表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の姉妹  作者: hy
64/64

最終話『永遠の姉妹』(後編)

「そんな、死ぬだなんて…。知香子、お願いだから思い止まってちょうだい!」

受話器を握り締め、知永子は必死の説得を試みた。しかし、知香子の決意は固かった。

「もう…あたしにはこんなことぐらいしか、愛実のためにしてあげられないのよ。後は、お姉ちゃんに託すわ。あたしの分まで愛実を愛し…幸せにしてあげてちょうだい……」

「知香子…」

「…お姉ちゃん。あたし、今までずっとお姉ちゃんのことを羨んでいたの…。照矢に和彦…そして愛実。いつだって、最後に選ばれて愛されるのはお姉ちゃんだった。でも、今まで本当に色々あったけど…あたし、お姉ちゃんと姉妹になれて良かったわ。お姉ちゃんのお陰で、あたしは…愛実の母親になれたんだもの。お姉ちゃんの妹になれたことを…心から、神様に感謝しているわ」

知香子は、照れ臭そうに笑う。

知香子との日々が、走馬灯のように知永子の脳裏を過る。複雑な因縁に囚われ、幾度も姉妹で愛を奪い合った修羅の数々。けして平坦な道ではなかったものの、同時にそれは、かけがえのない姉妹の歴史でもあった。

「…わたしもよ。わたしも…ずっと知香子が羨ましかった。あなたは…いつだって自らの愛に正直で、迷いがなかった。わたしは、いつだってその激しさに圧倒されていたの。でも…わたしも知香子の姉になれて良かった。知香子と…姉妹として出会えて良かったわ……」

知永子は、涙で顔を汚しながら答えた。

「あたし達は、永遠の姉妹なのよね……」

そう言い残して、知香子は電話を切る。受話器を握り締め、知永子は知香子の名前を叫び続けた。




知永子からの通報を受けて現場に駆けつけた警察は、手首を深く切ったまま浴槽へと横たわり、息絶えていた知香子を発見する。その傍らには遺書が残されており、自らの角膜を愛実に移植するよう書き記されていた。知香子の遺志を受け、すぐさま愛実への角膜移植手術が行われる。




手術から二週間後。ついに愛実の包帯が、外されようとしていた。知永子は、固唾を飲んでその様子を見守っている。

「見えるわ…ママ。愛実、目が見えるの!」

包帯が解かれた瞬間、愛実が言った。知永子は、泣きながら愛実を抱き締める。

「愛実…良かった。本当に良かったわ……。知香子の…ママのお陰よ」

言いながら、愛実の髪を撫でた。

「ママが、自分の命をかけてまで…愛実に光を取り戻してくれたのよ…」

「…知香子ママが、愛実の目にもう一度光を与えてくれたのね」

「えぇ…」

母娘は、ひしと抱き合う。




夏の訪れを告げるかのような七月の強い陽射しの中、知永子は愛実の手を引き、駅に向かって歩いていた。

「知永子さん!」

知永子の背中を、明生が呼び止める。息を切らしながら、知永子達の元へと走り寄ってきた。

知永子は愛実に近くで待つように言い置き、明生と向かい合う。

「…行くのか?」

明生が、問いかけてきた。

「…えぇ、愛実の体もだいぶ回復してきたし…東京に、戻ろうと思うの。この町の人間は皆、わたし達のことをよく知っているでしょう?愛実のためには、環境を変えた方がいいと思って……」

知永子は、気まずそうに明生から視線を逸らしながら語る。明生は頷いた。

「確かに…そうかも知れないな」

ふいに、知永子が明生にしがみつく。

「…でも、あなたの顔を見たら、その決心が鈍ってしまいそうで怖かったの。だから…何も言わずに、あなたの前から姿を消しすつもりだったのに……」

明生の胸を濡らしながら囁いた。明生は、自らの二の腕に置かれた知永子の手を握る。

「…俺は、あんたのことが好きだった……」

知永子の顔からは視線を逸らしつつ、呟いた。

「わたしも…あなたのことが、好きよ。…でも、わたしはもう…ここにはいられないの。あなたと一緒には、生きていけないのよ。本当に…ごめんなさい……」

知永子は、泣きながら詫びる。

明生は知永子の手を握ったまま、それを持ち上げて自らの頬に当てた。明生の頬もまた、涙で濡れている。

「解ってるよ。あんたは、決断したんだろう。俺は…ここで、あんた達母娘の幸せを願っているよ」

そう言って、必死に微笑んで見せた。

「明生さん!!」

知永子は、顔を見上げて明生と見つめ合う。ふたりは、強く抱き締め合った。

「東京で…愛実と幸せになれよ」

明生が囁く。明生の腕の中、知永子はゆっくりと頷いた。

自然と惹かれ合うように、どちらからともなく最初で最後の口づけを交わす。




平成二十三年三月ー

終業式を終えた愛実が、赤羽にある小料理屋『永香』の中へと駆け込んできた。

「ただいま!」

元気よく声をかける。

カウンターの中から、知永子と澄江が顔を覗かせた。

「お帰りなさい。寒かったでしょう。早く手を洗って、うがいしてきなさい。おやつに、ショートケーキを用意してるから」

知永子は、愛実に向かって微笑みかける。

「やったぁ!」

言いながら、愛実は元気よく駆けて行った。

「ほら、愛実。女の子なんだから、もっとおしとやかになさい」

澄江は、愛実を嗜める。その言葉に、愛実がぺろりと舌を出した。

知永子と澄江が微笑み合う。

実は、知香子の遺書には続きがあった。全ての遺産を愛実に継がせるとし、その後見人として知永子と澄江を指名したのである。

知永子は澄江を呼び寄せ、かつて『長谷倉』があったこの地に、自分と知香子の名前を一文字ずつを取った『永香』を開店させた。澄江とふたり、この店を切り盛りしている。

入り口のドアが開き、常連客が顔を覗かせた。

「いらっしゃいませ!」

知永子と澄江は声を揃える。




〈幾多の修羅の季節を経て繰り返された姉妹の骨肉の愛憎劇は、知香子の死によってついにその終焉を迎えた。しかし、知香子は知永子達遺された家族の胸に、そして何よりも愛実の瞳の中で生き続けている。

知永子と知香子の永遠の姉妹の絆は、こうしてこれからも途切れることなく紡がれていくのであった。〉










『永遠の姉妹』ついに完結しました!


個人的には知香子に感情移入してしまい、主役であるはずの知永子よりも知香子の方に重きを置いてしまったような気がしますが、皆様はどうお感じになったでしょうか?

良かったら、忌憚のないご感想お聞かせ下さいm(__)m


といかく、ご愛読ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ