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永遠の姉妹  作者: hy
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第55話『緊急会見』

「ママ!!」

愛実を保護しているとの連絡を受け、明生の車で警察署に駆けつけた知永子は、愛実から抱きつかれた。

「…愛実。一体、どうして……」

自分の胸にしがみつき、泣きじゃくる愛実の髪を撫でながら呟く。

「どうやらお母さんの仕事先に行く途中で、道に迷ったらしいんですわ。道端にしゃがみ込んで泣いていたんで、ここに連れて来たんです」

愛実に代わって、警官が説明する。

「どうして…ちゃんとお留守番してなかったのよ」

愛実が無事だった安堵感から、自身も涙を流す知永子は、愛実に問いかけた。

「だって…寂しかったんだもん。今日は……愛実の、お誕生日なのに…。そしたら急に、ママに会いたくなって…。だから……」

「愛実…」

愛実の言葉に、知永子は言葉を失う。自分の至らなさを、まざまざと思い知らされているようだった。


「夜遅くにありがとう。本当に、助かったわ」

泣き疲れたのか、後部座席で静かに寝息を立てる愛実の頭を撫でながら、知永子は明生に礼を言う。

「気にするなよ。とにかく、愛実が無事で良かった」

明生は、そう言って手を振る。しかし、知永子の表情はどこか冴えないままだった。

「…どうした?まだ、何かあるのか?」

明生が、問いかけてくる。

「わたしが…愛実を育て続けてもいいものなのか、解らなくて……」

愛実の寝顔を見つめながら、知永子が弱音を漏らした。

「…どういうことだよ」

「わたしといて…愛実は、本当に幸せになれるのかしら。いつも、愛実には寂しい思いをさせてばかり…。今日のことで、心底それを思い知らされたような気がして……」

「あんたには、その程度の覚悟しかなかったのよ!」

明生が声を荒げる。その後すぐに声を潜めて

「あんたは…何があっても愛実と生きていくって、心に決めてきたんだろう?」

と続けた。

「えぇ。それは、そうだけど…」

「だったら、それを貫けよ。あんたは愛実のことを思うふりをして…結局は、自分が背負った重荷から逃げたいだけじゃないのか」

明生の厳しい言葉が、知永子に突き刺さる。しかし、それは自然と胸に染みた。口下手な、明生なりの励ましなのである。

「…そうね。そうだったのかも知れないわ……」

知永子は、素直に認めた。

「あんたは、何でもひとりで抱え込み過ぎるんだ。もっと、素直に他人を頼れよ」

「い、いいの…?今までだって、何から何まで明生さんのお世話になっているのに…」

知永子は、明生に問いかける。知永子からの視線に、明生は顔を逸らした。

「あぁ。そもそも子供なんて言うのは、母親ひとりで育てるもんじゃない。地域で…育んでいくもんだよ」

愛実の寝顔を見つめながら、ぼそりと呟く。

「ありがとう…」

知永子は、明生の後頭部を見つめながら礼を言った。




〈明生の励ましに、知永子は愛実と共に生きていく勇気を得た気がしていた。

しかし、遠く離れた東京で母娘を引き剥がす、恐ろしい嵐が巻き起ころうとしていたのである。〉




「何なのよ、これ!?」

知香子は、思わず声を裏返らせる。社長室のにデスクのに上に置かれた週刊紙を、穴が開くほど見つめた。


カリスマ女社長の裏の顔。血塗られた黒い履歴書。


誌面を、刺激的な見出しが飾っている。目のところは黒く塗り潰されているが、見出しの横にある写真は、確実に知香子のものだった。

履歴書と銘打つだけあって、記事は今まで知香子がマスコミにひた隠しにしてきた事実を、事細かに伝えている。

高校時代に、死んだ恋人の子供を流産したこと。『office C』の社長に就任する前は、六本木のクラブでホステスをしていたこと。腹違いの姉が産んだ子供を育てていたが、今は離れて暮らしていること…。

その全てが書かれていた。知香子は、強く雑誌を握り締める。

「社長!ロビーに、取材陣が押しかけてきているそうです。社長のお話しを聞きたいって…」

受付からの電話を受けた秘書が、おろおろと言った。知香子は、腹を決める。

「…解ったわ。質問には答えるから、あたしが行くまでの間繋いでおいてって、重田に伝えてちょうだい!」

「は、はい!」

言いながら、知香子はバッグから化粧用のポーチを取り出す。悠々と、化粧直しを始めた。

恐らく、これは自分にとって一世一代の大舞台になるだろう。そう思うと、気合いがみなぎった。鏡を凝視しながら、丹念にマスカラを塗り込む。


夥しい数のカメラが、一斉に知香子に向かってフラッシュをたいた。今までに取材は何度も受けてきたが、ここまで大勢のカメラに囲まれるのは初めてのことである。

知香子は、フラッシュの瞬きの中を颯爽と歩いた。中央まで進み出て、ゆっくりと頭を下げる。

「倉内社長!記事に書かれていることは、事実なんですか?」

「はい。ほぼ真実で間違いありません」

マイクを手にした記者の質問に、知香子はきっぱりと答えた。毅然とした知香子の物言いに、一同がざわついた。

「ほぼ、と言いますと?」

別の記者が聞いてきた。

「記事に書かれていることはほとんどが事実ですが…一点だけ、間違いがあると言うことです」

「間違い?それは何なんですか?」

複数から、同じ質問が上がる。知香子は、しばらくの沈黙の後に

「…娘のことです」

と言い切った。

「確か…その娘さんと言うのは、腹違いのお姉さんが産んだお子さんですよね?」

「はい」

「記事の、何が間違っていると言うんですか?」

矢継ぎ早に、質問が飛んでくる。

「記事にはデスクに実の母親の元に返したと書かれていますが、違います。本当は……奪い取られたんです!」

知香子は、はっきりと言い放った。衝撃的な言葉に、一層激しくフラッシュが瞬く。

「…奪われた、と言いますと?」

「でも…今娘さんと暮らしてらっしゃるのは、実の母親であるお姉さんなんですよね?」

方々から、一斉に質問が上がった。知香子は、静かに深呼吸する。

「確かに…私と娘は、正確に言えば母娘ではありません。しかし、私はあの娘に実の娘以上の愛情を注いで育んできました。それなのに姉が…私には何も言わず、あの娘を奪い去っていったんです!」

知香子は、カメラを見据えながら一気に言い募った。

「どういうことなんですか!?」

「そもそも、お姉さんの娘さんを育てていたのは何故なんですか?」

「お姉さんが服役中にその娘を産んだと噂されていますが…それは、本当なんですか?」

「…え、えぇ。本当です」

知香子は、初めて目を伏せる。愛実のことを思えば、その事実だけは白日の下に晒したくなかった。

しかし、知香子は自らを奮い立たせて再び顔を上げる。

「とにかく…私は今でも、あの娘とまた共に暮らせる日が訪れることを願っています。こうして、皆さんの前に出ることを決めたのはそのためです!」

涙混じりの知香子の演説に、記者達が思わず固唾を飲んだ。

「皆さん、お願いです!私が、あの娘を再びこの手に抱けるよう、お力を貸しては頂けませんでしょうか!」

知香子は、そう言ってその場で泣き崩れる。知香子のに様子に、『office C』の受付ロビーは異様な空気に包まれた。

「やるねぇ。疑惑の釈明会見になるはずが…すっかりお涙ちょうだいの娘捜しになっちまったってわけだ」

記者の中にいた高倉が、苦々しく呟く。




つづく

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