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永遠の姉妹  作者: hy
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第27話『因縁の秘密』

「お、お母さん……一体、どういうことなの?」

知永子は唇を震わせ、織江に尋ねた。

「知永子…あんた達と同じよ。あたしと奥様は…同じ男を愛し、奪い合った腹違いの姉妹なのよ」

知永子の問いに、織江が答える。

「……まさか、あんたから再び姉さんと呼ばれるだなんて…思いもしなかったわ」

澄江が、苦々しく呻いた。

「でも…あたしは、あんたのことを妹だなんて思ったこと、ただの一度だってなかったけど。父が…妾に産ませたあんたのことなんか…」

「あははははっ!最高。まさか…母娘二代に渡って姉妹で男を奪い合うだなんて…こんな滑稽な話はないわね」

知香子は、手を叩いて笑った。

「…とにかく、出て行ってちょうだい!あんた達が何を言ったって、あたしは考えを変えるつもりはないわ!!出て行け!薄汚い泥棒猫母娘が~!!」

澄江が怒鳴る。手近にあったものを手当たり次第に投げつけながら、知永子と織江を倉内家の敷地内から追い出した。




「本当に…驚いたわ。まさかお母さんと倉内のお母さんが…わたし達と同じ、姉妹だったなんて……」

夢うつつのような状態で家路についた知永子は、重い口を開いた。

「ごめんなさい…。こんなこと、あなたにはとても言い出せなくて……」

「どうか教えてちょうだい。お母さん達の間に…何があったのか」

「えっ!?」

「だって…それが、全ての始まりなんでしょう」

知永子の言葉に、織江はふうっと息を吐いた。

「そうかも知れないわね。知永子…あなたには、全てを知る権利があるんだものね……」

しばらくの沈黙の後、意を決したように顔を上げる。

「…あたしの母は、新橋で芸者をしていたの。母はそこで客として知り合った父と恋に落ち、あたしを身籠ったわ。しかし、父にはすでに妻子がいたの。倉内の奥様と…そのお母様よ。当時、会社を経営していた父は母を別宅に囲い込み、そこであたしを産ませたの……」

「…それで?」

知永子は、先を促した。

「しばらくは母とふたりきりの生活で、たまに父が通ってきていたらしいわ。でも、あたしが三才になった頃に母が病に倒れ…そのまま亡くなってしまったのよ。あたしは、倉内の家に引き取られたわ」

「引き取られた?でも、名字が…」

「倉内のお母様が、それだけは断固としてお許しにならなかったのよ。まあ、当然よね。倉内のお母様にとってあたしは…夫の不義の娘、裏切りの証なんだもの。とにかく、あたしはそれから高校卒業するまでの十五年間、奥様と姉妹として育てられたの」

「そんなことが…」

「高校を卒業したあたしは倉内の家を出て、ホステスとして生計を立てるようになったわ。生活はけして楽ではなかったけど、あたしは生まれて初めて手に入れた自由な生活を楽しんでいた。…そして、あたしはある男性と出会ったの」

ふいに、織江の表情に曇る。

「それが…浩二郎さん、あなたの父親だったのよ。運命の皮肉よね。あたしは、まさか彼が腹違いの姉の夫だとは知らずに、浩二郎さんを愛してしまったの。…あたしが倉内の奥様の存在を知ったのは、既にあなたを身籠ってしまった…その後だったわ」

「…お母さんと、倉内のお母さんの間に…まさかそんな深い因縁があっただなんて……」

「あたしは…あなたをひとりで産み育てるつもりだった。でも、あなたを出産した直後に流行り病にかかってしまって…泣く泣くあなたを倉内の奥様と家に託す他なかったの。思えばあたし達は、母娘二代にも渡って…同じ呪縛に苛まれているのよ……」

織江は、涙混じりに語り終えた。織江の告白に、知永子は呆然とする。

「…わたし達は母娘二代にも渡る、永遠の姉妹だったのね……」

知永子は、ひとりで呟いた。母娘で、肩を寄せ合う。

肩越しに、知永子は母の温もりを感じていた。しかし、母の肩はあまりにも細く頼りない。知永子は、織江の肩を強く抱き締めた。




〈母娘は、苦難の嵐を堪えるように、身を寄せ合っていた。

しかし知永子の思いも虚しく、母との決別の時は確実に迫っていたのである。〉




翌日、澄江はある男からの訪問を受けていた。澄江の父の代から勤めている古株の重役の滝勝である。

「滝さんがこの家に来るなんて、珍しいわね。確か、父の葬儀の時以来じゃないかしら。今日は、一体何の用?」

澄江はコーヒーを出しながら、滝に話を促した。

「奥様には本当にご無沙汰しておりました。実は、今日は大事なお話がございまして…」

滝は、おもむろに鞄の中から書類を取り出す。澄江の前に、それを差し出した。

「何かしら?」

言いながら、澄江は目の前の書類を手に取る。

「…奥様は、あの会社を取り戻したくはないですか?」

「えっ!?」

「奥様の苦しみには、私共から見ておりましても目に余るものかあり、日々心を痛めております。全てはあの男の傲慢さが成せる技…」

「え、えぇ…そうね。でも、そんなことが出来るのかしら?」

「実は、ここに過半数以上の役員達から集めたあの男に対する不信任が集まっております」

滝は、澄江が手にした書類を指差した。滝の言葉に、澄江は唾を飲む。

「後はこちらに奥様のご署名さえ頂ければ、我が社の権利の全ては奥様ものになります」

「何ですって!?」

「今こそ、あの会社を取り戻すのです!お父上が築き上げた財産を、奥様自らが身を手にする時が訪れたんですよ!!」

滝は、真っ直ぐに澄江の目を見据え言った。

「ここに…あたしが署名したら、あの人から全てを奪えるのね」

「もちろんでございます。さあ、奥様。こちらにご署名頂けますね」

「え、えぇ…」

滝に促されながら、澄江は書類に自分の名前を記入する。

「……これで、あの人を丸裸に出来るのね。そうなったら…きっと、あたしを頼らざるを得なくなるわ。あの人は…あたしだけのものよ……」

澄江は、うわ言のように呟いた。興奮に、体が震える。

「はい。これで全ては奥様のもの。後は、この私にお任せ下さい」

滝は、ニヤリと笑った。




「…一体、何の用ですか?」

知香子から呼び出された和明は、訝りつつバーのカウンター席に腰かけた。

「あなたに、話があるのよ」

「…俺には、あなたとお話するようなことなんか、何もないと思いますけど…」

「そうかしら?あたし達の利害は、一致してると思うけど…」

知香子は、怪しく笑いかける。

「えっ!?」

「あたしは、和彦を自分だけのものにしたい。そして…あなたは知永子と結ばれたい。違う?」

「そ、それはそうですけど…」

「でしょう。だったら、あたし達は協力し合えるはずよ」

戸惑う和明を煽るように、囁いた。

「で、でも…」

「このまま指をくわえて見守ってるだけじゃ、いつまで経っても好きな女は手に入らないわよ」

「…わ、悪いけど、俺にはそんな卑怯な真似は出来ない」

言いながら、和明は慌てて席を立ち上がった。

「そう?まあ、心変わりを期待してるわ。あたしたちは、きっと上手くやれるはずよ」

恐れをなしたように店から出て行こうとする和明の背中に、知香子は声をかける。にんまりと笑った。




翌日、社長室にいた浩二郎の前に、滝が現れる。

「滝か…。どうした?」

「えぇ、本日は大事なご報告がありまして…」

滝は浩二郎に向かって、不適な笑みを浮かべた。戸惑う浩二郎を余所に、例の書類を差し出す。

「な、何だ…これは?一体どういうつもりだ!!」

書類に、目を向けた浩二郎は、滝を睨みながら尋ねた。滝は、一切表情を変えない。

「ご覧の通り、社長…いや、今となっては元社長と言った方がよろしいでしょうか…あなたに対する不信任案です」

元のところに妙なアクセントをつけながら、滝が告げてきた。

「…貴様、裏切ったのか!?」

「ふふ…。裏切りとは心外ですね。全ては、あなたに対する疑念と不満が原因ですよ」

「ふざけるな!俺がでしょうか俺が今まで汗水垂らして築き上げて来たこの会社を…貴様等の好きにはさせんぞ!」

浩二郎は、滝に掴みかかる。しかし、滝は浩二郎の腕を強引に振り払った。

「すでに奥様からの譲渡手続きも済んでおり、我々役員としましては、あなたの辞任を要求せざるを得ませんね」

打ちひしがれる浩二郎の頭上から、滝の高笑いが響く。




つづく

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