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永遠の姉妹  作者: hy
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第36話『愛の逃避行』

「一体…何があったって言うの!?」

那与子からの電話を終えた和彦に、知永子が詰め寄る。和彦はがっくりの項垂れたまま、ソファに座り込んだ。

「母さんが…俺達の結婚を、反対してきた……」

「何ですって!?」

那与子の突然の心変わりに、知永子は衝撃を受ける。

「何でなのかは解らないけど…母さんが、知永子のお母さんの死の経緯を知ってしまったらしいんだ」

「そ、そんな…」

「実は…死んだ父さんは、ちょっと女癖が悪い人でね。母さんもだいぶ苦労させられてきたんだ。だから…妻子ある男性の愛人を長年やってきた知永子のお母さんのことを、けして認められないんだと思う……」

重い口調で、和彦は語った。知永子は、和彦にしがみつく。

「嫌よ!わたしは、和彦と別れるだなんて…絶対に嫌!!」

「あぁ…俺も、知永子と同じ気持ちだよ」

和彦は、言いながら知永子の手を握り締めた。ふたり寄り添い合う。

「…和彦。わたし達、一体どうすればいいのかしら……」

知永子は和彦の胸に顔を埋め、泣きながら言った。




〈知香子の策略により、知永子は行き場のない袋小路へと追いやられてしまった。

永遠に貫くと誓った知永子と和彦の愛は、幸せの絶頂から一転、最悪の危機を迎えていた。〉




翌日、知香子は再び滝によって乗っ取られた会社に乗り込んでいた。応接室のソファに悠々と座り、滝が来るのを待っている。

「…またですか、知香子お嬢様。本当に…いい加減にして頂けませんかね」

言いながら、滝が入室して来た。知香子の向かいに、腰を落とす。おもむろに脚を組み換えながら、知香子はにんまりと笑った。

「今日は、あんたと取り引きをしに来てやったのよ」

「取り引き!?…失礼ですが、知香子お嬢様とお取り引きするようなことは、何もないと思いますが…」

滝は煙草に火をつけながら、知香子に笑い返す。余裕の表情だ。

「あら、そうかしら…」

知香子は、そう言って脇に置いた小ぶりのバッグから封筒を抜き取る。ゆったりとした動作で、封筒のなかから何枚かの写真を取り出した。滝に、それを見せつける。

瞬間、滝の表情が凍りついた。

「…なっ!?」

女子高生の肩を抱いた滝が、ラブホテルに入るところを捕らえたものである。

写真を奪い取ろうと滝は手を伸ばしてきたが、知香子はそれを交わした。

「まさか…あんたに、こんな素敵な趣味があっただなんてね」

言いながら、他の写真も見せつける。上半身をはだけさせた滝が、ベッドの上で寝ているところを映したものだ。

「そ、そんなところまで……」

滝は、言葉を失う。

「こんな写真が公開されたら…あんたの立場はどうなるかしらね。社員の手本になるべきあんたが、未成年の女子高生とこんなふしだらなことをしているだなんて…下劣で、有るまじき行いよね」

微笑みを浮かべたまま、知香子は滝をじりじりと追い詰めにかかった。

「…な、何が望みなんだ…」

「決まってるじゃない。社長の座を退くのよ。あたしを、社長にしなさい」

知香子は、きっぱりと言い切る。

「そ、そんな…」

「当たり前じゃない。あたしは、倉内家の血を引いたれっきとした後継者なのよ。パパが亡くなった今、それが通りってものでしょう」

「で、でも…さすがにそれは……」

「…もちろん、あたしだって鬼じゃないもの。重役としては、あんたを残してあげてもいいわ」

「…えっ!?」

「この写真が公のものになったら、あんたの懲戒免職はどうしたって免れない。しかも、犯罪者よ。悪い話じゃないと思うけど」

知香子は、歌うように続けた。滝が、思わず息を飲む。

「…本当に、俺を重役に残してくれるんだな……」

「当たり前じゃない。あたしだって、何もあんたを路頭に迷わせたいわけじゃないもの。ただ、奪われたものを…取り返したいだけよ」

念押しするように、知香子は言った。滝は、ふらふらとその場に倒れ込む。

滝を見下ろしながら、知香子はにっこりと笑った。




「本当に…こんな道しか、わたし達には残されていないのかしら?」

和彦に手を引かれながら歩いていた知永子が、和彦に向かって尋ねる。ふたりして、大きなボストンバッグにキャリーケースを手にしていた。

「あぁ…。俺達はもう、こうするしかないんだ」

和彦が答える。

和彦から駆け落ちを提案されたのは、ほんの今朝のことだった。自分達が幸せになるためには全てを捨てて、どこか地方にでも身を隠す他道はない、と。

知永子は必死に説得を試みたが、和彦の決意は変わらなかった。

一度は和彦の意見に納得したものの、知永子はふいに不安を覚える。果たして、この選択が本当に正しかったのだろうか。

あまりにも目まぐるしい運命の放流に翻弄され、知永子はひどく疲弊していた。

「なぁ、知永子…」

「…何?」

「愛してるよ。たとえ、世界中が君と俺との愛を反対したとしても…俺は、知永子を愛してる」

真っ直ぐに前を向いたまま、和彦が告げる。その言葉に、知永子の心にあった迷いが消えた。

「えぇ。わたしも…和彦を愛してる。わたし…たとえ、どんなこと苦境に立たされたとしても……和彦と一緒なら乗り越えて行けるわ」

知永子は、彼からの愛が込められた婚約指輪が光る左手で、和彦の手を力強く握り返す。

「…和彦、愛しているわ」

「あぁ…」

ふたりは、手を取り合って夜光バスの停留所を目指した。


その時、ふたりの前に仁が現れた。常軌を逸した目つきで、立ち塞がってくる。

「どいてくれ!!」

「あ、あなたは…!?」

知永子は、驚きに声を裏返らせた。

間違いない。以前、知香子に頼まれて知永子に凶行を働こうとした男だ。

仁は、その懐からゆっくりとナイフを取り出す。外灯に照らされたナイフが、鋭く光った。

「許さない…。知香子を捨てて、この女と幸せになるだなんて…そんなこと許さない!」

譫言のように呟きながら、和彦に突き進んで来る。和彦は、ナイフを握った仁の拳を受け止めた。男ふたりで、揉み合いになる。

「お、お願い…止めて!止めて!!」

「邪魔だ。お前は引っ込んでろ!」

「あっ…」

和彦の身を守ろうとふたりの間に入ろうとした知永子は、仁から突き飛ばされバランスを崩した。

「知永子…」

知永子を助けようと和彦が手を差し出した瞬間、ナイフが彼の腹部へと突き刺さる。

「…うっ」

言いながら、和彦が倒れ込んだ。知永子は、突然のことに事態を把握出来ないんですが

「か、和彦…どうしたの!?和彦!」

うつ伏せになった和彦を、恐る恐る抱え起こした。

「い、いやっ…いやぁ~!!」

知永子は、絶叫する。和彦の腹にはナイフが深く刺さり、溢れ出た赤黒い血液がその周りを汚していた。見る見るうちに、広がっていく。

「和彦…しっかりして。お願いだから…死んだりなんかしないで……」

和彦の血で服が汚れるのも厭わず、知永子は彼へとすがりついた。和彦の頬を撫でる。

「知永子…ごめんよ。俺はもう、君を守れないみたいだ…。こんなにも知永子…君を、愛しているのに……」

和彦は、そう言い残してゆっくりと瞼を閉じた。和彦の体から、一気に力が抜けていく。

「いやぁ~!和彦~!!」

和彦の髪を掻き抱きながら、知永子は泣き叫んだ。




つづく









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