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オムニスに関する私見を含む調査報告書1~3

1.調査に至る経緯

 現在スカイネット上で稼働している数々の仮想現実多人数参加型ロールプレイングゲーム(以下、「VRMMORPG」という)の元祖、“OMNIS(以下、「オムニス」という)”は、二〇三二年のサービス開始から爆発的にユーザーを増やし続けた。現在では全世界で二億人を超えるプレイヤーが、仮想現実での生活を楽しんでいる。

 しかし同時に、オムニスは様々な問題を抱えている。長時間のプレイによる依存症や健康被害。スカイネットの前身であるクラウドコンピューティングの時代から存在している、サービスのブラックボックス化問題。そして、仮想通貨ロスの流通量の増加による、様々な産業の衰退である。

 現在日本政府は仮想通貨の規制を検討中であるが、前述したブラックボックス化の問題もあり、未だオムニスを運営する企業、団体、あるいは個人と接触できていない。

 今後の対応の選択肢を増やすため、警視庁VR犯罪対策課は、政府からオムニスの運営者の特定を命じられた。


2.オムニスの発生について

2―1.オムニス発生の要因

 オムニスの発生を語る前に、発生の要因となったと思われるいくつかの出来事について述べる必要がある。

 オムニスが発生するに至った根源的な要因は、おそらく二〇二〇年に勃発した第三次世界大戦である。この大戦の明確な原因は不明で、未だに議論は尽きないが、世界を混乱に陥れるためには最も効果的なタイミングだったというのが有識者たちの見解だった。

 戦争が終結した二〇二二年以降。疲弊した人々の内には、戦争を激化させる原因となった科学技術の進化への疑念が渦巻いていた。世界中に大きな爪痕を残した最新鋭の兵器や、原子力発電所などの技術だけでなく、飛行機や車、調理器具など、日常的に利用していた便利な物の裏に潜むリスクについて、様々な議論がなされた。

 一部では自然に帰ろうという思想を持った集団(一九六〇年代に流行したヒッピーに類似性が認められる)がデモ活動を行い、道路や線路を封鎖するなどの事件も発生したが、結局のところその議論に結論が出ることはなく、それぞれの判断で生活をする他なかった。

 しかし、戦争による深層心理へのダメージの大きさからか、人々に利便性よりも自己の安全を優先する傾向が見られるようになる。この傾向は二〇三〇年を過ぎると特に顕著に現れるようになるが、これは第六世代ネットワーク、いわゆるスカイネットの誕生に起因する。

 このスカイネットこそが、後にオムニスの依り代となるネットワークである。


2―2.スカイネット構想

 二〇二五年、アメリカの社会学者ウィリアム・ウォズニアックは“スカイネット構想”という論文を発表する。

 スカイネットとは旧世代のクラウドコンピューティングを発展させたもので、ウィリアム氏の“空に浮かぶ雲を眺めるのではなく、我々が空になる時代が来る”という考えに端を発する。

 その名の通り、当時主流であったサーバーと端末という概念を捨て、全世界の端末が記憶領域と情報処理能力を直接リンクさせることで、地球を覆う一つの巨大なコンピューターにしてしまおうという構想である。

 当初この論文は世界中から批判を受けたが、スカイネット構想が実現した際のビジネスモデルが次々に発表され、戦時中に飛躍的に向上した通信技術によって、二〇二九年には実現することになる。


2―3.スカイネット上のビジネス

 一定量の記憶領域と余剰処理能力を提供することが、スカイネットへ接続する条件となる。接続者数が増えるにつれて肥大化する記憶領域と処理能力を利用して、様々なビジネスが展開されていった。

 その中でも特に注目されたのが、スカイネット上に作られた企業だった。

 二〇一〇年代、同じ社屋にいながらも、チャットやネット通話を使って仕事を進める企業がすでに存在していたが、スカイネットという情報空間の登場によって、もはや会社に出勤する必要性がないと考える企業が現れ始める。

 スカイネット上の企業はいわゆるアバターチャットを利用したもので、社屋を建てるよりも圧倒的に低コストで職場を作ることができるため、若い起業家たちもこぞってスカイネット上でサービスを展開した。

 これが戦後の自己の安全を優先したい人々の需要に応える形となり、最も安心できる場所である自宅から出ないという働き方が一般化し始める。

 当時予想されていたセキュリティ上の問題は、二〇三〇年六月に発生した原因不明の一時的な接続障害を除き一切発生しておらず、現在までスカイネットは稼働し続けている。


2―4.オムニスの発生

 二〇三二年一月、VRMMORPG“オムニス”が、突如スカイネット上でサービスを開始する。なんの告知も宣伝もなかったという。最初に発見したのが日本人であったため、日本発祥であるという説も存在するが、言語はサービス開始当初から英語、日本語、中国語、アラビア語、フランス語、ドイツ語等に対応しており、今のところ確かな証拠は存在しない。

 当初オムニスは不具合も多く、ただ二つの首都とその緩衝地帯が存在するだけの、なんのゲーム性もないものだった。しかし、グラフィックやキャラクタークリエイトのバリエーションだけは当初から高い評価がされており、奇妙なバグを発見した動画が動画サイト上で人気を博したこともあって、ユーザーは徐々に増えていった。無料でプレイできることや、当時一般に普及し始めていた脳波入力型インターフェイスに対応していたことも、ユーザー増加の一因になったと考える。

 ユーザーが増えるにつれて、オムニスは徐々にアップデートを重ねていく。アップデートを告知するホームページのようなものすらなかったため、ユーザーは自力でそれに気付くしかなかったが、それもまたカルト的人気を生むきっかけとなった。


3.オムニスの仕様

3―1.オムニスのシステムの謎

 オムニスのシステムは、スカイネットのブラックボックス化によって長らく謎に包まれたままだった。旧世代のオンラインゲームと違ってクライアントも存在しないため、直接解析することも不可能である。

 しかし二〇三四年、あるユーザー(以下、「ユーザーA」という)がオムニスのシステムについて調査した記事が発表される。

 ユーザーAは百人のオムニスユーザーの協力を得て、オムニスをプレイしている最中に端末がどういった処理をしているのかを調査した。結果的に判明したのは、オムニスはプレイしているユーザーの端末に処理を割り振ることで、ハイクオリティなグラフィックを描画し、複雑なプログラムを動かしているということだった。これは旧世代のネットワークであれば問題であったが、スカイネットのシステム上違法性はなく、むしろ当然の仕様と言える。

 しかしオムニスが割り振っていたのは単純なプログラムの処理だけではなかった。


3―2.オムニスのゲーム内経済

 前述のオムニスのシステムに関する調査の際、もう一つ注目すべき発見があった。それは、オムニスのゲーム内経済についてである。

 オムニスのゲーム内経済のバランスは、非常に安定していた。このことに関しても疑問を抱いていたユーザーAは、端末に割り振られてくるオムニスの処理をさらに細分化して解析した。すると、その処理の中には“ゲーム内経済に関する数理的な問題の計算”も含まれているということが判明した。

 これは戦前に活発化していた“暗号通貨”のマイニングによく似たシステムである。暗号通貨では、数理的な問題を端末に計算させることによって、報酬として通貨が発生する。一方オムニスでは、ゲーム内経済に関する数理的な問題を端末に計算させることによって、ゲーム内で獲得できる仮想通貨“ロス”の流通量をコントロールしている。

 スカイネットの特徴を最大限に利用したこのシステムは世界的に注目され、ロスの仮想通貨としての価値は飛躍的に上がった。

 しかし、この仮想通貨ロスの台頭が、現実に大きな影響を及ぼし始める。

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