Phase1-5:すべての始まりは困難である
二人はしばらく入り組んだ通路を歩いた。第二首都港から続いていた配管剥き出しの道が、次第に整備されたものに変わっていく。
最終的に行きついたのは、清潔感のある白の空間だった。そこには観葉植物や長椅子が置かれていて、病院の待合室を彷彿とさせる。正面は全面ガラス張りの窓になっていた。ノックスが左右を見る。途中で湾曲していて終端は見えないが、かなり横に長い空間だった。
「イーオンの壁の展望エリアだ。こっちに来てみな」
ケイに先導されて、ノックスは窓の近くまで歩いていく。窓の向こうの光景が目に入って、ノックスは言葉を失った。
緩衝地帯の光景を混沌とすれば、イーオンの首都を望むこの光景は、まさしく秩序。中央にそびえ立つ超高層ビルを中心に、周囲には高層ビルが立ち並んでいる。そのさらに外には整備された居住区画があり、空に輝く太陽の下、人々が“生活”をしていた。
「イーオンの首都、“ウルブス”。緩衝地帯と一緒に、最初からこの世界に存在していた場所だ。アエラにも同じような意味合いの場所がある」
ノックスは窓にへばりついて外を眺めていたが、ケイを振り返った。色々なことを訊きたいが、なにから訊けば良いのかわからないという表情に、ケイは苦笑する。ノックスの横にしゃがんで、中央の超高層ビルを指差した。
「中央にあるのは、みんなが役所って呼んでる施設。イーオンに来たらまずはあそこに行って、住民登録をする。その周りにあるのが商業施設や企業。買い物をしたり、働いたりする。その外側が居住スペース。まあ、あそこに住めるのは一部の金持ちだけなんだけどね」
「これが全部イーオン?」
「これだけじゃない。霞んで見えないけど、ウルブスの外にはユーザーが作ったエリアが延々と連なってるんだ。この世界は広いよ」
外を見つめるノックスに表情はなかったが、ケイにはその目が輝いて見えた。
「あ」
「どうした?」
ノックスは名残惜しそうに窓から離れて、ケイと向き合った。
「そろそろ帰らなきゃ」
「ん、なにか用事があるのか?」
「うん」
「そうか、住民登録して携帯端末を貰うところまではやりたかったけど……。あ、そうだ」
ケイは耳からインカムを外して、ノックスの耳に付けてあげた。
「今度ログインしたら、それで呼んでくれ。俺からのプレゼントだ。指先で触れればスイッチが入る。もし俺がいなかったら、ミヒロってやつに頼るといい。話を通しておくよ」
「わかった、ありがとう。またね」
「ああ。改めて、ようこそオムニスへ」
ノックスは頷いて、その世界から消えた。展望エリアにはケイだけが残される。
「……あ、パンツ」