉に彼氏を盗られるのはトラウマになってきている。
姉と浮気した彼氏のことでショックを受けたり、彼氏と別れることにはもう慣れた。
慣れって怖いよね、慣れって。
え?
裏切られたショックで男を遠ざけたり、男嫌いにならないのかって?
なんだろう。もう、姉との格の差とかで、そんなことにはならない。
でも、姉に彼氏を盗られることには慣れていても、彼氏に女として姉のほうが上だって思われるショックは慣れない。
ああ、そうだ。
次の彼氏は初めて付き合った幼馴染にしよう。だって、今も友達付き合いしているし。
姉のいいところは自分の魅力で男を落とすところ。悪気はまったくないし、悲劇のヒロイン入っていても、私のことを悪く言ったりはしないんだよね。「妹も好きだけど、妹の彼氏のあなたも好き。二人のうちどちらかを選べない」とか言ってくれているみたいだし。
姉と付き合うようになった元カレが私にひどい態度もとらないし、姉にさえ引っかからなければみんないい人だ。
姉だって、昔付き合ってた彼氏を盗るはずもないし(盗るくらいだったら、別れていないだろうし)、相手だってまた乗り変えようなんて思わないよね。
名案名案。
ときたら、姉に盗られない彼氏(候補)に連絡!
ウキウキとただの幼馴染になって数年の元カレに電話する。
「もしもし。亨ー?」
――――で、一か月後。
「あのさ、別れてくれない?」
目出度く、幼馴染は二度目の別れ話を切り出してきた。
「は?」
「やっぱ、俺。美里のこと、まだ好きだったんだわ。もう、吹っ切れたと思ったんだけど、やぱ、まだでさ。亜弥と付き合ってたら、美里とも顔会わせるようになって、まだ好きなんだなと思っていたんだけど、あいつもそうでさ」
「・・・」
元カレ、もっと粘ってよ!
姉の興味引いといてよ!
なんで結婚してないのよ!
さっさと婚姻届け出しててよ!
元カレに言いたいことがありすぎて、幼馴染にふられたことも、姉に彼氏を盗られたこともどうでもよくなってきた。
罵詈雑言が頭の中でようやく終わった時には、幼馴染が「大丈夫か?」と言ってきていた。
「アホか! 姉に二回も同じ彼氏盗られて、大丈夫なはずないでしょ?!」
「お、おう」
「だいたい、なんで好きなのに別れたのよ?!」
「それはあいつが他に好きな奴ができて」
「はあ? 他に好きな人ができたからって、簡単に別れといて、元鞘に戻るってわけ?!」
幼馴染と別れた後、しばらくショックで何年も落ち込んだけど、大学卒業して新しい彼氏ができて一ヵ月もしないうちに姉に盗られた。
あの時は幼馴染を逆に慰めて(なんで自分を捨てて姉を選んだ元カレを慰めないといけないのかわからないけど)、姉の心変わりを二人でなじった。
だけど、またか!
またなのか!!
「だって、好きなもんはしょうがないだろ?」
「・・・」
今回もあっさりふられるとは思わないんだ?!
「ああ、そう。頑張って」
同じ男に二度も捨てられた私の心は乾ききった。
私は幼馴染の目の前で幼馴染の前に付き合っていた元カレに電話をする。
「ねえ、ふられたんだって? また付き合わない?」
白いチャペルの鐘が青空に響く。
今日は姉に歴代の彼氏を盗られてきた私の結婚式。姉に盗られることなく、ゴールまでたどり着いた奇跡の日。
親族席には姉より早く結婚することに文句を言う両親と私の結婚を喜ぶ姉と姉の彼氏たち。
目移りの激しい姉は逆ハーしていればよかったのだ。今では逆ハーで私の彼氏なんかを気にする時間もなくなり、全員がwin-win。
姉の彼氏たちが二度と捨てられたくないとばかりに拘束していても、仕方ないよね。一度は付き合ったことある相手だし、みんな一度はふられた経験があるから、もう、ヤンデレが入ってようが、自業自得だよね。妹の彼氏ばかり盗るんだから。
「亜弥。俺だけを見ていて」
私の隣で新郎が不機嫌そうに言った。彼は私が注目していないと嫌がる。
私も夫によそ見をしないヤンデレを選んだし、これでもう彼氏を姉に盗られることはない。
幼馴染が姉と二度目のお付き合いをするようになった後――
元カレA:「どうか、亜弥。付き合ってくれ! 亜弥と付き合ってたら、美里さんが戻ってくるんだろ?」
妹:「え~? どうしよっかな~。△△△△△のディナー奢ってくれたら、考えてあげる」
元カレB:「亜弥。俺と付き合ってくれ。今なら■■■■のケーキ、好きなだけ買ってやる」
妹:「ホント?! じゃあ、――」
元カレC:「俺なら、○○奢ってやるぞ」
妹:「え?! ○○?! 嘘。あれ一食数万円するじゃん?!」
どうやら、元カレどもは周囲で姉の動向を探っていたらしい・・・